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|中核症状
|'''中核症状'''
|* 抑うつ気分(気分が落ち込む)
* 抑うつ気分(気分が落ち込む)
|* 興味・喜びの喪失(何事にも興味が持てず、どんな良いことでも喜べない)
* 興味・喜びの喪失(何事にも興味が持てず、どんな良いことでも喜べない)
|身体症状
'''身体症状'''
|* 食欲の障害(食欲低下または亢進)
* [[食欲]]の障害(食欲低下または亢進)
|* [[睡眠]]の障害(不眠または過眠)
* [[睡眠]]の障害(不眠または過眠)
|* 精神運動制止(動作が緩慢になる)または焦燥(じっとしていられない)
* [[精神運動制止]](動作が緩慢になる)または[[焦燥]](じっとしていられない)
|* 易疲労性(疲れやすく気力が低下する)
* 易疲労性(疲れやすく気力が低下する)
|精神症状
'''精神症状'''
|* 罪責感(罪の[[意識]]を感じたり自分を責める)
* 罪責感(罪の[[意識]]を感じたり自分を責める)
|* 決断困難(物事が決められない)、思考力・集中力の低下(集中できない)
* 決断困難(物事が決められない)、思考力・集中力の低下(集中できない)
|* [[希死念慮]](死にたくなる)
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 これらの症状のうち、中核症状のどちらかを含めて5個以上が、ほぼ1日中、ほとんど毎日、2週間以上続くために、社会的・職業的な機能の障害が引き起こされているか、自覚的な強い苦痛を伴い、身体疾患、薬・物質、他の精神疾患が原因であることが否定された場合に、うつ病と診断される。
 これらの症状のうち、中核症状のどちらかを含めて5個以上が、ほぼ1日中、ほとんど毎日、2週間以上続くために、社会的・職業的な機能の障害が引き起こされているか、自覚的な強い苦痛を伴い、身体疾患、薬・物質、他の[[精神疾患]]が原因であることが否定された場合に、うつ病と診断される。
 なお、鑑別を要する精神疾患の代表が双[[極性]]障害であり、躁状態または軽躁状態の既往があれば、双極性障害と診断される。
 
なお、多数例を対象とした疫学研究においては、自記式質問表(ベックうつ病自己評価尺度など)を施行し、カットオフ値を設定して統計学的解析が行われている場合があるが、本来うつ病は自己評価尺度のみで診断できるものではなく、こうした研究ではあくまで便宜的に解析が行われているに過ぎない。
 なお、鑑別を要する精神疾患の代表が[[双極性障害]]であり、[[躁状態]]または[[軽躁状態]]の既往があれば、双極性障害と診断される。
うつ病にはさまざまなタイプがあるが、興味・喜びの喪失が強く、日内変動、早朝覚醒、精神運動制止、体重減少などの身体的変化や、特徴的な抑うつ気分、罪責感を伴う「メランコリー型」が最も典型的とされ、薬物療法などの身体的治療の必要性の指標となる。
なお、多数例を対象とした疫学研究においては、自記式質問表([[ベックうつ病自己評価尺度]]など)を施行し、カットオフ値を設定して統計学的解析が行われている場合があるが、本来うつ病は自己評価尺度のみで診断できるものではなく、こうした研究ではあくまで便宜的に解析が行われているに過ぎない。
一方、環境に多少は気分が反応することや対人関係の敏感さを特徴とし、過眠、過食など、メランコリー型とは対照的な症状を呈する場合を非定型うつ病と呼び、このタイプは[[不安症]]や[[パーソナリティ障害]]に併発する場合が多い。
 
その他、決まって冬に生じる季節型、周産期に発症する場合、精神病性の特徴([[妄想]]、幻聴など)を伴うもの、混合性(躁状態の症状の一部を示す)、不安性の苦痛を伴うもの、緊張病性(昏迷状態で蝋屈症などの特徴的な症状を伴う場合)など、さまざまなタイプがある。
 うつ病にはさまざまなタイプがあるが、興味・喜びの喪失が強く、日内変動、早朝覚醒、精神運動制止、体重減少などの身体的変化や、特徴的な抑うつ気分、罪責感を伴う「[[メランコリー型]]」が最も典型的とされ、薬物療法などの身体的治療の必要性の指標となる。
 
 一方、環境に多少は気分が反応することや対人関係の敏感さを特徴とし、[[過眠]]、[[過食]]など、メランコリー型とは対照的な症状を呈する場合を非定型うつ病と呼び、このタイプは[[不安症]]や[[パーソナリティ障害]]に併発する場合が多い。
 
 その他、決まって冬に生じる季節型、周産期に発症する場合、精神病性の特徴([[妄想]]、[[幻聴]]など)を伴うもの、混合性(躁状態の症状の一部を示す)、不安性の苦痛を伴うもの、緊張病性([[昏迷状態]]で[[蝋屈症]]などの特徴的な症状を伴う場合)など、さまざまなタイプがある。


== 治療 ==
== 治療 ==

2017年7月16日 (日) 19:26時点における版

 同義語: 大うつ病性障害  英語: Major Depressive Disorder

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うつ病とは

 抑うつ状態は、身体疾患、薬・物質、他の精神疾患など、さまざま原因で生じ得る。他の原因を特定出来ず、一定の診断基準を満たす場合をうつ病と呼ぶが、現在うつ病と診断されている患者の中にも、躁状態出現前の双極性障害の抑うつ状態、認知症の前駆症状としての抑うつ状態など、さまざまな状態が含まれている。

 診断基準としては、DSM-5[1]が広く用いられている。

 うつ病の生涯有病率は16%[2]と報告されている。

症状・診断

 うつ病の症状を表1に示す[1]

表1 うつ病の症状
中核症状
  • 抑うつ気分(気分が落ち込む)
  • 興味・喜びの喪失(何事にも興味が持てず、どんな良いことでも喜べない)

身体症状

  • 食欲の障害(食欲低下または亢進)
  • 睡眠の障害(不眠または過眠)
  • 精神運動制止(動作が緩慢になる)または焦燥(じっとしていられない)
  • 易疲労性(疲れやすく気力が低下する)

精神症状

  • 罪責感(罪の意識を感じたり自分を責める)
  • 決断困難(物事が決められない)、思考力・集中力の低下(集中できない)
  • 希死念慮(死にたくなる)

 これらの症状のうち、中核症状のどちらかを含めて5個以上が、ほぼ1日中、ほとんど毎日、2週間以上続くために、社会的・職業的な機能の障害が引き起こされているか、自覚的な強い苦痛を伴い、身体疾患、薬・物質、他の精神疾患が原因であることが否定された場合に、うつ病と診断される。

 なお、鑑別を要する精神疾患の代表が双極性障害であり、躁状態または軽躁状態の既往があれば、双極性障害と診断される。 なお、多数例を対象とした疫学研究においては、自記式質問表(ベックうつ病自己評価尺度など)を施行し、カットオフ値を設定して統計学的解析が行われている場合があるが、本来うつ病は自己評価尺度のみで診断できるものではなく、こうした研究ではあくまで便宜的に解析が行われているに過ぎない。

 うつ病にはさまざまなタイプがあるが、興味・喜びの喪失が強く、日内変動、早朝覚醒、精神運動制止、体重減少などの身体的変化や、特徴的な抑うつ気分、罪責感を伴う「メランコリー型」が最も典型的とされ、薬物療法などの身体的治療の必要性の指標となる。

 一方、環境に多少は気分が反応することや対人関係の敏感さを特徴とし、過眠過食など、メランコリー型とは対照的な症状を呈する場合を非定型うつ病と呼び、このタイプは不安症パーソナリティ障害に併発する場合が多い。

 その他、決まって冬に生じる季節型、周産期に発症する場合、精神病性の特徴(妄想幻聴など)を伴うもの、混合性(躁状態の症状の一部を示す)、不安性の苦痛を伴うもの、緊張病性(昏迷状態蝋屈症などの特徴的な症状を伴う場合)など、さまざまなタイプがある。

治療

 軽症(診断基準をぎりぎり満たす程度)の場合、基礎的治療(受容的精神療法と心理教育)のみ、または薬物療法の併用を行う。中等症以上の場合には、薬物療法などの身体的治療に精神療法を併用する(文献: 日本うつ病学会治療ガイドライン Ⅱ.うつ病(DSM-5)/ 大うつ病性障害 http://www.secretariat.ne.jp/jsmd/mood_disorder/)。  薬物療法としては、選択的セロトニン取り込み阻害薬(SSRI)、セロトニン・ノルアドレナリン取り込み阻害薬(SNRI)、受容体阻害薬(プレシナプスのα2受容体阻害などを介してセロトニン、ノルアドレナリンの神経伝達を促進する)などの新しい抗うつ薬が、単剤で、第一選択として用いられる。これらによって効果が得られない場合は、三環系抗うつ薬も用いられる。最大量、4~8週間で効果が見られない場合は抗うつ薬の種類を変更する。これらの治療でも効果が見られない場合には、リチウム非定型抗精神病薬、甲状腺ホルモンなどによる増強療法が行われる。また、精神病症状があれば、抗精神病薬を併用する。また、精神療法としては、認知行動療法、対人関係療法が有効であり、多くの場合薬物療法と併用して用いられる。これらの治療が奏効しない場合、電気けいれん療法を施行する。  また、治療においては、自殺の危険を評価し、危険があれば、自殺予防対策を行う。

病態生理

 うつ病の危険因子としては、直近の生活上の出来事(ライフイベント)、早期養育における問題(虐待、早期の親との離別など)などがある。遺伝要因の関与は、統合失調症、双極性障害などと比較すると小さいが、遺伝環境相互作用が関与する(文献: 加藤忠史 うつ病の脳科学 幻冬舎新書 2009)。  現在用いられているほとんど全ての抗うつ薬がセロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンの神経伝達を促進することから、これらのモノアミンがその病態に関与していると考えられている。しかしながら、効果発現に1、2週間を要することから、これらのモノアミンが直接症状発現に繋がっているとは考えがたい。

 抗うつ薬が共通して数週間後に脳内でBDNF(脳由来神経栄養因子)を増加させることと、ストレスが神経細胞の樹状突起および樹状突起スパインの形態を変化させることなどから、うつ病には神経細胞の形態可塑性が関係していると考えられている。

 当初、ストレスにより海馬や前頭皮質で樹状突起やBDNFの減少に伴いスパインの減少が見られることが報告されたことから、ストレスは樹状突起の萎縮を引き起こすと考えられたが、その後、扁桃体や側坐核ではBDNFの増加やスパインの増加が見出されたことから、こうした変化はストレスによる樹状突起の再構築(リモデリング)であると考えられるようになっている。うつ病患者において、認知課題に対する前頭葉皮質の賦活低下[3]や、恐怖表情に対し扁桃体が過剰に賦活すること[4]が知られており、これらの知見と動物実験におけるストレスに対する神経細胞のリモデリングの知見とを合わせて考えると、うつ病は、ストレスフルな環境に対する神経細胞の形態可塑的変化が固定化してしまった状態と考えることもできる。 認知療法の治療対象となる、うつ病に特徴的な認知パターン(全てか無か、過剰な一般化)は、情動の特徴であり、認知療法は、こうした脳の変化に拮抗しようとする治療と考えられる。扁桃体の賦活を患者にフィードバックすることによるニューロフィードバック療法も試みられている[5]

 近年、うつ病における炎症の関与が注目されており、ストレスが炎症反応を起こすことや、炎症によりトリプトファンの代謝が変化し、セロトニン系よりもキヌレニン系への代謝が有意になることなどが報告されている[6]

経過、予後

うつ病エピソードの長さの中央値は20週(5~6カ月)[7]と報告されている。うつ病患者の長期経過観察研究では、およそ半数で再発が見られ[8]、およそ2割では経過中に双極性障害に発展したという[9]。また、うつ病は、心血管障害や自殺による死亡率を増加させる[10]

うつ病モデル動物

 動物にうつ病があるかどうかは議論があるが(文献: 加藤忠史 動物に「うつ」はあるのか PHP新書 2012年)、これまでに、うつ病に関連した研究に多く用いられていたモデル動物を、よく引用されている順に[11]、表2に示す。

――――――――――――――――――――――――――― 表2 うつ病に関連した研究に用いられたモデル動物

強制水泳試験[12] 尾懸垂試験[13] 学習性無力(Maier, Steven F.; Seligman, Martin E (1976).: Learned helplessness: Theory and evidence. Journal of Experimental Psychology: General, 105: 3-46) 母子分離飼育[14] 慢性予測不能軽度ストレス[15] 免疫賦活モデル[16] 妊娠中ストレスモデル[17] 社会的敗北ストレス[18] 縫線核セロトニントランスポーターノックアウトマウス[19] Flinders sensitive lineラット[20] 嗅球摘除ラット[21] 新生仔期クロミプラミン投与(Mirmiran, M., Van De Poll, N., Corner, M. , et al. Lasting sequelae of chronic treatment with chlorimipramine during early postnatal development in the rat. Volume 8, Issue 4, 1980, Pages 200-202)

―――――――――――――――――――――――――――

 しかし、いずれも確立したものではなく、特に、最もよく用いられる強制水泳試験、尾懸垂試験は、全くうつ病モデルとは言えず[22]、モノアミン神経伝達を増強する薬のスクリーニング法にすぎない。  多くのモデルがうつ病の危険因子であるストレスを動物に与えたものであるが、これらがうつ病と言えるかどうかについて、一致した見解には至っていない。これらのモデルでは、モデル毎に異なる行動評価法(例えば慢性予測不能軽度ストレスではショ糖嗜好性テスト、社会的敗北ストレスでは社会性相互作用テスト)が用いられており、動物が抑うつ的かどうかを判断する一定の基準も存在しない。すなわち、確立したうつ病のモデル動物は存在しないと言って良い。 人におけるうつ病がDSM-5の診断基準を元に診断されている以上、今後は人のうつ病と同様の基準で評価を行う必要があると思われる[23]

関連項目

参考文献

  1. 1.0 1.1 日本精神神経学会(監修), 高橋三郎、大野裕、染矢俊幸、神庭重信、尾崎紀夫、三村將、村井俊哉 (訳)
    DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル
    医学書院, 2014
  2. Kessler, R.C., Berglund, P., Demler, O., Jin, R., Merikangas, K.R., & Walters, E.E. (2005).
    Lifetime prevalence and age-of-onset distributions of DSM-IV disorders in the National Comorbidity Survey Replication. Archives of general psychiatry, 62(6), 593-602. [PubMed:15939837] [WorldCat] [DOI]
  3. Okada, G., Okamoto, Y., Yamashita, H., Ueda, K., Takami, H., & Yamawaki, S. (2009).
    Attenuated prefrontal activation during a verbal fluency task in remitted major depression. Psychiatry and clinical neurosciences, 63(3), 423-5. [PubMed:19566776] [WorldCat] [DOI]
  4. Sheline, Y.I., Barch, D.M., Donnelly, J.M., Ollinger, J.M., Snyder, A.Z., & Mintun, M.A. (2001).
    Increased amygdala response to masked emotional faces in depressed subjects resolves with antidepressant treatment: an fMRI study. Biological psychiatry, 50(9), 651-8. [PubMed:11704071] [WorldCat] [DOI]
  5. Young, K.D., Siegle, G.J., Zotev, V., Phillips, R., Misaki, M., Yuan, H., ..., & Bodurka, J. (2017).
    Randomized Clinical Trial of Real-Time fMRI Amygdala Neurofeedback for Major Depressive Disorder: Effects on Symptoms and Autobiographical Memory Recall. The American journal of psychiatry, 174(8), 748-755. [PubMed:28407727] [PMC] [WorldCat] [DOI]
  6. Myint, A.M., Kim, Y.K., Verkerk, R., Scharpé, S., Steinbusch, H., & Leonard, B. (2007).
    Kynurenine pathway in major depression: evidence of impaired neuroprotection. Journal of affective disorders, 98(1-2), 143-51. [PubMed:16952400] [WorldCat] [DOI]
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    Predicting recovery from episodes of major depression. Journal of affective disorders, 107(1-3), 285-91. [PubMed:17920692] [PMC] [WorldCat] [DOI]

    Solomon, D.A., Keller, M.B., Leon, A.C., Mueller, T.I., Shea, M.T., Warshaw, M., ..., & Endicott, J. (1997).
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