英語名:dizziness, vertigo, disequilibrium 独:Schwindel, Vertigo 仏:étourdissement, vertige, déséquilibre

 めまいは身体の安定感が失われたと言う自覚的な症状を総称する言葉である。回転性めまい浮動性めまい循環不全にともなうめまい感に分類される。原因としては中枢性、末梢性のものがある。治療薬には全般にベンゾジアゼピン系の抗不安薬、抗ヒスタミン剤、炭酸水素ナトリウムも有効である。循環器の異常など、原因が他にある時にはその治療を優先する。

定義と種類

 めまいは身体の安定感が失われたという自覚的な症状を総称する言葉である[1]。医療機関を訪れる主要な症状の中でもめまいは特に頻度の高いものの一つであるが、めまいという言葉で表現されているものは医学的には一様ではない。その多くは大きく以下の3種類に分けられるが、混在して見られる場合も多い。

回転性めまい

Vertigo

 身体が回転しているように感じるもので、しばしば船酔いのような状態になり悪心嘔吐をともなう。多くは前庭機能の障害に依って生じる末梢性めまいに起因すると考えられ、耳鳴難聴をともなうこともある。症状は一過性、あるいは変動性である。

浮動性めまい

Dizziness

 身体が揺れる、あるいはふらつくように感じられるもので、慢性的に経過することが多い。中枢性めまいの多くは浮動性めまい症状を呈する。また末梢性めまいの間欠期や慢性期にもみられる。回転性めまいと異なり、難聴や悪心嘔吐などを通常はともなわない。

循環不全にともなうめまい感

Faintness

 ふらふらする、気が遠くなるといった症状が典型的であるが、浮動性めまいとしばしば区別が困難である。多くは起立位で増悪し臥位で改善する。起立性低血圧などによる一過性の脳循環不全に起因する。重度の場合は失神に至る。

原因

 平衡感覚の成り立ち 身体の平衡機能は、末梢のセンサー(視覚内耳前庭器官、さらに筋肉関節からの固有知覚)とそれを統合する中枢神経系小脳脳幹大脳基底核前庭皮質など)によって維持されている。末梢のセンサーで捉えられた感覚情報を中枢神経系で総合的に統合して身体の位置関係を把握することによって、通常は意識されることのないまま反射的に適切な運動行動が導かれているが、これら求心情報の統合の過程で個々の情報間に矛盾が生じると前庭皮質を経て平衡感覚の異常が意識され、めまいとして自覚されると考えられる。

末梢性めまい

 末梢性めまいで問題になるのは回転加速度を検知する半規管や直線加速度を検知する耳石器、そしてこれらの知覚情報を中枢に伝える前庭神経である。これらは同じ内耳に存在し聴覚を担う蝸牛蝸牛神経に近接して存在するため、しばしば聴覚系の異常と合併してめまい症状を呈する。多くの場合急性期には回転性めまいを呈するが、慢性化するに従ってしばしば浮動性めまいに移行する。脳MRIなどによる内耳系の画像検査の他、フレンツェル眼鏡による眼振の観察やカロリックテストによる前庭神経系の機能評価がしばしば診断上有用である。

中枢性めまい

 前庭神経核を含む脳幹、小脳、そして大脳皮質の前庭機能に関係した部位である前庭皮質の異常に起因する。ヒトの前庭皮質は複数の部位に拡がっていると考えられているが、代表的な部位として側頭頭頂接合部や後部、下前頭回などを挙げる報告が多い。中枢神経系の器質的異常を背景とすることが多いため、しばしば平衡機能異常だけではなく、眼球運動障害などの脳神経系異常や運動失調など他の神経症状をともなう。脳MRIなどによる脳画像検査とともに神経診察が診断上特に重要である。

その他

 何らかの原因による脳循環の一過性の低下はやはりめまいとして自覚される。多くは起立性低血圧や血管迷走神経反射などにより、症状が強度の場合は失神に至る。多くの場合、循環系の異常に起因するめまいでは立位で症状が生じるが、臥位では脳循環の改善にともないめまい症状も改善する。後述の通り一方でめまいは、不安障害など精神疾患の身体症状として見られることも多い。

めまいを呈する代表的な疾患

良性発作性頭位性眩暈

Benign paroxysmal positional vertigo: BPPV

 良性発作性頭位性眩暈は頭位の変換、または特定の頭位を取ることで誘発される回転性めまいを特徴とし、しばしば悪心嘔吐を伴なう。頻度は多く、めまいを愁訴で医療機関を訪れる患者の半数近くを占めるとの報告もある。耳鳴・難聴はなく、耳石器の障害に伴って生じる前庭神経系の機能異常により生じる代表的な末梢性めまいである。予後は良好で数日~数週間で後遺障害を残すことなく改善するが、しばしば再発する。

メニエール病

Ménière’s disease

 メニエール病は回転性めまいとともに、耳鳴・難聴・耳閉塞感と言った症状をいう。通常数十分から数時間程度の激しいめまいが発作性に生じ、一度収まった後も数日~数ヶ月毎に何度も繰り返す。内耳の内リンパ水腫による前庭神経系と蝸牛神経系の障害に起因する末梢性めまいである。

前庭神経炎

Vestibular neuritis

 前庭神経炎は良性発作性頭位性眩暈、メニエール病に次いで多い末梢性めまいである。前庭神経の炎症により生じる回転性めまいを特徴とするが、耳鳴難聴は伴わない。

椎骨脳底動脈不全

Vertebro-basilar insufficiency

 浮動性めまいを呈する代表的な中枢性めまい症である。椎骨脳底動脈系の狭窄や血管壁の硬化等による自動循環調節能の低下に起因すると考えられている。発作を繰り返す内に脳幹・小脳系に器質的な脳血管障害を生じることが多いため、しばしば脳神経系の障害や失調など他の神経症状をともなう。MRI、MRアンギオによる脳・脳血管の画像検査が診断上重要となる。

小脳・脳幹の器質的異常

 血管障害の他、炎症性疾患、感染症、腫瘍性病変などで生じ、多くの場合は浮動性めまいを示す。しばしば他の神経症状をともなう。診断上、MRIによる脳画像検査がもっとも有効な疾患群である。

心循環系機能障害

 血圧の大きな変動、不整脈などによる循環系の機能不全もめまいの原因となる。特に脳血管の自動調節能が低下した高齢者で生じやすい。多くは浮動性めまいの他、時に失神をともなう。

心因性めまい

Psychogenic vertigo

 正確な頻度は不明であるが、患者数は多いと考えられる。めまいは不安障害パニック障害などでも多く見られる症状の一つであり、身体の動揺感と不安感は深く関連している。例えば東日本大震災の後、余震の続く被災地では余震の無いときでも身体動揺感が持続する様な浮動性めまいの患者が急増した。これはメンタルストレスがめまいと言う症状と直結していることを強く示唆している。前庭皮質の一部は大脳辺縁系と密接に関連しており、平衡機能を司る神経系は情動の調節系とも密接に関わっていることが示唆される。

治療

急性期対症療法

 原因の如何に関わらずめまいの急性期ではベンゾジアゼピン系の抗不安薬が有効である[2] 。また鎮静効果とともに前庭神経機能抑制効果があるとされる抗ヒスタミン剤(ドロキシジン注射液など)も良く用いられる[2]

 世界的に本邦のみで用いられるにも関わらず、臨床現場で今もしばしば使用されているのが7%炭酸水素ナトリウム注射液の静注である。投与による血中炭酸ガスの増加にともなう末梢・中枢の血流増加がその作用機序と想定されているが、十分に解明されているとは言えない[2]

 最近、扁桃体の神経細胞に化学受容体が発現していることが報告され[3]、血液が酸性に傾くと扁桃体の異常な興奮とともに不安症状が生じること、さらに血液をアルカリ性に傾けることで扁桃体の異常興奮をともなう不安症状を和らげることができることが報告されている。あるいはこうした情動面の作用も炭酸水素ナトリウム静注の作用機序の一つであるかもしれない。

慢性期対症療法

 慢性期には内耳の血流を改善させると言われるベタヒスチンジフェニドールが頻用される[2]

それぞれの原疾患に即した特異的治療法

 良性発作性頭位性眩暈ではめまい発作の原因となっている耳石断片等の浮遊物を問題部位から除去するための理学療法Epley法など)が推奨されている[2]

 メニエール病では内リンパ水腫を改善させるためにイソソルビドなどの利尿剤ステロイド剤も用いられる。重症例には外科治療も試みられる。前庭神経炎の多くは対症療法でめまい症状の改善を図る内に軽快して行くが重症例ではやはりステロイド剤が用いられる[2]

 椎骨脳底動脈不全症では通常、脳血流改善薬を使用する[2]

 循環動態の異常に起因する場合は循環系の治療を優先する。例えば不整脈の治療、昇圧剤による低血圧の治療などを行う[2]

参考文献

  1. 宇川義一編
    特集:めまい - vertigo, dizziness or else?
    Clinical Neuroscience 30(1):2012
  2. 2.0 2.1 2.2 2.3 2.4 2.5 2.6 2.7 河村 満編
    標準的神経治療:めまい
    日本神経治療学会:2011
  3. Ziemann, A.E., Allen, J.E., Dahdaleh, N.S., Drebot, I.I., Coryell, M.W., Wunsch, A.M., ..., & Wemmie, J.A. (2009).
    The amygdala is a chemosensor that detects carbon dioxide and acidosis to elicit fear behavior. Cell, 139(5), 1012-21. [PubMed:19945383] [PMC] [WorldCat] [DOI]


(執筆者:武田篤 担当編集委員:高橋良輔)