介在ニューロン

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日置 寛之
京都大学大学院医学研究科
DOI:10.14931/bsd.7006 原稿受付日:2016年3月16日 原稿完成日:2016年月日
担当編集委員:林 康紀(国立研究開発法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)

英語名:interneuron、intermediate neuron 同義語:インターニューロン

 介在ニューロンは、所属する部位に軸索が限局し、近傍の神経細胞にのみ情報を伝達する、局所介在ニューロンのことを一般的に指す(狭義の介在ニューロン)。広義には、感覚ニューロンと運動ニューロンを除くすべての中枢神経細胞を包含する。

ニューロンの分類  ニューロンはその機能に応じて、「感覚ニューロン」「運動ニューロン」「(広義の)介在ニューロン」の3つに分類することができる[1] [2] [3] [4] [5] [6]。感覚ニューロンは、受容器を介して外界からの情報を中枢に伝える。運動ニューロンは、中枢から効果器(筋肉等)に情報を送る。介在ニューロンは、感覚ニューロンと運動ニューロンの間に位置し、ニューロン間の情報処理・伝達を行う。

介在ニューロン回路網

 脳と脊髄から構成される中枢神経系には千数百億個ものニューロンが存在すると言われている。感覚ニューロンの細胞体は中枢神経系の外部である脊髄後根神経節に存在し、また運動ニューロンの数は200万から300万程度と考えられていることから、中枢神経系のほぼ全ての神経細胞は(広義の)介在ニューロンであると言える[1] [2] [3] [4]。すなわち、中枢神経系の大部分は、外界と直接の相互作用を持たない介在ニューロンの回路網によって構成されていると考えられる。

介在ニューロンの種類

 介在ニューロンは軸索投射によって、さらに2つに分類される[6]。中継介在ニューロン(relay / projection interneuron)と局所介在ニューロン(local interneuron)である。中継介在ニューロンは長い軸索を持ち、他の部位へと情報を伝達する。投射ニューロン(projection neuron)と呼ばれることが通例である。

 一方で局所介在ニューロンの軸索は短く、その分布範囲は属する部位に限定され、近傍の神経細胞のみと情報交換を行う。一般的に介在ニューロンと呼んだ場合、この局所介在ニューロンを意味する(狭義の介在ニューロン)。

 介在ニューロンの定義は、そのニューロンが属する領域の境界線の引き方によって大きく変わるものである。すなわち、広義の介在ニューロンは、中枢神経系全体を一つの領域としてみなした場合であり、局所介在ニューロンだけでなく投射ニューロンも含まれる。実際には、部位毎に境界線を引き、(狭義の)介在ニューロンを定義することがほとんどであるが、その場合でも文献等によって領域の分け方が異なるケースがあることに注意を払う必要がある。次項では、大脳新皮質の介在ニューロンをとりあげて概説する。

大脳新皮質における介在ニューロン

 大脳新皮質には大別して二種の神経細胞が存在する[7] [8]。グルタミン酸を神経伝達物質として放出する興奮性錐体細胞GABAを放出する抑制性神経細胞である。一部を除き[9]、抑制性神経細胞のほとんどは軸索を局所にのみ展開することから、大脳新皮質介在ニューロン(neocortical interneuron)と呼ばれる。

 大脳新皮質介在ニューロンは、形態学的、電気生理学的、神経化学的に多種多様であることが知られており、多くの分類法が提唱されてきた[10] [11] [12] [13] [14] [15] [16]。今でも分類に関する研究が盛んであり、様々な手法・視点から研究が推進されている[17] [18] [19] [20] [21] [22]。なかでも神経化学マーカーによる分類は、発現する遺伝子に基づく分類法であり、その有用性から広く用いられており、現在では以下の三群に分けることが一般的である[10] [23] [24] [25] [26] [27]。すなわち、① パルブアルブミン(PV)発現細胞、②ソマトスタチン(SOM)発現細胞、③ その他の抑制性神経細胞である。PVとSOM以外にも多くの神経化学マーカーが存在し、マウス大脳新皮質では、血管作動性腸管ペプチド(VIP)が用いられることが最近では多い(図1)。 こうした化学的分類は、形態学的分類および電気生理学的分類とよく対応することが知られている[10] [12] [13] [14] [16] [19]。

PV発現細胞

 軸索の形態学的特徴から、そのほとんどがバスケット細胞(basket cell)であり、一部がシャンデリア細胞(chandelier cell)に対応する。また、電気生理学的には非常に早い発火特性(fast-spiking, FS)を示すことが特徴的である。

SOM発現細胞

 SOM発現細胞の軸索は第一層まで展開し、マルチノッチ細胞(Martinotti細胞)と呼ばれる。大脳新皮質介在ニューロンは、樹状突起上に棘突起(spine)がほとんど認められないとされるが、マルチノッチ細胞は比較的高い密度で棘突起を持つことが知られている[28]。電気生理学的には、non-FS細胞もしくは低閾値カルシウム電流が生じバースト状に発火する LTS 細胞(low-threshold spiking cell)に対応する。

VIP発現細胞

 VIP発現細の多くは、軸索を表層から深層まで縦方向に展開する、ダブルブーケ細胞(double bouquet細胞)である。しかし一部のVIP発現細胞は、コレシストキニン(cholecystokinin)を共発現し、大型バスケット細胞に分類される。電気生理学的には、non-FS細胞に属している。

その他の大脳新皮質介在ニューロン

 late spiking発火特性を示すニューログリアフォーム細胞(neurogliaform cell)は、軸索を細胞体の近傍に蜘蛛の巣状に張り巡らす。ラットでは、一部のニューログリアフォーム細胞がα-actinin 2を発現することが報告されているが[19]、未だに有用なマーカーは発見されていない。また、第一層に存在する介在ニューロン(layer I interneuron)についてもマーカーが同定されておらず、今後の課題である。

大脳新皮質介在ニューロンの役割

 近年、大脳新皮質介在ニューロン同士のシナプス結合に関する研究が大きく進展し、密なネットワークを形成していることが明らかになってきている[29] [30] [31] [32] [33] [34]。大脳新皮質介在ニューロンは高次機能発現[35] [36]や各種精神疾患(統合失調症自閉症等)[37] [38]との深い関連が指摘されており、大脳新皮質の動作原理解明、そして各種精神疾患の病態解明が期待されるところである[39]。

関連項目

図1. 大脳新皮質介在ニューロンの形態 [26]より改変。

参考文献