9,444
回編集
細編集の要約なし |
細編集の要約なし |
||
34行目: | 34行目: | ||
図2左はラットの鋤鼻器の横断面概略図である。内側(鼻中隔側)に位置し細胞層の厚い感覚上皮と、外側(鼻腔側)に位置し細胞層が薄く、血管に接するように存在する非感覚上皮がはっきり区別され、両者により鋤鼻腔を形成している。フェロモンを受容する鋤鼻受容細胞は感覚上皮に存在する。 | 図2左はラットの鋤鼻器の横断面概略図である。内側(鼻中隔側)に位置し細胞層の厚い感覚上皮と、外側(鼻腔側)に位置し細胞層が薄く、血管に接するように存在する非感覚上皮がはっきり区別され、両者により鋤鼻腔を形成している。フェロモンを受容する鋤鼻受容細胞は感覚上皮に存在する。 | ||
他に分泌腺([[鋤鼻腺]])と[[自律神経系]]の線維が存在する。自律神経は[[wikipedia:ja:血管|血管]]の脈動や分泌腺からの分泌を制御し、血管の周囲には[[wikipedia:ja:筋|筋]]組織があり、血管の収縮を制御する。[[wikipedia:ja:齧歯類|齧歯類]] | 他に分泌腺([[鋤鼻腺]])と[[自律神経系]]の線維が存在する。自律神経は[[wikipedia:ja:血管|血管]]の脈動や分泌腺からの分泌を制御し、血管の周囲には[[wikipedia:ja:筋|筋]]組織があり、血管の収縮を制御する。[[wikipedia:ja:齧歯類|齧歯類]]などではこの血管がフェロモンを受容するのに重要な役割をしている。血管が脈動により拡大・縮小するのにともない鋤鼻腔も拡大・縮小を繰り返すといわれている。つまり、閉じた状態から拡大するときに鋤鼻腔内が陰圧になる(鋤鼻腔は盲管で尾端が閉じている)、この陰圧を利用して鋤鼻腔の中にフェロモン物質が侵入しやすくしている。いわゆる“鋤鼻ポンプ”と呼ばれている現象で、興奮して血管の脈動がより激しくなるとフェロモンは鋤鼻腔に入りやすくなる<ref name=ref06><pubmed>7355286</pubmed></ref>。 | ||
=== 鋤鼻受容細胞 === | === 鋤鼻受容細胞 === | ||
感覚上皮内のフェロモンを受容する細胞である[[鋤鼻受容細胞]]の形態は双極型を示している(図2右)。一方の突起は上皮の表面に達し、鋤鼻腔にむかって数十から数百本にもおよぶ[[wikipedia:ja:微絨毛|微絨毛]]を発している(図3)。[[細胞体]]からは[[軸索]]が基底部にむかって伸び、さらに[[基底膜]]を貫いて、上皮組織に接している支持組織の粘膜固有層で、束を形成し副嗅球に向かう。この束を形成する軸索を[[鋤鼻神経]] | 感覚上皮内のフェロモンを受容する細胞である[[鋤鼻受容細胞]]の形態は双極型を示している(図2右)。一方の突起は上皮の表面に達し、鋤鼻腔にむかって数十から数百本にもおよぶ[[wikipedia:ja:微絨毛|微絨毛]]を発している(図3)。[[細胞体]]からは[[軸索]]が基底部にむかって伸び、さらに[[基底膜]]を貫いて、上皮組織に接している支持組織の粘膜固有層で、束を形成し副嗅球に向かう。この束を形成する軸索を[[鋤鼻神経]]とよぶ。感覚上皮内には他に支持細胞が存在する。名前の通り鋤鼻受容細胞を取り囲むことで構造を保持している。感覚上皮表面は、鋤鼻受容細胞と支持細胞から突出する微絨毛に覆われている<ref name=ref07>'''谷口和之、谷口和美'''<br>鋤鼻器の構造<br>匂いと香りの科学(渋谷、市川編集)33-41 朝倉書店、2007</ref>。 | ||
両者の微絨毛には形態的に差がある。鋤鼻受容細胞のものは、細くて短く表面から放射状に突出している。一方、支持細胞のものは、太くて長く表面から垂直に突出しており、先端は多少太くなり、表面がけば立っている。鋤鼻腔に侵入したフェロモンは鋤鼻受容細胞の微絨毛上に存在する[[受容体]]に結合する。動物の種によって微絨毛の数量はさまざまである。細胞当たりの数の多少がフェロモン受容能を表していると考えられる。鋤鼻腔に面した微絨毛の基部に[[中心体]]と呼ばれる構造があり、微絨毛の形成に関わっていると言われている。また、細胞体から鋤鼻腔に向かって伸びる突起内には、[[微小管]] | 両者の微絨毛には形態的に差がある。鋤鼻受容細胞のものは、細くて短く表面から放射状に突出している。一方、支持細胞のものは、太くて長く表面から垂直に突出しており、先端は多少太くなり、表面がけば立っている。鋤鼻腔に侵入したフェロモンは鋤鼻受容細胞の微絨毛上に存在する[[受容体]]に結合する。動物の種によって微絨毛の数量はさまざまである。細胞当たりの数の多少がフェロモン受容能を表していると考えられる。鋤鼻腔に面した微絨毛の基部に[[中心体]]と呼ばれる構造があり、微絨毛の形成に関わっていると言われている。また、細胞体から鋤鼻腔に向かって伸びる突起内には、[[微小管]]が縦列している。ニューロンの樹状突起によく似ている<ref name=ref07 />。 | ||
また、細胞体には、[[滑面小胞体]]が多量に分布しており、[[カルシウム]]の貯蔵庫としての役割を有している。これらの特徴以外、[[ミトコンドリア]]、[[ゴルジ装置]]、[[粗面小胞体]]、[[リボゾーム]]、[[リソゾーム]]など多くの[[細胞内小器官]]が見いだされる。鋤鼻腔直下では、支持細胞との間で、上皮組織の特徴である[[接着複合体]] | また、細胞体には、[[滑面小胞体]]が多量に分布しており、[[カルシウム]]の貯蔵庫としての役割を有している。これらの特徴以外、[[ミトコンドリア]]、[[ゴルジ装置]]、[[粗面小胞体]]、[[リボゾーム]]、[[リソゾーム]]など多くの[[細胞内小器官]]が見いだされる。鋤鼻腔直下では、支持細胞との間で、上皮組織の特徴である[[接着複合体]]が築かれている<ref name=ref07 />。 | ||
フェロモンの受容体は鋤鼻受容細胞に存在する。[[フェロモン受容体]]は[[I型フェロモン受容体|I型]]および[[II型フェロモン受容体|II型]](V1RとV2R)に分けられる。両者とも、[[7回膜貫通型受容体]]であるが、それぞれ全く相同性がない。これらフェロモン受容体は[[Gタンパク質共役型受容体]]のうち、I 型に[[Gi2]]がII型に[[Go]]が共役している(フェロモンの受容体の詳細ついては[[フェロモン受容体]]の項目を参照)。また、I型受容体を有する細胞は感覚上皮の浅層に、II型受容体を有する細胞は深層に分布する。すなわち、鋤鼻受容細胞は、I型フェロモン受容体を有しGタンパク質Gi2を共有し浅層に位置するもの(V1R-Gi2型鋤鼻受容細胞)と深層に位置しII型受容体とGoを共有するもの(V2R- | フェロモンの受容体は鋤鼻受容細胞に存在する。[[フェロモン受容体]]は[[I型フェロモン受容体|I型]]および[[II型フェロモン受容体|II型]](V1RとV2R)に分けられる。両者とも、[[7回膜貫通型受容体]]であるが、それぞれ全く相同性がない。これらフェロモン受容体は[[Gタンパク質共役型受容体]]のうち、I 型に[[Gi2]]がII型に[[Go]]が共役している(フェロモンの受容体の詳細ついては[[フェロモン受容体]]の項目を参照)。また、I型受容体を有する細胞は感覚上皮の浅層に、II型受容体を有する細胞は深層に分布する。すなわち、鋤鼻受容細胞は、I型フェロモン受容体を有しGタンパク質Gi2を共有し浅層に位置するもの(V1R-Gi2型鋤鼻受容細胞)と深層に位置しII型受容体とGoを共有するもの(V2R-Go型鋤鼻受容細胞)の2種類が存在する<ref name=ref08><pubmed>7585937</pubmed> <ref name=ref09><pubmed>9288755</pubmed></ref></ref> <ref name=ref010><pubmed>9288756</pubmed></ref> <ref name=ref011><pubmed>9292726</pubmed></ref>。 | ||
鋤鼻受容細胞は、嗅器官の匂い受容細胞である嗅細胞同様、みずから軸索を有し、脳内(副嗅球)に投射しており、このことから、感覚受容細胞であると同時にニューロンでもある。したがって、これらは鋤鼻ニューロンとも呼ばれる。さらに、この鋤鼻受容細胞は嗅細胞同様上皮細胞としての特性をもつ。したがって、動物が成熟した後にも[[幹細胞]]から再生産する。このことにより、鋤鼻受容細胞はニューロンの発生および再生の研究に役立っている。鋤鼻受容細胞は、嗅細胞と同様、感覚細胞であり、上皮細胞であり、さらにニューロン(神経細胞)であるという3種の細胞種の特徴を有する希有な細胞である。 | 鋤鼻受容細胞は、嗅器官の匂い受容細胞である嗅細胞同様、みずから軸索を有し、脳内(副嗅球)に投射しており、このことから、感覚受容細胞であると同時にニューロンでもある。したがって、これらは鋤鼻ニューロンとも呼ばれる。さらに、この鋤鼻受容細胞は嗅細胞同様上皮細胞としての特性をもつ。したがって、動物が成熟した後にも[[幹細胞]]から再生産する。このことにより、鋤鼻受容細胞はニューロンの発生および再生の研究に役立っている。鋤鼻受容細胞は、嗅細胞と同様、感覚細胞であり、上皮細胞であり、さらにニューロン(神経細胞)であるという3種の細胞種の特徴を有する希有な細胞である。 |