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2014年6月10日 (火) 23:05時点における版
福島 貴子、針間 博彦
東京都立松沢病院精神科
DOI XXXX/XXXX 原稿受付日:2013年12月10日 原稿完成日:2013年月日
担当編集委員:加藤 忠史(独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)
英語名: delusion 独:Wahn 仏:délire
妄想とは明らかな反証があっても確信が保持される、誤った揺るぎない信念である。妄想は、形式面では一次妄想と二次妄想に、内容(主題)面では被害妄想、誇大妄想、微小妄想などに大別される。診断上は内容よりも形式が重要である。妄想の形式は精神障害の種類に規定される一方、その内容は患者の気分、パーソナリティ、生活史、状況などに左右される。DSM-5では、統合失調症性の自我障害も妄想に含められている。
妄想とは
一般に、妄想とは患者の教育的、文化的、社会的背景に一致しない誤った揺るぎない観念 (idea) ないし信念 (belief) と定義される。妄想と真の信念との相違は、妄想では明らかな反証があっても確信が保持されることによる。ただし、妄想と真の信念の区別は患者が主観的に行いうるものではなく、ある確信が妄想的か否かという判断は外部の観察者によって行われる。すなわち、その内容が非蓋然的(ありそうにない)であることに対する患者の判断が誤っているとされる場合、その確信は妄想とされる[1]。
DSM-5による定義
DSM-5[2]では、妄想は次のように説明される(A-Cの番号は筆者による)。
- A.「妄想とは、外部の現実に関する不正確な推論に基づく誤った信念 (belief) であり、他のほとんどの人が信じていることに反しているにもかかわらず、また議論の余地のない明白な証拠や反証にもかかわらず、強固に維持される。その信念はその人の文化や下位文化の他の成員が通常受け入れているものではない(すなわち、宗教的信条ではない)」
- B.「誤った信念が価値判断を含む場合、その判断が信用できないほど極端な場合にのみ妄想とみなされる」
- C.「妄想的確信はときに優格観念から推論されうる(後者の場合、不合理な信念や観念を有しているが、妄想の場合ほど強固に信じていない)」
A. は妄想の定義であり、DSM-III[3]からほぼ不変である。これを要約すれば、妄想は、
- A1. 強固に維持される誤った信念である
- A2. 不正確な推論に基づく
- A3. 証拠や反証にかかわらず維持される
- A4. その人の文化的背景に反している
ということによって特徴付けられる。
これは、Jaspers, K.[4]による妄想の外的メルクマール(指標)である、
- 著しい主観的確実性と尋常でない確信度
- 経験にも説得力のある反論にも影響されえない
- 内容が不可能である
と極めて類似している。すなわちDSMのA1.はJaspersの言う1.に、A3.は2.に、A4.は部分的に3.に対応していて、A2.のみが新たに加えられた指標である。しかし、Jaspersがこの妄想の外的メルクマールを示した後に、発生的了解が不能な真正妄想と、それが可能な妄想様観念の区別を強調しているのに対し、DSMではそうした区別は行なわれていない。
DSM-5のB.は妄想と誤判断との区別であり、C.は妄想と優格観念との区別である。DSM-III、III-R[5]では「妄想は優格観念からも区別することができる」と説明され、妄想の「あるかないか」という性質が強調された。だがDSM-IV[6]では一転して、優格観念との区別は困難であるとされ、その根拠として「妄想的確信は連続体上に生じる」という文言が追加された。DSM-5では、こうした考え方がさらに推し進められ、「妄想は優格観念から推論される」という表現に至っている。
まとめると、DSM-5ではJaspersによる妄想の外的メルクマールが採用され、妄想は正常な観念や信念とは質的に異なるという視点に立っている一方、妄想性の思考と非妄想性の思考の相違は確信の強度にあり、両者の間に明確な区別がないことも示唆しており、妄想の定義に矛盾が生じている。
ICD-10での取り扱い
ICD-10[7]では妄想は定義されていない。しかし、WHOが別に用意した用語集[8]の中では「現実とも、また患者の背景や文化が有する社会的に共有された信念とも一致しない、誤った訂正不能な確信ないし判断」と定義される。この定義は、「不正確な推論に基づく」という指標がないことを除けば、DSM-5のものと基本的に同一である。用語集では、続けて「一次妄想は、患者の生活史・パーソナリティから本質的に了解不能である。二次妄想は心理学的に了解可能であり、病的および他の精神状態、たとえば感情障害や猜疑心から生じる。1908年にBimbaumに、また1913年にJaspersによって真正妄想と妄想様観念との区別が行われた。後者は過度に保持される誤判断にすぎない」と記載され、DSMとは異なり、了解可能性による一次妄想(真正妄想)と二次妄想(妄想様観念)との区別に触れている。ICD-10のテキストの中では、この区別は直接に触れられていないが、統合失調症の診断基準の中に、真正妄想の一形態である妄想知覚が挙げられている。
作話との関係
なお、作話 (confabulation)とは、実際に体験されなかったことが誤って追想され、体験したかのように語られることである。出任せの空想的な内容を真実であるかのように話すため、内容も変化しやすい。記憶減退を埋め合わせる当惑作話 (英:embarrassment confabulation, 独:Verlegenheitskonfabulation)と、空想・想像傾向の強い生産的な空想作話 (英:fantastic confabulation、独:phantastische Konfabulation)に分けられる。前者は主として老年期認知症に、後者は空想虚言、コルサコフ症候群などにみられる。妄想が思考の障害である一方、作話は追想の質的な障害であり、偽記憶 (pseudomnesia)或いは仮性記憶(過去に全く体験していないのに実際にあったかのように追想すること)を語ると作話となる。
妄想の形式による分類
妄想の形式は、一次妄想と二次妄想に分けられる[1]。妄想の形式は精神障害の種類に規定され、診断上重要とされている。
一次妄想
一次妄想primary delusion(真正妄想true delusionも同義)とは、最終的に発生的了解が不能である、すなわちそれが他の心的現象に反応して生じたものであるという縦断的な意味関連がわからない妄想である。一次妄想の確信は直接的かつ明白に出現する。一次妄想の形式には妄想気分、妄想着想、妄想知覚がある。
妄想気分
delusional mood
何かが起きているというただならぬ気配を感じ、それに巻き込まれていると感じるが明確にわからない。外的事象に対する漠然とした意味付け(自己関係付け傾向)が生じてはいるが、特定の意味付けはまだ生じていない。これは統合失調症の急性期の最初の症状であることが多い。自己関係付けに特定の意味が伴うと、妄想知覚が形成される。妄想着想もまた妄想気分に続いて生じることがある。
統合失調症の前駆期にみられる緊迫した気分は、それを外界の事象に関係付ける傾向が生じていない点が妄想気分と異なる。
妄想知覚
delusion percept(ion)
合理的にも感情的にも了解可能な動機なしに、真の知覚に異常な意味が付与されるものである。たとえば、患者は自宅の前に自動車が止まっているのを見ると、「自分を狙っている組織があり、見張られている」と確信する。付与される意味はほとんどが被害的自己関係付けであるが、あらゆる了解可能な意味の背後に、無人称的な他者(たとえば上の例では「組織」)が出現することが特徴である。妄想の形式の中では、この妄想知覚のみがSchneiderの1級統合失調症状(表1)(以下、1級症状と記す)である。1級症状は統合失調症に特徴的な症状であるが、統合失調症に必ず認められる徴候ではなく、また他の多くの統合失調症状と同様に、器質性・中毒性の病態でも出現しうる。
妄想知覚の体験構造は二分節性と呼ばれる。すなわち、患者から知覚された対象に関する了解可能な意味解釈までからなるに至る第1分節(上の例では「家の前に自動車が止まっている」)と、了解可能なあらゆる意味解釈の背後で始まる、合理的にも情動的にも了解不能な意味付けである第2分節(上の例では「自分を狙っている組織がある」)からなる。
・3種の幻声 考想化声、言い合う形の幻声、自身の行動と共に発言する幻声 ・妄想知覚 |
妄想着想
delusional intuition
着想が突然に生じて直ちに確信される。その内容は自己に関するもの(心気、血統、召命など)、他者に関するもの(被害、嫉妬など)、物に関するもの(発明など)など様々である。着想はきっかけなく生じることもあれば、何かを見た際などにそれが刺激となって生じることもある。後者の例として、警官を見かけた時、その警官に対する自己関係付けが生じることなく、自分は指名手配されていると着想する。こうした知覚結合性の妄想着想は、知覚に異常な意味付けがされないことから、妄想知覚と区別される。すなわち妄想着想は一分節からなる。妄想着想は非精神病性の着想(「ひらめき」)や優格観念からの区別が困難なことがあり、診断上の重要性は妄想知覚に劣る。
なお、統合失調症の前駆期にみられる自生思考は、内容が不特定・多岐にわたり妄想的確信を伴わない点において、妄想着想と区別される。
二次妄想
二次妄想secondary delusion(妄想様観念delusion-like ideaも同義)とは、患者の現在の状況(他の精神病症状、気分状態、生活史、帰属する集団、パーソナリティなど)に由来するものとして発生的了解が可能な妄想である。
これは統合失調症を含むあらゆる精神病性障害、重症うつ病、躁病にみられる。不安や不信といった特定の気分基調に基づく解釈が妄想化するものは、とくに妄想反応 (paranoid reaction)と呼ばれる。たとえば、職場での些細な失敗を思い悩む人が、「同僚から避けられている」との被害関係妄想を持つに至る。妄想反応はその内容が基本的に了解可能であることから、妄想知覚と区別される。だが妄想反応は統合失調症にも不安などに基づく妄想的誤解釈として生じることがあり、その場合、妄想知覚との区別が困難になりうる。短期の妄想反応が単独で見られる場合、DSM-5では「短期精神病性障害」、ICD-10では「F23.3妄想を主とする他の急性精神病性障害」と診断される。
一次妄想(妄想気分、妄想知覚、妄想着想)から二次妄想(妄想反応など)が発展し、妄想体系ないし妄想構築を生じた場合、一次妄想はしばしば妄想体系に覆われているため、その妄想体系がいかなる一次妄想を核として構築されたものかを判断することは難しい。そのため、妄想体系が構築されている場合、それが統合失調症によるいかなる一次妄想に基づくものかを判断して診断に用いることはしばしば困難である。
妄想の内容による分類
診断上は内容よりも形式が重要であるが、内容の分類は症状記述に役立つ。妄想の主題は患者の気分、パーソナリティ、生活史などに左右され、その具体的内容は妄想形成時の患者の社会的・文化的背景に影響を受ける。
被害妄想
persecutory delusion
自己あるいは身近な人に対する他者の悪意が感じられるという被害的内容は、妄想内容として最もよくみられる。妄想対象は曖昧なこともあれば、特定ないし不特定の人ないし集団のこともある。注察妄想、追跡妄想、被毒妄想は広義の被害妄想に含められる。被害妄想は一次妄想としても二次妄想としても生じ、統合失調症を含むあらゆる精神病性障害のほか、重症うつ病エピソード、躁病エピソードにも見られる。
関係妄想
delusion of reference
周囲の人の言動、出来事、テレビやインターネット上の言葉などを、自分に関するものと確信する妄想である。異常な意味が付与され、妄想知覚となることもある。内容は当てつけや中傷など被害的なものが多い(被害関係妄想)。対照的に、関係念慮 (idea of reference)はその場限りのものであり、妄想的確信には至らない。
誇大妄想
grandiose delusion
肥大した自己評価を内容とする妄想の総称であり、内容によって血統妄想、宗教妄想、発明妄想などと呼ばれる。一次的な誇大妄想は妄想着想として統合失調症に生じることが多い。二次的な誇大妄想は、気分に一致した妄想として躁病エピソードの誇大感から生じるほか、統合失調症では幻声や被害妄想に基づいて生じる。
微小妄想
delusion of unworthinessbelittlement
罪業(罪責)妄想 (delusion of guilt)(社会規範や倫理に反したという妄想的確信)、貧困妄想 (delusion of poverty)(事実に反して経済的に困窮しているという妄想的確信)、心気妄想 (hypochondriacal delusion)(重大ないし不治の病気にかかっているという妄想的確信)など、自己評価の低下を内容とする妄想の総称である。これらは気分に一致した妄想として重症うつ病エピソードにみられる。二次的な罪業妄想は、被害妄想から生じることもあれば、逆に、統合失調症では被害的な内容の幻聴に基づいた自己非難、あるいは加害妄想に伴う自責から生じることもある。虚無妄想 (nihilistic delusion)(否定妄想 delusion of negation)は自分の心、身体、あるいは周りの世界の存在を否定するものである。
身体妄想
somatic delusions
自己身体の外見や機能を主題とする妄想であり、上記の心気妄想のほか、醜形妄想 (dysmorphic delusion)(自分自己の身体部位の形状の醜悪さ・異形性に関する妄想的確信)、自己臭妄想 (delusion of body odour)(自分自己から発する不快な臭いのことを他人が言動でほのめかし、他人が自分を避けるという関係妄想および忌避妄想からなる)などがある。
妄想性人物誤認
delusional misidentification
人物誤認は妄想的確信を伴うことが多い。良く知っている人が瓜二つの別人に取って代わられているというカプグラ症候群、身の周りにいる種々の人は実は同一人物が変装して姿を変えたものであるというフレゴリ症候群のほか、周囲の身近な人々が相互に入れ替わるという相互変身妄想、自分とそっくりの分身がいるという自己分身症候群がある。
自我障害
狭義の、すなわち統合失調症性の自我障害は、種々の心的行為が他の力によって「させられる」と感じる自己能動感の障害であり、すべて1級症状である。被影響体験 (passivity experiences)、させられ体験 (“made” experiences)とも呼ばれる。これらの自我障害は、ICD-10では妄想に含められ、DSM-5では「奇異な妄想」(その人の文化が物理的にありえないと見なす現象に関するもの)に含められる。自我障害は考想に関するもの、身体感覚に関するもの、その他のものに大別される。
考想被影響体験
思考に関する自我障害は考想被支配妄想 (delusions of control of thought)とも呼ばれ、以下のものがある。
- 考想奪取 (thought withdrawal)
- 自己の思考内容が他者に奪取されるという体験であり、「誰かに私の考えをとられる」などと訴えられる。
- 考想吹入 (thought insertion)
- 他者の思考内容を保有させられるという体験であり、「誰かの考えを入れられる」などと訴えられる。考想奪取と逆方向の体験である。
- 考想伝播 (thought broadcast)
- 自己の思考内容が媒介手段によらずに他者に感知されるという体験であり、「自分の頭の中が皆に知られている」などと訴えられる。媒介手段によらないとは、幻声(たとえば考想化声)、妄想知覚(たとえば他者の言動にそうした意味が付与される)、関係妄想(たとえば「テレビで自分のことが放送されている」)など他の症状に基づくものではないことである。なお、考想察知 thoughts being readは広く「人に考えを読まれている」という体験をさす用語であり、考想伝播のほか上記の媒介手段によるものも含まれる。
- 考想転移 (thought transference)
- 他者の思考内容が媒介手段によらずに自己に感知されるものであり、「人が考えていることが分かる」などと訴えられる。考想伝播と逆方向の体験である。本症状についてシュナイダーは直接には言及していないが、彼が「その他の考想被影響体験」も1級症状に含めていることから、考想被影響体験の一種である考想転移には1級症状と同様の診断的意義があると考えられる。
身体的被影響体験
somatic passivity
身体感覚に関する被影響は身体的被影響体験と呼ばれる。これは「電磁波で頭の中をいじられる感じがする」など、体感異常に「(誰かあるいは何かによって)させられる」という要素が加わったものである。
その他のさせられ体験・被影響体験
意志、行動、感情、欲動も他者によってさせられたものと感じられることがある。単に「操られる」と訴えられることもあれば、外部からコントロールされる感じを電波やインターネットなどによって説明する被支配妄想delusion of controlが発展することもある。
DSM-5における妄想の分類
DSM-5では、妄想は内容によって表2のように下位分類されるが、形式による下位分類は行なわれていない[10]。すなわち、一次妄想(真正妄想)と二次妄想(妄想様観念)は区別されず、したがって一次妄想である妄想気分、妄想着想、妄想知覚という区別は言及されていない。以下、関係妄想、気分に一致する/しない妄想、奇異な妄想に若干の注釈を加える。
被害妄想 誇大妄想 嫉妬妄想 被愛妄想 関係妄想 身体妄想 混合型 気分に一致する/しない妄想 奇異な妄想 被支配妄想 考想伝播 考想吹入 |
関係妄想
DSM-5において、関係妄想は「その人の間近な周囲の出来事、事物、他の人が、通常は否定的あるいは侮辱的な、だがときに誇大的な内容を有する、普通でない特別な意味を持っているという内容の妄想。誤った考えが真実として確信されていないという点で関係念慮とは異なる」と定義されている。DSM-III、DSM-III-Rでは、例として次のような体験が挙げられていた。「担当医の診察室の番号が、父が亡くなった病室の番号と同じだったことに気づくと、これは自分を殺そうとする企みがあることを意味していると感じる」。これは単なる自己関係付けではなく、知覚されたものに異常な意味付けが付与されていることから、妄想知覚を含むものと考えられる。
気分に一致する/しない妄想
DSM-IIIから-5までとICD-10(DCR)[11]では、気分障害に伴う精神病症状は、気分に一致するか否かが特定される。躁病エピソードに伴う幻覚や妄想は、その内容(主題)が誇大的なものであれば気分に一致し、うつ病エピソードに伴う幻覚や妄想は、その内容が微小的、自己非難であれば気分に一致するとされる。DSM-III、III-Rでは、気分に一致しない幻声は、統合失調症の特徴的症状であるA項目のうち、一つあれば統合失調症と診断するのに十分である項目に含まれていたが、DSM-IV-TR以降はこの要件が削除され、いかなる幻覚や妄想が存在しても、それが気分エピソード中であれば、気分障害と診断されることになった。一方、ICD-10(DCR)では、幻覚妄想が統合失調症状(統合失調症の全般基準G1(1))であれば、それが気分に一致する/しないにかかわらず、気分障害は除外される。
奇異な妄想
操作的診断基準における「奇異な妄想」は、Research Diagnostic Criteria(RDC)[12]に端を発する。妄想が奇異であるとは、DSM-5では「その人の文化が物理的にありえないと見なす現象に関するもの」と定義される。
DSM-IIIの作成に中心的役割を果たしたSpitzer, R, L.[13]によれば、奇異な妄想という概念は、Kraepelinが早発性痴呆(統合失調症)における妄想を「無意味性」という概念で規定し、またJaspersがそれを「了解不能」とみなしたことに由来するという。DSM-III以降、考想伝播、考想吹入、考想奪取、および感情・衝動・行動の領域における他者によるさせられ体験・被影響体験(被支配妄想delusion of controlと呼ばれる)など多くの自我障害は、すべて奇異な妄想に含まれる。
DSM-IIIからDSM-IV-TRまで、奇異な妄想は、統合失調症の特徴的症状Aのうち1つあれば十分なものに含まれていた。だがDSM-5では、これらの症状が他の症状に比べて診断特異性が高いことは確認されていないという理由を挙げ、「1つあれば統合失調症と診断してよい」という扱いが廃止されている。これによって、「奇異な妄想」(およびSchneiderの1級症状)は、DSMの診断基準から姿を消した。
ICD-10では「奇異な妄想」という語は用いられていないが、統合失調症の全般基準(1)(d)「文化的に不適切でまったくありえない持続的妄想」は、DSMによる奇異な妄想の定義に一致する。ただし、考想伝播、考想吹入、考想奪取など考想被影響体験は(1)(a)に、またこれ以外の被影響体験(被支配妄想、被影響妄想など)は(1)(b)に含められており、DSMとは異なり、自我障害を「奇異な妄想」として一括りにせず、1項目以上あれば統合失調症と診断し得るものとしている。
関連項目
参考文献
- ↑ 1.0 1.1 針間博彦
妄想. 樋口輝彦編:今日の精神疾患治療指針
医学書院、東京、2012 - ↑ 2.0 2.1 American Psychiatric Association
Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders. 5th ed.
Washington DC, APA, 2013 - ↑ American Psychiatric Association
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Washington DC, APA, 1980 - ↑ Jaspers,K.
Allgemeine Psyhopathologie. 5 Aufl.
Springer,Berlin,1948
内村裕之、西丸四方、島崎敏樹ほか(訳)
精神病理学総論
岩波書店、東京、1953 - ↑ American Psychiatric Association
Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders. 3rd Ed, Revised.
Washington DC, APA, 1987 - ↑ American Psychiatric Association
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Washington DC, APA, 2000. - ↑ World Health Organization
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(融道男,中根允文,小見山実ら訳
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Geneva, WHO, 1994 - ↑ 針間博彦,岡田直大
シュナイダーの1級症状について.妄想の臨床
新興医学出版社、東京、p98-110,2013 - ↑ 針間博彦
今日の操作的診断基準における妄想.妄想の臨床
新興医学出版社、東京、p45-56,2013 - ↑ World Health Organization
The ICD-10 Classification of Mental and Behavioural Disorders; Diagnostic criteria for research.
WHO, Geneva, 1993
(中根允文,岡崎祐士,藤原妙子ら訳
ICD-10 精神および行動の障害—DCR研究用診断基準、新訂版
医学書院、東京、2008.) - ↑ Spitzer R, Endicott J, Robins E.
Research Diagnostic Criteria (RDC) for a Selected Group of Functional Disorders.
New York: New York State Psychiatric Institute, Biometrics Research; 1975. - ↑
Spitzer, R.L., First, M.B., Kendler, K.S., & Stein, D.J. (1993).
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