「行動分析学」の版間の差分

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<font size="+1">[http://researchmap.jp/yumyam 山崎 由美子]</font><br>
<font size="+1">[http://researchmap.jp/yumyam 山崎 由美子]</font><br>
''慶應義塾大学''<br>
''慶應義塾大学''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2017年1月11日 原稿完成日:2016年月日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2017年1月11日 原稿完成日:2017年2月7日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0048432 定藤 規弘](自然科学研究機構 生理学研究所 大脳皮質機能研究系)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0048432 定藤 規弘](自然科学研究機構 生理学研究所 大脳皮質機能研究系)<br>
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英:behavior analysis, behaviorism 独:Behaviorismus 仏:béhaviorisme
英:behavior analysis 独:Verhaltensanalyse 仏:analyse du comportement


{{box|text= 行動分析学とは、アメリカの心理学者スキナー (B.F. Skinner)によって創始された行動研究の体系である。行動の制御変数を環境の中に求めるという一貫した考え方に基づき、基礎・応用・臨床の各分野でアプローチをする特徴を持つ。}}
{{box|text= 行動分析学とは、アメリカの心理学者スキナー (B.F. Skinner)によって創始された行動研究の体系である。行動の制御変数を環境の中に求めるという一貫した考え方に基づき、基礎・応用・臨床の各分野でアプローチをする特徴を持つ。}}


==行動分析学における研究対象==
==行動分析学における研究対象==
 研究対象は行動そのものであり、行動とは「個体の営みのうちで外的環境に働きかけあるいは相互交渉をもつすべての営み」<ref name=ref1>'''佐藤方哉'''<br>第1章 言語への行動分析学的アプローチ<br>日本行動分析学会 (編)、浅野俊夫・山本淳一 (責任編集)<br>ことばと行動、''ブレーン出版'' (東京)、2001</ref>と定義される。行動は操作的に定義できるものであり、その妥当性は、その行動を扱う上での有効性により評価され、社会での公共的一致を前提としない<ref name=ref2>'''小川隆監修、 杉本助男、佐藤方哉、河嶋孝共編'''<br>行動心理ハンドブック<br>''培風館'' (東京)、 1989</ref>。このため、行動分析学では、行動主義が研究対象として除外していた私的出来事、[[心的過程]]、[[内言]]、[[意識]]といった外的に観察不可能なものまで含められる。これらはすべて単一の原理に従い、環境変数にその原因を求められるとする。ある行動を理解したということは、環境変数を特定することにより、その行動の予測と制御ができたことと同義とされる。
 研究対象は行動そのものであり、行動とは「個体の営みのうちで外的環境に働きかけあるいは相互交渉をもつすべての営み」<ref name=ref1>'''佐藤方哉'''<br>第1章 言語への行動分析学的アプローチ<br>日本行動分析学会 (編)、浅野俊夫・山本淳一 (責任編集)<br>ことばと行動、''ブレーン出版'' (東京)、2001</ref>と定義される。行動は操作的に定義できるものであり、その妥当性は、その行動を扱う上での有効性により評価され、社会での公共的一致を前提としない<ref name=ref2>'''小川隆監修、 杉本助男、佐藤方哉、河嶋孝共編'''<br>行動心理ハンドブック<br>''培風館'' (東京)、 1989</ref>
 
 このため、行動分析学では、行動主義が研究対象として除外していた私的出来事、[[心的過程]]、[[内言]]、[[意識]]といった外的に観察不可能なものまで含められる。これらはすべて単一の原理に従い、環境変数にその原因を求められるとする。ある行動を理解したということは、環境変数を特定することにより、その行動の予測と制御ができたことと同義とされる。


 このような行動分析学での行動の見方は、[[徹底的行動主義]] (radical behaviorism)という独自のものである。直接観察不可能な意識などを推定するために行動を指標とするような、[[方法論的行動主義]] (methodological behaviorism)とは異なる立場を取る <ref name=ref1 />。
 このような行動分析学での行動の見方は、[[徹底的行動主義]] (radical behaviorism)という独自のものである。直接観察不可能な意識などを推定するために行動を指標とするような、[[方法論的行動主義]] (methodological behaviorism)とは異なる立場を取る <ref name=ref1 />。
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 [[古典的条件づけ]]と同義であり、生体が持つ刺激と反応との無条件的な関係に基づいて、別の刺激が新しく機能を獲得する過程をさす。
 [[古典的条件づけ]]と同義であり、生体が持つ刺激と反応との無条件的な関係に基づいて、別の刺激が新しく機能を獲得する過程をさす。


 例えば、[[イヌ]]の舌に肉片 (無条件刺激)を置くと唾液[[分泌]]が生じる (無条件反応)が、[[wj:メトロノーム|メトロノーム]]の音 (中性刺激)を肉片とともに提示する (対提示)ことを繰り返すと、メトロノームだけでも[[wj:唾液|唾液]]分泌を生じさせるようになる。この現象は、元来唾液分泌に対し機能を持たなかったメトロノームが、対提示の操作によって[[条件刺激]]としての機能を有するようになった、と説明できる。レスポンデント条件づけによって[[学習]]されるのは、刺激と刺激の関係である。
 例えば、[[イヌ]]の舌に肉片 ([[無条件刺激]])を置くと唾液[[分泌]]が生じる (無条件反応)が、[[wj:メトロノーム|メトロノーム]]の音 ([[中性刺激]])を肉片とともに提示する (対提示)ことを繰り返すと、メトロノームだけでも[[wj:唾液|唾液]]分泌を生じさせるようになる。この現象は、元来唾液分泌に対し機能を持たなかったメトロノームが、対提示の操作によって[[条件刺激]]としての機能を有するようになった、と説明できる。レスポンデント条件づけによって[[学習]]されるのは、刺激と刺激の関係である。


=== オペラント条件づけ ===
=== オペラント条件づけ ===
 個体が環境に働きかける行動を自発し、これに後続する事象がその行動の頻度を変化させる過程を指す。例えば、空腹の[[ラット]]が実験箱のレバーを押したら餌が出て食べることができ、その後レバー押しの頻度が増加したとする。この時、自発されたボタン押しは[[オペラント]]と呼ばれる。
 個体が環境に働きかける行動を自発し、これに後続する事象がその行動の頻度を変化させる過程を指す。例えば、空腹の[[ラット]]が実験箱のレバーを押したら餌が出て食べることができ、その後レバー押しの頻度が増加したとする。この時、自発されたボタン押しは[[オペラント]]と呼ばれる。


 オペラントは同じ機能持つ反応の集まり(クラス)であり、この場合ボタンを手、足、鼻のどれで押しても一つのオペラントと分類される。オペラントに、ある結果が後続することを[[随伴性]]と呼ぶ。オペラントが自発される際に存在する環境刺激は、後にオペラントの自発確率を高める手掛かりとなる機能を持つようになる。これを弁別刺激という。
 オペラントは同じ機能を持つ反応の集まり(クラス)であり、この場合ボタンを手、足、鼻のどれで押しても一つのオペラントと分類される。オペラントに、ある結果が後続することを[[随伴性]]と呼ぶ。オペラントが自発される際に存在する環境刺激は、後にオペラントの自発確率を高める手掛かりとなる機能を持つようになる。これを弁別刺激という。


 弁別刺激、オペラント、および後続した結果は[[三項随伴性]]と呼ばれ、自発行動と環境刺激との関係を記述する最も小さな単位として分析される。
 弁別刺激、オペラント、および後続した結果は[[三項随伴性]]と呼ばれ、自発行動と環境刺激との関係を記述する最も小さな単位として分析される。
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 オペラントに結果を随伴させないことにより、反応を消失あるいは減少させる手続きを[[消去]]という。レスポンデント条件づけとは異なり、オペラント条件づけで学習されるのは反応と結果との関係である。
 オペラントに結果を随伴させないことにより、反応を消失あるいは減少させる手続きを[[消去]]という。レスポンデント条件づけとは異なり、オペラント条件づけで学習されるのは反応と結果との関係である。


 随伴性には、行動の頻度の増加あるいは減少、結果の提示あるいは除去、の4つの組み合わせ要因により、[[正の強化]]、[[罰]]、[[負の強化]]、[[負の罰]]がある<ref name=ref4>'''ジェームズ・E.メイザー著、磯博行、坂上貴之、川合伸幸訳'''<br>メイザーの学習と行動 第3版<br>''二瓶社'' (大阪)、2008</ref>。
 随伴性には、行動の頻度の増加あるいは減少、結果の提示あるいは除去、の4つの組み合わせ要因により、[[正の強化]]、[[罰]]、[[負の強化]]、[[負の罰]]がある('''表1''')<ref name=ref4>'''ジェームズ・E.メイザー著、磯博行、坂上貴之、川合伸幸訳'''<br>メイザーの学習と行動 第3版<br>''二瓶社'' (大阪)、2008</ref>。
 
<u>(編集部コメント:表1の引用位置をお示しください)</u>


{| class="wikitable"
{| class="wikitable"
|+ 表1.<u>(編集部コメント:表のタイトルをお願いします)</u>
|+ 表1. 随伴性の組み合わせ要因
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|-
|
!
|刺激の出現
!刺激の出現
|刺激の除去
!刺激の除去
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|行動頻度の増加
!行動頻度の増加
|正の強化
|正の強化
|負の強化
|負の強化
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|-
|行動頻度の減少
!行動頻度の減少
|罰
|罰
|負の罰
|負の罰