17,548
回編集
細編集の要約なし |
細 (→特発性むずむず脚症候群) |
||
| (同じ利用者による、間の2版が非表示) | |||
| 79行目: | 79行目: | ||
[[ファイル:Inoue むずむず脚症候群 Figure1.png|サムネイル|'''図1. 低酸素に関連したむずむず脚症候群の細胞内での病態生理'''<br>細胞内での鉄欠乏、[[一酸化窒素]]、アデノシン、MEIS1の多型は, 単独(実線)にあるいは共同して(点線)、むずむず脚症候群病態に影響を及ぼす。<br> | [[ファイル:Inoue むずむず脚症候群 Figure1.png|サムネイル|'''図1. 低酸素に関連したむずむず脚症候群の細胞内での病態生理'''<br>細胞内での鉄欠乏、[[一酸化窒素]]、アデノシン、MEIS1の多型は, 単独(実線)にあるいは共同して(点線)、むずむず脚症候群病態に影響を及ぼす。<br> | ||
RLS; むずむず脚症候群<br> | RLS; むずむず脚症候群<br> | ||
[[HIF- | [[HIF-1α]]; [[hypoxia inducible factor-1α]]<br> | ||
[[VEGF]]; [[vascular endothelial growth factor]]<br> | [[VEGF]]; [[vascular endothelial growth factor]]<br> | ||
文献<ref name=Trenkwalder2018><pubmed>30244828</pubmed></ref>から改変]] | 文献<ref name=Trenkwalder2018><pubmed>30244828</pubmed></ref>から改変]] | ||
| 85行目: | 85行目: | ||
==病態生理== | ==病態生理== | ||
'''図1'''にTrenkwalderらが動物実験の結果をまとめた、むずむず脚症候群の低酸素状態に関連した細胞内での病態生理を示す6) <ref name=Trenkwalder2018><pubmed>30244828</pubmed></ref>。特に低酸素誘発性因子である[[ | '''図1'''にTrenkwalderらが動物実験の結果をまとめた、むずむず脚症候群の低酸素状態に関連した細胞内での病態生理を示す6) <ref name=Trenkwalder2018><pubmed>30244828</pubmed></ref>。特に低酸素誘発性因子である[[HIF-1α]]の上方調節は脳血流関門の透過性上昇を含めて、図内に示した神経伝達系の変化を増幅すると考えられる。'''図2'''に、むずむず脚症候群症状の発現に関わる遺伝学的背景と環境(二次性)要因の関与の関係を示す35) <ref name=Trenkwalder2016><pubmed>26944272</pubmed></ref>。一般に若年発症の家族性発症の症例では遺伝的要素が主体となり、中高年期以降の症例では、身体的な背景の関与が高くなると考えられている。 | ||
[[ファイル:Inoue むずむず脚症候群 Figure3.png|サムネイル|'''図3. A11ドパミン神経系からみたむずむず病の病態'''<br>A11ドパミン細胞群は体性感覚知覚に関わる④前頭野/前頭前野、①遠心性に直接あるいは背側縫線核を介する自律神経回路や③骨格筋・疼痛知覚に関わる求心性の体性神経回路に対して抑制性の調節をしているが、A11ドパミン細胞群の機能不全により、[[脊髄後角]]細胞や[[脊髄中間外側細胞]](IML)の[[脱抑制]]をもたらし、筋求心路の[[体性感覚]]信号([[疼痛]]性知覚)の増大を招く。プラミペキソールはドパミン機能不全を改善することで、脱抑制による体性感覚信号の増大を抑えると考えられる。なお、③骨格筋随意運動による非疼痛性固有知覚の増大は脊髄後角細胞に抑制性に働くため、自発的運動により不快感は低減する。また、②これらの抑制性投射系の異常は[[交感神経]]の活性化をもたらし[[ノルアドレナリン]](NA)、[[アドレナリン]](Ad)の放出を促す。この結果、高閾値の筋の求心性神経の活性に異常を生じ、筋の異常活動、すなわち周期性四肢運動を誘発する。文献<ref name=Clemens2006><pubmed>16832090</pubmed></ref>を改変引用。]] | [[ファイル:Inoue むずむず脚症候群 Figure3.png|サムネイル|'''図3. A11ドパミン神経系からみたむずむず病の病態'''<br>A11ドパミン細胞群は体性感覚知覚に関わる④前頭野/前頭前野、①遠心性に直接あるいは背側縫線核を介する自律神経回路や③骨格筋・疼痛知覚に関わる求心性の体性神経回路に対して抑制性の調節をしているが、A11ドパミン細胞群の機能不全により、[[脊髄後角]]細胞や[[脊髄中間外側細胞]](IML)の[[脱抑制]]をもたらし、筋求心路の[[体性感覚]]信号([[疼痛]]性知覚)の増大を招く。プラミペキソールはドパミン機能不全を改善することで、脱抑制による体性感覚信号の増大を抑えると考えられる。なお、③骨格筋随意運動による非疼痛性固有知覚の増大は脊髄後角細胞に抑制性に働くため、自発的運動により不快感は低減する。また、②これらの抑制性投射系の異常は[[交感神経]]の活性化をもたらし[[ノルアドレナリン]](NA)、[[アドレナリン]](Ad)の放出を促す。この結果、高閾値の筋の求心性神経の活性に異常を生じ、筋の異常活動、すなわち周期性四肢運動を誘発する。文献<ref name=Clemens2006><pubmed>16832090</pubmed></ref>を改変引用。]] | ||
===特発性むずむず脚症候群=== | ===特発性むずむず脚症候群=== | ||
| 107行目: | 107行目: | ||
低用量のドパミン受容体作動薬の有用性はむずむず脚症候群のドパミン仮説を支持する<ref name=Becker1993><pubmed>7909374</pubmed></ref>。実際、鉄はドパミン合成に関わる[[チロシン水酸化酵素]]の[[補因子]]であり、また鉄欠乏はドパミンD2受容体の発現量を減少させる<ref><pubmed>19022977</pubmed></ref>。一般に血清鉄は日中に濃度が上昇し夜間に低下するとされており、これが症状の日内変動と関連する可能性がある。また、患者の脳脊髄液中の鉄が低下しているという報告があるし、後述するように鉄剤の投与が[[血清鉄]]の欠乏の有無によらず有効であることもわかっている。これらは、病態を鉄代謝障害で説明する上で魅力的な所見であり、現時点では、遺伝学的特性とともに、中枢ドパミン神経機能ならびに鉄代謝異常の側面を中心に病態生理研究が進められている。 | 低用量のドパミン受容体作動薬の有用性はむずむず脚症候群のドパミン仮説を支持する<ref name=Becker1993><pubmed>7909374</pubmed></ref>。実際、鉄はドパミン合成に関わる[[チロシン水酸化酵素]]の[[補因子]]であり、また鉄欠乏はドパミンD2受容体の発現量を減少させる<ref><pubmed>19022977</pubmed></ref>。一般に血清鉄は日中に濃度が上昇し夜間に低下するとされており、これが症状の日内変動と関連する可能性がある。また、患者の脳脊髄液中の鉄が低下しているという報告があるし、後述するように鉄剤の投与が[[血清鉄]]の欠乏の有無によらず有効であることもわかっている。これらは、病態を鉄代謝障害で説明する上で魅力的な所見であり、現時点では、遺伝学的特性とともに、中枢ドパミン神経機能ならびに鉄代謝異常の側面を中心に病態生理研究が進められている。 | ||
また、[[アデノシン受容体]]は[[GABA]]神経やドパミン神経上に存在するが、[[ラット]]を用いた研究により、鉄欠乏状態により[[ | また、[[アデノシン受容体]]は[[GABA]]神経やドパミン神経上に存在するが、[[ラット]]を用いた研究により、鉄欠乏状態により[[線条体]]の[[シナプス前部|シナプス前]]・[[シナプス後部|後]][[アデノシン受容体|アデノシン(A2)受容体]]がアップレギュレーションされると報告されており<ref name=Quiroz2010><pubmed>20385128</pubmed></ref>、むずむず脚症候群とアデノシン受容体異常の関連の詳細も明らかにすべき課題である。 | ||
Clemensらは、[[背後側視床下部]]ドパミン[[A11細胞群]]からの抑制性投射線維連絡の機能不全を病態の中心的存在と捉えている('''図3''')<ref name=Clemens2006><pubmed>16832090</pubmed></ref>。すなわち、ドパミンA11細胞群からの信号は、[[体性感覚]]入力に関わる[[前頭前野]]と、直接あるいは[[橋]]の[[背側縫線核]]を介して脊髄の自律神経回路を構成する脊髄中間外側細胞(IML)、ならびに体性神経回路の[[脊髄]][[後角]]細胞へ抑制性の投射線維連絡を形成しているが、このA11細胞群におけるドパミン活動低下がこれらの抑制性投射系の機能不全をもたらし、その結果、脚の筋肉からの筋求心路を介した不特定の体性感覚入力が増大し、異常感覚発現をもたらすと考えられている。 | Clemensらは、[[背後側視床下部]]ドパミン[[A11細胞群]]からの抑制性投射線維連絡の機能不全を病態の中心的存在と捉えている('''図3''')<ref name=Clemens2006><pubmed>16832090</pubmed></ref>。すなわち、ドパミンA11細胞群からの信号は、[[体性感覚]]入力に関わる[[前頭前野]]と、直接あるいは[[橋]]の[[背側縫線核]]を介して脊髄の自律神経回路を構成する脊髄中間外側細胞(IML)、ならびに体性神経回路の[[脊髄]][[後角]]細胞へ抑制性の投射線維連絡を形成しているが、このA11細胞群におけるドパミン活動低下がこれらの抑制性投射系の機能不全をもたらし、その結果、脚の筋肉からの筋求心路を介した不特定の体性感覚入力が増大し、異常感覚発現をもたらすと考えられている。 | ||