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英語名:synapsin | 英語名:synapsin | ||
同義語:プロテインI 、II、III | |||
{{box|text= シナプシンは、神経系に広く分布する非膜貫通型の[[シナプス小胞]]結合蛋[[白質]]で、[[神経終末]]に局在している。系統発生学的に1つの共通遺伝子から派生した遺伝子ファミリーを構成し、[[哺乳類]]では3つの遺伝子から成るシナプシンI、II、IIIが存在する。中でも、シナプシンIとIIは、複数のプロテインキナーゼ、フォスファターゼによって刺激依存的にリン酸化・脱リン酸化を受け、その結果、[[シナプス]]小胞や[[細胞骨格]]蛋白質への結合状態が変化することから、リン酸化によってシナプス小胞の局在を制御する蛋白質として、注目を集めてきた。近年、ノックアウト[[マウス]]の解析等から、シナプシンI、IIは、[[シナプス前]]においてシナプス小胞の予備のプールを維持・安定化するために不可欠の分子であり、連続刺激の際にシナプス小胞を動員し、シナプス[[抑圧]]を制限する上で、重要な役割を果たすことがわかってきた。}} | {{box|text= シナプシンは、神経系に広く分布する非膜貫通型の[[シナプス小胞]]結合蛋[[白質]]で、[[神経終末]]に局在している。系統発生学的に1つの共通遺伝子から派生した遺伝子ファミリーを構成し、[[哺乳類]]では3つの遺伝子から成るシナプシンI、II、IIIが存在する。中でも、シナプシンIとIIは、複数のプロテインキナーゼ、フォスファターゼによって刺激依存的にリン酸化・脱リン酸化を受け、その結果、[[シナプス]]小胞や[[細胞骨格]]蛋白質への結合状態が変化することから、リン酸化によってシナプス小胞の局在を制御する蛋白質として、注目を集めてきた。近年、ノックアウト[[マウス]]の解析等から、シナプシンI、IIは、[[シナプス前]]においてシナプス小胞の予備のプールを維持・安定化するために不可欠の分子であり、連続刺激の際にシナプス小胞を動員し、シナプス[[抑圧]]を制限する上で、重要な役割を果たすことがわかってきた。}} | ||
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==アイソフォームとドメイン構造== | ==アイソフォームとドメイン構造== | ||
[[ファイル:Yokoyamagata Fig 1.jpg|サムネイル|左|図1:哺乳類のシナプシン各アイソフォーム(Ia, Ib; IIa, IIb; IIIa)のドメイン構造。左側がアミノ末端、右側がカルボキシル末端。]] | |||
シナプシンは系統発生学的によく保存された蛋白質ファミリーで、ほとんどの動物に存在する。無脊椎動物ではその遺伝子は1個だが、ほとんどの脊椎動物では3個となり、シナプシンI、II、IIIに対応する。哺乳類ではそれぞれの遺伝子から選択的スプライシングによって複数のアイソフォーム(Ia-b、IIa-b、IIIa-f)が形成され、そのうち主なものは、シナプシンIa、Ib、IIa、IIb、IIIaの5種類である(Gitler, 2009; Khvotchev, 2009; Cesca, 2010)(図1)。 | シナプシンは系統発生学的によく保存された蛋白質ファミリーで、ほとんどの動物に存在する。無脊椎動物ではその遺伝子は1個だが、ほとんどの脊椎動物では3個となり、シナプシンI、II、IIIに対応する。哺乳類ではそれぞれの遺伝子から選択的スプライシングによって複数のアイソフォーム(Ia-b、IIa-b、IIIa-f)が形成され、そのうち主なものは、シナプシンIa、Ib、IIa、IIb、IIIaの5種類である(Gitler, 2009; Khvotchev, 2009; Cesca, 2010)(図1)。 | ||
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== リン酸化とその影響 == | == リン酸化とその影響 == | ||
[[ファイル:Yokoyamagata Fig 2.jpg|サムネイル|右|図2:シナプシンIの主なリン酸化部位とそれぞれに対応するプロテインキナーゼ、フォスファターゼ。site 1はシナプシン各アイソフォームに共通、site 2-7はシナプシンIに特異的。CaMKI,Ca2+/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼI;CaMKII,Ca2+/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼII;[[cdk5]],サイクリン依存性キナーゼ5;MAPK,ERK1/2-MAPキナーゼ;PKA,プロテインキナーゼーA,cAMP依存性プロテインキナーゼ;PrP2A,プロテインフォスファターゼ2A;PrP2B,プロテインフォスファターゼ2B,カルシニューリン。(Yamagata, 2003より許可を得て改変引用)]] | |||
各アイソフォームに共通のPKA/CaMKIによるsite 1のリン酸化は、シナプシンのシナプス小胞膜への結合を阻害し、シナプス小胞から離れやすくする(Greengard, 1993; Hilfiker, 1999; Gitler, 2009; Cesca, 2010)。 | 各アイソフォームに共通のPKA/CaMKIによるsite 1のリン酸化は、シナプシンのシナプス小胞膜への結合を阻害し、シナプス小胞から離れやすくする(Greengard, 1993; Hilfiker, 1999; Gitler, 2009; Cesca, 2010)。 | ||
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== 機能 == | == 機能 == | ||
[[ファイル:Yokoyamagata Fig 3.jpg|サムネイル|右|図3:神経終末におけるシナプシンの役割。左は野生型(WT)、右はシナプシンI/II/IIIトリプルノックアウトマウス(TKO)のシナプス前終末の模式図。シナプシン(橙色)はシナプス小胞に2価性に結合し、小胞の可動性を制限し安定化することにより、集合体としての予備のプールの形成に必須であると考えられる(左図)。シナプシンI/II/III TKOでは、予備のプールのシナプス小胞の可動性が高まり、集合体としての構造が崩れてしまう(右図)。予備のプールの維持・安定化は、連続刺激の際に放出可能なシナプス小胞を動員するために重要な役割を果たすと考えられる。但し、シナプシン以外にも、シナプス小胞の可動性を制限し、固定化に貢献する分子が存在する可能性がある(青色)。]] | |||
=== シナプス小胞の予備のプールの維持・安定化 === | === シナプス小胞の予備のプールの維持・安定化 === | ||
シナプシンI、II、IIIの単体、ダブル、トリプルノックアウトマウス(KO、DKO、TKO)が作製されたが、それらの脳の構造や形態には大きな異常が認められないことから、シナプシンは正常な脳の発達には必ずしも必要ではないと考えられる(Gitler, 2009;Khvotchev, 2009)。 | シナプシンI、II、IIIの単体、ダブル、トリプルノックアウトマウス(KO、DKO、TKO)が作製されたが、それらの脳の構造や形態には大きな異常が認められないことから、シナプシンは正常な脳の発達には必ずしも必要ではないと考えられる(Gitler, 2009;Khvotchev, 2009)。 |