人見健文
京都大学大学院医学研究科臨床神経学 (脳神経内科)
京都大学大学院医学研究科臨床病態検査学(検査部)
DOI:10.14931/bsd.9686 原稿受付日:2020年12月16日 原稿完成日:2021年1月29日
担当編集委員:山中 宏二(名古屋大学 環境医学研究所 病態神経科学)
英:myoclonus 独:Myoklonus 仏:myoclonies
ミオクローヌスは、主に中枢神経系の機能異常による突然の電撃的な,四肢・顔面・体幹などに生じる意識消失を伴わない不随意運動とされている。ミオクローヌスの分類は、病態生理によるものが比較的よく用いられている。上記の臨床症候に加えて電気生理学的手法を用いて病態を診断する。病態や原因に応じた対症療法も含めた治療が必要になる。予後に関しては、原因によりさまざまである。
緒言
ミオクローヌスという用語は、1881年Friedreichが用いたparamyoclonus multiplexという名称が短縮されたものと考えられている。
現在、ミオクローヌスは“中枢神経系の機能異常による突然の電撃的な、四肢・顔面・体幹などに生じる意識消失を伴わない不随意運動”と定義されている(動画)[1][2]。
瞬間的に起こる不随意運動という点では、不随意運動の中でけいれんにもっとも近い。ただし全身けいれん発作でみられるミオクロニー発作(myoclonic seizure)もこの定義に合致するが、この場合はミオクローヌスとは呼ばない[3]。ミオクロニー発作は、てんかん発作としての表現であり、通常両側あるいは全般性の1-2秒間以内の連続した四肢の筋収縮であり、1-2秒間の意識減損を伴うこともあり、単発のこともある。これが極めて断片化して出現したものが皮質性ミオクローヌスに相当し、そのために皮質性ミオクローヌスはてんかん性ミオクローヌスとも呼ばれる。ミオクローヌスは運動異常症の立場からの用語、ミオクロニー発作はてんかん学の立場からの用語ともいうことができる[4][5])。
なお、ミオクローヌスてんかんは、不随意運動としてのミオクローヌスとてんかん発作の両者を有するてんかん症候群である。
動画. ミオクローヌス Youtubeより。
診断
上記の様な突然の、電撃的な、四肢・顔面・体幹などに生じる意識消失をともなわない不随意運動があればミオクローヌスを疑い検査を行うことになる。明確な診断基準はなく、現在においても臨床症候に加えて表面筋電図などの電気生理学的手法を用いて診断する[6]。そのため類似する素早い動きを呈する不随意運動を除外することが診断上重要である[7](表1)。
不随意運動の種類 | 鑑別点 |
---|---|
線維束攣縮 | ミオクローヌスでは関節運動をともなうが、線維束攣縮は関節運動をともなわない。表面筋電図での筋活動はミオクローヌスより振幅が小さく、持続時間も短い。 |
ミオキミア | ミオクローヌスでは関節運動をともなうが、ミオキミアは関節の運動をともなわない。表面筋電図での筋活動は線維束攣縮と同様に低振幅で持続時間は短い。 |
振戦 | ミオクローヌスが基本的に不規則な筋収縮であるのに対し、振戦は律動的な不随意運動である。表面筋電図では、ミオクローヌスでは主動筋と拮抗筋が同時に活動しているのに対して、多くの振戦では主動筋と拮抗筋が交互に活動することが観察される。 |
チック | ミオクローヌスが1-2関節の一方向への単純な運動であるのに対し、チックは複数の関節に生じる多方向へ向かう運動の複雑な一連の組み合わせであることが多い。また、チックが随意的にある程度抑制可能である点も異なる。 |
舞踏運動 | 四肢遠位部優位に出現する比較的素早い運動だが、ミオクローヌスに比べると滑らかな不随意運動である。表面筋電図では1~数秒単位の筋放電がバラバラに出現する。運動が断続的で複雑であることもミオクローヌスとの違いである。 |
バリズム | 上肢または下肢を近位から全体を振り回すような大きく激しい不随意運動である.比較的常同的で3Hz程度の周期性をもって現れることが多い。表面筋電図では四肢の近位筋に持続時間の長い筋放電を認める。運動が常同的、周期的で関節運動としてもやや複雑である点がミオクローヌスと異なる。 |
しかし実臨床の場では、本邦で比較的よく認められる成人発症のミオクローヌスてんかんである良性成人型家族性ミオクローヌスてんかん(benign adult familial myoclonus epilepsy: BAFME)で出現する皮質振戦のように、不随意運動がミオクローヌスと振戦の両者の特徴をあわせもつ場合[8]がある。
また、ミオクローヌスジストニア(DYT11)の様にミオクローヌスが運動障害の主たる原因となるが、ジストニアも有するなど複数の不随意運動が併存する疾患[9]もあることにも留意する必要がある。複数の不随意運動が混在あるいは併存していると考えられる場合には、あえて1つにまとめようとせず、観察される不随意運動を出来るだけ正確に記載することが、後々の診断において有用であると考えられる。
ミオクローヌスと診断後、その原因疾患の精査となる[7])。ミオクローヌスはさまざまな疾患や薬剤の副作用などで認められる(表2)[10])。また原因疾患の一部では、原因遺伝子も判明している(表3)[10])。最近の知見としては、良性成人型家族性ミオクローヌスてんかんの原因はSAMD12などの遺伝子のイントロンにおけるTTTCA あるいは TTTTAリピートの異常伸長であることが本邦から報告された[11])。またリピートの異常伸長の程度とてんかん発作の発症年齢が逆相関すること(表現促進現象)も明らかとなった[11])。このことは臨床的に報告されていた知見[12])を裏付ける結果であった。
病型 | 原因 |
---|---|
生理的ミオクローヌス | 睡眠時ミオクローヌス、不安誘発性ミオクローヌス、運動誘発性ミオクローヌス、吃逆 |
本態性ミオクローヌス | 家族性本態性ミオクローヌス、孤発性本態性ミオクローヌス |
てんかんに合併するミオクローヌス | |
てんかん発作の部分症状 | 孤発性のてんかん性ミオクローヌス、持続性部分てんかん、光過敏性ミオクローヌス、特発性刺激過敏性ミオクローヌス、ミオクローヌス性欠神発作 |
小児発症のミオクロニーてんかん | 点頭てんかん、レノックス・ガストー症候群、小発作、若年ミオクロニーてんかん |
進行性ミオクローヌスてんかん(蓄積症を除く) | ウンフェルリヒト・ルンドボルグ病、ミトコンドリア脳筋症、良性成人型家族性ミオクローヌスてんかん |
症候性ミオクローヌス | |
各種蓄積症に伴うミオクローヌス | ラフォラ病、リピドーシス、セロイドリポフスチノーシス、シアリドーシス |
小脳失調に伴うミオクローヌス | フリードライヒ運動失調症、ルイ・バー症候群、脊髄小脳変性症 |
基底核変性に伴うミオクローヌス | ウィルソン病、捻転ジストニア、Pantothenate-kinase-associated neurodegeneration (PKAN)、進行性核上性麻痺、ハンチントン病、 皮質基底核変性症 |
認知症に伴うミオクローヌス | クロイツフェルト・ヤコブ病、アルツハイマー型認知症 |
脳炎・脳症に伴うミオクローヌス | 亜急性硬化性全脳炎、嗜眠性脳炎、アルボウィルス脳炎、単純ヘルペス性脳炎、HIV脳症、感染後脳症、ウィップル病、ランス・アダムス症候群 |
代謝性疾患・全身疾患に伴うミオクローヌス | 肝不全、腎不全、透析症候群、低ナトリウム血症、低血糖、非ケトン性高血糖、熱射病、感電、潜水病 |
薬剤性・中毒性脳症に伴うミオクローヌス | 中毒性物質、精神科用薬、抗菌薬・抗ウィルス薬、麻薬、抗けいれん薬、麻酔薬、造影剤、循環器病薬, |
傍悪性腫瘍症候群に伴うミオクローヌス | オプソクローヌス多発ミオクローヌス症候群 |
局所性中枢神経障害に伴うミオクローヌス | 脳血管障害、腫瘍、外傷、脊髄外傷 |
疾患名 | 原因遺伝子 |
---|---|
ウンフェルリヒト・ルンドボルグ病 | EPM1 (CSTB) |
赤色ぼろ線維・ミオクローヌスてんかん症候群 (MERRF) | tRNA |
ハンチントン病 | IT15 (Huntingtin) |
歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症 (DRPLA) | Atrophin1 |
ラフォラ病 | EPM2A, EPM2B |
神経細胞内セロイドリポフスチン症 (NCL) | |
type 2 (late infantile type) | CLN2 (TPP1) |
type 3 (juvenile type) | CLN3 |
type 4 (adult type) | CLN4 |
type 5 (late infantile Finnish variant type) | CLN5 |
type 6 (variant late infantile type) | CLN6 |
ゴーシェ病 | GBA |
シアリドーシス | NEU1 |
GM2ガングリオシドーシス | HEXA |
クロイツフェルト・ヤコブ病 (一部) | プリオンタンパク質遺伝子 |
若年ミオクロニーてんかん (一部) | EFHC1 |
良性成人型家族性ミオクローヌスてんかん (一部) | SAMD12 |
病態生理
病態生理によってミオクローヌスを分類すると、表4のようになる。大脳皮質の異常によるものは皮質性ミオクローヌス、基底核や脳幹部などの異常によるものを皮質下性ミオクローヌス、脊髄由来のものを脊髄性ミオクローヌスと分類する。実際には皮質性ミオクローヌスと皮質下性ミオクローヌスは共存することが多い。また,器質性の疾患を伴わない心因性ミオクローヌスも存在する[13]。
皮質性ミオクローヌス | 皮質反射性ミオクローヌス 自発性皮質性ミオクローヌス 持続性部分てんかん |
皮質下性ミオクローヌス | 網様体反射性ミオクローヌス |
脊髄性ミオクローヌス | |
心因性ミオクローヌス |
皮質性ミオクローヌス
大脳皮質一次感覚運動野の神経細胞の異常により生じる。非常に持続時間の短い不規則な筋収縮で、姿勢時や運動時に出現しやすく,しばしば刺激過敏性を認める。“てんかん性ミオクローヌス”と病態生理的に考えられ、てんかん発作をともなうものも多い。
皮質性ミオクローヌスはさらに3種類の亜型に分類される。刺激過敏性があり、体性感覚、聴覚、視覚刺激などで誘発される場合は皮質反射性ミオクローヌス、刺激に無関係に自発的に生じているものを自発性皮質性ミオクローヌス、自発性であっても身体の一部に限局し、持続性にミオクローヌスが生じている場合には持続性部分てんかんと分類している。皮質性ミオクローヌスをきたす疾患としては、進行性ミオクローヌスてんかん、良性成人型家族性ミオクローヌスてんかん、クロイツフェルト・ヤコブ病、無酸素脳症後のミオクローヌス(Lance-Adams症候群)、皮質基底核変性症などの各種変性疾患、各種代謝性脳症などがある(表2)。このうちクロイツフェルト・ヤコブ病、Lance-Adams症候群などでは皮質下性ミオクローヌスも呈する。
皮質下性ミオクローヌス
大脳皮質より下位、脊髄より上位の中枢神経系の異常により生じる。刺激過敏性が有るものも無いものも存在する。安静時に多く、時に規則的、周期的に認める。皮質下性ミオクローヌスのなかで、病態が比較的明らかなものとしては、脳幹部起源で刺激に誘発されるものとして、網様体反射性ミオクローヌスがある。しかし,皮質下性ミオクローヌスには病態不明なものが多く、その概念は整理されているとはいいがたい。皮質下性ミオクローヌスをきたす疾患としては、Creutzfeldt-Jakob病、亜急性硬化性全脳炎、Lance-Adams症候群、脳幹梗塞などがある。
脊髄性ミオクローヌス
脊髄の異常により生じる。刺激過敏性は認めないことが多い。脊髄の分節に一致して生じ、周期性が存在することが多い。脊髄性ミオクローヌスは、炎症、腫瘍、外傷などの各種の脊髄病変で認められる。
心因性ミオクローヌス
ミオクローヌスと同様の不随意運動は心因性にも生じる.器質的疾患が除外された際には,心因性ミオクローヌスを考慮する必要がある。
治療
それぞれの患者の病態に応じて治療を選択する。しかし原因疾患により薬剤難治性のミオクローヌスの場合には多剤併用療法が有用である。非薬物療法としては、難治性のミオクローヌスに対して定位視床腹中間核手術が有効であったとの報告がある。またてんかん発作に伴うミオクローヌスの一部ではてんかん焦点切除術や脳梁離断術などの外科的治療が有効である。当然ながら侵襲的な治療の適応は慎重に判断する必要がある。
皮質性ミオクローヌス
各種抗てんかん薬が有効で、多剤併用療法がより効果的である。クロナゼパムやバルプロ酸が広く使用されている。抗てんかん薬のプリミドン、ゾニサミド、新規抗てんかん薬としてはレベチラセタムや抗ミオクローヌス薬であるピラセタムも皮質性ミオクローヌスに有効である。また新規抗てんかん薬であるペランパネルもてんかんおよびも皮質性ミオクローヌスに有効であることが最近報告された[14]。なお持続性部分てんかんと考えられる場合にはてんかん重積状態として治療を行う。
抗てんかん薬のフェニトインは皮質性ミオクローヌスに有効だが、長期的には進行性ミオクローヌスてんかんの1つであるウンフェルリヒト・ルンドボルグ病において平均寿命を短縮し認知機能低下を来たすことが報告されており長期使用には慎重を要する[15]。カルバマゼピンも一般に皮質性ミオクローヌスに有効だが、増悪例も報告されている。ガバペンチンも良性成人型家族性ミオクローヌスてんかんの増悪例が報告されている[16]。
皮質下性ミオクローヌス
クロナゼパム、バルプロ酸、ピラセタム、プリミドンなどの有効性も一部の皮質下性ミオクローヌスで報告されている.
脊髄性ミオクローヌス
クロナゼパム、カルバマゼピン、バクロフェンなどが有効である.一般に原疾患の治療が基本となる.
疫学
ミオクローヌスの頻度に関する研究はその原因の多様性によるためかほとんどないのが現状である。米国の特定地域における持続する病的なミオクローヌスの生涯発症率は、人口10万人あたり8.6人という報告がある[17]が、過小評価である可能性がある。また本邦で報告されている高齢者の一過性羽ばたき振戦ミオクローヌスなど一過性のミオクローヌスを来たす病態[18]も含めると、脳神経疾患を扱う施設においては比較的遭遇することの多い不随意運動と考えられる。
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