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{{box|text= | {{box|text= | ||
脳室帯は、発生期の脳内における[[脳室]]を取り囲む脳室周囲層の最も脳室側 (内側) の一層である。1970 年にBoulder Committeeが、発生初期の中枢神経系を脳室側から軟膜にむかって4つの区域 (zone) に分け、脳室側から脳室帯(ventricular | 脳室帯は、発生期の脳内における[[脳室]]を取り囲む脳室周囲層の最も脳室側 (内側) の一層である。1970 年にBoulder Committeeが、発生初期の中枢神経系を脳室側から軟膜にむかって4つの区域 (zone) に分け、脳室側から脳室帯(ventricular zone)、[[脳室下帯]](subventricular zone)、[[中間帯]](intermediate zone)、[[辺縁帯]](marginal zone)と命名した<ref name=ref1><pubmed> 5414696 </pubmed></ref>(図1)。発生初期の脳室帯は[[神経上皮細胞]]と呼ばれる[[神経幹細胞]]によって構成され、[[大脳皮質]]を構成するための神経系細胞の供給源となっている。 | ||
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==脳室帯を構成する細胞== | ==脳室帯を構成する細胞== | ||
脳室帯を構成する細胞は、発生がすすむにつれて性質が変化する。発生のステージに従って形態が変化するとともに、[[分化]]能力も変化していく(図1)<ref name=ref1 />。 | 脳室帯を構成する細胞は、発生がすすむにつれて性質が変化する。発生のステージに従って形態が変化するとともに、[[分化]]能力も変化していく(図1)<ref name=ref1 />。 | ||
新生児期になると、[[側脳室]] | 発生初期においては、神経管の壁は神経上皮と呼ばれ、脳室面と[[基底膜]](後の[[軟膜]])の間に挟まれた神経幹細胞によって構成されている。[[皮質板]](cortical plate)が形成される頃になると、神経上皮の肥厚に伴って神経幹細胞は放射状に伸長した形態を示し、[[放射状グリア]]と呼ばれるようになる。この時、放射状グリアは[[細胞体]]を脳室帯に残したまま、伸長した放射状線維の先端を基底膜に付着させることによって上皮構造を維持している。幹細胞から生まれた新生ニューロンは、脳室帯を離れて辺縁帯直下まで放射状に移動する<ref><pubmed> 19555289 </pubmed></ref>。 | ||
新生児期になると、[[側脳室]]外側壁の放射状グリアは、神経幹細胞の性質をもつ[[アストロサイト]]と運動性の[[wikipedia:ja:繊毛|繊毛]]を有する[[上衣細胞]]へ分化する<ref><pubmed> 15634762 </pubmed></ref>。このとき上衣細胞が脳室面に並び、その隣(皮質側)の層が脳室下帯になる。この上衣細胞の層と脳室下帯の構造は、その後成体期でも維持される。元々発生期の脳内の層を表す言葉として命名 <ref name=ref1 /> された脳室帯および脳室下帯と区別するため、成体脳における上衣細胞の単層を[[上衣層]](ependymal layer)、その内側の層(皮質側)を[[上衣下層]](subependymal layer)と呼ぶこともある。 | |||
==神経上皮細胞/放射状グリアのマーカー== | ==神経上皮細胞/放射状グリアのマーカー== | ||
神経上皮細胞/放射状グリアの分子マーカーがいくつか同定されている<ref><pubmed> 16243597 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 11076748 </pubmed></ref> | 神経上皮細胞/放射状グリアの分子マーカーがいくつか同定されている<ref><pubmed> 16243597 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 11076748 </pubmed></ref>。[[SRY-box 2]]([[Sox2]])<ref><pubmed> 15866195 </pubmed></ref>および [[paired box 6]]([[Pax6]])<ref><pubmed> 11050125 </pubmed></ref> <ref name=ref8><pubmed> 9856459 </pubmed></ref>などの[[転写因子]]や、脳に存在する[[脂肪酸結合タンパク質]]である[[fatty acid biding protein 7]]([[FABP7]])/ [[brain lipid binding protein]]([[BLBP]])<ref><pubmed> 8161459 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 7956838 </pubmed></ref>、[[中間径フィラメント]]タンパク質であるネスチン<ref><pubmed> 3357014 </pubmed></ref>、放射状グリアのマーカーである[[radial glial cell marker-2]]([[RC2]])<ref name=ref12><pubmed> 10657706 </pubmed></ref>、RNA結合タンパク質 [[Musashi1]]<ref name=ref12 />などは発生初期の神経上皮細胞から発現している。これらのうちPax6は神経上皮細胞の未分化性の維持に重要であり、FABP7の発現を制御する<ref><pubmed> 16237179 </pubmed></ref>。中間径フィラメントタンパク質である[[vimentin]]<ref><pubmed> 7026573 </pubmed></ref>、カルシウム結合タンパク質である[[S100β]]<ref><pubmed> 12561079 </pubmed></ref>、アストロサイト特異的な[[グルタミン酸トランスポーター]] ([[GLAST]])<ref><pubmed> 9364068 </pubmed></ref>、[[グルタミン合成酵素]] ([[GS]]) <ref><pubmed> 8095865 </pubmed></ref>、[[細胞外マトリックス]]糖タンパク質である[[tenascin-C]] ([[TN-C]])<ref name=ref8 />などは放射状グリアに発現する。 | ||
==神経上皮細胞の細胞分裂と大脳皮質の形成== | ==神経上皮細胞の細胞分裂と大脳皮質の形成== | ||
[[ファイル:VZ-Fig2.jpg|500|thumb|right|'''図2. 神経上皮細胞の細胞周期とエレベーター運動''' <br> 神経上皮細胞は核のエレベーター運動を行っており、この運動は細胞周期のリズムと連動している。脳室面で対称分裂あるいは非対称分裂が起こる。]] | [[ファイル:VZ-Fig2.jpg|500|thumb|right|'''図2. 神経上皮細胞の細胞周期とエレベーター運動''' <br> 神経上皮細胞は核のエレベーター運動を行っており、この運動は細胞周期のリズムと連動している。脳室面で対称分裂あるいは非対称分裂が起こる。]] | ||
神経上皮細胞の核は、[[細胞周期]]に応じて脳室面から脳膜面の間を上下に[[エレベーター運動]]し、脳室面で[[細胞分裂]] | 神経上皮細胞の核は、[[細胞周期]]に応じて脳室面から脳膜面の間を上下に[[エレベーター運動]]し、脳室面で[[細胞分裂]](M期)を行う<ref>'''Sauer FC'''<br>Mitosis in the neural tube<br>''J. Comp. Neurol.'': 1935, 62(2);377-405</ref> <ref><pubmed> 21441895 </pubmed></ref> (図2)。神経上皮が「[[偽重層]]」を示すのはこのためである。発生初期の神経上皮細胞は対称分裂することによって自己複製をくり返す。この対称分裂によって、脳室面に並ぶ神経上皮細胞数が爆発的に増加し、脳室帯を拡大する。対称分裂による神経上皮細胞の拡大産生期が終わる頃、非対称分裂が始まる。すなわち、1つの神経上皮細胞から1つの神経上皮細胞と1つの新生ニューロンが産生される。新生ニューロンは、脳室帯から軟膜側へ放射状に移動し、適切な場所で移動を停止し、成熟ニューロンへと分化していく。このような新生ニューロンの放射状移動によって、脳は放射状に拡大(radial expansion)していく。このように、神経上皮細胞の非対称分裂がくり返されることによって、脳室帯の維持と大脳皮質の形成を同時になし得ている<ref><pubmed> 7482803 </pubmed></ref>。 | ||
==関連項目== | ==関連項目== |