麻薬
酒井 寛泰、成田 年
星薬科大学 薬学部 薬学科
DOI:10.14931/bsd.3553 原稿受付日:2013年3月26日 原稿完成日:2013年4月30日 全面改訂:2021年6月18日
担当編集委員:加藤 忠史(独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)
英語名:narcotics 独:Suchtstoff 仏:narcotique
麻薬とは、法律で規制された薬物を指す定義と薬理学な定義がある。さらに麻薬は、使用目的によって2つに分類される。1つは有効性/安全性が確認され国が承認した合成あるいは天然の薬物であり、医師が必要に応じて処方できる医療用麻薬である。代表的な医薬品として鎮痛薬であるモルヒネ等がある。もう1つは違法に取引されている化学物質や薬物である。一時的な快楽のため不正に使用されることがあり、乱用や依存の危険性が高いために、医療用としての使用も許可されていない。代表的な不正麻薬としてコカイン、ヘロイン、3,4-メチレンジオキシメタンフェタミン (MDMA)、リゼルギン酸ジエチルアミド (LSD) 等がある。
歴史
歴史上、麻薬という言葉は、あへん剤のことを指していた。あへん剤とは、モルヒネ、ヘロイン、コデインなど、けしの実から抽出されるアルカロイドを合成した薬剤のことである。昏迷状態を引き起こす中枢抑制薬であり、酩酊・多幸感などをもたらす一方、強力な依存性があり、身体は急速に耐性を形成する。その依存性の強さから、麻薬の製造や流通は法律で厳しく規制されている。
歴史をたどると紀元前に遡り、メソポタミア文明から、けしの栽培、あへんの精製が行われていた。ギリシャ神話においてもけしの記載があり、ローマ時代には頭痛、難聴、痙攣、喘息、咳、疝痛、発熱、メランコリーの治療ならびに贅沢品としてあへんが使用され、中世には、手術の際の鎮痛薬として使用された記載がイタリアの文献にある。
中国では、大麻が成分とされる「麻沸散」と呼ばれる麻酔薬を使って腹部切開手術を行った記載が三国志にある。さらに「本草綱目」(1892 種の本草(生薬)について薬効などを詳しく記述されている文献)では阿片を主薬とする「一粒金丹」という製剤の記載があり、万能薬として用いられた。日本では、1804 年に華岡青洲が麻沸散(別名:通仙散)による全身麻酔下で乳癌摘出手術に成功したといわれている。1803 年にドイツの薬剤師であるSertürner があへんからモルヒネの単離にはじめて成功した。
このように、人類は紀元前よりオピオイドの鎮痛作用や陶酔作用といった効果を知っていたが、その薬理作用の仕組みが理解されるようになったのは 20 世紀後半からである。研究者達はなぜ植物由来の成分が動物や人間の生体内でこれほど強い効果を引き出すことができるのかという素朴な疑問を持ち続け、それは次第に “モルヒネ感受性受容体の存在” という概念にたどり着いた。1971 年、Goldstein はオピオイド受容体の発見の基になる報告をし (Ref. 1)、1973 年にそれぞれ、Snyder と Pert (Ref. 2)、Simon (Ref. 3)、Terenius (Ref. 4) の3つのグループからオピオイド受容体の存在が提唱され、広く研究者の間で受け入れられるようになった。1975 年には Hughes と Kosterlitz ら (Ref. 5) がエンケファリンを発見し、さらに、1979 年に Goldstein と Tachibana ら (Ref. 6) がダイノルフィンを抽出し、生体内に存在するモルヒネ様物質、いわゆる“内因性オピオイド”が発見された。
オピオイド受容体は 、 および に大別され、これら 3種のオピオイド受容体の研究がもっとも盛んに行われてきた。オピオイド受容体遺伝子のクロ−ニングは他の受容体と比べて遅く、1992 年になって Evans らと Kieffer らのグループがそれぞれ、 受容体のクロ−ニングに成功した (Ref. 7 and 8)。 受容体のクロ−ニング後、PCR 法によるホモロジーを利用した研究によって および 受容体のクロ−ニングの成功が相次いで報告された。
不正薬物
「覚醒剤取締法」、「大麻取締法」、「麻薬及び向精神薬取締法」、「あへん法」等により法律で厳しく規制されている薬物である(図1)(Ref. 9)。
覚醒剤
「覚醒剤取締法」では、一般名メタンフェタミン、アンフェタミン及びその塩類並びにこれらを含有する物を「覚醒剤」として規制の対象としている。覚醒剤は、主に麻黄(マオウ)という植物から抽出されたエフェドリン等を原料として、化学的に合成して製造され、形状は主に白色の粉末や無色透明の結晶で、無臭でやや苦みがある。覚醒剤には、中枢神経を興奮させる作用があり、乱用すると眠気や疲労感がなくなり、頭が冴えたような感じになる。しかし、そのような効果は数時間で切れ、その後は激しい脱力感、疲労感、倦怠感に襲われる。
覚醒剤は、特に依存性が強く、乱用を続けると、「覚醒剤精神病」の状態になり、幻覚や妄想が現れるほか、時には錯乱状態になって、発作的に他人に暴行を加えたり、殺害したりすることがある。このような症状は、乱用を止めても長期間にわたって残る危険性がある。また、大量の覚醒剤を摂取すると、急性中毒により、全身けいれんを起こし、意識を失い、最後には脳出血で死亡することもある。
大麻
大麻とは、アサ科の1年草である大麻草とその製品をいい、「大麻取締法」で規制されている。大麻を乱用すると一般的には、心拍数の増加、結膜の充血、口の渇き、吐き気、めまい、筋力の低下、平衡感覚の障害などの身体症状が現れる。精神症状としては、気分が快活、陽気になり、よくしゃべるようになると言われているが、その一方で視覚、聴覚、味覚、触覚等の感覚が過敏になり、変調をきたしたり、現在、過去、未来の観念が混乱して思考が分裂し、感情が不安定になる。このため、興奮状態に陥って暴力や挑発的な行為を行うことがあり、さらには幻覚や妄想等に襲われるようになる。これらの症状は、「大麻精神病」といわれる。また、無気力になり何もやる気のない状態となる「無動機症候群」に陥ることもある。初めての乱用で大量の大麻を摂取すると、意識障害を伴う中毒性精神病の状態になることがある。大麻の常用は、生殖機能に支障を来し、不妊、流産、胎児の死亡、染色体異常の原因となる可能性も知られている。
MDMA/MDA
MDMA (3,4-Methylene-dioxymethamphetamine)、MDA (3,4-Methylene-dioxyamphetamine) は、覚醒剤と似た化学構造を有する薬物で、けしやコカ等の植物からではなく、他の化学薬品から合成された麻薬の一種で、「麻薬及び向精神薬取締法」で麻薬として規制されている。MDMA と MDA の薬理作用は類似しており、視覚、聴覚を変化させる作用があるが、その反面、不安や不眠などに悩まされる場合もある。また、強い精神的依存性があり、乱用を続けると錯乱状態に陥ることがあるほか、腎・肝臓機能障害や記憶障害等の症状も現れることがある。
コカイン
コカインは、南米産のコカの木の葉を原料とした薬物で、無色の結晶又は白色の結晶性粉末で、無臭で苦みがあり、「麻薬及び向精神薬取締法」で麻薬として規制されている。コカインは、鼻粘膜からの吸引のほか、経口による方法で乱用されている。コカインには、覚醒剤と同様に中枢神経を興奮させる作用があるため、気分が高揚し、眠気や疲労感の脱却から体が軽く感じられ、腕力、知力がついたという錯覚が起こる。しかし、覚醒剤に比べて、その効果の持続時間が 30 分程度と短いため、精神的依存が形成されると、一日に何度も乱用するようになる。乱用を続けると、幻覚等の症状が現れ、“誰かに狙われている”、“警察に尾行されている”という強烈な不安に襲われる。これらの症状は、「コカイン精神病」と呼ばれている。
ヘロイン
ヘロインは、けしを原料とした薬物で、けしの実からあへんを採取し、複数の工程を経て精製され、「麻薬及び向精神薬取締法」で麻薬として取り扱いを厳しく規制されている。 ヘロインは、静脈注射のほか、火であぶって煙を吸う方法、吸引具により吸引する方法、経口による方法で乱用されている。ヘロインには神経を抑制する作用があり、乱用すると強い陶酔感を覚えることから、このような快感が忘れられず、乱用を繰り返すようになり、強い精神的依存が形成される。さらに、強い身体的依存も形成され、2~3時間ごとに摂取しないと、体中の筋肉や関節に激痛が走り、骨がバラバラになって飛散するかと思うほどの痛み、悪寒、嘔吐、失神などの激しい禁断症状に苦しむことになる。ショック状態に陥ると、昏睡状態から呼吸停止、死に至る場合もある。
あへん
あへんは、けしから採取した液汁を自然に凝固させたもの及びこれに加工を施したもの(医薬品としての加工を施したものを除く。) で、黒褐色で特殊な臭気(アンモニア臭)と苦味がある。原料である、けしの栽培やあへんの採取、あへん及びけしがら(けしの麻薬を抽出することができる部分)の輸出入、所持等は「あへん法」により規制されている。あへんは、調整したあへん煙膏として特殊なキセルに塗って炎にかざし、出てきた煙を吸引する方法や、経口による方法で乱用される。あへんには中枢神経を抑制する作用があり、乱用すると強い陶酔感を覚え、精神的、身体的依存性を生じやすく、急性中毒では、呼吸抑制、縮瞳、チアノーゼ状態となり、昏睡から呼吸麻痺の結果、死に至る。常用により慢性中毒症状を起こし、脱力感、倦怠感を感じるようになり、やがては精神錯乱を伴う衰弱状態に至る。
LSD
LSD(化学名:lysergic acid diethylamide; リゼルギン酸ジエチルアミド) は、合成麻薬の一種で、「麻薬及び向精神薬取締法」の規制の対象とされ、水溶液をしみこませた紙片、錠剤、カプセル、ゼラチン等があり、経口又は飲み物とともに飲むなどして乱用されている。LSD を乱用すると、幻視、幻聴、時間の感覚の欠如などの強烈な幻覚作用が現れる。特に幻視作用が強く、ほんのわずかな量だけで物の形が変形、巨大化して見えたり、色とりどりの光が見えたりする状態が 8~12 時間続く。また、乱用を続けると、長期にわたって神経障害を来す。
医療用麻薬-オピオイド
Opium(オピウム)は日本語であへんのことであり、けしの果実から抽出される。元来、鎮痛薬として使用されてきたが19世紀に入るとその嗜好性、習慣性から医薬用外で大流行したため、鎮痛作用や鎮咳作用よりも「麻薬」という悪いイメージだけが残ってしまっていた。しかし、あへんからのモルヒネの単離精製に成功したことで、モルヒネ様作用をもつ薬剤の研究開発が進み、モルヒネやコデインといったあへんからの精製物を opium、半合成誘導体を opiate(オピエート)、あへん様合成薬剤を opioid(オピオイド)と呼び分けた。
現在では、「オピオイド」 と言う呼び名は、中枢神経や末梢神経に存在する特異的受容体(オピオイド受容体)への結合を介して作用を発現するモルヒネに類似する作用を持つ物質の総称として使われ、植物由来の天然のオピオイド、合成・半合成のオピオイド、体内で産生される内因性オピオイド(エンケファリン、ダイノルフィン、-エンドルフィン)などの分類が一般的となっている。医療用麻薬はオピオイドと位置づけられるが、オピオイドではない医療用麻薬もある。
ケタミンはオピオイドではない医療用麻薬である(2007年1月1日から麻薬指定)。従って、ケタミンは麻薬性非オピオイド鎮痛薬に分類される。
種類
本邦にて臨床で汎用されるオピオイドにはモルヒネ、オキシコドン、フェンタニル、レミフェンタニル、ヒドロモルフォン、メサドン、トラマドール(非麻薬)、タペンタドール、コデイン、ペンタゾシン (非麻薬)、ブプレノルフィン (非麻薬)などがある (図2)。
モルヒネ
モルヒネは数ある強オピオイドのなかでもっとも歴史が古く、もっとも研究されている薬物で、すべてのオピオイドの原点であり基本となる。剤形も多く、内服薬、坐剤、注射薬があり投与経路の変更なども同一薬剤で行いやすい。このモルヒネがあへんに代わって広く使われるようになったのは20世紀に入ってからであるが、依存性の問題などから長い間「危険な薬」として考えられてきた。
しかし、1986年にWHOががん疼痛治療の成績向上を目指して作成されたモルヒネを主軸とした「WHO方式がん疼痛治療法」を普及するために、「がんの痛みからの解放」の第1版を発表した。そのため、モルヒネはがんの痛みに積極的に使用すべき有効でかつ、安全な医薬品であると提唱された。臨床において広く使われるようになった一方で、眠気や便秘、悪心・嘔吐などの副作用が臨床上問題となっている。
オキシコドン
オキシコドンは、あへんに含まれるアルカロイドのテバインから合成される半合成テバイン誘導体であり、強オピオイドに分類される。体内に入ると代謝酵素であるCYP2D6 によりオキシモルフォンへ、CYP3A4 によりノルオキシコドン(非活性)へとそれぞれ代謝される。オキシモルフォンは活性代謝産物であり、その鎮痛効果はオキシコドンより強力であるが、AUCはオキシコドンの約1%程度と低いため、臨床上問題とはならない。また、ノルオキシコドンは薬理活性がほとんどない。したがってオキシコドンの代謝物の影響はほとんどないと考えられる。薬理学的評価における臨床所見はオキシコドンの血中濃度と相関し、鎮痛作用はオキシコドンそのものによってもたらされる (Ref. 10)。
フェンタニル
フェンタニルは1959年にモルヒネ系薬物とは化学構造の異なる4-anilidopiperidine 系鎮痛薬として合成された合成麻薬であり、強オピオイドである。フェンタニルの効果は、モルヒネまたはペチジンと比較すると極めて強力な鎮痛作用を有する。また、フェンタニルの安全域はモルヒネやペチジンに比べて大きいのも特徴である。静脈内投与した場合、フェンタニルの鎮痛作用はモルヒネの約50~100 倍である。
また、フェンタニルは、経皮、皮下、口腔粘膜、静脈内、硬膜外、くも膜下腔内と多くの投与経路を持つ。 静脈内投与したフェンタニルが最大鎮痛効果に達する時間は約5分とモルヒネや他のオピオイドと比較して速効性がある。脂溶性が高く比較的分子量が小さいため、皮膚吸収が良好であり、貼付剤としても頻用されている。フェンタニルは肝臓でCYP3A4によってN-脱アルキル化と水酸化によって代謝を受け、ほとんど薬理学的活性のない代謝産物ノルフェンタニルとなり、大部分が尿中に排泄される。活性代謝産物がほとんどないため、腎機能の悪化した患者でも蓄積作用による悪影響を及ぼしにくいとされている。
レミフェンタニル
レミフェンタニルは,超短時間作用型の合成オピオイドであり、フェンタニルと同様、-オピオイド受容体に対する選択性が非常に高い。作用発現時間が数分と非常に速くかつ非特異的エステラーゼにより速やかに代謝されるため血中半減期も 3〜10 分と非常に短い。長時間投与後の蓄積性がなく、持続静注が可能なため、術中および術後鎮痛の目的で使用される。
ヒドロモルフォン
ヒドロモルフォンは、日本では、2017 年に経口の徐放製剤および即放製剤が、2018 年に注射製剤が承認されたが、海外においては昔から販売されている麻薬性鎮痛剤であり、WHO のがん疼痛治療のためのガイドライン等において疼痛管理の標準薬に位置付けられている。化学構造的にはモルヒネとわずかに異なる構造を持つが、モルヒネよりも強力な効果を示し、従来のオピオイドとは異なる。また、ヒドロモルフォンは主にグルクロン酸抱合によりヒドロモルフォン-3-グルクロニドに代謝されるが、この代謝物は活性が非常に低いため腎臓への影響が少なく、腎機能が低下した患者でも使用できる。
メサドン
メサドンは、合成ジフェニルヘプタン誘導体の強オピオイドであり、モルヒネ、オキシコドン、フェンタニル等の強オピオイドでは治療困難な疼痛を伴う各種がん疼痛患者に対して使用が可能となっている。また、NMDA 型グルタミン酸受容体拮抗作用、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み作用により神経障害性疼痛にも有用である可能性も示唆されている。一方、他のオピオイドに比べ、呼吸抑制および 心電図上QT 延長の副作用が多いと考えられている。本邦においてその処方開始にあたっては、「がん疼痛の治療に精通し,メサドンのリスク等について十分な知識をもつ医師のもとで、適切と判断された症例にのみ投与されること」などのいくつかの制限が設定されている。
トラマドール
トラマドール (非麻薬性オピオイド)自体は オピオイド受容体に対する親和性は低いが、代謝物のモノ-O-脱メチル化体 (M1) が高い親和性を有し、トラマドールの鎮痛作用に寄与している。こうした背景から、トラマドールは、非麻薬性のオピオイドに分類される。また、セロトニンおよびノルアドレナリン再取り込み阻害作用を併せ持つため、その相乗効果により鎮痛作用を発揮すると考えられている。トラマドール自体は精神依存ならびに鎮痛耐性を形成しにくく、セロトニンおよびノルアドレナリン再取り込み阻害作用も有することから、非がん性の慢性疼痛やオピオイド抵抗性を示すような神経障害性疼痛への有効性も期待されている。
タペンタドール
タペンタドールは、トラマドールの -オピオイド受容体活性とノルアドレナリン再取り込み阻害作用を持ち合わせ、セロトニン再取り込み阻害作用はほとんど有さない強オピオイド鎮痛薬である。μオピオイド受容体作動活性は他の強オピオイドに比べやや弱いものの、ノルアドレナリン再取り込み阻害作用を併せ持つため、侵害受容性疼痛だけでなく、神経障害性疼痛への効果も期待されている。
さらに、モルヒネやオキシコドンに比べて便秘、悪心・嘔吐などの消化器症状の副作用が少ないことが報告されている。また、タペンタドールは、主に肝臓でグルクロン酸抱合により非活性代謝物に代謝された後にほとんどが排泄されることから、腎障害時においてもモルヒネ、オキシコドン、トラマドールと比べて安全に使用できる上に、CYP による代謝をほとんど受けないため薬物相互作用が少ない。
コデイン
コデイン自体の オピオイド受容体に対する親和性はモルヒネに比べて低く、約10%が肝臓で CYP2D6 により O-脱メチル化されてモルヒネとなることで鎮痛作用を発揮する。一方、コデインは強力な鎮咳作用を有するため中枢性鎮咳薬としてもよく用いられる。
ペンタゾシン
ペンタゾシン (麻薬拮抗性鎮痛薬; µ受容体部分作動薬、非麻薬であり第2種向精神薬)は κ-オピオイド受容体に対しては作動薬として作用すると考えられているが、 オピオイド受容体に対しては部分作動薬として作用するため、麻薬拮抗性鎮痛薬とも呼ばれる。その鎮痛作用は、主に µオピオイド受容体を介して発現するが、一部は κオピオイド受容体も介している可能性がある。µオピオイド受容体に対しての部分作動薬としての性質から、鎮痛作用においては有効限界 (天井効果) を有し、また、モルヒネなどの完全作動薬からの切り替え時に退薬症候を誘発する可能性がある。
ブプレノルフィン
ププレノルフィン(麻薬拮抗性鎮痛薬; µ受容体部分作動薬、非麻薬であり第2種向精神薬)は、μオピオイド受容体に対してほぼ不可逆的に結合性を有する部分作動薬であり、κオピオイド受容体に対しても部分作動薬として作用するため、麻薬拮抗性鎮痛薬とも呼ばれる。低用量から強い鎮痛効力を持つが、天井効果を有する。両オピオイド受容体に対して高親和性を有し、受容体からの解離が遅いため、長時間の作用を示す。注射剤および坐剤、テープ剤が用いられる。
対象疾患
手術中の痛み、術後痛、外傷痛、がん疼痛、神経障害性疼痛などに見られる、長期間続く慢性痛に対して鎮痛薬として用いられている。
鎮痛効果発現機序
オピオイドが結合する特異的受容体には 、 および の3 つのtypesのオピオイド受容体 (opioid receptor: OR) がある。-OR (μオピオイド受容体)、-OR (オピオイド受容体) および -OR (オピオイド受容体) は、すべてGTP結合蛋白質(G蛋白質)と共役する7回膜貫通型受容体(GPCR)である。これらオピオイド受容体タイプ間の相同性は高く(全体で約60%)、特に細胞膜貫通領域では非常に高い。いずれの受容体も基本的にGi/o蛋白質と共役しており、オピオイド受容体の活性化後、さまざまな細胞内情報伝達系が影響を受け、神経伝達物質の遊離や神経細胞体の興奮性が低下するために神経細胞の活動が抑制される。
これらの中で鎮痛作用に関して最も重要な役割を果たすのが µ オピオイド受容体である。、 および の3 つのタイプのオピオイド受容体に対する親和性および鎮痛効果 (potency) は個々の薬物によって異なる (図3)。µ-オピオイド受容体を介する鎮痛効果発現機序には下記の3つの経路が知られている(図4)。
一次知覚神経からの痛覚伝達の抑制
µ オピオイド受容体作動薬は、脊髄後角に存在する オピオイド受容体を介して一次知覚神経末端からの痛覚伝達物質の遊離を抑制する(前膜抑制)。また、オピオイド受容体の活性化によって脊髄後角神経が直接抑制され(後膜抑制),痛覚伝達が遮断される。
下行性抑制系の賦活
-オピオイド受容体作動薬は、中脳や延髄領域に存在する オピオイド受容体を介して下行性抑制系であるセロトニンおよびノルアドレナリン神経系などを賦活し、脊髄での痛覚伝導を遮断して鎮痛効果を発現する。µオピオイド受容体作動薬は、中脳水道周囲灰白質 (PAG) 、縫線核 (背側縫線核 (DR) や大縫線核 (NRM) など) 、吻側延髄内腹側部 (RVM)、青斑核 (LC) において、主として GABA 神経上に存在する オピオイド受容体を活性化することで、GABA 神経を抑制し、GABA の遊離を抑制 (脱抑制) することによって、これらの領域を起始核とした下行性の神経系を活性化する(下行性痛覚抑制系の賦活化)。脊髄後角に投射しているこれらの下行性の神経系は、一次知覚神経から痛覚伝達物質の遊離を抑制する。また、これらの神経系は、脊髄後角の後膜を直接抑制して痛覚伝達を遮断すると考えられている。
視床中継核/視床下部/大脳知覚領における痛覚伝達や痛覚発現の抑制
視床中継核/視床下部/大脳知覚領に存在するµオピオイド受容体作動薬は,二次/三次知覚神経を介する痛覚の伝導路 (主に視床脊髄路) において、脳内 (主に視床) のµ オピオイド受容体を活性化することで、大脳皮質の体性感覚野や帯状回領域への痛覚伝達を遮断する。
麻薬拮抗薬 (µ受容体拮抗薬)
ナロキソン
オピオイド受容体に対して結合するが、鎮痛効果などの内活性を全く示さない拮抗薬である。高用量においてδおよびκオピオイド受容体に対しても拮抗作用を示すことが知られている。臨床においては、ナロキソンは、モルヒネやフェンタニルなどの μオピオイド受容体作動薬による呼吸抑制などの急性中毒を解除する目的で使用される。
ナルデメジン
ナルデメジンは,オピオイド誘発性便秘症 (opioid-induced constipation: OIC) の治療薬として、2017年に承認された末梢性 オピオイド受容体拮抗薬である。多くのオピオイド鎮痛薬は、脊髄や脳内に存在する中枢の オピオイド受容体に作用し、強い鎮痛効果を示すが、腸管に存在する末梢のμオピオイド受容体にも作用することで強い便秘症状を引き起こす。ナルデメジンは、血液脳関門を通過しにくいので、主に末梢の μオピオイド受容体に結合し、強オピオイドの鎮痛作用を減弱させることなく便秘症状を緩和する。
がん疼痛におけるオピオイド投与の有効性
近年、「がんの患者に早期から疼痛緩和ケアを導入すると、生存期間が延長する」という注目すべき研究結果が発表された (Ref 11)。がん疼痛は、がんによる知覚神経終末の刺激を伴う侵害受容性疼痛とがんによる神経の圧迫や浸潤に伴って引き起こされる神経障害性疼痛に大別され、それらが複合的に生じる。がん性疼痛治療のなかでオピオイドはもっとも重要な薬剤であり、他の鎮痛薬と同じように「痛み」に対して使用を躊躇することがあってはならない。がん疼痛の治療にあたっては、基本的に WHO の三段階がん疼痛治療指針に従って行うべきである。WHO の三段階がん疼痛治療指針は、痛みの強さによって選択するという原則があることを忘れてはならない。がん疼痛の治療にあたっては、痛みの強さや治療による痛みの消長について患者が感じていることに積極的に耳を傾けることが重要である。患者の訴えと医療側の考えに大きな差があるときは、処方内容をどう改訂したかを患者に知らせ、その結果の除痛状態を必ず患者に聞くことを心がける。
一方、このがん疼痛の約 30% に認められる神経障害性疼痛は、モルヒネをはじめとするオピオイド鎮痛薬が効きにくいことが多く、臨床上問題となる。一方、モルヒネは神経障害性疼痛下においても、脊髄腔内投与では十分な鎮痛効果をもたらす可能性が高い。
依存性
オピオイドには慢性投与により精神・身体依存ならびに耐性が生じるが、痛みが生じている時には形成されにくい。
精神依存
脳内のドパミン神経系には、黒質-線条体系と腹側被蓋野から側坐核に投射している中脳辺縁系などがある。このうち、情動や陶酔感の発現には中脳辺縁系のドパミン神経が関与していることが明らかにされている。
モルヒネは中脳辺縁系の細胞体が存在する腹側被蓋野に高密度に分布する µ オピオイド受容体を介し、介在ニューロンである抑制性の -アミノ酪酸 (GABA) 神経系を抑制して、中脳辺縁ドパミン神経系の活性化を引き起こす。活性化された中脳辺縁ドパミン神経系は、その投射先である側坐核からドパミンの著明な遊離を引き起こし、これがオピオイドによる多幸感発現や精神依存形成の引き金になっていると考えられている。中脳辺縁ドパミン神経系の起始核である腹側被蓋野には、抑制性 GABA 神経が投射しており、ドパミン神経系を抑制的に調節している。オピオイドはこの GABA 神経上に存在する µ オピオイド受容体に作用して、抑制性 GABA 神経を抑制し、GABA の遊離を抑制する(脱抑制)。その結果、ドパミン神経系が活性化され、中脳辺縁系の投射先である側坐核においてドパミンが過剰に遊離し、精神依存が引き起こされると考えられている。
また、側坐核ではダイノルフィン神経系が オピオイド受容体を介してドパミンの遊離を抑制的に制御している。炎症性疼痛下では側坐核において オピオイド受容体の機能亢進が引き起こされることにより、オピオイドによるドパミン遊離量増加が抑制される。また、神経障害性疼痛下では、脊髄からの持続的な疼痛刺激により、腹側被蓋野においてβ-エンドルフィンが持続的に遊離され、GABA 神経上におけるμオピオイド受容体の機能低下が誘導される。その結果、ドパミン神経系の活性化が引き起こされにくくなり、オピオイドによるドパミン遊離量増加が抑制される。このような一連の変化により、炎症性疼痛および神経障害性疼痛下では、モルヒネの精神依存が形成されにくいと考えられる (Ref. 12)。一方、オピオイドの過量投与や痛みがないときにオピオイドを投与すると精神依存が誘発されるので、適量のオピオイドの適切な使用が強く求められている。
身体的依存
投与中止によって退薬症候(発熱、下痢、散瞳、不安等)を誘発することがある。海外においては、オピオイド依存症患者に対してメサドン代替療法を行う。麻薬拮抗薬は禁断症状を誘発してしまう。オピオイドを急激に減量すると、青斑核から大脳皮質に投射しているノルアドナリン神経の抑制が解除され、興奮して大脳皮質領域でノルアドレナリンの遊離が引き起こされる。これが受容体を過剰に刺激して、退薬症候が起こると考えられている。
耐性
薬物の慢性適用によって、単回投与と同程度の効果を得るために、大量の薬物を必要とする現象をさす。オピオイドは慢性投与によって鎮痛効果の減弱(鎮痛耐性)が引き起こされるが、痛みがあるときは、オピオイドの鎮痛耐性は生じにくいとされている。一般に、耐性を生じやすいオピオイドの薬理作用と、そうでない作用がある。
副作用
嘔気・嘔吐
延髄第四脳室底にある化学受容器引き金帯(CTZ)にはドパミン受容体が存在する。オピオイドはこの受容体を活性化させ(おそらくドパミン遊離作用による間接的修飾)、化学受容器引き金帯を直接刺激し、その刺激が延髄にある嘔吐中枢(VC)に伝わり、嘔気・嘔吐を起こす。また、前庭器を刺激して過敏にさせ、これが 化学受容器引き金帯を間接的に刺激し、嘔吐中枢 に伝達されて嘔気・嘔吐を起こす。さらに、オピオイドが胃前庭部を緊張させるため、その運動性が低下して胃内容物の停留が起こる。この停留による胃内圧増大が求心性神経を介して 化学受容器引き金帯、嘔吐中枢を刺激し、嘔気・嘔吐を起こす。
便秘
便秘は、オピオイドの副作用の中でもっとも頻度の高い症状である (Ref. 13)。便秘は主にμオピオイド受容体を介した、腸管神経叢でのアセチルコリン遊離抑制と腸管でのセロトニン遊離作用による。オピオイドによる便秘はほとんど耐性を生じず、継続使用によりほぼ 100% が便秘となる。したがって、オピオイドを投与後、便秘が生じてから緩下薬を投与するのではなく、オピオイド投与と同時に予防的に定期投与する必要がある。末梢 µ オピオイド受容体拮抗薬は、腸管の µ オピオイド受容体に直接に結合し、鎮痛作用を減弱させることなく便秘症状を緩和する。
眠気・傾眠
眠気はオピオイド投与初期や増量時に発現するが、耐性がつきやすい。通常軽い刺激ですぐに覚醒し、平常通り会話が可能である。見当識障害や意識混濁は伴わない。減量により軽減することが多い。
呼吸抑制作用
主として脳幹の延髄呼吸中枢に作用し、二酸化炭素の蓄積に対する呼吸反応を直接抑制する。CO2 に対する感受性の低下、ならびにチェーン・ストークス呼吸を起こす。また、延髄・橋の全般的な抑制により、包括的に呼吸リズムや呼吸中枢の応答性を低下させる。呼吸抑制はオピオイドによる急性毒性の死因となり µ オピオイド受容体拮抗薬であるナロキソンが解毒薬となる。
せん妄
オピオイド投与によりせん妄が引き起こされることが知られている。しかし、オピオイドの投与期間や投与量とは必ずしも直結するわけではなく、その発現機序は不明である。せん妄対策の原則としては減量であるが、疼痛出現のために減量が困難である場合があることが多い。その場合はオピオイドスイッチングが有効である場合がある。
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定義
麻薬という用語は、さまざまな意味で用いられている。
最も狭い定義は、「モルヒネ、ヘロイン、コデイン等のアヘンアルカロイド類とこれらに類似した合成物質で、オピオイド受容体に親和性を持ち、麻薬及び向精神薬取締法において麻薬と指定されているもの」ということになる。
一方、法的な定義は、「麻薬及び向精神薬取締法において麻薬と指定されているもの」ということになる。この場合、前述の定義に、コカインとその関連物質、ケタミン、リゼルギン酸ジエチルアミド(LSD)などが加わる。コカインは、薬理学的性質からは、本来、覚せい剤に分類されるべきものであったが、その薬理学性質についての知識が十分でなかった時代に法律が制定され、そのままになっていた。しかし、ケタミンは平成19年に指定されたばかりである。
このように、法的な麻薬の定義が薬理学と解離する中、更に、「依存性が強く、社会的な弊害があり、違法に使用される薬物」を全て「不正麻薬」と称する場合もあり、厚生労働省もこうした語法を用いている。
従って、麻薬には、薬理学的定義(オピオイド系薬物)、法的定義(麻薬及び向精神薬取締法において麻薬と指定されているもの)、行政的定義(違法に使用され、社会的弊害のある依存性薬物全般)という、少なくとも3種類の定義が存在する。
本項では、薬理学的定義に基づく麻薬(オピオイド系薬物)の歴史と医療用の使用について述べた後、不正麻薬全般について述べる。
歴史
モルヒネの単離まで
歴史上、麻薬という言葉は、アヘン剤のことを指していた。アヘン剤とは、モルヒネ、ヘロイン、コデインなど、ケシの実から抽出されるアルカロイドを合成した薬剤のことである。昏迷状態を引き起こす中枢抑制薬であり、酩酊・多幸感などをもたらす一方、強力な依存性があり、身体は急速に耐性を形成する。その依存性の強さから、麻薬の製造や流通は法律で厳しく規制されている。
メソポタミア文明から、ケシの栽培、アヘンの精製が行われていた、ギリシャ神話においてもケシの記載があり、ローマ時代には頭痛、難聴、痙攣、喘息、咳、疝痛、発熱、メランコリーの治療ならびに贅沢品としてアヘンが使用され、中世には、手術の際の鎮痛薬として使用された記載がイタリア、サレルノ近くのモンテカシノにあるベネディクト修道院の文献にある。
中国では後漢末期、華佗が医術や薬の処方に詳しく、麻酔を最初に発明したのは華佗とされており、大麻が成分とされる「麻沸散」と呼ばれる麻酔薬を使って腹部切開手術を行った記載が三国志にある。また、五石散と言う麻薬が三国時代、あるいは後漢の頃からあったと言われている。さらに「本草綱目」(1892種の本草(生薬)について薬効などを詳しく記述されている文献)では阿片を主薬とする「一粒金丹」という製剤の記載があり、万能薬として用いられた。日本では、華佗が使ったとされる麻沸散(別名:通仙散)による全身麻酔下で乳癌摘出手術に成功した。1803年にドイツの薬剤師であるフリードリッヒ・ヴィルヘルム・ゼルチュルネルがアヘンからモルヒネの単離にはじめて成功した。
オピオイド受容体の発見
このように、人類は紀元前よりオピオイドの鎮痛作用や陶酔作用といった効果を知っていたが、その薬理作用の仕組みが理解されるようになったのは最近のことである。研究者達はなぜ植物由来の成分が動物や人間の生体内でこれほど強い効果を引き出すことができるのかという素朴な疑問を持ち続け、それは次第に“モルヒネ感受性受容体の存在”という概念にたどり着いた。1971 年、Goldsteinはオピオイド受容体の発見の基になる報告をし[1]、1973年にそれぞれ、SnyderとPert[2]、Simon[3]、Terenius[4]の3つのグループからオピオイド受容体の存在が提唱され、広く研究者の間で受け入れられるようになった。1975 年には Hughes と Kosterlitz ら[5]がエンケファリンを発見し、さらに、1979 年に Goldstein と Tachibanaら[6]がダイノルフィンを抽出し、生体内に存在するモルヒネ様物質、いわゆる“内因性オピオイド”が発見された。オピオイド受容体は μ (MOR)、δ (DOR)および κ (KOR)に大別され、これら3種のオピオイド受容体の研究がもっとも盛んに行われてきた。
オピオイド受容体遺伝子のクロ−ニングは他の受容体と比べて遅く、1992年になってEvansらとKiefferらのグループがそれぞれ、372個のアミノ酸から成るδ受容体のクロ−ニングに成功した[7] [8]。δ受容体のクロ−ニング後、PCR 法によるホモロジ−を利用した研究によってμおよびκ受容体のクロ−ニングの成功が相次いで報告された。μおよびκ受容体は、それぞれ398個と380個のアミノ酸から構成されている。明らかにされたμ-、δ-およびκ-オピオイド受容体間のアミノ酸配列の相同性は全体として約60%と高く、いずれも7回膜貫通型のGタンパク質共役型受容体である。また、現在までにμ受容体遺伝子においていくつかのオルターナティブスプライシングを受けるエクソンが同定されており、これらの組み合わせの違いから数種類のスプライスバリアントによるμ受容体サブタイプの存在が報告されている。
オピオイドの分類
Opium(オピウム)は日本語でアヘンのことであり、ケシの果実から抽出される。元来、鎮痛薬として使用されてきたが、19世紀に入るとその嗜好性、習慣性から医薬用外で大流行したため、鎮痛作用や鎮咳作用よりも「麻薬」という悪いイメージだけが残ってしまっている。 同時にアヘンからのモルヒネの単離精製に成功したことで、モルヒネ様作用をもつ薬剤の研究開発が進み、モルヒネやコデインといったアヘンからの精製物をopium、半合成誘導体をopiate、アヘン様合成薬剤をオピオイド(opioid)と呼び分けた。 現在では、「オピオイド」と言う呼び名は、中枢神経や末梢神経に存在する特異的受容体(オピオイド受容体)への結合を介して作用を発現するモルヒネに類似する作用を持つ物質の総称として使われ、植物由来の天然のオピオイド、合成・半合成のオピオイド、体内で産生される内因性オピオイド(エンケファリン、ダイノルフィン、β-エンドルフィン)などの分類が一般的となっている。
医療用麻薬としてのオピオイド
本稿では、医療用麻薬としてのオピオイドについて述べる。オピオイドの主な薬理的用途は鎮痛薬である。
なお、オピオイドではない医療用麻薬もある。麻酔薬であるケタミンは、オピオイドではないが、医療用に用いられる麻薬である(平成19年1月1日から麻薬)。従って、ケタミンは麻薬性非オピオイド鎮痛薬に分類される。
対象疾患
医療用麻薬であるオピオイドは、手術中の痛み、術後痛、外傷痛、がん性疼痛、神経障害性疼痛などに見られる長期間続く慢性痛に対して鎮痛薬として用いられている
オピオイドの種類
臨床にて汎用されるオピオイドにはモルヒネ、フェンタニル、オキシコドン、レミフェンタニル、メペリジン、リン酸コデイン、ブプレノルフィン、ペンタゾシン、トラマドール(μ受容体親和性が高いのはトラマドールの代謝物であるM1である)、最近ではメサドンが日本において使用導入された。
オピオイド受容体 | ||||
μ | δ | κ | 備考 | |
モルヒネ | +++ | - | - | アヘン アルカロイド |
フェンタニル | +++ | 合成麻薬 | ||
レミフェンタニル | +++ | 合成麻薬 | ||
オキシコドン | +++ | + | 半合成麻薬 | |
メペリジン | ++ | 合成麻薬 | ||
コデイン | ++ | アヘン アルカロイド | ||
トラマドール | ++ | (+) | SSRI様作用を併せ持つ | |
ブプレノルフィン | ++ (+) |
++ (+) |
麻薬拮抗性 鎮痛薬 | |
ペンタゾシン | ++ (+) |
++ (+) |
麻薬拮抗性 鎮痛薬 |
+++: 強 agonist、 ++: 弱 agonist、 +: 部分 gonist
( ) 可能性
表.オピオイド受容体に対するpotency
モルヒネ
モルヒネは数ある強オピオイドのなかでもっとも歴史が古く、またもっとも研究されている薬で、すべてのオピオイドの原点であり基本となる。剤形も多く、内服薬、坐剤、注射薬があり投与経路の変更なども同一薬剤で行いやすい。
オキシコドン
オキシコドンは、アヘンアルカロイド系のオピオイド受容体作用薬で、体内に入ると代謝酵素であるCYP2D6によりオキシモルフォンへ、CYP3A4によりノルオキシコドン(非活性)へと代謝される。オキシモルフォンは活性代謝産物であり、その鎮痛効果はオキシコドンの約14 倍と強力であるが、AUCはオキシコドンの1.4%と低いため臨床上問題とはならない。また、ノルオキシコドンは薬理活性がほとんどない。したがってオキシコドンの代謝物の影響はほとんどないと考えられる。薬理学的評価における臨床所見はオキシコドンの血中濃度と相関し、鎮痛作用はオキシコドンそのものによってもたらされる[9]。
フェンタニル
フェンタニルは1959年にモルヒネ系薬物とは化学構造の異なる4-anilidopiperidine 系鎮痛薬として合成された合成麻薬である。フェンタニルは肝臓でCYP3A4によってN-脱アルキル化と水酸化によって代謝を受け、ほとんど薬理学的活性のない代謝産物ノルフェンタニルとなり、大部分が尿中に排泄される。活性代謝産物がほとんどないため、腎機能の悪化した患者でも蓄積作用による悪影響を及ぼしにくいとされている。
メサドン
2012年11月22日、癌疼痛治療薬のメサドン塩酸塩(商品名メサペイン錠 5mg、同錠 10mg)が薬価収載された。適応は、「他の強オピオイド鎮痛剤で治療困難な中等度から高度の疼痛を伴う各種癌における鎮痛」である。中等度から高度の疼痛を伴う各種癌に使用する鎮痛薬としては、WHO(世界保健機関)による癌性疼痛治療の三段階ラダーに基づき、強オピオイドのモルヒネ、オキシコドン、フェンタニルが使用される。しかし、これら強オピオイドでも鎮痛が得られない患者、またはオピオイド耐性が発現した患者などに対しては、日本では有効な薬剤が無い状態であった。対して欧米では、これらの患者に対してはメサドンが広く使用されており、こうしたことから、日本へのメサドンの早期導入が実現した。
作用機序
前述の通り、オピオイドが結合する特異的受容体には μ、δおよびκの3つのtypesのオピオイド受容体 (opioid receptor: OR) がある。μ-OR (MOR)、δ-OR (DOR) およびκ-OR (KOR) は、すべてGTP結合タンパク質(Gタンパク質)と共役する7回膜貫通型受容体(GPCR)である。これらオピオイド受容体タイプ間の相同性は高く(全体で約60%)、特に細胞膜貫通領域では非常に高い。いずれの受容体も基本的にGi/oタンパク質と共役しており、ORの活性化後、さまざまな細胞内情報伝達系が影響を受け、神経伝達物質の遊離や神経細胞体の興奮性が低下するために神経細胞の活動が抑制される。これらの中で鎮痛作用に関して最も重要な役割を果たすのがMORである。μ、δおよびκの3つのtypesのORに対する親和性および鎮痛効果 (potency) は個々の薬物によって異なる。
オピオイド受容体は脳・脊髄や知覚神経に幅広く存在するが、生体に投与したオピオイド鎮痛薬はどこにどのように作用して痛みの伝達を抑制するのは、未だ完全には解明されていない。おそらく、脳、脊髄、知覚神経に存在する MORにそれぞれ作用し、それらの総和として鎮痛効果を示していると推測できるが、全身投与のオピオイドの鎮痛効果が脊髄内投与のナロキソン(MOR antagonist)によって一部抑制されるため、脊髄後角浅層部のMORが鎮痛効果に深く関与することはほぼ疑いがない。脊髄後角浅層部は痛覚を伝える知覚神経(Aδ、C線維)の中枢側終末が多く存在し、エンケファリン、ダイノルフィンなどの内因性 opioid peptidesや MOR、KORが最も高密度で存在する部位でもある。こうした背景からも、脊髄後角におけるオピオイドの鎮痛作用機序が最も精力的に研究されている。
一方、脳幹部から神経線維が脊髄後角に下行し、そこで痛みの伝達を遮断する下行性抑制系の関与も知られている。下行性疼痛抑制線維としてノルアドレナリンやセロトニンを伝達物質とする仮説が一般的であるが、その他にもGABAやドーパミンを伝達物質とする下行性疼痛抑制線維の存在も提案されている。下行性疼痛抑制系は痛みやオピオイド投与だけでなく、精神的興奮、精神的集中、恐怖といった生理応答によっても作動する。
こうした生理状態下で中脳や延髄のMORが活性化されることにより、この下行性疼痛抑制系が賦活化する。脊髄後角においては、痛覚伝導路であるAδ、C線維の知覚神経末端と末梢からの痛覚情報を受け取る脊髄後角神経細胞の両者にMORが存在し、Aδ、C線維の末端のシナプス前終末のMORが刺激されると電位依存性Ca2+チャネル (voltage-dependent Ca2+ channel) が抑制されてシナプス前終末へのCa2+の流入が減少し、グルタミン酸などの興奮性神経伝達物質の放出が低下する。
一方、脊髄後角細胞の細胞体や樹状突起に存在するMORが刺激されるとK+チャネルが開口し、K+の細胞外への流出によって脊髄後角細胞が過分極(抑制)する。こうしたシナプス前終末からのグルタミン酸等の興奮性伝達物質の放出抑制とシナプス後細胞の過分極により、脊髄後角細胞での活動電位発生が抑制され、痛覚情報が脊髄より上位中枢への痛覚伝達が遮断/抑制される。
がん性疼痛におけるオピオイド投与の有効性
近年、「がんの患者に早期から疼痛緩和ケアを導入すると、生存期間が延長する」という注目すべき研究結果が発表された[10]。がん性疼痛は、がんによる知覚神経終末の刺激を伴う侵害性疼痛とがんによる神経の圧迫や浸潤に伴って引き起こされる神経障害性疼痛に大別される。がん性疼痛治療のなかでオピオイドはもっとも重要な薬剤であり、他の鎮痛薬と同じように「痛み」に対して使用を躊躇することがあってはならない。
がん疼痛の治療にあたっては、基本的にWHO の三段階がん疼痛治療指針に従って行うべきである。WHOの三段階がん疼痛治療指針は、薬の効力によって順を追って選択するという面だけではなく、痛みの強さによって選択するという両面の原則があることを忘れてはならない。すなわち、がん患者で骨転移に伴う強い背部痛をもち、それまで疼痛治療を受けていないという症例の場合、NSAIDsから始める必要はなく、その痛みの強さに対応するため初回から強オピオイドであるモルヒネを使うべきである。がん疼痛の治療にあたっては、痛みの強さや治療による痛みの消長について患者が感じていることに極力耳を傾けることが重要である。患者の訴えと医療側の考えに大きな差があるときは、その理由はなにかを検討すべきで、安易に「大げさな訴えの患者」と独断的に判断すべきではない。処方内容をどう改訂したかを患者に知らせ、その結果の除痛状態を必ず患者に聞くことを心がける。
一方、このがん性疼痛の約30%に認められる神経障害性疼痛は、モルヒネが効きにくいことが多く、臨床上問題となる。こうした痛みに対して、オキシコドンが有効であるとの報告が散見される。基礎研究の成果も、こうした可能性を支持している。マウスの坐骨神経を半周結紮して作製した神経障害性疼痛モデルを使用した場合、モルヒネの皮下投与による鎮痛効果の有意な減弱が認められ、一方、オキシコドンやフェンタニルの皮下投与では、鎮痛効果の減弱はみられず、神経障害性疼痛に対しても有効であることが明らかになっている[11]。
また、モルヒネの活性代謝物であるM-6-Gを皮下投与すると、モルヒネと同様に、神経障害性疼痛に対する鎮痛効果の減弱が認められる。さらに、モルヒネ、オキシコドン、フェンタニルを髄腔内投与すると、いずれも神経障害性疼痛に対する十分な鎮痛効果が認められるが、M-6-Gでは鎮痛効果の減弱が認められる。一方、モルヒネ、オキシコドン、フェンタニルではいずれも非結紮マウスと差のない脊髄内のMORを介したGタンパク質活性化作用が認められたが、M-6-Gでは活性化作用の減弱が認められる[12]。したがって、神経障害性疼痛下ではM-6-Gによる脊髄内μ受容体の活性化低下が、神経障害性疼痛に対してモルヒネが抵抗性を示す一因となっていると考えられている。一方、モルヒネは神経障害性疼痛下においても、脊髄腔内投与では十分な鎮痛効果をもたらす可能性が高い。
投与経路
オピオイドの投与方法には経口投与、経直腸投与、経皮的投与、皮下注射、筋肉内注射、静脈内投与、脊髄くも膜下腔内投与、脊髄硬膜外腔投与等がある。特にフェンタニル、モルヒネは静脈内投与、硬膜外・くも膜下投与が積極的に行われる。一方、レミフェンタニルは神経毒性のため 硬膜外・くも膜下投与は禁忌となっている。
オピオイドの全身投与には治療上の限界がある。鎮痛と副作用とは、たとえ投与量を調節したとしても完全には分離することはできない。この場合の重要な副作用は呼吸抑制である。脊髄くも膜下腔にオピオイドを投与する1つの目的は、全身投与より低濃度で脊髄の特異的部位に薬物を到達させることができるということにある。脊髄MORの刺激は鎮痛を仲介するが、嘔吐や呼吸抑制には関与しないので、硬膜外腔と、くも膜下腔へオピオイドを投与することによって、鎮痛を副作用から分離することが可能となる。
依存性
オピオイドには慢性投与により精神・身体依存ならびに耐性が生じるが、痛みが生じている時には形成されにくい。
精神依存
脳内のドーパミン神経系は、黒質-線条体系と腹側被蓋野から側坐核に投射している中脳辺縁系の2つに大きく分類されている。このうち、情動や陶酔感の発現には中脳辺縁系のドーパミン神経が関与していることが明らかにされている。モルヒネは中脳辺縁系の細胞体が存在する腹側被蓋野に高密度に分布するMOR受容体を介し、介在ニューロンである抑制性のγ-アミノ酪酸 (GABA) 神経系を抑制して、中脳辺縁ドーパミン神経系の活性化を引き起こす。活性化された中脳辺縁ドーパミン神経系は、その投射先である側坐核からドーパミンの著明な遊離を引き起こし、これがモルヒネによる多幸感発現や精神依存形成の引き金になっていると考えられている。
中脳辺縁ドーパミン神経系の起始核である腹側被蓋野には、抑制性GABA神経が投射しており、ドーパミン神経系を抑制的に調節している。モルヒネはこのGABA神経上に存在するMORに作用して、抑制性GABA神経を抑制し、GABAの遊離を抑制する(脱抑制)。その結果、ドーパミン神経系が活性化され、中脳辺縁系の投射先である側坐核においてドーパミンが過剰に遊離し、精神依存が引き起こされると考えられている。
また、側坐核ではダイノルフィン神経系がKORを介してドーパミンの遊離を抑制的に制御している。炎症性疼痛下では側坐核においてKORの機能亢進が引き起こされることにより、モルヒネによるドーパミン遊離量増加が抑制される。また、神経障害性疼痛下では、脊髄からの持続的な疼痛刺激により、腹側被蓋野においてβ-エンドルフィンが持続的に遊離され、GABA神経上におけるMORの機能低下が誘導される。その結果、ドーパミン神経系の活性化が引き起こされにくくなり、モルヒネによるドーパミン遊離量増加が抑制される。このような一連の変化により、炎症性疼痛および神経障害性疼痛下では、モルヒネの精神依存が形成されにくいと考えられる[13]。
身体的依存
オピオイドの急激な投与中止は、禁断症状(発熱、下痢、散瞳、不安等)を誘発するため、メサドン代替療法を行うことがある。麻薬拮抗薬は禁断症状を誘発してしまう。モルヒネを禁断すると、青斑核から大脳皮質に投射しているノルアドナリン神経の抑制が解除され、興奮して大脳皮質領域でノルアドレナリンの遊離が引き起こる。これが受容体を過剰に刺激して、退薬症候が引き起こると考えられている。
耐性
薬物の慢性適用によって、単回投与と同程度の効果を得るために、大量の薬物を必要とする現象をさす、モルヒネは慢性投与によって鎮痛効果の減弱(鎮痛耐性)が引き起こるが、痛みがあるときは、モルヒネの鎮痛耐性は生じにくいとされている。
一般に、耐性を生じやすいモルヒネの薬理作用とそうでない作用がある。
副作用
嘔気・嘔吐
延髄第四脳室底にある化学受容器引き金帯(CTZ)にはドーパミン受容体が存在する。モルヒネはこの受容体を活性化させ(おそらくドーパミン遊離作用)、CTZを直接刺激し、その刺激が延髄にある嘔吐中枢(VC)に伝わり嘔気・嘔吐を起こす。また、前庭器を刺激して過敏にさせ、これがCTZを間接的に刺激し、VCに伝達されて嘔気・嘔吐を起こす。さらに、モルヒネが胃前庭部を緊張させるため、その運動性が低下して胃内容物の停留が起こる。この停留による胃内圧増大が求心性神経を介してCTZ、VCを刺激し、嘔気・嘔吐を起こす。
便秘
モルヒネの副作用の中でもっとも頻度の高い症状である[14]。便秘はMOR (および一部DOR)を介した、腸管神経叢でのアセチルコリン遊離抑制と腸管でのセロトニン遊離作用による。
オピオイドによる便秘に対してはほとんど耐性を生じないか、長期間にわたって非常にゆっくりにしか起こらず、継続使用によりほぼ100%が便秘となる。したがって、モルヒネを投与後、便秘が生じてから緩下薬を投与するのではなく、モルヒネ投与と同時に予防的に定期投与する必要がある。刺激性緩下薬は、腸管粘膜を刺激し蠕動運動を促す。浸透圧性緩下薬は、水分の吸収を抑制し腸内容物を軟化させるとともに、二次的に蠕動運動を促す。酸化マグネシウムなどから開始し、必要に応じて作用の異なる薬物を併用する。
眠気・傾眠
眠気は投与初期や増量時に発現するが、耐性がつきやすい。通常軽い刺激ですぐに覚醒し、平常通り会話が可能である。見当識障害や意識混濁は伴わない。減量により軽減させることができる。
呼吸抑制作用
主として脳幹の延髄呼吸中枢に作用し、二酸化炭素の蓄積に対する呼吸反応を直接抑制する。CO2に対する感受性の低下、ならびにチェーン・ストークス呼吸を起こす。また、延髄・橋の全般的な抑制により、包括的に呼吸リズムや呼吸中枢の応答性を低下させる。呼吸抑制はモルヒネによる急性毒性の死因となり麻薬拮抗薬であるナロキソンが解毒薬となる。
せん妄
モルヒネ投与によりせん妄が引き起こされることが知られている。しかし、モルヒネの投与期間や投与量とは必ずしも直結するわけではなく、その発現機序は不明である。腎機能低下に伴ってモルヒネの代謝物により出現する場合もある。せん妄対策の原則としては減量であるが、疼痛出現のために減量が困難である場合があることが多い。その場合はフェンタニルへの変更が有効である。
不正麻薬に含まれるその他の物質
「覚せい剤取締法」、「大麻取締法」、「麻薬及び向精神薬取締法」、「あへん法」等により法律で厳しく規制されている薬物である。
覚醒剤
「覚せい剤取締法」では、一般名メタンフェタミン、アンフェタミン及びその塩類並びにこれらを含有する物を「覚せい剤」として規制の対象としている。 覚せい剤は、主に麻黄(マオウ)という植物から抽出されたエフェドリン等を原料として、化学的に合成して製造され、形状は主に白色の粉末や無色透明の結晶で、無臭でやや苦みがある。覚せい剤には、神経を興奮させる作用があり、乱用すると眠気や疲労感がなくなり、頭が冴えたような感じになる。しかし、そのような効果も数時間で切れ、その後は激しい脱力感、疲労感、倦怠感に襲われる。
覚せい剤は、特に依存性が強く、乱用を続けると、覚せい剤精神病の状態になり、幻覚や妄想が現れるほか、時には錯乱状態になって、発作的に暴力をふるったりすることもある。このような症状は、乱用を止めても長期間にわたって残る危険性がある。 また、大量の覚せい剤を摂取すると、急性中毒により、全身けいれんを起こし、意識を失い、最後には脳出血で死亡することもある。
大麻
大麻とは、アサ科の1年草である大麻草とその製品をいい、「大麻取締法」で規制されている。その主な有効成分は、テトラヒドロカンナビノールであり、カンナビノイド受容体に作用する。
大麻を乱用すると一般的には、気分が快活、陽気になり、よくしゃべるようになると言われているが、その一方で視覚、聴覚、味覚、触覚等の感覚が過敏になり、変調を来したり、現在、過去、未来の観念が混乱して思考が分裂し、感情が不安定になる。このため、興奮状態に陥って暴力や挑発的な行為を行うことがあり、さらには幻覚や妄想等に襲われるようになる。また、毎日ゴロゴロして何もやる気のない状態となる「無動機症候群」に陥ることもある。 初めての乱用で大量の大麻を摂取すると、意識障害を伴う中毒性精神病の状態になることがある。 身体的な影響として、吐き気、めまい、筋力の低下、平衡感覚の障害等が現れるほか、大麻の常用が生殖機能に支障を来し、不妊、流産、胎児の死亡、染色体異常の原因となるとの報告がある。
MDMA/MDA
3,4-Methylene-dioxymethamphetamine (MDMA)、3,4-methylene-dioxyamphetamine (MDA) は、覚せい剤と似た化学構造を有する薬物で、けしやコカ等の植物からではなく、他の化学薬品から合成された麻薬の一種で、「麻薬及び向精神薬取締法」で麻薬として規制されている。 MDMAとMDAの薬理作用は類似しており、視覚、聴覚を変化させる作用があるが、その反面不安や不眠などに悩まされる場合もある。 また、強い精神的依存性があり、乱用を続けると錯乱状態に陥ることがあるほか、腎・肝臓機能障害や記憶障害等の症状も現れることがある。
コカイン
コカインは、南米産のコカの木の葉を原料とした薬物で、無色の結晶又は白色の結晶性粉末で、無臭で苦みがあり、「麻薬及び向精神薬取締法」で麻薬として規制されている。 コカインは、鼻粘膜からの吸引のほか、経口による方法で乱用されている。 コカインには、覚せい剤と同様に中枢神経を興奮させる作用があるため、気分が高揚し、眠気や疲労感の脱却、体が軽く感じられ、腕力、知力がついたという錯覚が起こる。しかし、覚せい剤に比べて、その効果の持続時間が30分程度と短いため、精神的依存が形成されると、一日に何度も乱用するようになり、 乱用を続けると、幻覚等の症状が現れたり、虫が皮膚内を動き回っているような不快な感覚に襲われて、実在しないその虫を殺そうと自らの皮膚を針で刺したりすることもある。
ヘロイン
ヘロインは、けしを原料とした薬物で、けしからあへんを採取し、あへんからの抽出物を精製して作られ、「麻薬及び向精神薬取締法」で麻薬として規制されている。 ヘロインは、静脈注射のほか、火であぶって煙を吸う方法、吸引具により吸引する方法、経口による方法で乱用されている。 ヘロインには神経を抑制する作用があり、乱用すると強い陶酔感を覚えることから、このような快感が忘れられず、乱用を繰り返すようになり、強い精神的依存が形成される。 さらに、強い身体的依存も形成され、2~3時間ごとに摂取しないと、体中の筋肉に激痛が走り、骨がバラバラになって飛散するかと思うほどの痛み、悪寒、嘔吐、失神などの激しい禁断症状に苦しむ。
あへん
あへんは、けしから採取した液汁を自然に凝固させたもので、黒褐色で特殊な臭気(アンモニア臭)と苦味がある。原料であるけしの栽培やあへんの採取、あへん及びけしがら(けしの麻薬を抽出することができる部分)の輸出入、所持等は「あへん法」により規制されている。 あへんは、調整したあへん煙膏として特殊なキセルに塗って炎にかざし、出てきた煙を吸引する方法や、経口による方法で乱用される。 あへんには中枢神経を抑制する作用があり、乱用すると強い陶酔感を覚え、精神的、身体的依存性を生じやすく、常用するようになると慢性中毒症状を起こし、脱力感、倦怠感を感じるようになり、やがては精神錯乱を伴う衰弱状態に至る。
LSD
LSD(化学名:リゼルギン酸ジエチルアミド)は、合成麻薬の一種で、「麻薬及び向精神薬取締法」の規制の対象とされ、水溶液をしみこませた紙片、錠剤、カプセル、ゼラチン等があり、経口又は飲み物とともに飲むなどして乱用されている。 LSDを乱用すると、幻視、幻聴、時間の感覚の欠如などの強烈な幻覚作用が現れる。特に幻視作用が強く、ほんのわずかな量だけで物の形が変形、巨大化して見えたり、色とりどりの光が見えたりする状態が8~12時間続く。 また、乱用を続けると、長期にわたって神経障害を来す。
関連項目
参考文献
- ↑
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