「アラキドン酸」の版間の差分

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聶 翔(神戸大学大学院医学研究科・医学部 薬理学分野)
<font size="+1">聶 翔、[https://researchmap.jp/hirotakanagai/?lang=japanese 永井 裕崇]、[https://researchmap.jp/0711/ 北岡 志保]、[http://researchmap.jp/read0192882 古屋敷 智之]</font><br>
永井 裕崇(神戸大学大学院医学研究科・医学部 薬理学分野)
''神戸大学大学院医学研究科・医学部 薬理学分野''<br>
北岡 志保(神戸大学大学院医学研究科・医学部 薬理学分野)
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2018年8月3日 原稿完成日:2018年10月25日<br>
古屋敷 智之(神戸大学大学院医学研究科・医学部 薬理学分野)
担当編集委員:[http://researchmap.jp/wadancnp 和田 圭司](国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター)<br>
</div>


英:arachidonic acid 独:Arachidonsäure 仏:acide arachidonique
アラキドン酸は4つのcis二重結合を有する20個の炭素鎖からなる脂肪酸である。メチル末端(ωまたはn)から数えて最初の二重結合が6番目と7番目の炭素の間に位置するため、ω-6 (n-6)多価不飽和脂肪酸に含まれ、20:4ω-6と記載される[1] [2]。アラキドン酸は、主に細胞膜のリン脂質のsn-2位にエステル化されて存在する[3]。主にグリセロリン脂質にコリンが結合したホスファチジルコリンに含まれるが、ホスファチジルイノシトールなど他のグリセロリン脂質にも含まれる[4]。アラキドン酸は、刺激に応じてホスホリパーゼA2(phospholipase A2; PLA2)の酵素活性により細胞膜から遊離する他[5][6]、エンドカンナビノイドと称する2-arachodonoyl-glycerol ([[2-AG]])やアナンダマイド(anandamide; arachidonoylethanolamide)の構成成分として細胞膜から遊離する[7][8]。エンドカンナビノイドはそれ自体で生理活性を有するが、代謝されて遊離アラキドン酸を産生する[9][10]。遊離アラキドン酸の大半は細胞膜のリン脂質に再度取り込まれるため、その濃度は低く維持されている[11]。遊離アラキドン酸はプロスタノイドやロイコトリエンなど多様な生理活性脂質に変換され、摂食、睡眠・覚醒、脳血流など生理的な脳機能の他、疾病時の発熱や内分泌応答、疼痛、てんかん、脳虚血、ストレス、神経・精神疾患など様々な病態にも関与する[12][13][14][15][16][17][18]。


{{box|text= アラキドン酸は4つのcis二重結合を有する20個の炭素鎖からなる脂肪酸である。アラキドン酸は様々な食品から吸収される他、必須脂肪酸のリノール酸からも産生される。体内のアラキドン酸は主に脂質二重膜に含まれ、刺激に応じて遊離アラキドン酸に代謝される。遊離アラキドン酸はそれ自体でも生理作用を有するが、主にプロスタノイドやロイコトリエンなどの様々な生理活性脂質に変換され生理的・病理的機能に関与する。}}
== 1.アラキドン酸の摂取・生合成・代謝 ==
{{Chembox
アラキドン酸は、肉、卵、魚介類などの食品から得られ、細胞内のリン脂質に取り込まれ、様々な生体膜の合成に使用される[19]。ラットを用いた実験では、離乳後3〜4カ月の間ω-6 多価不飽和脂肪酸を欠乏させると、脳内のアラキドン酸含有量が約30%減少することが示されている[20]。成人では、脳で代謝されるアラキドン酸は血漿から補われ、脳内のアラキドン酸の含有量は一定に保たれている。ヒトのPETイメージングにより、脳内へ取り込まれる血漿中のアラキドン酸は約18mg/日、脳内におけるアラキドン酸の半減期は約147日と推定されている[21][22]。
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アラキドン酸は、18個の炭素鎖からなり2つのcis二重結合を含むω-6多価不飽和脂肪酸の一種であるリノール酸(18:2ω-6)からも産生される(図1)。リノール酸は必須脂肪酸であり、ナッツなどの種実類や植物油に豊富に含まれる[19]。体内に取り込まれたリノール酸は、段階的な不飽和化および脂肪鎖伸長によって、アラキドン酸やドコサテトラエン酸(22:4ω-6)などの脂肪酸に変換される。まず、リノール酸はΔ6不飽和化酵素(fatty acid desaturase 2; FADS2)による脱水素化を介して二重結合が付与されてγ-リノレン酸(18:3ω-6)になる。その後、γ-リノレン酸からΔ6脂肪酸伸長酵素(Δ6 elongase)により脂肪酸が伸長されてジホモ-γ-リノレン酸(20:3ω-6)になる。Δ5不飽和化酵素(fatty acid desaturase 1; FADS1)によりジホモ-γ-リノレン酸からアラキドン酸が産生される[23][24]。Δ5不飽和化酵素やΔ6不飽和化酵素の活性は、栄養、喫煙、老化などの要因により変動し、肥満に関与することが示唆されている[25]
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脳内ではアラキドン酸を含むほとんどの多価不飽和脂肪酸は長鎖脂肪酸CoAリガーゼ(long-chain-fatty-acid-CoA synthase; ACSL)により活性化され、細胞膜のリン脂質にエステル化される他、エネルギー源としてβ酸化により代謝されてアセチルCoAの産生を促す。アラキドン酸の代謝の効率は、細胞膜にある脂肪酸トランスポーターや脂肪酸結合タンパク質(fatty acid-binding protein; FABP)により影響を受けると考えられている[26]。
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== アラキドン酸とは ==
 アラキドン酸は4つのcis[[wj:二重結合|二重結合]]を有する20個の炭素鎖からなる[[wj:脂肪酸|脂肪酸]]である。メチル末端(ωまたはn)から数えて最初の二重結合が6番目と7番目の炭素の間に位置するため、ω-6 (n-6)多価[[wj:不飽和脂肪酸|不飽和脂肪酸]]に含まれ、20:4ω-6と記載される<ref name=Spector2015><pubmed>25339684</pubmed></ref><ref name=Martin2016><pubmed>27142391</pubmed></ref>


 アラキドン酸は、主に[[細胞膜]]の[[リン脂質]]のsn-2位にエステル化されて存在する<ref name=Burke2009><pubmed>19011112</pubmed></ref> 。主に[[グリセロリン脂質]]に[[コリン]]が結合した[[ホスファチジルコリン]]に含まれるが、[[ホスファチジルイノシトール]]など他のグリセロリン脂質にも含まれる<ref name=Farooqui2000><pubmed>10878232</pubmed></ref>
== 2.アラキドン酸の細胞膜への取り込み ==
遊離アラキドン酸はACSLによりアラキドノイルCoA(arachidonoyl-CoA)となって活性化され、アシルトランスフェラーゼ(acyltransferase)により細胞膜のリン脂質のsn-2位に取り込まれる[27]
リン脂質の産生には二つの生化学的経路が関与する[28](図2)。リン脂質はグリセロール-3-リン酸から脂肪酸の付加により新たに合成されるが、この経路は発見者の名にちなんでケネディー経路(Kennedy Pathway)と呼ばれる。この経路では、グリセロール-3-リン酸アシルトランスフェラーゼ(glycerol-3-phosphate acyltransferase; GPAT)がグリセロール-3-リン酸(GP)のsn-1位に脂肪酸をエステル化により付加し、リゾリン脂質の一種であるリゾホスファチジン酸(lysophosphatidic acid)を生成する。続いて、リゾホスファチジン酸アシルトランスフェラーゼ(lysophosphatidic acid acyltransferase; LPAAT)がリゾホスファチジン酸のsn-2位に脂肪酸をエステル化により付加し、ホスファチジン酸(phosphatidic acid)を生成する。ホスファチジン酸はジアシルグリセロール(diacylglycerol; DAG)に変換され、トリアシルグリセロール(triglyceride)、ホスファチジルコリン(phosphatidylcholine; PC)、ホスファチジルエタノラミン(phosphatidylethanolamine; PE)、ホスファチジルセリン(phosphatidylserine; PS)が産生される。また、ホスファチジン酸はシチジン二リン酸ジアシルグリセロール(cytidine diphosphate-DAG; CDP-DAG)にも変換され、ホスファチジルイノシトール(phosphatidylinositol; PI)、ホスファチジルセリン(phosphatidylserine; PS)、ホスファチジルグリセロール(phosphatidylglycerol; PG)、カルジオリピン(cardiolipin; CL)が産生される。
加えて、一度生成されたリン脂質では、sn-2位に含まれる脂肪酸が代謝回転している。この代謝回路を発見者の名にちなんでランズ回路(Lands Cycle)と称する。ランズ回路では、PLA2によりsn-2位の脂肪酸が遊離し、リゾリン脂質が生成される。リゾリン脂質アシルトランスフェラーゼは、生成されたリゾリン脂質のsn-2位に脂肪酸をエステル化により付加し、その結果、リゾリン脂質はリン脂質に戻る。ランズ回路を担うリゾリン脂質アシルトランスフェラーゼ(lysophospholipid acyltransferase; LPLAT)には数多くのアイソフォームが存在し、それぞれ基質とするリゾリン脂質や脂肪酸の種類に特異性がある[28]。現在、遺伝子欠損マウスを用いた解析が精力的に進められている。例えばLPCAT3 (lysophosphatidylcholine acyltransferase 3)の欠損では、ランズ回路によるホスファチジルコリンへのアラキドン酸の再取り込みが障害され、細胞膜中のアラキドン酸の含有量が大きく減少することが示された[29]。リゾリン脂質アシルトランスフェラーゼの各アイソフォームは、基質特異性に加え、特異的な細胞内局在や発現分布を取り、その結果、細胞膜のリン脂質の非対称性や多様性が生まれると考えられている[30]。


 アラキドン酸は、刺激に応じて[[ホスホリパーゼA2]](phospholipase A2; PLA2)の酵素活性により細胞膜から遊離する他<ref name=Shimizu2006><pubmed>16754327</pubmed></ref><ref name=Murakami2017><pubmed>29129849</pubmed></ref> 、[[エンドカンナビノイド]]と称する[[2-アラキドノイルグリセロール]] (2-AG)や[[アナンダマイド]](anandamide; arachidonoylethanolamide)の構成成分として細胞膜から遊離する<ref name=DiMarzo2015><pubmed>25524120</pubmed></ref><ref name=Wang2009><pubmed>19126434</pubmed></ref>
== 3.アラキドン酸の細胞膜からの遊離 ==
細胞が成長因子、ホルモン、サイトカインなど様々な細胞外刺激に曝されると遊離アラキドン酸が産生される[31]。遊離アラキドン酸の産生には、PLA2による細胞膜からのアラキドン酸の遊離と、アラキドン酸を構造に含むエンドカンナビノイドの代謝による遊離アラキドン酸の産生といった、少なくとも2種類のメカニズムが存在する(図3)。しかし、いずれの経路が働くかは脳領域や細胞種、刺激によって異なる可能性があるが、実態は不明である。各経路の機能的意義にも関わる問題であり、今後精査が必要である。細胞膜からの放出後は、遊離アラキドン酸の90%以上は直ちにACSLを介してアラキドノイルCoA(arachidonoyl-CoA)となり活性化され、リゾリン脂質アシルトランスフェラーゼにより細胞膜のリン脂質のsn-2位に再エステル化されて再利用される[32]。


 エンドカンナビノイドはそれ自体で生理活性を有するが、代謝されて遊離アラキドン酸を産生する<ref name=Blankman2013><pubmed>23512546</pubmed></ref><ref name=Piomelli2014><pubmed>23954677</pubmed></ref>
=== アラキドン酸のPLA2による細胞膜からの遊離 ===
細胞膜のリン脂質のsn-2位に含まれるアラキドン酸がPLA2によって遊離することは古くより知られてきた[3][5][6]。PLA2は分泌型PLA2(secretory PLA2; sPLA2)、細胞質型PLA2(cytosolic PLA2; cPLA2)、Ca2+非依存型PLA2([[Ca2+]]-independent PLA2; iPLA2)に大別される。各グループには異なる遺伝子がコードする複数のアイソフォームが存在し、制御機構や脂質選択性が異なる[6]。cPLA2αを含むcPLA2の多くはその活性化に細胞内Ca2+濃度の上昇を必要とする。アラキドン酸の細胞膜からの遊離にはcPLA2とsPLA2が関与し、iPLA2は脂質リモデリングを司るランズ回路に関与すると考えられている[3][6]。実際cPLA2α欠損マウスのマクロファージや消化管では、細菌内毒素LPSによるアラキドン酸の遊離が消失していた[33][34]。また、マクロファージ細胞株では、脂質メディエイターの血小板活性化因子(platelet activating factor; PAF)によるアラキドン酸遊離がcPLA2阻害薬MAFPとsPLA2阻害薬diC6SNPEにより抑制された[35]。
神経活動依存的にPLA2を介するアラキドン酸遊離が誘導されることも示唆されている。[14C]標識アラキドン酸を用いた実験では、ラットの大脳皮質や線条体でのアラキドン酸の取り込みがドパミンD2受容体のアゴニスト投与により亢進する [36]。また、[3H]標識アラキドン酸を用いた実験では、線条体の初代培養神経細胞におけるアラキドン酸の遊離がNMDA型グルタミン酸受容体の活性化により促進すること[37]、その促進がPLA2を阻害するmepacrine(quinacrine)により阻害されることが示された[38]。さらに、小脳プルキンエ細胞のシナプス長期抑制(long-term depression; LTD)はcPLA2α欠損マウスで消失し、この異常がアラキドン酸やその生理活性代謝物であるプロスタグランジン(prostaglandin; PG)D2・PGE2の補充により回復することも示されている[39]。
 
=== エンドカナビノイドの代謝による遊離アラキドン酸の産生 ===
近年、脳、肝臓、肺では、LPSの全身性投与による遊離アラキドン酸の上昇はcPLA2α欠損マウスでも大きな影響を受けず、モノアシルグリセロールリパーゼ(monoacylglycerol lipase; MGL)の遺伝子欠損マウスや阻害薬投与により消失することも示された[33]。この結果は、これらの臓器では主にエンドカナビノイドの一種である2-AGがMGLにより代謝されて遊離アラキドン酸を生ずることを示唆する。2-AGはシナプス活動に伴う細胞内のCa2+濃度上昇によりシナプス後部で産生され、シナプス前部のカンナビノイド受容体CB1に作用して、逆行性にシナプス伝達を抑制する[40]。2-AGは、主にsn-2位にアラキドン酸を含むホスファチジルイノシトール(phosphatidylinositol)がホスホリパーゼC(phospholipase C; PLC)によりジアシルグリセロール(diacylglycerol; DAG)に代謝され、さらにDAGがジアシルグリセロールリパーゼ(diacylglycerol lipase; DGL)により代謝されて生ずると考えられている[7][8][9][10]。遊離アラキドン酸はもう一つのエンドカンナビノイドであるアナンダマイド(anandamide; arachidonoylethanolamide)からも産生される。アナンダマイドは、主にsn-2位にアラキドン酸を含むホスファチジルエタノラミンがN-アシルトランスフェラーゼによりN-アラキドノイルホスファチジルエタノラミン(N-arachidonoyl phosphatidylethanolamine)に代謝され、さらにホスホリパーゼD(phospholipase D)により代謝されて生ずると考えられている。アナンダマイドは脂肪酸アミド加水分解酵素(fatty acid amide hydrolase; FAAH)によって代謝されて遊離アラキドン酸を生ずる[7][8][9][10]。エンドカンナビノイドの産生・作用については、脳科学辞典「エンドカナビノイド」をご参照いただきたい。
 
=== 遊離アラキドン酸の働き ===
遊離アラキドン酸は、後述するアラキドン酸カスケードにより産生される生理活性脂質と変換されて機能を発揮する。遊離アラキドン酸そのものも神経突起伸長[41]、シナプス可塑性[42][43]、細胞内Ca2+濃度上昇[44]、多様なイオンチャネルの活性調節[45]に関わることが示唆されてきたが、いずれも外来性のアラキドン酸の効果を調べた実験に留まっている。アラキドン酸カスケードの関与も検討しておらず、観察された作用がアラキドン酸によるものか、あるいは、その生理活性代謝物によるものかは定かではない。統合失調症など精神疾患患者の血液における遊離アラキドン酸の濃度の異常も報告されているが、病態との関連は不明である[46][47][48]


 遊離アラキドン酸の大半は細胞膜のリン脂質に再度取り込まれるため、その濃度は低く維持されている<ref name=Chilton1996><pubmed>8555241</pubmed></ref> 。遊離アラキドン酸は[[プロスタノイド]]や[[ロイコトリエン]]など多様な[[生理活性脂質]]に変換され、[[摂食]]、[[睡眠]]・[[覚醒]]、脳血流など生理的な脳機能の他、疾病時の[[発熱]]や[[内分泌]]応答、[[疼痛]]、[[てんかん]]、[[脳虚血]][[ストレス]]、神経・[[精神疾患]]など様々な病態にも関与する<ref name=Bosetti2007><pubmed>17403135</pubmed></ref><ref name=Samuelsson2012><pubmed>22318727</pubmed></ref><ref name=Vane1998><pubmed>9597150</pubmed></ref><ref name=Narumiya2007><pubmed>24367153</pubmed></ref><ref name=Funk2001><pubmed>11729303</pubmed></ref><ref name=Furuyashiki2011><pubmed>21116297</pubmed></ref><ref name=Back2014><pubmed>24588652</pubmed></ref>
== 4.アラキドン酸カスケード ==
細胞膜から遊離したアラキドン酸は、シクロオキシゲナーゼ(cyclooxygenase; COX)、リポキシゲナーゼ(lipoxygenase; LOX)、シトクロム(cytochrome)P-450ファミリーに属するエポキシゲナーゼ(epoxygenase; EOX)のいずれかを律速酵素とする三つの経路により代謝され、特異的な作用を持った生理活性脂質を生ずる[12][13][14][15][16][17]。これらの生理活性脂質はアラキドン酸由来の20個の炭素鎖を持つことから、ギリシャ語で20を意味するeicosaにちなんで、エイコサノイド(eicosanoid)と呼ばれる[16]。


[[ファイル:Furuyashiki Fig 1.png|サムネイル|'''図1 アラキドン酸のリノール酸からの生合成経路''']]
=== シクロオキシゲナーゼ(COX)経路 ===
== 摂取・生合成・代謝 ==
COX経路では、遊離アラキドン酸はCOXによりプロスタグランジン(prostaglandin; PG)G2、さらにPGH2に変換される[12][13][14][15][16][17]。PGH2はPGD合成酵素、PGE合成酵素、PGF合成酵素、PGI合成酵素、トロンボキサンA合成酵素を介してPGD2、PGE2、PGF2α、PGI2、thromboxane A2といったプロスタノイドに変換され、それぞれDP、EP、FP、IP、TPと呼ばれる選択的なGタンパク質共役型受容体に結合して作用を発揮する。プロスタノイドは、循環器・消化器・骨の恒常性維持、生殖器の機能、局所炎症に伴う血管透過性亢進、細胞性免疫応答など全身の様々な機能を担う。特に脳との関連では、摂食、睡眠・覚醒、脳血流など生理的な脳機能の他、疾病時の発熱や内分泌応答、疼痛、てんかん、脳虚血、ストレス、神経・精神疾患など様々な病態に関わる[15][17]。プロスタノイドの生合成や作用については、脳科学辞典「プロスタグランジン」もご参照いただきたい。
 アラキドン酸は、肉、卵、魚介類などの食品から得られ、細胞内のリン脂質に取り込まれ、様々な生体膜の合成に使用される<ref name=Abedi2014><pubmed>25473503</pubmed></ref> 。[[ラット]]を用いた実験では、離乳後3〜4カ月の間ω-6 多価不飽和脂肪酸を欠乏させると、脳内のアラキドン酸含有量が約30%減少することが示されている<ref name=Igarashi2009><pubmed>19073280</pubmed></ref> 。成人では、脳で代謝されるアラキドン酸は[[wj:血漿|血漿]]から補われ、脳内のアラキドン酸の含有量は一定に保たれている。ヒトの[[PETイメージング]]により、脳内へ取り込まれる血漿中のアラキドン酸は約18mg/日、脳内におけるアラキドン酸の半減期は約147日と推定されている<ref name=Rapoport2007><pubmed>18060754</pubmed></ref><ref name=Rapoport2008><pubmed>19022981</pubmed></ref> 。


 アラキドン酸は、18個の炭素鎖からなり2つのcis二重結合を含むω-6多価不飽和脂肪酸の一種である[[リノール酸]](18:2ω-6)からも産生される('''図1''')。リノール酸は[[必須脂肪酸]]であり、ナッツなどの種実類や植物油に豊富に含まれる<ref name=Abedi2014><pubmed>25473503</pubmed></ref> 。体内に取り込まれたリノール酸は、段階的な不飽和化および脂肪鎖伸長によって、アラキドン酸や[[ドコサテトラエン酸]](22:4ω-6)などの脂肪酸に変換される。
=== リポキシゲナーゼ(LOX)経路 ===
LOX経路では、遊離アラキドン酸は基質特異性の異なるLOXにより複数のヒドロペルオキシエイコサテトラエン酸(Hydroperoxyeicosatetraenoic acid; HpETE)に変換され、さらに酵素的・非酵素的な反応を介してロイコトリエン(leukotriene)やヒドロキシエイコサテトラエン酸(Hydroxyeicosatetraenoic acid; HETE)などの多様な生理活性脂質に変換される[16][18][49]。主には12-LOXや15-LOXを介して8-HpETE、12-HpETE、15-HpETEが産生され、5-LOXと5-lipoxygenase-activating protein (FLAP)を介して5-HpETEが産生される。5-HpETEは速やかに脱水反応によりLTA4となり、LTA4はLTA4加水分解酵素(LTA4 hydrolase)により速やかにLTB4を生ずるか、LTC4合成酵素(LTC4 synthase)によりLTC4を生ずる。LTC4はさらに[[LTD]]4、LTE4になる。LTA4を産生する酵素を持たない細胞でも、近傍の細胞からLTA4の供給を受けて、LTC4を産生する場合がある。この現象を細胞間生合成経路(transcellular biosynthesis)と呼ぶ。LTA4・LTB4とLTC4・LTD4・LTE4は、システイン残基の有無により構造が大きく異なることから、作用する受容体も異なる。BLT1とBLT2はLTA4・LTB4をリガンドとするGタンパク質共役型受容体として同定された。しかし、BLT1の親和性がBLT2に比してはるかに高く、BLT2には親和性のはるかに高い12-hydroxyheptadecatrienoic acid (12-HHT)というリガンドが存在する[50]。LTC4・LTD4・LTE4からなるシスティニルロイコトリエン(cysteinyl leukotrienes; Cys-LT)は主にCysLT受容体のI型(CysLT1R)とII型(CysLT2R)に結合して作用を発揮する。ロイコトリエンは、好中球の走化性・凝集・細胞接着・脱顆粒化、平滑筋収縮、血管の透過性や収縮の調節、粘液分泌の増強、免疫制御、炎症性疼痛、喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎、嚢胞性線維症、慢性閉塞性肺疾患、糸球体腎炎、麻痺性関節炎、乾癬、炎症性腸疾患、間質性肺疾患などの様々な生理的機能や疾患に関与する。また、ロイコトリエンは、脳損傷、多発性硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン舞踏病、てんかん、うつ、加齢など多様な脳疾患との関連が示唆されている[49]。ロイコトリエンの生合成や作用については、他の総説もご参照いただきたい[16][18][49]


 まず、リノール酸は[[Δ6不飽和化酵素]](fatty acid desaturase 2; FADS2)による[[wj:脱水素化|脱水素化]]を介して二重結合が付与されて[[γ-リノレン酸]](18:3ω-6)になる。その後、γ-リノレン酸から[[Δ6脂肪酸伸長酵素]](Δ6 elongase)により脂肪酸が伸長されて[[ジホモ-γ-リノレン酸]](20:3ω-6)になる。[[Δ5不飽和化酵素]](fatty acid desaturase 1; FADS1)によりジホモ-γ-リノレン酸からアラキドン酸が産生される<ref name=Guillou2010><pubmed>20018209</pubmed></ref><ref name=Wiktorowska-Owczarek2015><pubmed>26771963</pubmed></ref> 。Δ5不飽和化酵素やΔ6不飽和化酵素の活性は、栄養、喫煙、老化などの要因により変動し、肥満に関与することが示唆されている<ref name=Warensjö2006><pubmed>16487913</pubmed></ref> 。
=== エポキシゲナーゼ(EOX)経路 ===
EOX経路では、遊離アラキドン酸は基質特異性の異なるEOXにより複数のHETEやエポキシエイコサトリエン酸(Epoxyeicosatrienoic acid; EET)に変換され、さらにEETはエポキシド加水分解酵素(epoxide hydrolase; EH)により多様なジヒドロキシエイコサトリエン酸(dihydroxyeicosatrienoic acid; DHET)に変換される[51][52]。EETは、血管拡張、血管新生制御、抗炎症作用、さらに虚血再灌流への保護作用を有することが報告されている。しかしこれら脂質の受容体は確定しておらず、その作用機序には不明な点が多い。脳機能との関連では、ラットのひげ刺激に伴う感覚野での機能性充血がEOXの二つの異なる阻害薬であるMS-PPOHとmiconazoleにより阻害される [53]。一方、神経細胞の過興奮に続く抑制が次第に広がるcortical spreading depressionの病態のモデルとして、アストロサイトでのCa2+上昇による大脳皮質の脳血管収縮の研究が行われており、この脳血管収縮がPLA2を阻害するMAFPや、血管収縮活性を持つ20-HETEの生合成酵素であるEOXの一種CYP4Aを阻害するHET0016の処置により消失することが示されている[54]。これらの研究は、神経活動に伴う脳血管制御へのEOX代謝物の関与を示唆するが、いずれも薬理学的な解析に留まっており、受容体同定を含めた作用機序の解明が不可欠である。


 脳内ではアラキドン酸を含むほとんどの多価不飽和脂肪酸は[[長鎖脂肪酸CoAリガーゼ]](long-chain-fatty-acid-CoA synthase; ACSL)により活性化され、細胞膜のリン脂質にエステル化される他、エネルギー源として[[β酸化]]により代謝されて[[アセチルCoA]]の産生を促す。アラキドン酸の代謝の効率は、細胞膜にある[[脂肪酸トランスポーター]]や[[脂肪酸結合タンパク質]](fatty acid-binding protein; FABP)により影響を受けると考えられている<ref name=Bazinet2014><pubmed>25387473</pubmed></ref> 。
== 5.参考文献 ==
1. Spector AA, Kim HY
Discovery of essential fatty acids.
J Lipid Res. 2015 Jan;56(1):11-21.
PMID: 25339684


[[ファイル:Furuyashiki Fig 2.png|サムネイル|'''図2 遊離アラキドン酸のリン脂質への取り込み'''<br>ケネディー経路(上)とランズ回路(下)を示す。<br>PC, ホスファチジルコリン; PE, ホスファチジルエタノールアミン; PS, ホスファチジルセリン; PI, ホスファチジルイノシトール; PG, ホスファチジルグリセロール。]]
2. Martin SA, Brash [[AR]], Murphy RC
== 細胞膜への取り込み ==
The discovery and early structural studies of arachidonic acid.
 遊離アラキドン酸はACSLにより[[アラキドノイルCoA]](arachidonoyl-CoA)となって活性化され、[[アシルトランスフェラーゼ]](acyltransferase)により細胞膜のリン脂質のsn-2位に取り込まれる<ref name=Pérez-Chacón2009><pubmed>19715771</pubmed></ref> 。
J Lipid Res. 2016 Jul;57(7):1126-32.
PMID: 27142391


 リン脂質の産生には二つの生化学的経路が関与する<ref name=Shindou2009><pubmed>18718904</pubmed></ref> ('''図2''')。
3. Burke JE, Dennis EA
Phospholipase A2 structure/function, mechanism, and signaling.
J Lipid Res. 2009 Apr;50 Suppl:S237-42.
PMID: 19011112


=== ケネディー経路 ===
4. Farooqui AA, Horrocks LA, Farooqui T
 リン脂質は[[グリセロール-3-リン酸]]から脂肪酸の付加により新たに合成されるが、この経路は発見者の名にちなんでケネディー経路(Kennedy Pathway)と呼ばれる。
Glycerophospholipids in brain: their metabolism, incorporation into membranes, functions, and involvement in neurological disorders.
Chem Phys Lipids. 2000 Jun;106(1):1-29.
PMID: 10878232


 この経路では、[[グリセロール-3-リン酸アシルトランスフェラーゼ]](glycerol-3-phosphate acyltransferase; GPAT)が[[グリセロール-3-リン酸]](GP)のsn-1位に脂肪酸を[[エステル化]]により付加し、[[リゾリン脂質]]の一種である[[リゾホスファチジン酸]](lysophosphatidic acid)を生成する。続いて、[[リゾホスファチジン酸アシルトランスフェラーゼ]](lysophosphatidic acid acyltransferase; LPAAT)がリゾホスファチジン酸のsn-2位に脂肪酸をエステル化により付加し、[[ホスファチジン酸]](phosphatidic acid)を生成する。ホスファチジン酸は[[ジアシルグリセロール]](diacylglycerol; DAG)に変換され、[[トリアシルグリセロール]](triglyceride)、ホスファチジルコリン(phosphatidylcholine; PC)、[[ホスファチジルエタノラミン]](phosphatidylethanolamine; PE)、[[ホスファチジルセリン]](phosphatidylserine; PS)が産生される。また、ホスファチジン酸は[[シチジン二リン酸ジアシルグリセロール]](cytidine diphosphate-DAG; CDP-DAG)にも変換され、ホスファチジルイノシトール(phosphatidylinositol; PI)、ホスファチジルセリン、[[ホスファチジルグリセロール]](phosphatidylglycerol; PG)、[[カルジオリピン]](cardiolipin; CL)が産生される。
5. Shimizu T, Ohto T, Kita Y
Cytosolic phospholipase A2: biochemical properties and physiological roles.
IUBMB Life. 2006 58(5-6):328-333.
PMID: 16754327


=== ランズ回路 ===
6. Murakami M
 加えて、一度生成されたリン脂質では、sn-2位に含まれる脂肪酸が代謝回転している。この代謝回路を発見者の名にちなんでランズ回路(Lands Cycle)と称する。
Lipoquality control by phospholipase A2 enzymes.
Proc Jpn Acad Ser B. 2017; 93(9):677-702.
PMID: 29129849


 ランズ回路では、PLA2によりsn-2位の脂肪酸が遊離し、リゾリン脂質が生成される。[[リゾリン脂質アシルトランスフェラーゼ]]は、生成されたリゾリン脂質のsn-2位に脂肪酸をエステル化により付加し、その結果、リゾリン脂質はリン脂質に戻る。ランズ回路を担う[[リゾリン脂質アシルトランスフェラーゼ]](lysophospholipid acyltransferase; LPLAT)には数多くのアイソフォームが存在し、それぞれ基質とするリゾリン脂質や脂肪酸の種類に特異性がある<ref name=Shindou2009><pubmed>18718904</pubmed></ref> 。現在、遺伝子欠損マウスを用いた解析が精力的に進められている。例えば[[LPCAT3]] (lysophosphatidylcholine acyltransferase 3)の欠損では、ランズ回路によるホスファチジルコリンへのアラキドン酸の再取り込みが障害され、細胞膜中のアラキドン酸の含有量が大きく減少することが示された<ref name=Hashidate-Yoshida2015><pubmed>25898003</pubmed></ref> 。リゾリン脂質アシルトランスフェラーゼの各アイソフォームは、基質特異性に加え、特異的な細胞内局在や発現分布を取り、その結果、細胞膜のリン脂質の非対称性や多様性が生まれると考えられている<ref name=Hishikawa2008><pubmed>18287005</pubmed></ref> 。
7. Di Marzo V, Stella N, Zimmer A
[[Endocannabinoid]] signalling and the deteriorating brain.
Nat Rev Neurosci. 2015 Jan;16(1):30-42.
PMID: 25524120


== 細胞膜からの遊離 ==
8. Wang J, Ueda N
 細胞が[[成長因子]]、[[ホルモン]]、[[サイトカイン]]など様々な細胞外刺激に曝されると遊離アラキドン酸が産生される<ref name=Harizi2008><pubmed>18774339</pubmed></ref> 。遊離アラキドン酸の産生には、PLA2による細胞膜からのアラキドン酸の遊離と、アラキドン酸を構造に含むエンドカンナビノイドの代謝による遊離アラキドン酸の産生といった、少なくとも2種類のメカニズムが存在する(図3)。しかし、いずれの経路が働くかは脳領域や細胞種、刺激によって異なる可能性があるが、実態は不明である。各経路の機能的意義にも関わる問題であり、今後精査が必要である。
Biology of endocannabinoid synthesis system.
Prostaglandins Other Lipid Mediat. 2009 Sep;89(3-4):112-9.
PMID: 19126434


 細胞膜からの放出後は、遊離アラキドン酸の90%以上は直ちにACSLを介してアラキドノイルCoA(arachidonoyl-CoA)となり活性化され、リゾリン脂質アシルトランスフェラーゼにより細胞膜のリン脂質のsn-2位に再エステル化されて再利用される<ref name=Lobo2007><pubmed>17164224</pubmed></ref> 。
9. Blankman JL, Cravatt BF
Chemical probes of endocannabinoid metabolism.
Pharmacol Rev. 2013 Mar 19;65(2):849-71.
PMID: 23512546


=== アラキドン酸のPLA2による細胞膜からの遊離 ===
10. Piomelli D
 細胞膜のリン脂質のsn-2位に含まれるアラキドン酸がPLA2によって遊離することは古くより知られてきた<ref name=Burke2009><pubmed>19011112</pubmed></ref><ref name=Shimizu2006><pubmed>16754327</pubmed></ref><ref name=Murakami2017><pubmed>29129849</pubmed></ref> 。PLA2は[[分泌型PLA2]](secretory PLA2; sPLA2)、[[細胞質型PLA2]](cytosolic PLA2; cPLA2)、[[Ca2+非依存型PLA2|Ca<sup>2+</sup>非依存型PLA2]](Ca<sup>2+</sup>-independent PLA2; iPLA2)に大別される。各グループには異なる遺伝子がコードする複数のアイソフォームが存在し、制御機構や脂質選択性が異なる<ref name=Murakami2017><pubmed>29129849</pubmed></ref> 。
More surprises lying ahead. The endocannabinoids keep us guessing.
Neuropharmacology. 2014 Jan;76 Pt B:228-34.
PMID: 23954677
 
11. Chilton FH, Fonteh AN, Surette ME, Triggiani M, Winkler JD
Control of arachidonate levels within inflammatory cells.
Biochim Biophys Acta. 1996 Jan 5;1299(1):1-15.
PMID: 8555241
 
12. Bosetti F
Arachidonic acid metabolism in brain physiology and pathology: lessons from genetically altered mouse models.
J Neurochem. 2007 Aug;102(3):577-86. Epub 2007 Apr 2.
PMID: 17403135
 
13. Samuelsson B
Role of basic science in the development of new medicines: examples from the eicosanoid field.
J Biol Chem. 2012 Mar 23;287(13):10070-80.
PMID: 22318727
 
14. Vane JR, Bakhle YS, Botting RM
Cyclooxygenases 1 and 2.
Annu Rev Pharmacol Toxicol. 1998;38:97-120.
PMID: 9597150
 
15. Narumiya S
Physiology and pathophysiology of prostanoid receptors.
Proc Jpn Acad Ser B Phys Biol Sci. 2007 Dec;83(9-10):296-319.
PMID: 24367153


 cPLA2αを含むcPLA2の多くはその活性化に細胞内Ca<sup>2+</sup>濃度の上昇を必要とする。アラキドン酸の細胞膜からの遊離にはcPLA2とsPLA2が関与し、iPLA2は脂質リモデリングを司るランズ回路に関与すると考えられている<ref name=Burke2009><pubmed>19011112</pubmed></ref><ref name=Murakami2017><pubmed>29129849</pubmed></ref> 。実際cPLA2α欠損マウスの[[マクロファージ]]や[[消化管]]では、[[wj:細菌|細菌]][[wj:内毒素|内毒素]][[wj:リポポリサッカライド|リポポリサッカライド]]によるアラキドン酸の遊離が消失していた<ref name=Nomura2011><pubmed>22021672</pubmed></ref><ref name=Uozumi1997><pubmed>9403692</pubmed></ref> 。また、マクロファージ細胞株では、脂質メディエイターの[[血小板活性化因子]](platelet activating factor; PAF)によるアラキドン酸遊離がcPLA2阻害薬[[MAFP]]とsPLA2阻害薬[[diC6SNPE]]により抑制された<ref name=Balsinde1996><pubmed>8636097</pubmed></ref> 。
16. Funk CD
Prostaglandins and leukotrienes: advances in eicosanoid biology.
Science. 2001 Nov 30;294(5548):1871-5.
PMID: 11729303


 神経活動依存的にPLA2を介するアラキドン酸遊離が誘導されることも示唆されている。[<sup>14</sup>C]標識アラキドン酸を用いた実験では、ラットの[[大脳皮質]]や[[線条体]]でのアラキドン酸の取り込みが[[ドパミン]][[D2受容体]]の[[アゴニスト]]投与により亢進する<ref name=Basselin2012><pubmed>22178644</pubmed></ref> 。また、[<sup>3</sup>H]標識アラキドン酸を用いた実験では、線条体の[[初代培養]]神経細胞におけるアラキドン酸の遊離が[[NMDA型グルタミン酸受容体]]の活性化により促進すること<ref name=Dumuis1988><pubmed>2847054</pubmed></ref> 、その促進がPLA2を阻害するmepacrine(quinacrine)により阻害されることが示された<ref name=Tapia-Arancibia1992><pubmed>1355446</pubmed></ref> 。さらに、[[小脳]][[プルキンエ細胞]]の[[シナプス]][[長期抑制]](long-term depression; LTD)はcPLA2α欠損マウスで消失し、この異常がアラキドン酸やその生理活性代謝物である[[プロスタグランジンD2]]、[[プロスタグランジンE2|E2]]の補充により回復することも示されている<ref name=Le2010><pubmed>20133605</pubmed></ref> 。
17. Furuyashiki T, Narumiya S
Stress responses: the contribution of prostaglandin E2 and its receptors.
Nat Rev Endocrinol. 2011 Mar;7(3):163-75.
PMID: 21116297


[[ファイル:Furuyashiki Fig 3.png|サムネイル| '''図3 エンドカナビノイドの代謝による遊離アラキドン酸の産生''']]
18. Bäck M, Powell WS, Dahlén SE, Drazen JM, Evans JF, Serhan CN, Shimizu T, Yokomizo T, Rovati GE
=== エンドカナビノイドの代謝による遊離アラキドン酸の産生 ===
Update on leukotriene, lipoxin and oxoeicosanoid receptors: IUPHAR Review 7.
 近年、脳、肝臓、肺では、LPSの全身性投与による遊離アラキドン酸の上昇はcPLA2α欠損マウスでも大きな影響を受けず、[[モノアシルグリセロールリパーゼ]](monoacylglycerol lipase; MGL)の遺伝子欠損マウスや阻害薬投与により消失することも示された<ref name=Nomura2011><pubmed>22021672</pubmed></ref> 。この結果は、これらの臓器では主にエンドカナビノイドの一種である2-AGがMGLにより代謝されて遊離アラキドン酸を生ずることを示唆する。
[[Br]] J Pharmacol. 2014 Aug;171(15):3551-74.
PMID: 24588652


 2-AGはシナプス活動に伴う細胞内のCa<sup>2+</sup>濃度上昇によりシナプス後部で産生され、[[シナプス前部]]の[[カンナビノイド受容体]][[CB1]]に作用して、逆行性にシナプス伝達を抑制する<ref name=Kano2014><pubmed>25169670</pubmed></ref> 。2-AGは、主にsn-2位にアラキドン酸を含むホスファチジルイノシトール(phosphatidylinositol)が[[ホスホリパーゼC]](phospholipase C; PLC)によりジアシルグリセロールに代謝され、さらにDAGが[[ジアシルグリセロールリパーゼ]](diacylglycerol lipase; DGL)により代謝されて生ずると考えられている<ref name=DiMarzo2015><pubmed>25524120</pubmed></ref><ref name=Wang2009><pubmed>19126434</pubmed></ref><ref name=Blankman2013><pubmed>23512546</pubmed></ref><ref name=Piomelli2014><pubmed>23954677</pubmed></ref>('''図3''')
19. Abedi E, Sahari MA
Long-chain polyunsaturated fatty acid sources and evaluation of their nutritional and functional properties.
Food Sci Nutr. 2014 Sep;2(5):443-63.
PMID: 25473503


 遊離アラキドン酸はもう一つのエンドカンナビノイドであるアナンダマイド(anandamide; arachidonoylethanolamide)からも産生される。アナンダマイドは、主にsn-2位にアラキドン酸を含む[[ホスファチジルエタノラミン]]が[[N-アシルトランスフェラーゼ]]により[[N-アラキドノイルホスファチジルエタノラミン]](N-arachidonoyl phosphatidylethanolamine)に代謝され、さらに[[ホスホリパーゼD]](phospholipase D)により代謝されて生ずると考えられている。アナンダマイドは[[脂肪酸アミド加水分解酵素]](fatty acid amide hydrolase; FAAH)によって代謝されて遊離アラキドン酸を生ずる<ref name=DiMarzo2015><pubmed>25524120</pubmed></ref><ref name=Wang2009><pubmed>19126434</pubmed></ref><ref name=Blankman2013><pubmed>23512546</pubmed></ref><ref name=Piomelli2014><pubmed>23954677</pubmed></ref> 。
20. Igarashi M, Gao F, Kim HW, Ma K, Bell JM, Rapoport SI
Dietary n-6 PUFA deprivation for 15 weeks reduces arachidonic acid concentrations while increasing n-3 PUFA concentrations in organs of post-weaning male rats.
Biochim Biophys Acta. 2009 Feb;1791(2):132-9.
PMID: 19073280


 ''エンドカンナビノイドの産生・作用については、[[エンドカナビノイド]]の項目参照。''
21. Rapoport SI, Rao JS, Igarashi M
Brain metabolism of nutritionally essential polyunsaturated fatty acids depends on both the diet and the liver.
Prostaglandins Leukot Essent Fatty Acids. 2007 Nov-Dec;77(5-6):251-61.
PMID: 18060754


== アラキドン酸カスケード ==
22. Rapoport SI
 細胞膜から遊離したアラキドン酸は、[[シクロオキシゲナーゼ]](cyclooxygenase; COX)、[[リポキシゲナーゼ]](lipoxygenase; LOX)、[[シトクロムP-450|シトクロム(cytochrome)P-450]]ファミリーに属する[[エポキシゲナーゼ]](epoxygenase; EOX)のいずれかを[[律速酵素]]とする三つの経路により代謝され、特異的な作用を持った生理活性脂質を生ずる<ref name=Bosetti2007><pubmed>17403135</pubmed></ref><ref name=Samuelsson2012><pubmed>22318727</pubmed></ref><ref name=Vane1998><pubmed>9597150</pubmed></ref><ref name=Narumiya2007><pubmed>24367153</pubmed></ref><ref name=Funk2001><pubmed>11729303</pubmed></ref><ref name=Furuyashiki2011><pubmed>21116297</pubmed></ref> 。これらの生理活性脂質はアラキドン酸由来の20個の炭素鎖を持つことから、ギリシャ語で20を意味するeicosaにちなんで、[[エイコサノイド]](eicosanoid)と呼ばれる<ref name=Funk2001><pubmed>11729303</pubmed></ref> 。
Arachidonic acid and the brain.
J Nutr. 2008 Dec;138(12):2515-20.
PMID: 19022981


=== シクロオキシゲナーゼ経路 ===
23. Guillou H, Zadravec D, Martin PG, Jacobsson A
 シクロオキシゲナーゼ(COX)経路では、遊離アラキドン酸はCOXにより[[プロスタグランジンG2|プロスタグランジン(prostaglandin; PG)G2]]、さらに[[プロスタグランジンH2|PGH2]]に変換される<ref name=Bosetti2007><pubmed>17403135</pubmed></ref><ref name=Samuelsson2012><pubmed>22318727</pubmed></ref><ref name=Vane1998><pubmed>9597150</pubmed></ref><ref name=Narumiya2007><pubmed>24367153</pubmed></ref><ref name=Funk2001><pubmed>11729303</pubmed></ref><ref name=Furuyashiki2011><pubmed>21116297</pubmed></ref> 。PGH2は[[PGD合成酵素]]、[[PGE合成酵素]]、[[PGF合成酵素]]、[[PGI合成酵素]]、[[トロンボキサンA合成酵素]]を介して[[プロスタグランジンD2|PGD2]]、[[プロスタグランジンE2|PGE2]]、[[プロスタグランジンF2α|PGF2α]]、[[プロスタグランジンI2|PGI2]]、[[トロンボキサンA2]]といった[[プロスタノイド]]に変換され、それぞれ[[DP受容体|DP]]、[[EP受容体|EP]]、[[FP受容体|FP]]、[[IP受容体|IP]]、[[TP受容体|TP]]と呼ばれる選択的なGタンパク質共役型受容体に結合して作用を発揮する。
The key roles of elongases and desaturases in mammalian fatty acid metabolism: Insights from transgenic mice.
Prog Lipid Res. 2010 Apr;49(2):186-99.
PMID: 20018209


 プロスタノイドは、[[循環器]]・[[消化器]]・[[骨]]の[[恒常性]]維持、[[生殖器]]の機能、[[局所炎症]]に伴う[[血管透過性]]亢進、[[細胞性免疫]]応答など全身の様々な機能を担う。特に脳との関連では、摂食、睡眠・覚醒、脳血流など生理的な脳機能の他、疾病時の発熱や内分泌応答、疼痛、てんかん、脳虚血、ストレス、神経・精神疾患など様々な病態に関わる<ref name=Narumiya2007><pubmed>24367153</pubmed></ref><ref name=Furuyashiki2011><pubmed>21116297</pubmed></ref> 。
24. Wiktorowska-Owczarek A, Berezińska M, Nowak JZ
PUFAs: Structures, Metabolism and Functions.
Adv Clin Exp Med. 2015 Nov-Dec;24(6):931-41.
PMID: 26771963


 ''プロスタノイドの生合成や作用については、[[プロスタグランジン]]の項目参照。''
25. Warensjö E, Ohrvall M, Vessby B
Fatty acid composition and estimated desaturase activities are associated with obesity and lifestyle variables in men and women.
Nutr Metab Cardiovasc Dis. 2006 Mar;16(2):128-36.
PMID: 16487913


=== リポキシゲナーゼ経路 ===
26. Bazinet RP, Layé S
 リポキシゲナーゼ (LOX)経路では、遊離アラキドン酸は基質特異性の異なるLOXにより複数の[[ヒドロペルオキシエイコサテトラエン酸]](Hydroperoxyeicosatetraenoic acid; HpETE)に変換され、さらに酵素的・非酵素的な反応を介して[[ロイコトリエン]](leukotriene)や[[ヒドロキシエイコサテトラエン酸]](Hydroxyeicosatetraenoic acid; HETE)などの多様な生理活性脂質に変換される<ref name=Funk2001><pubmed>11729303</pubmed></ref><ref name=Back2014><pubmed>24588652</pubmed></ref><ref name=Ghosh2016><pubmed>27542570</pubmed></ref> 。
Polyunsaturated fatty acids and their metabolites in brain function and disease.
Nat Rev Neurosci. 2014 Dec;15(12):771-85
PMID: 25387473


 主には[[12-LOX]]や[[15-LOX]]を介して[[8-HpETE]]、[[12-HpETE]]、[[15-HpETE]]が産生され、[[5-LOX]]と[[5-lipoxygenase-activating protein]] (FLAP)を介して[[5-HpETE]]が産生される。5-HpETEは速やかに脱水反応により[[LTA4]]となり、LTA4は[[LTA4加水分解酵素]](LTA4 hydrolase)により速やかに[[LTB4]]を生ずるか、[[LTC4合成酵素]](LTC4 synthase)により[[LTC4]]を生ずる。LTC4はさらに[[LTD4]]、[[LTE4]]になる。LTA4を産生する酵素を持たない細胞でも、近傍の細胞からLTA4の供給を受けて、LTC4を産生する場合がある。この現象を[[細胞間生合成経路]](transcellular biosynthesis)と呼ぶ。
27. Pérez-Chacón G, Astudillo AM, Balgoma D, Balboa MA, Balsinde J
Control of free arachidonic acid levels by phospholipases A2 and lysophospholipid acyltransferases.
Biochim Biophys Acta. 2009 Dec;1791(12):1103-13.
PMID: 19715771


 LTA4・LTB4とLTC4・LTD4・LTE4は、[[システイン]]残基の有無により構造が大きく異なることから、作用する受容体も異なる。[[BLT1受容体|BLT1]]と[[BLT2受容体|BLT2]]はLTA4・LTB4をリガンドとするGタンパク質共役型受容体として同定された。しかし、BLT1の親和性がBLT2に比してはるかに高く、BLT2には親和性のはるかに高い[[12-ヒドロキシヘプタデカトリエン酸]] (12-hydroxyheptadecatrienoic acid; 12-HHT)というリガンドが存在する<ref name=Yokomizo2015><pubmed>25480980</pubmed></ref> 。
28. Shindou H, Shimizu T
Acyl-CoA:lysophospholipid acyltransferases.
J Biol Chem. 2009 Jan 2;284(1):1-5.
PMID: 18718904


 LTC4・LTD4・LTE4からなる[[システィニルロイコトリエン]](cysteinyl leukotrienes; Cys-LT)は主に[[CysLT受容体]]の[[CysLT受容体I型|I型]]([[CysLT1R]])と[[CysLT受容体II型|II型]]([[CysLT2R]])に結合して作用を発揮する。
29. Hashidate-Yoshida T, Harayama T, Hishikawa D, Morimoto R, Hamano F, Tokuoka SM, Eto M, Tamura-Nakano M, Yanobu-Takanashi R, Mukumoto Y, Kiyonari H, Okamura T, Kita Y, Shindou H, Shimizu T
Fatty acid remodeling by LPCAT3 enriches arachidonate in phospholipid membranes and regulates triglyceride transport.
Elife. 2015 Apr 21;4.
PMID: 25898003


 ロイコトリエンは、[[好中球]]の[[走化性]]・[[凝集]]・[[細胞接着]]・[[脱顆粒化]]、平滑筋収縮、血管の透過性や収縮の調節、粘液分泌の増強、[[免疫制御]]、[[炎症性疼痛]]、[[喘息]]、[[アレルギー性鼻炎]]、[[アレルギー性結膜炎]]、[[アトピー性皮膚炎]]、[[嚢胞性線維症]]、[[慢性閉塞性肺疾患]]、[[糸球体腎炎]]、[[麻痺性関節炎]]、[[乾癬]]、[[炎症性腸疾患]]、[[間質性肺疾患]]などの様々な生理的機能や疾患に関与する。また、ロイコトリエンは、脳損傷、[[多発性硬化症]]、[[アルツハイマー病]]、[[パーキンソン病]]、[[ハンチントン舞踏病]]、てんかん、[[うつ]]、加齢など多様な脳疾患との関連が示唆されている<ref name=Ghosh2016><pubmed>27542570</pubmed></ref> 。
30. Hishikawa D, Shindou H, Kobayashi S, Nakanishi H, Taguchi R, Shimizu T
Discovery of a lysophospholipid acyltransferase family essential for membrane asymmetry and diversity.
Proc Natl Acad Sci U S A. 2008 Feb 26;105(8):2830-5.
PMID: 18287005


 ロイコトリエンの生合成や作用については、他の総説もご参照いただきたい<ref name=Funk2001><pubmed>11729303</pubmed></ref><ref name=Back2014><pubmed>24588652</pubmed></ref><ref name=Ghosh2016><pubmed>27542570</pubmed></ref> 。
31. Harizi H, Corcuff JB, Gualde N
Arachidonic-acid-derived eicosanoids: roles in biology and immunopathology.
Trends Mol Med. 2008 Oct;14(10):461-9.
PMID: 18774339


=== エポキシゲナーゼ経路 ===
32. Lobo S, Wiczer BM, Smith AJ, Hall AM, Bernlohr DA
 エポキシゲナーゼ(EOX)経路では、遊離アラキドン酸は基質特異性の異なるEOXにより複数の[[HETE]]や[[エポキシエイコサトリエン酸]](Epoxyeicosatrienoic acid; EET)に変換され、さらにEETは[[エポキシド加水分解酵素]](epoxide hydrolase; EH)により多様な[[ジヒドロキシエイコサトリエン酸]](dihydroxyeicosatrienoic acid; DHET)に変換される<ref name=Spector2015b><pubmed>25093613</pubmed></ref><ref name=Arita2012><pubmed>22923733</pubmed></ref> 。
Fatty acid metabolism in adipocytes: functional analysis of fatty acid transport proteins 1 and 4.
J Lipid Res. 2007 Mar;48(3):609-20.
PMID: 17164224


 EETは、血管拡張、[[血管新生]]制御、[[抗炎症作用]]、さらに虚血再灌流への保護作用を有することが報告されている。しかしこれら脂質の受容体は確定しておらず、その作用機序には不明な点が多い。
33. Nomura DK, Morrison BE, Blankman JL, Long JZ, Kinsey SG, Marcondes MC, Ward AM, Hahn YK, Lichtman AH, Conti B, Cravatt BF
Endocannabinoid hydrolysis generates brain prostaglandins that promote neuroinflammation.
Science. 2011 Nov 11;334(6057):809-13.
PMID: 22021672


 脳機能との関連では、ラットの[[洞毛|ひげ]]刺激に伴う[[感覚野]]での機能性充血がEOXの二つの異なる阻害薬である[[MS-PPOH]]と[[ミコナゾール]]により阻害される<ref name=Peng2002><pubmed>12384482</pubmed></ref> 。一方、神経細胞の[[過興奮]]に続く抑制が次第に広がる[[cortical spreading depression]]の病態のモデルとして、[[アストロサイト]]でのCa<sup>2+</sup>上昇による大脳皮質の脳血管収縮の研究が行われており、この脳血管収縮がPLA2を阻害する[[MAFP]]や、血管収縮活性を持つ[[20-HETE]]の生合成酵素であるEOXの一種[[CYP4A]]を阻害する[[HET0016]]の処置により消失することが示されている<ref name=Mulligan2004><pubmed>15356633</pubmed></ref> 。
34. Uozumi N, Kume K, Nagase T, Nakatani N, Ishii S, Tashiro F, Komagata Y, Maki K, Ikuta K, Ouchi Y, Miyazaki J, Shimizu T
Role of cytosolic phospholipase A2 in allergic response and parturition.
Nature. 1997 Dec 11;390(6660):618-22.
PMID: 9403692


 これらの研究は、神経活動に伴う脳血管制御へのEOX代謝物の関与を示唆するが、いずれも薬理学的な解析に留まっており、受容体同定を含めた作用機序の解明が不可欠である。
35. Balsinde J, Dennis EA
Distinct roles in signal transduction for each of the phospholipase A2 enzymes present in [[P38]]8[[D1]] macrophages.
J Biol Chem. 1996 Mar 22;271(12):6758-65.
PMID: 8636097


== 遊離アラキドン酸の働きと脳機能・病態への関与 ==
36. Basselin M, Ramadan E, Rapoport SI
 遊離アラキドン酸は主に、前述のアラキドン酸カスケードにより産生される生理活性脂質であるエイコサノイドに変換されて機能を発揮する。エイコサノイドと脳機能・病態との関連については「[[アラキドン酸#アラキドン酸カスケード|アラキドン酸カスケード]]」の各項目で述べた。しかし主に培養細胞の実験から遊離アラキドン酸がイオンチャネルの活性を直接制御することも示唆されている。
Imaging brain signal transduction and metabolism via arachidonic and docosahexaenoic acid in animals and humans.
Brain Res Bull. 2012 Feb 10;87(2-3):154-71.
PMID: 22178644


=== 遊離アラキドン酸のカリウムチャネルへの作用 ===
37. Dumuis A, Sebben M, Haynes L, Pin JP, Bockaert J
 [[アフリカツメガエル]]卵母細胞での強制発現系では、遊離アラキドン酸やその非代謝型類似体である5,8,11,14-eicosatetraynoic acid (ETYA)が[[電位依存性カリウムチャネル|電位依存性K<sup>+</sup>チャネル]]の[[Kv4]]ファミリーに属する[[Kv4.1]]、[[Kv4.2]]を選択的に抑制する<ref name=Villarroel1996><pubmed>8786428</pubmed></ref> 。
NMDA receptors activate the arachidonic acid cascade system in striatal neurons.
Nature. 1988 Nov 3;336(6194):68-70.
PMID: 2847054


 ラット肺動脈筋細胞では、遊離アラキドン酸が[[遅延性整流性K+電流|遅延性整流性K<sup>+</sup>電流]]の減衰を促進する<ref name=Smirnov1996><pubmed>8925564</pubmed></ref> 。
38. Tapia-Arancibia L, Rage F, Récasens M, Pin JP
NMDA receptor activation stimulates phospholipase A2 and somatostatin release from rat cortical neurons in primary cultures.
Eur J Pharmacol. 1992 Mar 12;225(3):253-62.
PMID: 1355446


 ラット心房細胞では、遊離アラキドン酸を含むいくつかの不飽和脂肪酸が[[Gタンパク質活性化K+チャネル|Gタンパク質活性化K<sup>+</sup>チャネル]]の[[ATP]]による増強作用を抑制する<ref name=Kim2000><pubmed>10694258</pubmed></ref> 。
39. Le TD, Shirai Y, Okamoto T, Tatsukawa T, Nagao S, Shimizu T, Ito M
Lipid signaling in cytosolic phospholipase A2alpha-cyclooxygenase-2 cascade mediates cerebellar long-term depression and motor learning.
Proc Natl Acad Sci U S A. 2010 Feb 16;107(7):3198-203.
PMID: 20133605


 遊離アラキドン酸によるK<sup>+</sup>チャネルの抑制作用はCOX・LOX等の阻害薬により阻害されないことから、遊離アラキドン酸の直接作用である可能性が示唆される。
40. Kano M
Control of synaptic function by endocannabinoid-mediated retrograde signaling.
Proc Jpn Acad Ser B Phys Biol Sci. 2014;90(7):235-50.
PMID: 25169670


 COS細胞に強制発現した[[two-pore domain K+チャネル|two-pore domain K<sup>+</sup>チャネル]]である[[TWIK-related arachidonic acid-stimulated K+ channel|TWIK-related arachidonic acid-stimulated K<sup>+</sup> channel]] ([[TRAAK]])は遊離アラキドン酸を含むいくつかの不飽和脂肪酸により活性化されることも示されているが、遊離アラキドン酸の直接作用かは定かではない<ref name=Fink1998><pubmed>9628867</pubmed></ref> 。
41. Darios F, Davletov B
Omega-3 and omega-6 fatty acids stimulate cell membrane expansion by acting on syntaxin 3.
Nature. 2006 Apr 6;440(7085):813-7.
PMID: 16598260


=== その他のイオンチャネルへの作用 ===
42. Williams JH, Errington ML, Lynch MA, Bliss TV
 遊離アラキドン酸はK<sup>+</sup>チャネル以外のイオンチャネルにも作用することが報告されている。
Arachidonic acid induces a long-term activity-dependent enhancement of synaptic transmission in the hippocampus.
Nature. 1989 Oct 26;341(6244):739-42.
PMID: 2571939


 HEK-293細胞に過剰発現した[[骨格筋]]由来の[[電位依存性ナトリウムチャネル|電位依存性Na+チャネル]]は遊離アラキドン酸により抑制される<ref name=Bendahhou1997><pubmed>9124303</pubmed></ref> 。
43. Bolshakov VY, Siegelbaum SA
Hippocampal long-term depression: arachidonic acid as a potential retrograde messenger.
Neuropharmacology. 1995 Nov;34(11):1581-7.
PMID: 8606806


 HEK-293細胞に過剰発現した[[T型カルシウムチャネル|T型Ca<sup>2+</sup>チャネル]]の電位依存性は遊離アラキドン酸により修飾される<ref name=Zhang2000><pubmed>10644598</pubmed></ref> 。この作用の一部はEOXの生理活性代謝物である8,9-epoxyeicosatrienoic acid (8,9-EET)を介するが、COX・LOX・EOXの阻害薬で阻害されない作用もあることから、遊離アラキドン酸の直接作用の可能性もある。
44. Mignen O, Thompson JL, Shuttleworth TJ
Both Orai1 and Orai3 are essential components of the arachidonate-regulated Ca2+-selective (ARC) channels.
J Physiol. 2008 Jan 1;586(1):185-95.
PMID: 17991693


 また、HEK-293などの培養細胞では、遊離アラキドン酸が細胞外からのCa<sup>2+</sup>流入を誘導することが知られる。この作用には[[ストア作動性カルシウム流入|ストア作動性Ca<sup>2+</sup>流入]]に関わる[[STIM]]や[[Orai1]]/[[Orai3|3]]が関与するが、ストア作動性Ca<sup>2+</sup>流入とはメカニズムが異なることが示唆されている<ref name=Mignen2008><pubmed>17991693</pubmed></ref> 。しかしこの作用が遊離アラキドン酸の直接作用によるものかは不明である。
45. Meves H
Arachidonic acid and ion channels: an update.
Br J Pharmacol. 2008 Sep;155(1):4-16.
PMID: 18552881


=== 遊離アラキドン酸の脳機能・病態への関与 ===
46. McNamara RK, Jandacek R, Rider T, Tso P, Hahn CG, Richtand NM, Stanford KE
 遊離アラキドン酸は神経(様)細胞における突起伸展、イオンチャネル制御、シナプス可塑性に関与することが報告されてきた。
Abnormalities in the fatty acid composition of the postmortem orbitofrontal cortex of schizophrenic patients: gender differences and partial normalization with antipsychotic medications.
Schizophr Res. 2007 Mar;91(1-3):37-50.
PMID: 17236749


 例えば、遊離アラキドン酸は[[syntaxin 3]]を介した[[SNARE複合体]]の形成、さらにsyntaxin 3依存的な[[PC12細胞]]の突起伸展を促進する<ref name=Darios2006><pubmed>16598260</pubmed></ref> 。ラットの[[交感神経]][[節後神経細胞]]では[[ムスカリン受容体]]作動薬[[Oxo-M]]が[[N型カルシウムチャネル|N型Ca<sup>2+</sup>チャネル]]の電位依存性を変化させる。この作用はPLA2阻害薬により阻害され、遊離アラキドン酸により模倣される<ref name=Liu2003><pubmed>12496347</pubmed></ref> 。
47. Sethom MM, Fares S, Bouaziz N, Melki W, Jemaa R, Feki M, Hechmi Z, Kaabachi N
Polyunsaturated fatty acids deficits are associated with psychotic state and negative symptoms in patients with schizophrenia.
Prostaglandins Leukot Essent Fatty Acids. 2010 Sep;83(3):131-6.
PMID: 20667702


 海馬の神経細胞では遊離アラキドン酸やその非代謝型類似体ETYAが電位依存性K<sup>+</sup>チャネルを抑制し、興奮性シナプス入力を増強する<ref name=Keros1997><pubmed>9133373</pubmed></ref> 。
48. Kim HW, Rapoport SI, Rao JS
Altered arachidonic acid cascade enzymes in postmortem brain from bipolar disorder patients.
Mol Psychiatry. 2011 Apr;16(4):419-28.
PMID: 20038946


 また、海馬の[[シナプス長期増強]]<ref name=Williams1989><pubmed>2571939</pubmed></ref> やシナプス長期抑圧<ref name=Bolshakov1995><pubmed>8606806</pubmed></ref> は遊離アラキドン酸により促進され、特にシナプス長期抑圧はPLA2阻害薬である[[4-bromophenacyl bromide]]により抑制される。
49. Ghosh A, Chen F, Thakur A, Hong H
Cysteinyl leukotrienes and their receptors: Emerging therapeutic targets in central nervous system disorders.
CNS Neurosci Ther. 2016 Dec;22(12):943-951.
PMID: 27542570


 しかし神経(様)細胞での遊離アラキドン酸の作用の多くはアラキドン酸カスケードの関与を検証しておらず、遊離アラキドン酸の直接作用であるかは定かではない。実際、海馬の初代培養神経細胞ではシナプス後部で産生されるPGE2がEP2を介してシナプス伝達を促進する<ref name=Sang2005><pubmed>16251433</pubmed></ref> 。またEP2欠損マウスでは海馬のSchaffer側枝-CA1シナプスにおけるシナプス長期抑圧が減弱する<ref name=Savonenko2009><pubmed>19416671</pubmed></ref> 。
50. Yokomizo T
Two distinct leukotriene B4 receptors, BLT1 and BLT2.
J Biochem. 2015 Feb;157(2):65-71.
PMID: 25480980


 従って、遊離アラキドン酸はPGE2の産生を介して海馬のシナプス機能を調節する可能性も考えられる。
51. Spector AA, Kim HY
Cytochrome P450 epoxygenase pathway of polyunsaturated fatty acid metabolism.
Biochim Biophys Acta. 2015 Apr;1851(4):356-65.
PMID: 25093613


 また脳病態との関連では、[[統合失調症]]など精神疾患患者の血液における遊離アラキドン酸の濃度の異常も報告されているが、病態との因果関係は不明である<ref name=McNamara2007><pubmed>17236749</pubmed></ref><ref name=Sethom2010><pubmed>20667702</pubmed></ref><ref name=Kim2011><pubmed>20038946</pubmed></ref>  。
52. Arita M
Mediator lipidomics in acute inflammation and resolution.
J Biochem. 2012 Oct;152(4):313-9.
PMID: 22923733


==関連項目==
53. Peng X, Carhuapoma JR, Bhardwaj A, Alkayed NJ, Falck JR, Harder DR, Traystman RJ, Koehler RC
* [[ホスホリパーゼA2]]
Suppression of cortical functional hyperemia to vibrissal stimulation in the rat by epoxygenase inhibitors.
* [[エンドカナビノイド]]
Am J Physiol Heart Circ Physiol. 2002 Nov;283(5):H2029-37.
* [[プロスタグランジン]]
PMID: 12384482
* [[逆行性伝達物質]]


== 参考文献 ==
54. Mulligan SJ, MacVicar BA
<references />
[[Calcium]] transients in astrocyte endfeet cause cerebrovascular constrictions.
Nature. 2004 Sep 9;431(7005):195-9.
PMID: 15356633

2018年10月16日 (火) 21:03時点における版

聶 翔(神戸大学大学院医学研究科・医学部 薬理学分野) 永井 裕崇(神戸大学大学院医学研究科・医学部 薬理学分野) 北岡 志保(神戸大学大学院医学研究科・医学部 薬理学分野) 古屋敷 智之(神戸大学大学院医学研究科・医学部 薬理学分野)

アラキドン酸は4つのcis二重結合を有する20個の炭素鎖からなる脂肪酸である。メチル末端(ωまたはn)から数えて最初の二重結合が6番目と7番目の炭素の間に位置するため、ω-6 (n-6)多価不飽和脂肪酸に含まれ、20:4ω-6と記載される[1] [2]。アラキドン酸は、主に細胞膜のリン脂質のsn-2位にエステル化されて存在する[3]。主にグリセロリン脂質にコリンが結合したホスファチジルコリンに含まれるが、ホスファチジルイノシトールなど他のグリセロリン脂質にも含まれる[4]。アラキドン酸は、刺激に応じてホスホリパーゼA2(phospholipase A2; PLA2)の酵素活性により細胞膜から遊離する他[5][6]、エンドカンナビノイドと称する2-arachodonoyl-glycerol (2-AG)やアナンダマイド(anandamide; arachidonoylethanolamide)の構成成分として細胞膜から遊離する[7][8]。エンドカンナビノイドはそれ自体で生理活性を有するが、代謝されて遊離アラキドン酸を産生する[9][10]。遊離アラキドン酸の大半は細胞膜のリン脂質に再度取り込まれるため、その濃度は低く維持されている[11]。遊離アラキドン酸はプロスタノイドやロイコトリエンなど多様な生理活性脂質に変換され、摂食、睡眠・覚醒、脳血流など生理的な脳機能の他、疾病時の発熱や内分泌応答、疼痛、てんかん、脳虚血、ストレス、神経・精神疾患など様々な病態にも関与する[12][13][14][15][16][17][18]。

1.アラキドン酸の摂取・生合成・代謝

アラキドン酸は、肉、卵、魚介類などの食品から得られ、細胞内のリン脂質に取り込まれ、様々な生体膜の合成に使用される[19]。ラットを用いた実験では、離乳後3〜4カ月の間ω-6 多価不飽和脂肪酸を欠乏させると、脳内のアラキドン酸含有量が約30%減少することが示されている[20]。成人では、脳で代謝されるアラキドン酸は血漿から補われ、脳内のアラキドン酸の含有量は一定に保たれている。ヒトのPETイメージングにより、脳内へ取り込まれる血漿中のアラキドン酸は約18mg/日、脳内におけるアラキドン酸の半減期は約147日と推定されている[21][22]。 アラキドン酸は、18個の炭素鎖からなり2つのcis二重結合を含むω-6多価不飽和脂肪酸の一種であるリノール酸(18:2ω-6)からも産生される(図1)。リノール酸は必須脂肪酸であり、ナッツなどの種実類や植物油に豊富に含まれる[19]。体内に取り込まれたリノール酸は、段階的な不飽和化および脂肪鎖伸長によって、アラキドン酸やドコサテトラエン酸(22:4ω-6)などの脂肪酸に変換される。まず、リノール酸はΔ6不飽和化酵素(fatty acid desaturase 2; FADS2)による脱水素化を介して二重結合が付与されてγ-リノレン酸(18:3ω-6)になる。その後、γ-リノレン酸からΔ6脂肪酸伸長酵素(Δ6 elongase)により脂肪酸が伸長されてジホモ-γ-リノレン酸(20:3ω-6)になる。Δ5不飽和化酵素(fatty acid desaturase 1; FADS1)によりジホモ-γ-リノレン酸からアラキドン酸が産生される[23][24]。Δ5不飽和化酵素やΔ6不飽和化酵素の活性は、栄養、喫煙、老化などの要因により変動し、肥満に関与することが示唆されている[25]。 脳内ではアラキドン酸を含むほとんどの多価不飽和脂肪酸は長鎖脂肪酸CoAリガーゼ(long-chain-fatty-acid-CoA synthase; ACSL)により活性化され、細胞膜のリン脂質にエステル化される他、エネルギー源としてβ酸化により代謝されてアセチルCoAの産生を促す。アラキドン酸の代謝の効率は、細胞膜にある脂肪酸トランスポーターや脂肪酸結合タンパク質(fatty acid-binding protein; FABP)により影響を受けると考えられている[26]。

2.アラキドン酸の細胞膜への取り込み

遊離アラキドン酸はACSLによりアラキドノイルCoA(arachidonoyl-CoA)となって活性化され、アシルトランスフェラーゼ(acyltransferase)により細胞膜のリン脂質のsn-2位に取り込まれる[27]。 リン脂質の産生には二つの生化学的経路が関与する[28](図2)。リン脂質はグリセロール-3-リン酸から脂肪酸の付加により新たに合成されるが、この経路は発見者の名にちなんでケネディー経路(Kennedy Pathway)と呼ばれる。この経路では、グリセロール-3-リン酸アシルトランスフェラーゼ(glycerol-3-phosphate acyltransferase; GPAT)がグリセロール-3-リン酸(GP)のsn-1位に脂肪酸をエステル化により付加し、リゾリン脂質の一種であるリゾホスファチジン酸(lysophosphatidic acid)を生成する。続いて、リゾホスファチジン酸アシルトランスフェラーゼ(lysophosphatidic acid acyltransferase; LPAAT)がリゾホスファチジン酸のsn-2位に脂肪酸をエステル化により付加し、ホスファチジン酸(phosphatidic acid)を生成する。ホスファチジン酸はジアシルグリセロール(diacylglycerol; DAG)に変換され、トリアシルグリセロール(triglyceride)、ホスファチジルコリン(phosphatidylcholine; PC)、ホスファチジルエタノラミン(phosphatidylethanolamine; PE)、ホスファチジルセリン(phosphatidylserine; PS)が産生される。また、ホスファチジン酸はシチジン二リン酸ジアシルグリセロール(cytidine diphosphate-DAG; CDP-DAG)にも変換され、ホスファチジルイノシトール(phosphatidylinositol; PI)、ホスファチジルセリン(phosphatidylserine; PS)、ホスファチジルグリセロール(phosphatidylglycerol; PG)、カルジオリピン(cardiolipin; CL)が産生される。 加えて、一度生成されたリン脂質では、sn-2位に含まれる脂肪酸が代謝回転している。この代謝回路を発見者の名にちなんでランズ回路(Lands Cycle)と称する。ランズ回路では、PLA2によりsn-2位の脂肪酸が遊離し、リゾリン脂質が生成される。リゾリン脂質アシルトランスフェラーゼは、生成されたリゾリン脂質のsn-2位に脂肪酸をエステル化により付加し、その結果、リゾリン脂質はリン脂質に戻る。ランズ回路を担うリゾリン脂質アシルトランスフェラーゼ(lysophospholipid acyltransferase; LPLAT)には数多くのアイソフォームが存在し、それぞれ基質とするリゾリン脂質や脂肪酸の種類に特異性がある[28]。現在、遺伝子欠損マウスを用いた解析が精力的に進められている。例えばLPCAT3 (lysophosphatidylcholine acyltransferase 3)の欠損では、ランズ回路によるホスファチジルコリンへのアラキドン酸の再取り込みが障害され、細胞膜中のアラキドン酸の含有量が大きく減少することが示された[29]。リゾリン脂質アシルトランスフェラーゼの各アイソフォームは、基質特異性に加え、特異的な細胞内局在や発現分布を取り、その結果、細胞膜のリン脂質の非対称性や多様性が生まれると考えられている[30]。

3.アラキドン酸の細胞膜からの遊離

細胞が成長因子、ホルモン、サイトカインなど様々な細胞外刺激に曝されると遊離アラキドン酸が産生される[31]。遊離アラキドン酸の産生には、PLA2による細胞膜からのアラキドン酸の遊離と、アラキドン酸を構造に含むエンドカンナビノイドの代謝による遊離アラキドン酸の産生といった、少なくとも2種類のメカニズムが存在する(図3)。しかし、いずれの経路が働くかは脳領域や細胞種、刺激によって異なる可能性があるが、実態は不明である。各経路の機能的意義にも関わる問題であり、今後精査が必要である。細胞膜からの放出後は、遊離アラキドン酸の90%以上は直ちにACSLを介してアラキドノイルCoA(arachidonoyl-CoA)となり活性化され、リゾリン脂質アシルトランスフェラーゼにより細胞膜のリン脂質のsn-2位に再エステル化されて再利用される[32]。

アラキドン酸のPLA2による細胞膜からの遊離

細胞膜のリン脂質のsn-2位に含まれるアラキドン酸がPLA2によって遊離することは古くより知られてきた[3][5][6]。PLA2は分泌型PLA2(secretory PLA2; sPLA2)、細胞質型PLA2(cytosolic PLA2; cPLA2)、Ca2+非依存型PLA2(Ca2+-independent PLA2; iPLA2)に大別される。各グループには異なる遺伝子がコードする複数のアイソフォームが存在し、制御機構や脂質選択性が異なる[6]。cPLA2αを含むcPLA2の多くはその活性化に細胞内Ca2+濃度の上昇を必要とする。アラキドン酸の細胞膜からの遊離にはcPLA2とsPLA2が関与し、iPLA2は脂質リモデリングを司るランズ回路に関与すると考えられている[3][6]。実際cPLA2α欠損マウスのマクロファージや消化管では、細菌内毒素LPSによるアラキドン酸の遊離が消失していた[33][34]。また、マクロファージ細胞株では、脂質メディエイターの血小板活性化因子(platelet activating factor; PAF)によるアラキドン酸遊離がcPLA2阻害薬MAFPとsPLA2阻害薬diC6SNPEにより抑制された[35]。 神経活動依存的にPLA2を介するアラキドン酸遊離が誘導されることも示唆されている。[14C]標識アラキドン酸を用いた実験では、ラットの大脳皮質や線条体でのアラキドン酸の取り込みがドパミンD2受容体のアゴニスト投与により亢進する [36]。また、[3H]標識アラキドン酸を用いた実験では、線条体の初代培養神経細胞におけるアラキドン酸の遊離がNMDA型グルタミン酸受容体の活性化により促進すること[37]、その促進がPLA2を阻害するmepacrine(quinacrine)により阻害されることが示された[38]。さらに、小脳プルキンエ細胞のシナプス長期抑制(long-term depression; LTD)はcPLA2α欠損マウスで消失し、この異常がアラキドン酸やその生理活性代謝物であるプロスタグランジン(prostaglandin; PG)D2・PGE2の補充により回復することも示されている[39]。

エンドカナビノイドの代謝による遊離アラキドン酸の産生

近年、脳、肝臓、肺では、LPSの全身性投与による遊離アラキドン酸の上昇はcPLA2α欠損マウスでも大きな影響を受けず、モノアシルグリセロールリパーゼ(monoacylglycerol lipase; MGL)の遺伝子欠損マウスや阻害薬投与により消失することも示された[33]。この結果は、これらの臓器では主にエンドカナビノイドの一種である2-AGがMGLにより代謝されて遊離アラキドン酸を生ずることを示唆する。2-AGはシナプス活動に伴う細胞内のCa2+濃度上昇によりシナプス後部で産生され、シナプス前部のカンナビノイド受容体CB1に作用して、逆行性にシナプス伝達を抑制する[40]。2-AGは、主にsn-2位にアラキドン酸を含むホスファチジルイノシトール(phosphatidylinositol)がホスホリパーゼC(phospholipase C; PLC)によりジアシルグリセロール(diacylglycerol; DAG)に代謝され、さらにDAGがジアシルグリセロールリパーゼ(diacylglycerol lipase; DGL)により代謝されて生ずると考えられている[7][8][9][10]。遊離アラキドン酸はもう一つのエンドカンナビノイドであるアナンダマイド(anandamide; arachidonoylethanolamide)からも産生される。アナンダマイドは、主にsn-2位にアラキドン酸を含むホスファチジルエタノラミンがN-アシルトランスフェラーゼによりN-アラキドノイルホスファチジルエタノラミン(N-arachidonoyl phosphatidylethanolamine)に代謝され、さらにホスホリパーゼD(phospholipase D)により代謝されて生ずると考えられている。アナンダマイドは脂肪酸アミド加水分解酵素(fatty acid amide hydrolase; FAAH)によって代謝されて遊離アラキドン酸を生ずる[7][8][9][10]。エンドカンナビノイドの産生・作用については、脳科学辞典「エンドカナビノイド」をご参照いただきたい。

遊離アラキドン酸の働き

遊離アラキドン酸は、後述するアラキドン酸カスケードにより産生される生理活性脂質と変換されて機能を発揮する。遊離アラキドン酸そのものも神経突起伸長[41]、シナプス可塑性[42][43]、細胞内Ca2+濃度上昇[44]、多様なイオンチャネルの活性調節[45]に関わることが示唆されてきたが、いずれも外来性のアラキドン酸の効果を調べた実験に留まっている。アラキドン酸カスケードの関与も検討しておらず、観察された作用がアラキドン酸によるものか、あるいは、その生理活性代謝物によるものかは定かではない。統合失調症など精神疾患患者の血液における遊離アラキドン酸の濃度の異常も報告されているが、病態との関連は不明である[46][47][48]。

4.アラキドン酸カスケード

細胞膜から遊離したアラキドン酸は、シクロオキシゲナーゼ(cyclooxygenase; COX)、リポキシゲナーゼ(lipoxygenase; LOX)、シトクロム(cytochrome)P-450ファミリーに属するエポキシゲナーゼ(epoxygenase; EOX)のいずれかを律速酵素とする三つの経路により代謝され、特異的な作用を持った生理活性脂質を生ずる[12][13][14][15][16][17]。これらの生理活性脂質はアラキドン酸由来の20個の炭素鎖を持つことから、ギリシャ語で20を意味するeicosaにちなんで、エイコサノイド(eicosanoid)と呼ばれる[16]。

シクロオキシゲナーゼ(COX)経路

COX経路では、遊離アラキドン酸はCOXによりプロスタグランジン(prostaglandin; PG)G2、さらにPGH2に変換される[12][13][14][15][16][17]。PGH2はPGD合成酵素、PGE合成酵素、PGF合成酵素、PGI合成酵素、トロンボキサンA合成酵素を介してPGD2、PGE2、PGF2α、PGI2、thromboxane A2といったプロスタノイドに変換され、それぞれDP、EP、FP、IP、TPと呼ばれる選択的なGタンパク質共役型受容体に結合して作用を発揮する。プロスタノイドは、循環器・消化器・骨の恒常性維持、生殖器の機能、局所炎症に伴う血管透過性亢進、細胞性免疫応答など全身の様々な機能を担う。特に脳との関連では、摂食、睡眠・覚醒、脳血流など生理的な脳機能の他、疾病時の発熱や内分泌応答、疼痛、てんかん、脳虚血、ストレス、神経・精神疾患など様々な病態に関わる[15][17]。プロスタノイドの生合成や作用については、脳科学辞典「プロスタグランジン」もご参照いただきたい。

リポキシゲナーゼ(LOX)経路

LOX経路では、遊離アラキドン酸は基質特異性の異なるLOXにより複数のヒドロペルオキシエイコサテトラエン酸(Hydroperoxyeicosatetraenoic acid; HpETE)に変換され、さらに酵素的・非酵素的な反応を介してロイコトリエン(leukotriene)やヒドロキシエイコサテトラエン酸(Hydroxyeicosatetraenoic acid; HETE)などの多様な生理活性脂質に変換される[16][18][49]。主には12-LOXや15-LOXを介して8-HpETE、12-HpETE、15-HpETEが産生され、5-LOXと5-lipoxygenase-activating protein (FLAP)を介して5-HpETEが産生される。5-HpETEは速やかに脱水反応によりLTA4となり、LTA4はLTA4加水分解酵素(LTA4 hydrolase)により速やかにLTB4を生ずるか、LTC4合成酵素(LTC4 synthase)によりLTC4を生ずる。LTC4はさらにLTD4、LTE4になる。LTA4を産生する酵素を持たない細胞でも、近傍の細胞からLTA4の供給を受けて、LTC4を産生する場合がある。この現象を細胞間生合成経路(transcellular biosynthesis)と呼ぶ。LTA4・LTB4とLTC4・LTD4・LTE4は、システイン残基の有無により構造が大きく異なることから、作用する受容体も異なる。BLT1とBLT2はLTA4・LTB4をリガンドとするGタンパク質共役型受容体として同定された。しかし、BLT1の親和性がBLT2に比してはるかに高く、BLT2には親和性のはるかに高い12-hydroxyheptadecatrienoic acid (12-HHT)というリガンドが存在する[50]。LTC4・LTD4・LTE4からなるシスティニルロイコトリエン(cysteinyl leukotrienes; Cys-LT)は主にCysLT受容体のI型(CysLT1R)とII型(CysLT2R)に結合して作用を発揮する。ロイコトリエンは、好中球の走化性・凝集・細胞接着・脱顆粒化、平滑筋収縮、血管の透過性や収縮の調節、粘液分泌の増強、免疫制御、炎症性疼痛、喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎、嚢胞性線維症、慢性閉塞性肺疾患、糸球体腎炎、麻痺性関節炎、乾癬、炎症性腸疾患、間質性肺疾患などの様々な生理的機能や疾患に関与する。また、ロイコトリエンは、脳損傷、多発性硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン舞踏病、てんかん、うつ、加齢など多様な脳疾患との関連が示唆されている[49]。ロイコトリエンの生合成や作用については、他の総説もご参照いただきたい[16][18][49]。

エポキシゲナーゼ(EOX)経路

EOX経路では、遊離アラキドン酸は基質特異性の異なるEOXにより複数のHETEやエポキシエイコサトリエン酸(Epoxyeicosatrienoic acid; EET)に変換され、さらにEETはエポキシド加水分解酵素(epoxide hydrolase; EH)により多様なジヒドロキシエイコサトリエン酸(dihydroxyeicosatrienoic acid; DHET)に変換される[51][52]。EETは、血管拡張、血管新生制御、抗炎症作用、さらに虚血再灌流への保護作用を有することが報告されている。しかしこれら脂質の受容体は確定しておらず、その作用機序には不明な点が多い。脳機能との関連では、ラットのひげ刺激に伴う感覚野での機能性充血がEOXの二つの異なる阻害薬であるMS-PPOHとmiconazoleにより阻害される [53]。一方、神経細胞の過興奮に続く抑制が次第に広がるcortical spreading depressionの病態のモデルとして、アストロサイトでのCa2+上昇による大脳皮質の脳血管収縮の研究が行われており、この脳血管収縮がPLA2を阻害するMAFPや、血管収縮活性を持つ20-HETEの生合成酵素であるEOXの一種CYP4Aを阻害するHET0016の処置により消失することが示されている[54]。これらの研究は、神経活動に伴う脳血管制御へのEOX代謝物の関与を示唆するが、いずれも薬理学的な解析に留まっており、受容体同定を含めた作用機序の解明が不可欠である。

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