Aδ線維とC線維
水村 和枝
中部大学 生命健康科学部 理学療法学科 医療技術実習センター
DOI XXXX/XXXX 原稿受付日:2013年3月21日 原稿完成日:2013年月日
担当編集委員:一戸 紀孝(国立精神・神経医療研究センター 神経研究所)
英語名:Aδ fiber and C fiber 独:Aδ-Faser und C-Faser 仏:fibre Aδ et fibre C
同義語:III群線維とIV群線維、細径有髄神経と無髄神経
Aδ線維とC線維とは
末梢神経の神経線維は髄鞘の有無、直径、伝導速度等で分類される(表1)。有髄線維と無髄線維では有髄線維が、同じ種類の線維間では直径の大きい方が伝導速度が速い。前者は跳躍伝導により、後者の電気緊張電位の広がりを利用した伝導よりも速い伝導速度を得ている。
有髄線維のうち最も細いものをAδ線維、無髄神経をC線維と呼ぶが、区別することが難しい場合があり、また機能的に重なっている部分もあるので、両者を合わせて細径線維ということもある。 筋からの求心性感覚神経には、表1に示されているようなI-IV群線維という分類が使われてきたが、最近ではAδ線維、C線維という分類もよく使われている。
筋からの求心性感覚神経線維(太さから分類) | 線維直径(μm) | 皮膚からの求心性感覚神経線維(速度から分類) | 伝導速度(m/s) | |
有髄神経 | I | 12-20 | Aα | 72-120 |
II | 6-12 | Aβ | 36-72 | |
III | 1-6 | Aδ | 4-36 | |
- | ≦3 | B(注1) | 3-15 | |
無髄神経 | IV | 0.2-1.5 | C | 0.4-2.0 |
(注1)B線維は一般的に自律神経系節前線維を指す。
構造
Aδ線維
感覚性の細い有髄神経であり、筋からの求心性感覚神経線維についてはIII群線維ともいう[1]。
伝導速度は大型の動物では2.5-3 m/sから25-30 m/s、ラットでは1.3-2m/sから12-20 m/s[2][3]である。
C線維
C線維は無髄神経であり、伝導速度は2.5 m/s以下である(ラットでは2 m/s や1.3 m/sが使われる)。
感覚神経(求心性神経)と交感神経節後線維が含まれる(この項では交感神経節後線維についての説明は省略する)。筋からの求心性感覚神経線維の無髄神経はIV群線維とも呼ばれる[1]。その数(交感神経節後線維を含む)は筋からの求心性感覚神経線維では運動神経も含む全有髄神経線維の2倍にもなる[4]。Aδ線維はA線維の中でも少ないので、C線維と比較すると圧倒的に少ない。
細胞体ならびに軸索終枝
細胞体は後根神経節(または三叉神経節)に存在し、C線維は小型で(直径<30 μm)、Aδ線維はそれよりやや大きい(<35 μm)が、両者はかなりオーバーラップする。
脊髄内での終枝は、皮膚Aδ線維は後角第I層とV層に、C線維は第II層に主として分布する。筋C線維はI、II層に、内臓C線維は主としてI、IIに終枝するが、V、X層にも見られる。
機能
感覚受容
感覚受容器は種々のエネルギー(熱エネルギー、機械エネルギー、化学エネルギー)を電気的な神経の信号(脱分極)、さらには活動電位)に変換して、情報を中枢神経に送る。
Aδ線維終末には痛みおよび冷感覚情報を伝える感覚受容器(それぞれ侵害受容器、冷受容器)がある。ただし、ラットでは冷受容器は主として後述のC線維である。 C線維は痛み感覚を伝えていると一般には考えられているが、痛み感覚ばかりではなく、痒み感覚、快感を起こすような(sensual)触感覚、温感覚(ラットでは冷感覚も)も伝えている。Aδ線維の受容器もC線維の受容器も感覚終末は特別な小体構造を造らない自由神経終末である。
つまり、それら終末(この文脈ではC線維の終末でしょうか、それとも、Aδ線維とC線維両方でしょうか両方です)はそれぞれそれらの受容器(それぞれ侵害受容器、C線維低閾値機械受容器、温受容器)となっている。侵害受容器には熱にも機械刺激にも反応するポリモーダル(侵害)受容器、機械刺激にのみ反応する機械侵害受容器、機械刺激に反応せず熱刺激にのみ反応する熱侵害受容器、正常な組織では活動しておらず炎症時などで活動する非活動性侵害受容器等がある、後者の2つはC線維のみに存在する(表2)。痒み感覚の受容器には、ポリモーダルタイプ(痒み物質のもならず機械刺激、熱刺激にも反応する)のものと、痒み物質にのみ特異的に反応する化学受容器タイプとがある。
侵害受容にはAδ線維のものとC線維のものとがあるが、それらが引き起こす感覚には違いがある。Aδ線維による痛みは、鋭く、識別性、局在性がよく、同じ部位の刺激では最初に(速く)感じられるので「速い痛み」または「一次痛」といわれる。逃避反射を引き起こす求心神経であると考えられている。
一方、C線維による痛みは鈍く、局在性が悪く、一次痛よりも後に感じられるので、「二次痛」「遅い痛み」といわれる。
受容器の種類 | 伝達速度からの分類 | 太さあるいは機能からの名称 | 様式 |
皮膚と皮下の機械受容器 | 触覚 | ||
マイスナー小体 | Aα、β | RA1 (注2) | なでる、粗動、偏位速度に比例的に反応 |
メルケル細胞 | Aα、β | SA1 (注3) | 圧力、触感、皮膚の偏位量・力に比例的に反応 |
パチニ小体 | Aα、β | RA2 (注2) | 振動、皮膚偏位の加速度に反応 |
ルフィニ終末 | Aα、β | SA2 (注3) | 皮膚の伸縮、、指などの小関節の関節角度 |
Hair-tylotrich, hair-guard | Aα、β | G1、G2 | なでる、粗動 |
Hair-down | Aδ | D | 軽くなでる |
Field (Ruffini終末が実体だと考えられる) | Aα、β | F | 皮膚の伸縮 |
C低閾値機械受容器 | C | なでる、sensual touch | |
温度受容器 | 温度 | ||
冷覚受容器 | Aδ | III | 皮膚冷感(<25℃[77℉]) |
温覚受容器 | C | IV | 皮膚温感(>35℃[95℉]) |
侵害受容器 | 痛み | ||
機械的 | Aδ | III | 鋭く穿刺するような痛み |
A線維熱機械的 I型、II型 | Aδ | III | 焼けるような痛み |
冷機械的侵害受容器 | C | IV | 凍てつく痛み |
熱侵害受容器 | C | IV | 高温高温(>45℃[113℉])、大きな受容野、機械刺激に反応しない |
冷侵害受容器 | C | IV | 低温(<5℃[41℉]) |
ポリモーダル | C | IV | 鈍い焼けるような痛み |
筋・骨格の機械受容器 | 四肢の固有受容性感覚 | ||
筋紡錘(第一次終末) | Aα | Ia | 筋肉の長さとスピード |
筋紡錘(第二次終末) | Aβ | II | 筋肉の伸展 |
ゴルジ腱器官 | Aα | Ib | 筋肉の収縮 |
関節嚢受容器 | Aβ | II | 関節の圧迫 |
伸縮感応性自由終末 | Aδ | III | 過剰な伸展あるいは力 |
(注2)Rapidly adapting type 1 あるいは 2
(注3)Slowly adapting type1 あるいは 2
感覚受容機構
各種のエネルギーを神経の信号に変換する分子をトランスジューサー分子といい、最近これがいろいろわかってきた。
温度受容
熱を電気的な変化に変換するものとしてTRPV1、V2、V3、V4が、冷却を電気的変化に変換するものとしてTRPM8が見出された。機械エネルギーのトランスジューサーとしては、Piezo1、2という分子が見い出され注目を浴びている。 Piezo2は後根神経節細胞や三叉神経節における発現があり、触覚(Merkel細胞やMeissner細胞)と 筋紡錘の 機械受容変換に必須であることが明らかにされた。しかし皮膚侵害受容器の機械受容変換への関与は否定的である。
化学受容
化学的な物質に対するものにはイオンチャネル型受容体と代謝型受容体(これ自身だけでは電位変化は起こせない、細胞内情報伝達系を駆動して、他のイオンチャネルを修飾して電位変化を起こす)とがあり、ブラジキニンB2受容体、プロスタグランジン受容体、ATPに対するP2X受容体やP2Y受容体等、多くのものが知られている。これらの分子がいろいろの組み合わせで受容器終末に発現し、その受容器の反応特性を作っている。
受容器タイプと軸索伝導特性
伝導速度以外にも軸索の伝導特性がAδ線維とC線維で異なり、さらにC線維においても受容器タイプによって異なることが示された[5][6]。
軸索を繰り返し電気刺激すると、C線維の侵害受容器の多くは20%程度(刺激条件により異なる)伝導速度が遅くなるのに対し、機械非感受性の受容器は30%という大きな遅延を示す。これに対し、冷受容器、C線維低閾値機械受容器や交感神経節後線維は遅延が少ない(10%程度)。
Aδ線維についての報告は少ないが、遅延ではなくスピードアップが見られている[7]。
この特性は神経線維の受容器タイプを知るうえで役に立つ。また、遅延は利用可能なNaV1.8という電位依存性ナトリウムチャネルの数によると報告されており[8]、痛みに関連する受容器の軸索が特に強い伝導遅延を示すことは、NaV1.8がC線維に特異的に発現することと関連している。
関連項目
参考文献
- ↑ 1.0 1.1 1.2 1.3 Eric R. Kandel et al.
Principles of neural science fifth edition 475-480 引用エラー: 無効な<ref>
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Lawson, S.N., & Waddell, P.J. (1991).
Soma neurofilament immunoreactivity is related to cell size and fibre conduction velocity in rat primary sensory neurons. The Journal of physiology, 435, 41-63. [PubMed:1770443] [PMC] [WorldCat] [DOI] - ↑
Handwerker, H.O., Kilo, S., & Reeh, P.W. (1991).
Unresponsive afferent nerve fibres in the sural nerve of the rat. The Journal of physiology, 435, 229-42. [PubMed:1770437] [PMC] [WorldCat] [DOI] - ↑
Stacey, M.J. (1969).
Free nerve endings in skeletal muscle of the cat. Journal of anatomy, 105(Pt 2), 231-54. [PubMed:5802932] [PMC] [WorldCat] - ↑
Gee, M.D., Lynn, B., & Cotsell, B. (1996).
Activity-dependent slowing of conduction velocity provides a method for identifying different functional classes of C-fibre in the rat saphenous nerve. Neuroscience, 73(3), 667-75. [PubMed:8809788] [WorldCat] [DOI] - ↑
Obreja, O., Ringkamp, M., Namer, B., Forsch, E., Klusch, A., Rukwied, R., ..., & Schmelz, M. (2010).
Patterns of activity-dependent conduction velocity changes differentiate classes of unmyelinated mechano-insensitive afferents including cold nociceptors, in pig and in human. Pain, 148(1), 59-69. [PubMed:19913997] [WorldCat] [DOI] - ↑ Taguchi et al.,
Pain in press. - ↑
De Col, R., Messlinger, K., & Carr, R.W. (2008).
Conduction velocity is regulated by sodium channel inactivation in unmyelinated axons innervating the rat cranial meninges. The Journal of physiology, 586(4), 1089-103. [PubMed:18096592] [PMC] [WorldCat] [DOI]