1.見出し部分 「小脳で最初に発見された現象であるが」→Lynchらが海馬で1977年に報告しているので海馬が先では?(G.S. Lynch, T. Dunwiddie, V. Gribkoff Heterosynaptic depression: a postsynaptic correlate of long-term potentiation. Nature 266:737–739, 1977)。伊藤らの発見(Ito, M., Kano, M. 1982. Long-lasting depression of parallel fiber-Purkinje cellt ransmission induced by conjunctive stimulation of parallel fibers and climbing fibers in the cerebellar cortex. Neurosci Lett. 33: 253-58)は1982年。我が国初の歴史的な仕事については脳科学辞典では積極的に引用していただきたい。
2.「分子機構」の項 LTDのステップについて知られているさまざまな分子機構について余りにも多くの分子がこれまでに記載されている。読者にとっては、1)LTDの2つのステップ(後述)に分けて記載する、2)中核分子と補助分子に分けて記述する、のがわかり易いのではないか?2つのステップとしては1)シナプス後部でアンカーから外れること、2)側方拡散によってendocytic zoneまで移動し、cargo選択的エンドサイトーシスされる、が順当であろう。
小脳長期抑圧の分子実体は、シナプス後部におけるAMPA型グルタミン酸受容体(AMPA受容体)の数がエンドサイトーシスによって減少することであることが知られている[1](図1)。平行線維からの入力による代謝型グルタミン酸受容体mGuR1の活性化と、登上線維からの入力による脱分極に依存するプルキンエ細胞内のカルシウム濃度の上昇によってPKCが活性化することが長期抑圧の誘導に必須であることが分かっている。活性化されたPKCはAMPA受容体のGluA2サブユニットのC末細胞内領域のセリン残基(S880)をリン酸化し、このリン酸化によってAMPA受容体はアンカータンパク質であるGRIPから解離する[2]。GRIPから解離したAMPA受容体はPICK1と結合し、クラスリン依存性のエンドサイトーシスによって細胞内へ取り込まれることで、細胞表面の数が減少すると考えられている[3]。また、プルキンエ細胞に存在するδ2グルタミン酸受容体を欠損したマウスでは長期抑圧が引き起こされない[4]ため、この受容体も長期抑圧に必須の働きを持っていることが知られている。δ2グルタミン酸受容体はチロシン脱リン酸化酵素PTPMEGを介してAMPA受容体GluA2サブユニットのチロシンのリン酸化状態を制御して小脳長期抑圧に関与していることが報告されている[5]。さらに顆粒細胞から放出されるCbln1というタンパク質[6]や一酸化窒素[7]の重要性も指摘されている