田中 進介、平野 丈夫
京都大学 大学院理学研究科
DOI:10.14931/bsd.839 原稿受付日:2012年3月23日 原稿完成日:2012年6月12日
担当編集委員:上口 裕之(独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)
形態と入出力
プルキンエ細胞の細胞体は、小脳皮質内の分子層と顆粒細胞層の間に一層に並び、プルキンエ細胞層を形成している(図1、2)。プルキンエ細胞の樹状突起はプルキンエ細胞層より脳表側の分子層へ伸び、矢状面上で数回枝分かれし扇状の形態となっている。この樹状突起 の遠位には顆粒細胞由来の平行線維から、近位には下オリーブ核由来の登上線維からグルタミン酸作動性の興奮性シナプスが形成される。1つのプルキンエ細胞 に対して、約200,000本の平行線維がシナプスを形成するが[1]、 1本の平行線維が1つのプルキンエ細胞に作るシナプスは1から2個と推定されており、その伝達効率も低い。一方、1つのプルキンエ細胞にシナプス形成をする登上線維は1本に限られる。登上線維は1つのプルキンエ細胞上に数百個のシナプスを形成し、個々のシナプスでの伝達効率は高い。また、プルキンエ細胞は 分子層にある2種類のGABA作動性の介在ニューロン(星状細胞及び籠状細胞)から抑制性の入力も受けている。星状細胞はプルキンエ細胞の樹状突起にシナプスを作り、一方、籠状細胞はプルキンエ細胞体を囲むようにシナプスを形成する。プルキンエ細胞の軸索は顆粒細胞層を縦断し、小脳核または前庭神経核に投射して、抑制性の出力をする。
発生
プルキンエ細胞は小脳皮質内で最も早く分化する神経細胞である。ここでは、マウスにおける発生過程を説明する(図3)。胎生10日目から、プルキンエ細胞の前駆細胞は菱脳唇近傍の脳室帯で最終分裂し、胎生13日目に表層に向けて移動を開始する。胎生後期には、すべてのプルキンエ細胞が移動を完了し、生後数日間で1層に整列してプルキンエ細胞層を完成する。プルキンエ細胞は、生後5~7日目に樹状突起を伸張し、平行線維とのシナプスを形成し始め、生後20日でほぼ生体と同様のシナプス構築となる。
登上線維末端は誕生直前にプルキンエ細胞に到達する。生後5~7 日目では、それぞれの登上線維の先端は個々のプルキンエ細胞の細胞体を網状を囲むようになる。この時期は、1つのプルキンエ細胞に対して約5本の登上線維末端がシナプスを形成している。しかし、14日までに、1本の登上線維のみがプルキンエ細胞に多数のシナプス形成をした状態となり、他の登上線維のシナプス数は減少する。20日後までには、登上線維とプルキンエ細胞間で1対1の投射パターンが完成する[2]。
神経活動
プルキンエ細胞はシナプス入力がない状態でも、自発的に活動電位を連続発火する。プルキンエ細胞では電位依存性ナトリウムチャネルNav1.6が発現しているが、Nav1.6は比較的深い膜電位で活性化し、不活性化状態からの回復が早い。このことがプルキンエ細胞の連続発火に寄与していると考えられている[3]。生体内における活動電位の発火頻度は50-100Hzである。登上線維からのシナプス入力は、樹状突起でのP型電位依存性カルシウムチャネルを介したカルシウムイオン流入を引き起こし、複数のピークを持つ特徴的な複雑スパイクを引き起こす。複雑スパイクは、単純スパイクと呼ばれる通常の活動電位と波形により区別される(図4)。生体での複雑スパイクの発火頻度は約1Hzと低い。なお、複雑スパイク後数十ミリ秒間は、単純スパイクの発火が抑えられる。[4]
シナプス可塑性と運動学習
プルキンエ細胞への平行線維と登上線維の入力の同期が繰り返し起こると、平行線維によるシナプス応答が持続して減弱する長期抑圧 (long-term depression, LTD)と呼ばれるシナプス可塑性が起こる[5]。長期抑圧は、登上線維入力を誤差情報とする教師あり学習の基盤機構と考えられ、小脳における運動学習に寄与すると考えられてきた。長期抑圧の阻害、及び促進された遺伝子改変動物を用いた実験で運動学習の障害及び亢進が認められている[5][6]。一方で、長期抑圧が阻害された遺伝子改変マウスで、運動学習の異常が認められなかった例も報告された[7]。プルキンエ細胞上のシナプスでは、他の可塑性が起こることも知られており、それらも学習に寄与している可能性がある[8]。平行線維シナプスでの長期増強、抑制性シナプスでの長期増強等が報告されている[9]。さらに、神経活動に依存して電位依存性チャネルが変化し、活動電位発火の起こりやすさが持続的に変わる現象も知られている[10]。
プルキンエ細胞の欠失と疾患
Lurcher, Purkinje cell deneneration (PCD)(元PSDとありましたが、PCDではないかと思い、訂正致しました)等プルキンエ細胞が欠失するマウス系統が知られている。そして、これらのマウスは明らかな運動失調を示す。ヒトでは、脊髄小脳失調症6型でプルキンエ細胞の脱落が起こり、運動失調が認められる[11]。この原因遺伝子として P型カルシウムチャネルが同定されている。
参考文献
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