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==参考文献== | ==参考文献== | ||
< | #'''渡辺雅彦'''<br>「脳・神経科学入門講座」<br>羊土社、2008年 | ||
#'''Eric Kandel, James Schwartz, Thomas Jessel, Steven Sieqelbaum, AJ Hudspeth'''<br>Principles of Neural Science, 5th edition<br>''McGraw-Hill'', 2012, ISBN 978-0071390118 |
2014年6月26日 (木) 10:54時点における最新版
渡辺 雅彦
北海道大学大学院医学研究科解剖学講座
DOI:10.14931/bsd.3948 原稿受付日:2013年6月14日 原稿完成日:2013年10月16日
担当編集委員:林 康紀(独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)
英語名:Nissl staining 独:Nissl-Färbung 仏:coloration de Nissl
ニッスル染色は、塩基性色素を用いた粗面小胞体やポリゾームに親和性が高い組織染色法で、神経組織の染色に用いられる。大脳皮質や海馬の錐体細胞、小脳のプルキンエ細胞、脊髄や脳幹の運動ニューロンなど、大型投射ニューロンのポリゾーム細胞質が顆粒状に強く染色される。この特性は、ニューロンの高いタンパク質合成能と関連している。
ニッスル染色とは
ニッスル染色は、粗面小胞体やポリゾームに親和性が高い組織染色法で、神経組織の染色に用いられる。
ニューロンが、塩基性色素で特異的に染色されることを最初に示したのは、ドイツのフランツ・ニッスルである。19世紀末、ミュンヘン大学の医学生であったニッスルは、病理学教授の出した懸賞論文「大脳皮質の神経細胞の病的変化」で一等を獲得し、ニッスルの考案した染色法により染め出されるニッスル小体(虎斑物質)をニューロンの特性の1つと考えた。20世紀の半ばに電子顕微鏡が登場し、ニッスル小体は粗面小胞体の集まりであることが明らかとなった。
ニッスル染色液という固有の染色剤があるのではなく、クレシルバイオレット、トルイジンブルー、チオニンなどの塩基性アニリン色素が用いる染色の総称がニッスル染色である。ニッスル染色を施すと、特に大脳皮質や海馬の錐体細胞、小脳のプルキンエ細胞、脊髄や脳幹の運動ニューロンなど、大型投射ニューロンの細胞質が顆粒状に強く染色される(図を参照)。また、ニッスル染色に髄鞘を染めるルクソールファストブルーと組み合わせたクリューバー・バレラ染色も頻用される。
細胞学的背景
ニッスル染色でニューロンが濃染されるという細胞特性は、ニューロンの高いタンパク質合成能と関連している。他の細胞と異なり、ニューロンは軸索という長い突起を有している。このため、同じ直径の細胞であっても、ニューロンの場合は、細胞体の占める体積は全体積の一部に過ぎない。特に、太い軸索を遠くまで投射する大型ニューロンでは、軸索の体積は細胞体体積の数十倍から数百倍に及ぶ。しかし、リボゾームが存在しない軸索では、タンパク質合成を行うことができない。これは、ニューロンの細胞体は、他の体細胞の数十倍から数百倍のタンパク質合成を行ない、軸索での情報伝達や代謝に必要なタンパク質を軸索輸送により供給していることを意味する。これが、粗面小胞体やポリゾームがニューロンで著明に発達している理由であり、塩基性アニリン色素で濃染される原因となる。
一方、活発なタンパク質合成にはATPの大量消費を伴う。さらに、情報伝達に不可欠なイオンチャネルなどの折りたたみの難しい巨大タンパク質の大量合成は小胞体にさらなる負荷をかけ、生じた異常タンパク質の修復にもエネルギーが消費される。このようなタンパク質合成に伴う細胞への代謝的負荷を小胞体ストレスとよび、虚血やパーキンソン病などの病態における神経細胞死の原因となる。情報伝達に特殊化したニューロンが背負った宿命ともいえる。
関連項目
参考文献
- 渡辺雅彦
「脳・神経科学入門講座」
羊土社、2008年 - Eric Kandel, James Schwartz, Thomas Jessel, Steven Sieqelbaum, AJ Hudspeth
Principles of Neural Science, 5th edition
McGraw-Hill, 2012, ISBN 978-0071390118