「Nogo」の版間の差分

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(読み方)ノゴ (英)Nogo 
<div align="right"> 
<font size="+1">[http://researchmap.jp/masashi.fujitani 藤谷昌司]、[http://researchmap.jp/ToshihideYamashita 山下俊英]</font><br>
''大阪大学 大学院医学系研究科分子神経科学 分子神経科学''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年2月24日 原稿完成日:2012年11月14日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/okanolab 岡野 栄之](慶應義塾大学 医学部)<br>           
</div>


= 概要  =
{{box|text=
 Nogoは[[wikipedia:JA:脊椎動物|脊椎動物]]の[[中枢神経]]細胞に対して[[軸索]]伸長の阻害効果をもち、[[髄鞘]]([[ミエリン]])に含まれる軸索損傷後の再生を阻害する分子であると考えられている。Nogo-Aタンパク質内には2つの軸索伸張阻害作用を有するタンパク質ドメインがあり(Δ20とNogo-66)、軸索伸長阻害のみならず、軸索の先端の[[成長円錐]]を虚脱させる作用を持っている。動物実験によりNogo-Aあるいはその下流の[[シグナル]]を阻害することにより、神経損傷時における神経軸索の再生を促すことが示されてきた。このことから軸索が損傷を受け、その再生ができないことにより、重度の後遺障害が残る[[脊髄損傷]]や[[多発性硬化症]]のような[[脱髄疾患]]における軸索再生治療への期待がかけられている。また、病態時のみならず、脳内の[[学習]]と[[記憶]]のプロセスを強化する過程において重要な役割を果たすことが分かっている。
}}


 Nogoは[http://www.google.co.jp/url?sa=t&rct=j&q=%E8%84%8A%E6%A4%8E%E5%8B%95%E7%89%A9&source=web&cd=1&ved=0CEEQFjAA&url=http%3A%2F%2Fja.wikipedia.org%2Fwiki%2F%25E8%2584%258A%25E6%25A4%258E%25E5%258B%2595%25E7%2589%25A9&ei=FQQpT6r-IYqKiALQs6mnCg&usg=AFQjCNEMyPXU2vKjYUi-j9mp-vbwpyQsDQ&sig2=xrvLW8tBJAIDL6XyHQnVLQ&cad=rja 脊椎動物]の[http://www.google.co.jp/url?sa=t&rct=j&q=%E4%B8%AD%E6%9E%A2%E7%A5%9E%E7%B5%8C&source=web&cd=1&ved=0CEMQFjAA&url=http%3A%2F%2Fja.wikipedia.org%2Fwiki%2F%25E4%25B8%25AD%25E6%259E%25A2%25E7%25A5%259E%25E7%25B5%258C%25E7%25B3%25BB&ei=KQQpT6jIOsKciAK_zKjFCg&usg=AFQjCNEucNIrcGtiIzEsSSwgWXtf2ZuPRQ&sig2=ofAyMolJHTpXkaybncm6Gw&cad=rja 中枢神経]の[http://kotobank.jp/word/%E8%BB%B8%E7%B4%A2 軸索]伸長の阻害効果をもち、軸索損傷後の再生を阻害する分子であると考えられている。Nogo-A蛋白内には2つの軸索伸張阻害作用を有する[http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%83%91%E3%82%AF%E8%B3%AA%E3%83%89%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%83%B3 蛋白ドメイン]があり(Δ20とNogo-66)、軸索伸長阻害のみならず、軸索の先端の[http://www.google.co.jp/url?sa=t&rct=j&q=%E6%88%90%E9%95%B7%E5%86%86%E9%8C%90&source=web&cd=1&ved=0CCkQFjAA&url=http%3A%2F%2Fja.wikipedia.org%2Fwiki%2F%25E6%2588%2590%25E9%2595%25B7%25E5%2586%2586%25E9%258C%2590&ei=JQUpT9_pG8TUiALgkYDgCg&usg=AFQjCNFBZXVxTHKMsBRC7guZLsTRVXK2Ew&sig2=WTOTaoy2DdkSienrylh4cw&cad=rja 成長円錐]を虚脱させる作用を持っている。動物実験によりNogo-Aあるいはその下流のシグナルを阻害することにより、神経損傷時における神経軸索の再生を促すことが示されてきた。このことから軸索が損傷を受け、その再生ができないことにより重度の後遺障害が残る、脊髄損傷や[http://www.google.co.jp/url?sa=t&rct=j&q=%E5%A4%9A%E7%99%BA%E6%80%A7%E7%A1%AC%E5%8C%96%E7%97%87&source=web&cd=1&ved=0CEAQFjAA&url=http%3A%2F%2Fja.wikipedia.org%2Fwiki%2F%25E5%25A4%259A%25E7%2599%25BA%25E6%2580%25A7%25E7%25A1%25AC%25E5%258C%2596%25E7%2597%2587&ei=WgUpT6SiGqThiALw2Pm1Cg&usg=AFQjCNHBe0ifIb3nQo2DTvLeVqqeC157sA&sig2=pAi3Mua1pHqq2MFZ1peNjA&cad=rja 多発性硬化症]のような脱髄疾患における軸索再生治療への期待がかけられている。また、病態時のみならず、脳内の学習と記憶のプロセスを強化する課程において重要な役割を果たすことが分かっている。 <br>
{{PBB|geneid=57142}}


= 発見の歴史<br> =
==一次構造とドメイン構造==
 
[[Image:Nogo 一次構造.jpg|thumb|right|300px|'''図1 Nogoタンパク質の一次構造''']]


 今からおよそ80年前に、スペインの神経学者Ramon y Cajalが重要なヒントを見いだした。彼は、感覚を伝える後根神経という末梢神経の軸索を切断し、その後の軸索の再生を観察した。再生しかけた軸索は、脊髄の中に侵入できず、再生できなかった。その後1980年代になって、Aguayoらは、脊髄の損傷による欠損部を末梢神経の周囲組織をグラフトとして移植することで、このグラフト内を軸索が再生する結果を得た。これらにより、神経細胞自体に再生する力がないのではなく、神経細胞を取り巻く環境が再生に適していないのではないかと考えられるに至った。特に中枢神経系のグリア細胞の影響と、神経成長因子の欠如が重要視され、その後、特にグリア細胞に焦点を当てた研究が精力的に行われた。<br> 1980年代、現在に至るまでの研究の方向性の舵取りとなった複数の論文がSchwabらにより報告された。最初の報告は、培養神経細胞が視神経鞘の上では突起を伸展させることができず、末梢神経の周囲にあるシュワン細胞の上では伸展できるというものであった。視神経の周囲を取り巻いているオリゴデンドロサイトが、突起の伸展を抑制している可能性が示唆されている。オリゴデンドロサイトの細胞膜表面のリン脂質からなる独特の構造をミエリンと呼ぶが、このミエリンが神経突起の伸展を抑制することが、その後報告された。ミエリンは多様な分子からなり、その中に再生を阻害している分子が存在していると考えられたのだが、その分子を捕まえるために彼等がとった方法は、ミエリンの各フラクションに対する抗体を作成するというものだった。彼等はIN-1と名付けた抗体を紹介している。これらの知見はその後の連綿と続く研究の土台となる成果であった。In vitroの実験により、IN-1抗体はミエリンの作用を中和し、220 kDaの糖蛋白に結合することが判明した。もしもIN-1抗体が認識する蛋白が中枢神経の再生を阻害しているならば、この抗体は再生治療薬として効果があるかもしれない。この仮説は同グループによって検証されている。IN-1抗体を脊髄損傷させたラットに投与すると、軸索再生と運動機能の回復が認められた。これら一連の成果により、軸索再生阻害という概念は、仮説ではなく実在のものとして信じられるようになった。しかし再生阻害を担う蛋白の単離は10年かかっても実現しなかった。その間に、この分野において大きな進展はなく、懐疑的な科学者はミエリンによる再生阻害という概念に疑問を呈するようになった。
 Nogo-A[[タンパク質]]は、1163アミノ酸で構成されるタンパク質である。Nogoタンパク質の一次構造は、''RTN4''遺伝子によりコードされる二回膜貫通型のタンパク質である(図1)。''RTN4''遺伝子からは、3つのアイソフォームNogo-A,Nogo-B,Nogo-Cが作られる<ref name="ref2"><pubmed> 21045861 </pubmed></ref>。


Ⅱ Nogoとその受容体の発見<br> 最初のミエリン由来再生阻害蛋白は、上記の流れとは異なるところから生まれてきた。FilbinらとMcKerracherらは、myelin associated glycoprotein(MAG)というやはりミエリンに存在している糖蛋白が、in vitroにおいて神経突起伸展を抑制することを発見した。1994年のことであったが、これらの報告は当初それほど注目を集めなかった。神経細胞の種類によって、MAGに対する反応が異なっていて、MAGは常に再生阻害に働くわけではなかったためである。たとえば胎児期の後根神経はMAGにより突起の伸展が促進された。さらに脊髄損傷をおったMAGのノックアウトマウスはより良い軸索再生をみせなかった。MAG以外の蛋白が重要なのであろうと考えられた所以である。<br> 一方Schwabのグループは1998年に、IN-1抗体の認識する蛋白の部分配列を公開した。このペプチド配列をもとに、長年捜し求めた目的の蛋白がクローニングされ、3つのグループによって同時に報告された。Nogoと名付けられたこの蛋白はその配列情報から2回膜貫通構造をもっていると考えられ、培養神経細胞に対して突起伸展抑制作用をもっていた。Nogoはスプライシングによって3つの長さの異なる蛋白が作られる。このうち最も長いNogo-Aには再生阻害に働く2つのドメインが存在する。Schwabらはアミノ端のNogoがより重要であると考えているが、Strittmatterらは膜貫通領域に囲まれる66個のアミノ酸からなるペプチド部分(Nogo-66)の再生抑制作用に注目し、その後の研究の潮流をリードした。<br>次の課題はNogoがどのように神経細胞に働くかという疑問であり、神経細胞上の受容体の同定であった。MAG受容体もまだ見つかっていなかった。Nogo発見の翌年、StrittmatterらはNogo-66の受容体を同定した。Nogo-66の受容体は細胞内ドメインをもたないGPIアンカー型蛋白であり、Nogo-66に対し高親和性を示した。<br>この発見を機に、この分野の研究は意外な展開を辿っていった。その翌年、FibinおよびStrittmatterの二つのグループがMAGもNogo受容体のリガンドであることを示したのである。こうしてMAGは、再生阻害蛋白としての重要性を改めて認知されることになった。また時期を同じくして、3つ目のミエリン由来再生阻害蛋白をHeらが報告している。それはoligodendrocyte myelin glycoprotein (OMgp)という蛋白で、その名の通りオリゴデンドロサイトに発現している。しかもOMgpもNogo受容体のリガンドであることが判明した。オリゴデンドロサイトには複数の構造的に異なる蛋白が存在するが、これらが同一の受容体に結合し作用するという単純なモデルが描かれたのである。<br><br>
 軸索伸展阻害作用を持つNogo-66はNogo-A,-B,-Cに共通の66個のアミノ酸からなるドメインである。一方、もう一つの軸索伸展阻害作用を持つΔ20ドメインは、Nogo-Aのみが持つことが分かっている。Δ20ドメインが重要と考えているグループとNogo-66が重要と考えているグループに分かれているが、一般的に、Nogoの作用を指すのは、Nogo-66の作用である場合が多い。


= 蛋白の一次構造とドメイン[[Image:Nogo一次構造.jpg|frame|(図1)Nogoのアイソフォームと一次構造]]  =
 Nogo-Aは二回膜貫通型で、図2で示されるように、アミノ末端部は細胞外に露出していると考えられている。また、アミノ末端側の膜貫通ドメインは二回膜貫通できるのに十分長いと考えられている。   


図1に示されるとおり、Nogo蛋白の一次構造は、RTN4遺伝子によりコードされる二回膜貫通型の蛋白である。&nbsp;RTN4遺伝子からは、3つのアイソフォームNogo-A,Nogo-B,Nogo-Cが作られる。
== 発現様式 ==
 
 [http://mouse.brain-map.org/experiment/show/68162204 Nogo(''RTN4'')]遺伝子は成体脳・脊髄の比較的広範な[[希突起膠細胞]]と神経細胞への発現が認められるが、タンパク質の発現は固定方法によって結果が異なるとされ、[[wikipedia:JA:パラホルムアルデヒド|パラホルムアルデヒド]]固定によっては、希突起膠細胞により高い発現があると報告されている<ref name="ref3" />。発生時期には、[[DCX]]陽性の新生神経細胞に比較的限局したタンパク質と遺伝子発現が認められる<ref name="ref3"><pubmed> 11978832  </pubmed></ref><ref><pubmed> 20093372 </pubmed></ref>。 一方、生後および成体脳・脊髄においては主として[[稀突起膠細胞]]そして、神経細胞に発現が認められる<ref name="ref3" />。希突起膠細胞内では、ミエリン自体における発現はなく、細胞体での発現が高い。なお、脳や脊髄への損傷によっては発現の変化は認められない<ref name="ref3" />。


軸索阻害作用を持つNogo-66はNogo-A,-B,-Cに共通のドメインである。一方、Δ20ドメインは、Nogo-Aのみが持つことが分かっている。<br>  
 細胞内では、他の[[reticulon]]ファミリータンパク質と同様に、[[小胞体]]もしくは図2に示されるように細胞表面に発現していると考えられている。また、タンパク質は[[シナプス前部]]・[[シナプス後部|後部]]の両方に発現しており、[[シナプス可塑性]]を担っている可能性が示唆されている<ref><pubmed> 18337405 </pubmed></ref>。


 二回膜貫通型ではあるが、図2で示されるように、アミノ末端部は、細胞外に露出していると考えられている。<br>
== タンパク質の機能 ==


= 蛋白の機能 <br>  =
[[Image:Nogo signal 400.jpg|thumb|right|300px|'''図2 Nogoとそのシグナル伝達経路''']]


=== <span style="font-weight: bold;"> 成体神経細胞に対する軸索伸展阻害作用</span><br> ===
=== 成体神経細胞に対する軸索伸展阻害作用 ===


=== <span style="font-weight: bold;"> 胎生期神経前駆細胞の放射状移動を制御</span><br> ===
==== ミエリン由来軸索伸展阻害分子の作用とは ====


===  Critical periodの形成に関わり、成体の軸索の再編成を制御し、神経ネットワークの可塑性を制御<br> ===
 神経細胞自体には再生する力があり、神経細胞を取り巻く環境が再生に適していないのではないかという仮説が提唱されていた。ミエリンが神経突起の伸展を抑制することが報告されたことから、ミエリンの中に再生を阻害している分子が存在していると考えられた。そして、Schwabらにより、ミエリンの各フラクションに対する抗体が作成され、IN-1抗体が発見された<ref><pubmed> 2300171 </pubmed></ref>。IN-1はミエリンの作用を打ち消し、また、IN-1抗体を脊髄損傷させた[[wikipedia:JA:ラット|ラット]]に投与すると、軸索再生と運動機能の回復が認められることが報告された。その後、3つのグループによりIN-1抗体の認識する[[wikipedia:JA:ペプチド|ペプチド]]配列をもとに、目的のタンパク質が[[wikipedia:JA:クローニング|クローニング]]され、Nogoと名付けられた&nbsp;<ref><pubmed> 10667796 </pubmed></ref><ref><pubmed> 10667797 </pubmed></ref><ref><pubmed> 10667780</pubmed></ref>。


===  βセクレターゼ活性の制御によるAPPの切断を制御<br> ===
==== 受容体と細胞内シグナル ====


<br>  
 StrittmatterらはNogo-66の[[受容体]]、Nogo受容体NgRを同定した<ref><pubmed> 11201742 </pubmed></ref>。 Nogo受容体は細胞内ドメインをもたないG[[PIアンカー]]型タンパク質であり、Nogo-66に対し高親和性を示す。更に、[[神経栄養因子]]の受容体である[[p75]]受容体がシグナル伝達を担う受容体であることが証明された<ref><pubmed>12011108 </pubmed></ref>。p75とNogo受容体は結合して受容体複合となっている<ref><pubmed> 12422217</pubmed></ref>(図2左側)。細胞内へのシグナルは[[Rho-GDI]]から[[Rho]]が解離されることによって開始される<ref><pubmed> 12692556  </pubmed></ref>。活性化されたRho/[[ROCK]]経路を介して、軸索や成長円錐の[[細胞骨格]]が制御され、軸索伸張阻害や成長円錐虚脱が起こる。 


= 受容体と細胞内シグナル [[Image:Nogo signaling.jpg|frame|(図2)受容体と細胞内シグナル伝達経路]] =
 だが、p75/Nogo受容体のみでは、ある種の細胞ではNogoで刺激してもRhoが活性化しない。そこで[[Lingo-1]]がp75/Nogo受容体コンポーネントとして重要と報告され、p75/Nogo受容体/Lingo-1という受容体複合によりRhoが活性化されて、軸索伸展が阻止されるという基本モデルが完成した(図2左側)<ref><pubmed> 14966521</pubmed></ref>。


[[Image:Nogo|RTENOTITLE]]<br>  
 近年、[[paired immunoglobulin-like receptor B]](PirB)が、Nogo-66に対するもう一つの受容体であることが報告された(図2右側)。PirBとNgRの両方を阻害することにより、ミエリンやNogo-66の軸索伸展阻害作用は、ほぼ完全に消失する<ref><pubmed> 18988857  </pubmed></ref>。また最近、このNogo受容体に対する内因性の不活性化因子として、[[LOTUS]]が同定されている<ref><pubmed> 21817055 </pubmed></ref>。


<br>
==== ミエリン由来軸索伸展阻害因子のin vivoにおける作用  ====


<br>  
 当初、IN-1抗体や、NEP1-40という阻害ペプチドを用いて、脊髄損傷[[モデル動物]]の[[軸索再生]]が促進されると報告され、Nogoはin vivoで再生阻害タンパク質として働くと考えられていた。しかし、Nogoのノックアウトマウスを3つのグループが独自に作成し、脊髄損傷後の軸索再生を評価したが、グループ間で結果が異なった<ref><pubmed> 12718854  </pubmed></ref><ref><pubmed> 12718855  </pubmed></ref><ref><pubmed> 12718856  </pubmed></ref>。また、最近になり、主要な再生阻害因子([[MAG]],Nogo,[[OMgp]])のトリプルノックアウトマウスにおいても脊髄損傷モデルが作成されたが、再生の促進が認められないと報告された<ref><pubmed> 20547125  </pubmed></ref>。これらの結果については様々な議論がなされている。


<br>
=== その他の機能  ===


<br>
Nogoの生理的な機能も解析されている。その中では


Two binding sites are currently known for the Nogo-66 sequence, the Nogo receptor 1 (NgR1) and the membrane protein paired immunoglobulin-like receptor B (PIRB). Both receptors also interact with other ligands, however. The receptor for the Nogo-A specific active site remains to be characterized. Rho activation followed by destabilizing effects on the cytoskeleton are obligatory steps in the postreceptor signalling and effector pathway that leads to the collapse of neurite growth cones. Several additional proteins are associated with what is probably a multisubunit receptor complex for Nogo-A.<br>Nogo-B, by interaction with a Nogo-B receptor (NGBR), influences vascular endothelial cells and smooth muscle cells, which hyperproliferate after vascular lesions in Nogo-A and Nogo-B double knockout mice. The function of Nogo-C is currently still unknown.<br>During CNS development, Nogo-A and its receptors are expressed in cortical precursors and affect their migration. Many projection neurons in the central and peripheral nervous systems express Nogo-A during axonal outgrowth; its neutralization or knockout enhances axonal fasciculation and influences branching. NgR1 and the shorter Nogo forms also have guidance and fasciculation functions in zebrafish, a lower vertebrate.<br>In the adult CNS, oligodendrocyte and myelin Nogo-A suppresses the growth programme of adult neurons, probably by a retrograde action on the cell bodies. Locally, neurite growth is dampened by the growth cone collapsing actions of Nogo-A. Nogo-A thus acts as a stabilizer of the adult CNS neuronal network and wiring. Ablation of Nogo-A or NgR1 accordingly enhances plastic rearrangements of CNS connections, extending the so-called 'critical period' far into adult ages, for example, for visual cortex plasticity. The schizophrenia-like behaviour of Nogo-A knockout mice and the associations found between psychiatric disorders and mutations in the genes encoding Nogo or NgR1 may be based on similar functions.<br>In addition to its cell surface expression, high amounts of Nogo are also present intracellularly. In neurons, its interaction with β-secretase points to a role in the regulation of amyloid precursor protein (APP) processing. Manipulations of Nogo have indicated a structural role for Nogo in the endoplasmic reticulum (ER) and the nuclear membrane. Interactions with proteins involved in cell survival and apoptosis have also been observed.<br>Various approaches aimed at suppressing Nogo-A or NgR1 actions have been used following injury of the adult spinal cord or brain. Acute functional suppression and, with more variable effects, chronic genetic deletion enhance regenerative sprouting and growth of various CNS tract systems. In addition, spared fibre systems have shown enhanced compensatory sprouting; both these processes were associated with substantial improvements of the behavioural recovery of lost functions in rodents and monkeys. These results illustrate the important growth-suppressive role of Nogo-A in the adult mammalian CNS.
*[[Critical period]]の形成に関わり、成体の軸索の再編成を制御し、神経ネットワークの可塑性を制御すること
*[[胎生期]][[神経前駆細胞]]の[[放射状移動]]を制御すること
*[[βセクレターゼ]]活性の制御による[[APP]]の切断を制御すること
 
が報告されている。明確な証明はないが、ミエリンや、ミエリン由来の軸索伸展阻害因子は、軸索の余計な芽生えや分枝が起こることを防ぐことにより、適切な神経回路を維持するのに役立っているのではないかという考えが提唱されている<ref name="ref2" />
 
 
 
== 参考文献 ==
 
<references />

2015年9月2日 (水) 09:11時点における最新版

藤谷昌司山下俊英
大阪大学 大学院医学系研究科分子神経科学 分子神経科学
DOI:10.14931/bsd.546 原稿受付日:2012年2月24日 原稿完成日:2012年11月14日
担当編集委員:岡野 栄之(慶應義塾大学 医学部)

 Nogoは脊椎動物中枢神経細胞に対して軸索伸長の阻害効果をもち、髄鞘ミエリン)に含まれる軸索損傷後の再生を阻害する分子であると考えられている。Nogo-Aタンパク質内には2つの軸索伸張阻害作用を有するタンパク質ドメインがあり(Δ20とNogo-66)、軸索伸長阻害のみならず、軸索の先端の成長円錐を虚脱させる作用を持っている。動物実験によりNogo-Aあるいはその下流のシグナルを阻害することにより、神経損傷時における神経軸索の再生を促すことが示されてきた。このことから軸索が損傷を受け、その再生ができないことにより、重度の後遺障害が残る脊髄損傷多発性硬化症のような脱髄疾患における軸索再生治療への期待がかけられている。また、病態時のみならず、脳内の学習記憶のプロセスを強化する過程において重要な役割を果たすことが分かっている。

Reticulon 4
PDB rendering based on 2g31.
Identifiers
Symbols RTN4; ASY; NI220/250; NOGO; NOGO-A; NOGOC; NSP; NSP-CL; Nbla00271; Nbla10545; Nogo-B; Nogo-C; RTN-X; RTN4-A; RTN4-B1; RTN4-B2; RTN4-C
External IDs OMIM604475 MGI1915835 HomoloGene10743 GeneCards: RTN4 Gene
RNA expression pattern
PBB GE RTN4 211509 s at tn.png
PBB GE RTN4 210968 s at tn.png
PBB GE RTN4 214629 x at tn.png
More reference expression data
Orthologs
Species Human Mouse
Entrez 57142 68585
Ensembl ENSG00000115310 ENSMUSG00000020458
UniProt Q9NQC3 Q99P72
RefSeq (mRNA) NM_007008.2 NM_024226
RefSeq (protein) NP_008939.1 NP_077188
Location (UCSC) Chr 2:
55.2 – 55.34 Mb
Chr 11:
29.59 – 29.64 Mb
PubMed search [1] [2]

一次構造とドメイン構造

図1 Nogoタンパク質の一次構造

 Nogo-Aタンパク質は、1163アミノ酸で構成されるタンパク質である。Nogoタンパク質の一次構造は、RTN4遺伝子によりコードされる二回膜貫通型のタンパク質である(図1)。RTN4遺伝子からは、3つのアイソフォームNogo-A,Nogo-B,Nogo-Cが作られる[1]

 軸索伸展阻害作用を持つNogo-66はNogo-A,-B,-Cに共通の66個のアミノ酸からなるドメインである。一方、もう一つの軸索伸展阻害作用を持つΔ20ドメインは、Nogo-Aのみが持つことが分かっている。Δ20ドメインが重要と考えているグループとNogo-66が重要と考えているグループに分かれているが、一般的に、Nogoの作用を指すのは、Nogo-66の作用である場合が多い。

 Nogo-Aは二回膜貫通型で、図2で示されるように、アミノ末端部は細胞外に露出していると考えられている。また、アミノ末端側の膜貫通ドメインは二回膜貫通できるのに十分長いと考えられている。   

発現様式

 Nogo(RTN4)遺伝子は成体脳・脊髄の比較的広範な希突起膠細胞と神経細胞への発現が認められるが、タンパク質の発現は固定方法によって結果が異なるとされ、パラホルムアルデヒド固定によっては、希突起膠細胞により高い発現があると報告されている[2]。発生時期には、DCX陽性の新生神経細胞に比較的限局したタンパク質と遺伝子発現が認められる[2][3]。 一方、生後および成体脳・脊髄においては主として稀突起膠細胞そして、神経細胞に発現が認められる[2]。希突起膠細胞内では、ミエリン自体における発現はなく、細胞体での発現が高い。なお、脳や脊髄への損傷によっては発現の変化は認められない[2]

 細胞内では、他のreticulonファミリータンパク質と同様に、小胞体もしくは図2に示されるように細胞表面に発現していると考えられている。また、タンパク質はシナプス前部後部の両方に発現しており、シナプス可塑性を担っている可能性が示唆されている[4]

タンパク質の機能

図2 Nogoとそのシグナル伝達経路

成体神経細胞に対する軸索伸展阻害作用

ミエリン由来軸索伸展阻害分子の作用とは

 神経細胞自体には再生する力があり、神経細胞を取り巻く環境が再生に適していないのではないかという仮説が提唱されていた。ミエリンが神経突起の伸展を抑制することが報告されたことから、ミエリンの中に再生を阻害している分子が存在していると考えられた。そして、Schwabらにより、ミエリンの各フラクションに対する抗体が作成され、IN-1抗体が発見された[5]。IN-1はミエリンの作用を打ち消し、また、IN-1抗体を脊髄損傷させたラットに投与すると、軸索再生と運動機能の回復が認められることが報告された。その後、3つのグループによりIN-1抗体の認識するペプチド配列をもとに、目的のタンパク質がクローニングされ、Nogoと名付けられた [6][7][8]

受容体と細胞内シグナル

 StrittmatterらはNogo-66の受容体、Nogo受容体NgRを同定した[9]。 Nogo受容体は細胞内ドメインをもたないGPIアンカー型タンパク質であり、Nogo-66に対し高親和性を示す。更に、神経栄養因子の受容体であるp75受容体がシグナル伝達を担う受容体であることが証明された[10]。p75とNogo受容体は結合して受容体複合となっている[11](図2左側)。細胞内へのシグナルはRho-GDIからRhoが解離されることによって開始される[12]。活性化されたRho/ROCK経路を介して、軸索や成長円錐の細胞骨格が制御され、軸索伸張阻害や成長円錐虚脱が起こる。 

 だが、p75/Nogo受容体のみでは、ある種の細胞ではNogoで刺激してもRhoが活性化しない。そこでLingo-1がp75/Nogo受容体コンポーネントとして重要と報告され、p75/Nogo受容体/Lingo-1という受容体複合によりRhoが活性化されて、軸索伸展が阻止されるという基本モデルが完成した(図2左側)[13]

 近年、paired immunoglobulin-like receptor B(PirB)が、Nogo-66に対するもう一つの受容体であることが報告された(図2右側)。PirBとNgRの両方を阻害することにより、ミエリンやNogo-66の軸索伸展阻害作用は、ほぼ完全に消失する[14]。また最近、このNogo受容体に対する内因性の不活性化因子として、LOTUSが同定されている[15]

ミエリン由来軸索伸展阻害因子のin vivoにおける作用

 当初、IN-1抗体や、NEP1-40という阻害ペプチドを用いて、脊髄損傷モデル動物軸索再生が促進されると報告され、Nogoはin vivoで再生阻害タンパク質として働くと考えられていた。しかし、Nogoのノックアウトマウスを3つのグループが独自に作成し、脊髄損傷後の軸索再生を評価したが、グループ間で結果が異なった[16][17][18]。また、最近になり、主要な再生阻害因子(MAG,Nogo,OMgp)のトリプルノックアウトマウスにおいても脊髄損傷モデルが作成されたが、再生の促進が認められないと報告された[19]。これらの結果については様々な議論がなされている。

その他の機能

Nogoの生理的な機能も解析されている。その中では

が報告されている。明確な証明はないが、ミエリンや、ミエリン由来の軸索伸展阻害因子は、軸索の余計な芽生えや分枝が起こることを防ぐことにより、適切な神経回路を維持するのに役立っているのではないかという考えが提唱されている[1]


参考文献

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