プレプレート

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英語名:Preplate、同義語:primordial plexiform layer

プレプレートは、大脳皮質の発生において皮質板(CP: cortical plate)の出現よりも早期に髄膜と脳室帯(VZ: ventricular zone)との間に形成される薄い層構造であり、最初に最終分裂を終えた神経細胞、細胞外基質(extracellular matrix)、水平方向に投射する皮質求心性線維(corticopetal fiber)等から構成される(Marin-Padilla 1971, 1978, Stewart, G. R. & Pearlman, A. L. 1987, Bystron et al. 2008)。マウスでは胎生11日頃からプレプレートは出現する。その後に脳室帯で誕生する神経細胞は脳表層側に放射状に移動してプレプレート内に進入する。その結果 、プレプレートは脳表層側のカハールレチウス細胞(Cajal-Retzius cell)を含む辺縁帯(MZ: marginal zone)と深層側のサブプレート(SP: subplate)に分割され(preplate splitting)、胎生13日頃からは両者の間に皮質板と呼ばれる神経細胞層を同定できるようになる。すなわち、プレプレートと呼ばれる構造は皮質発生の初期に一過的にのみ認められるものである(Caviness 1982, Sheppard and Pearlman 1997, Rice and Curran, 2001, Tissir and Goffinet, 2003, Nakajima 化学同人2013)。

プレプレートを構成するもの

プレプレートを構成する神経細胞は、皮質発生の最初期に最終分裂を終えた神経細胞からなり、誕生場所を異にした複数の集団から構成される。しかし、その構成要素は現在でも不明な点が多い。以下に、現在知られているプレプレートの構成細胞と、その他の構造物について概説する。

カハールレチウス細胞(Cajal-Retzius cell)

カハールレチウス細胞は、サブプレートニューロンより早生まれであるとされている。cortical hem、ventral pallium、pallial septumを起源とし、誕生後軟膜直下を脳表面に対し平行に移動してプレプレートの一部を構成する(Franck Bielle 2005)。細胞体から放射状に樹状突起を延ばし、形態的には双極性から多極性を示す(Marin-Padilla 1990)。また神経細胞移動大脳皮質層形成において重要な機能分子であるリーリン(Reelin)を分泌することにより大脳皮質の発生過程を制御している(D’Arcangelo 1995, Ogawa 1995)。

将来サブプレート(subplate)となる神経細胞

将来サブプレートを構成する神経細胞は、カハールレチウス細胞の産生時期に続いて脳室帯で誕生し、脳表層側に放射状に移動してプレプレートを構成する。一部の細胞はrostro-medial telencephalic wall (RMTW) からも誕生し、脳表面に平行な移動によりプレプレート内に進入するとされている(Pedraza 2014)。プレプレートの分割後、これらの細胞は深層側のサブプレートに配置されサブプレートニューロン(subplate neuron)と呼ばれるようになる。サブプレートニューロンは皮質板を構成する他の神経細胞よりも早期に分化するため、この時期より樹状突起形成や外套下部(subpallium)への軸索投射がみられる( McConnell 1989)。この皮質板形成初期の軸索投射をpioneer projectionと呼び、視床皮質投射(thalamocortical projection)の線維を皮質板にガイドする役割を担う(Ghosh A 1990)。また、サブプレートニューロンには細胞形態や発現遺伝子が異なるものが含まれており、複数のポピュレーションから構成されると考えられている(Franziska M Oeschge 2011, Hoerder-Suabedissen and Zoltan Molnar 2015)。マウスでは生後にサブプレートニューロンの多くはアポトーシスを起こして消失する。ただし、調べられた全ての動物種で一部の細胞は成体まで残る(第VIb層)。また、統合失調症では白質内に異所性の神経細胞が増加することが報告されているが、そのうちのNADPHジアフォラーゼ染色により同定されるinterstitial white matter neuronは白質内に残存したサブプレートニューロンと考えられている(Akbarian 1993)。

その他の神経細胞

ヒトにおいて、プレプレート内に抑制性アミノ酸であるγ-アミノ酪酸(GABA: γ-aminobutyric acid)と転写因子Nkx2.1または転写因子Dlxとを共発現した神経細胞の存在が報告されており、これらは大脳基底核原基(GE: ganglionic eminence)由来のGABA作動性抑制性神経細胞の特徴を持つと考えられている(Rakic 2003)。従来は、大脳皮質発生期において皮質内に最初に出現する神経細胞はカハールレチウス細胞と将来サブプレートとなる細胞と考えられてきた。しかし、これらの細胞よりも早期にプレプレート内に出現する神経細胞の存在もラットで報告されている(Meyer et al., 1998, Zecevic 1999)。また、ヒトにおいて、脳室帯で神経細胞の産生が始まるよりも前に、神経細胞マーカーであるTU20を発現するpredecessor neuronが軟膜直下に存在し、後に転写因子Tbr1を発現することが報告された。この細胞の役割に関してはまだ不明であるが、水平に伸びる長い樹状突起により軸索の投射や後続の移動細胞をガイドしていることが示唆されている(Bystron 2006)。

細胞外基質(extracellular matrix)

プレプレート内には細胞成分の他に多くの細胞外基質や細胞外分泌タンパク質が含まれる。細胞外基質としてはコンドロイチン硫酸プロテオグリカンCSPGs: chondroitin sulfate proteoglycans)やフィブロネクチン(fibronectin)、細胞外分泌タンパク質としてはリーリンがその代表的なものである。CSPGsはプレプレートニューロンから分泌されると考えられており、その分布はプレプレートニューロンの分布に依存する。リーリン分子を欠損したリーラーマウス(reeler)ではプレプレートの分割が起きずプレプレートニューロンが異所的に脳表面近くに分布することが知られているが(後述)、リーラーにおいてCSPGsの分布がその異所性のプレプレートニューロンの分布に一致することが、CSPGs の分布がプレプレートニューロンに依存するとされる根拠の一つである。プレプレートにおけるCSPGsの役割は、軸索形成を阻害するという他の部位で見られる機能とは異なり、視床皮質線維と皮質遠心性線維(corticofugal fiber)とをサブプレート直下で分離することに関与しているとの報告もある(Bicknese 1994, Miller 1995, Sheppard and Pearlman 1997)が、まだ未解明な部分が多い。

その他の構造物

ネコの胎児における観察で、皮質板が出現するよりも早期に、プレプレート内を脳表面に対して平行な方向に皮質求心性線維が投射することが報告されている(Marin-Padilla 1978)。ヒトでも同様にプレプレート内に皮質求心性線維の投射を認め、当初はモノアミン神経線維(monoaminergic fiber)の投射と推測された。しかし、カテコールアミン合成系酵素であるチロシン水酸化酵素(TH: tyrosine hydroxylase)による免疫染色の結果、皮質板出現後においてはTH陽性の線維を皮質第I層とサブプレートに認めたものの、プレプレート期においては認めなかったとの報告もある(Zecevic 1995,1999)。

プレプレートの分割とリーリン

マウスでは胎生13日頃より、将来皮質板第VI層となる神経細胞がプレプレート内に進入する。その結果、胎生13日頃よりプレプレートの分割が起こる(図1)。リーリンを欠損したリーラーマウスでは、プレプレートの分割が起きず軟膜直下にカハールレチウス細胞、サブプレートニューロン、一部のⅥ層ニューロン等が入り混じった層であるスーパープレート(superplate)を形成する。更に後続の移動細胞はinside-out様式の層構造を形成できず層構造が概ね逆転したoutside-in構造となる(Honda 2011)。また、脳室帯に異所性にリーリンを発現させたマウスとリーラーマウスとをかけ合わせて作成したマウスでは、プレプレートの分割が部分的にレスキューされること(Magdaleno 2002)、リーリンの下流分子のグアニンヌクレオチド交換因子(GEF: guanine nucleotide exchange factor)である C3Gのノックアウトマウスではプレプレートの分割が起きないこと(Voss 2008)等、プレプレートの分割にリーリンシグナルが必要であることを示唆する研究結果が多数報告されている。

関連項目

リーリン カハールレチウス細胞 サブプレート Dab1 大脳皮質の発生

参考文献