ヒスタミン

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 堀尾修平
徳島大学大学院 医歯薬学研究部 分子情報薬理学分野
DOI:10.14931/bsd.7520 原稿受付日:2018年3月1日 原稿完成日:
担当編集委員:林康紀(京都大学大学院 医学研究科 システム神経薬理学分野)

英語名:histamine 独:histamin 仏:histamine
IUPAC 名 : 2-(1H-imidazol-4-yl)ethanamine
別称:1H-Imidazole-5-ethanamine、2-(4-Imidazolyl)ethanamine、2-(1H-Imidazol-4-yl)ethylamine 、2-(1H-Imidazol-5-yl)ethylamine、β-Imidazolyl-4-ethylamine

 ヒスタミンは生体内で、アミノ酸であるヒスチジンから合成される。末梢では主に肥満細胞に貯えられ、刺激に応じて放出されアレルギー反応に関与する。また、摂食によってエンテロクロマフィン様細胞から遊離され、胃酸分泌に関与する。中枢では、視床下部乳頭体にヒスタミンニューロンが集まっており、そこから脳内各部位に投射し、神経伝達物質として働いている。睡眠・覚醒、摂食調節などに関与している。

発見

 ヒスタミンは、1907年にWindausとVogtによって化学的に合成された[1]。その後、Daleらにより様々な生理作用を持つことが示されたが、ようやく1927年になって、哺乳動物の種々の組織に含まれることが明らかにされ[2]、実際に生体内で働いている物質であることが判った。ヒスチジン由来のアミンという意味でヒスタミンと命名されたが[3]、組織(histos)由来のアミンから命名されたという説明もある(Goodman-Gilmanの教科書[4])。

化学構造

 イミダゾール骨格にエチルアミンの側鎖を有する構造である。アミノ酸であるヒスチジンの脱炭酸により生じる。

生合成

 ヒスタミンは哺乳動物のほとんどすべての組織に含まれる。L-ヒスチジンから、L-ヒスチジン脱炭酸酵素(L-histidine decarboxylase, HDC)により生合成される。

 ヒスタミンは、細菌、すなわち海洋性ヒスタミン産生菌及び腸内ヒスタミン産生菌でも、ヒスチジンからHDCにより合成される。魚を食べた時に、魚肉中で繁殖した細菌により合成されたヒスタミンを体内に取り込み食中毒(じんましん等)を起こすことがある。ヒスタミンは一般には腸管から吸収される量は少ないものの、一部は吸収されることによる。

分布

 哺乳動物組織では、ヒスタミンの大部分は、肥満細胞(mast cell)に存在する。血液中の好塩基球、胃粘膜のエンテロクロマフィン様細胞(enterochromaffin-like cell, ECL cell)にも存在する。脳内では、ヒスタミン神経に伝達物質として存在するが、肥満細胞、グリア細胞、血管内皮細胞にも存在する。ヒスタミンは血液脳関門を通過しない。

 軟体動物(Aplysia)[5]、昆虫(Drosophila)[6]、魚類(Zebrafish)[7]などの神経系にもヒスタミンが伝達物質として存在するが、線虫C. elegans)[8]の神経系には存在しない。

代謝

 代謝経路は2種類ある。

  1. ヒスタミンN-メチル基転移酵素(histamine N-methytransferase, HNMT)によりメチル化を受け、さらにモノアミン酸化酵素(monoamine oxidase, MAO)により酸化され、Nτ-メチルイミダゾール酢酸に代謝される。
  2. ジアミンオキシダーゼ(diamine oxidase, DAO)により酸化的脱アミノ化され、イミダゾール酢酸に代謝される。

 脳では、HNMTにより不活性化される[9]。末梢組織では、主にDAOにより代謝される。神経終末への取り込みによる不活性化機構はないと考えられている。

貯蔵と放出

 肥満細胞では、合成されたヒスタミンは細胞質の粗大分泌顆粒に貯蔵されている。細胞表面にIgE受容体を発現しており、そこにIgEが結合すると感作肥満細胞となる。IgEに特異的な抗原(アレルゲン)が結合すると架橋が形成され、それがトリガーとなって、脱顆粒によりヒスタミンが放出される。好塩基球もほぼ同様のメカニズムでヒスタミンを貯蔵、放出する。胃粘膜に存在するエンテロクロマフィン様細胞からは、摂食に伴ってヒスタミンが遊離され、壁細胞に作用し胃酸が分泌される。神経細胞では、小胞モノアミントランスポーター(vesicular monoamine-transporter, VMAT-2)によりシナプス小胞に輸送され貯蔵される[10]。

受容体

 現在、H1受容体、H2受容体、H3受容体、H4受容体の4種類が同定されている。いずれも、Gタンパク質共役型受容体である。

H1受容体(H1R, hrh1)

 Gq/11を介して、ホスホリパーゼCを活性化し、IP3とDGを生成する。細胞内Caが増加し、プロテインキナーゼCを活性化する。脳では、神経細胞とグリア細胞に発現している。神経細胞では、脱分極もしくは発火頻度の上昇を引き起こす。末梢では、気管支、腸管などの平滑筋、血管内皮細胞、副腎髄質細胞などに分布している。アレルギー反応を引き起こす主要原因である。

H2受容体(H1R, hrh2)

 Gsを介して、アデニル酸シクラーゼを活性化し、cAMP濃度を上昇させる。神経細胞とグリア細胞に発現している。神経細胞に対して興奮性に作用する。末梢では主に胃壁細胞に存在し、胃酸分泌に関与している。H2拮抗薬は、胃潰瘍治療薬として用いられている。

H3受容体(H3R, hrh3)

 Gi/oを介してアデニル酸シクラーゼを抑制し、cAMP濃度を下げる。細胞内Ca濃度を上昇させる。ヒスタミン神経終末部のシナプス前膜に存在し、ヒスタミンの合成および遊離を抑制する。また、他の神経系のシナプス前膜にも存在し、アセチルコリンセロトニンノルアドレナリン、ドパミン、グルタミン酸GABAの遊離を抑制する。選択的スプライシングにより複数のアイソフォームが存在する[11]。

H4受容体(H4R, hrh4)

 Gi/oを介してアデニル酸シクラーゼを抑制し、cAMP濃度を下げる。細胞内Ca濃度を上昇させる。H4受容体が中枢に存在するという確証は得られていない[12]。末梢では、骨髄、好酸球、Tリンパ球、マスト細胞などに存在する。とくに免疫系の細胞に発現が多く見られ、炎症やアレルギーへの関与が考えられるため、抗炎症薬、抗アレルギー薬の標的分子の候補となっている。

脊椎動物と無脊椎動物

 無脊椎動物では、上記のヒスタミン受容体の存在は示されていない。一方で、ショウジョウバエにおいて、histamine-gated chloride channels (HisCl 1およびHisCl 2) が同定されている[13,14]。これらは、視覚情報の伝達に重要な働きをしている[15]。脊椎動物にこれらのチャンネルが存在するかどうかはまだ不明である[16]。

 脊椎動物において、ヒスタミンがGABAA受容体に作用するという報告がある[17]。また、ヒスタミンは、NMDA受容体を、そのポリアミン結合部位に作用して活性化させる[18,19]。