「夢」の版間の差分

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 また、Winsonは「夢は記憶の再生と再処理過程で生じる」という仮説を提案している<ref name="Winson1985"><pubmed>4029326</pubmed></ref>。これは、日中に蓄えた記憶の中で重要なものがレム睡眠中に再生・編集され、あらためて長期的な記憶として固定されるというものである。この説は、睡眠前の覚醒時の学習・経験が睡眠時にリプレイされることにより[[長期記憶]]として定着するという記憶の固定化とも一致するが、実際に夢内容とこのような睡眠中の神経活動のリプレイが対応しているとの実証的なデータはまだ報告されていない。  
 また、Winsonは「夢は記憶の再生と再処理過程で生じる」という仮説を提案している<ref name="Winson1985"><pubmed>4029326</pubmed></ref>。これは、日中に蓄えた記憶の中で重要なものがレム睡眠中に再生・編集され、あらためて長期的な記憶として固定されるというものである。この説は、睡眠前の覚醒時の学習・経験が睡眠時にリプレイされることにより[[長期記憶]]として定着するという記憶の固定化とも一致するが、実際に夢内容とこのような睡眠中の神経活動のリプレイが対応しているとの実証的なデータはまだ報告されていない。  


 一方、Winsonの説とは逆に、「夢は不要な記憶を消去するために見る」という説がある。この説は、[[[wikipedia:jaDNA|DNA]]の[[wikipedia:ja:二重らせん構造|二重らせん構造]]の発見で[[wikipedia:ja:ノーベル賞|ノーベル賞]]を受賞した[[wikipedia:ja:フランシス・クリック|Crick]]らが提唱したもので、レム睡眠中の夢は不要な記憶を消去し神経回路を整理するために生じるとしている<ref name="Crick1983"><pubmed>6866101</pubmed></ref>。記憶の定着・固定に関して、睡眠には過剰なシナプス結合を減少させる働きがあるとする「[[シナプス恒常性仮説]]」<ref name="Tononi2003"><pubmed>14638388</pubmed></ref>は、Crickらの説に近い。しかし、[[シナプス]]恒常性仮説では、シナプス結合の減少をレム睡眠ではなくノンレム睡眠中の[[徐波]]によるものだとしており、またシナプス結合の減少も特定の結合ではなく、一様に結合を減少させるとしており、夢内容との関係は想定されていない。  
 一方、Winsonの説とは逆に、「夢は不要な記憶を消去するために見る」という説がある。この説は、[[wj:DNA|DNA]]の[[wikipedia:ja:二重らせん構造|二重らせん構造]]の発見で[[wikipedia:ja:ノーベル賞|ノーベル賞]]を受賞した[[wikipedia:ja:フランシス・クリック|Crick]]らが提唱したもので、レム睡眠中の夢は不要な記憶を消去し神経回路を整理するために生じるとしている<ref name="Crick1983"><pubmed>6866101</pubmed></ref>。記憶の定着・固定に関して、睡眠には過剰なシナプス結合を減少させる働きがあるとする「[[シナプス恒常性仮説]]」<ref name="Tononi2003"><pubmed>14638388</pubmed></ref>は、Crickらの説に近い。しかし、[[シナプス]]恒常性仮説では、シナプス結合の減少をレム睡眠ではなくノンレム睡眠中の[[徐波]]によるものだとしており、またシナプス結合の減少も特定の結合ではなく、一様に結合を減少させるとしており、夢内容との関係は想定されていない。  


 夢の生物学的意義を考える上で、レム睡眠の機能と夢の機能、さらにわれわれが全睡眠時間の20%前後を費やして夢を見ていることと見た夢を覚えていることは分けて考えるべきである。そもそもレム睡眠そのものの機能もいまだ明らかではない。また、覚醒時と同様の活動パタンを示す睡眠中の自発的神経活動や睡眠中のシナプス強度の減少が、われわれが見る夢の内容と直接関連するかどうかも不明である。したがって、レム睡眠の特徴を基にして夢が生物学的意義を持つと結論づけるべきではないだろう。  
 夢の生物学的意義を考える上で、レム睡眠の機能と夢の機能、さらにわれわれが全睡眠時間の20%前後を費やして夢を見ていることと見た夢を覚えていることは分けて考えるべきである。そもそもレム睡眠そのものの機能もいまだ明らかではない。また、覚醒時と同様の活動パタンを示す睡眠中の自発的神経活動や睡眠中のシナプス強度の減少が、われわれが見る夢の内容と直接関連するかどうかも不明である。したがって、レム睡眠の特徴を基にして夢が生物学的意義を持つと結論づけるべきではないだろう。  


 活性化合成仮説が主張するように、夢を見ること自体はレム睡眠の付随現象かもしれない。しかし、われわれの意識・精神活動は脳の神経細胞の電気的活動に基づくものであるが、覚醒時の行動の多くが意識には上らない脳活動の影響を受けている。「無我夢中」という言葉があるように、レム睡眠中の夢では、後述の明晰夢を除いていわゆる[[自己意識]]は無い(夢を見ながら、これは現実ではなく、自分は夢を見ていると気がつくことはまれである)。レム睡眠中におけるヒトの夢見という現象を、覚醒ともノンレム睡眠とも異なる、覚醒に近いが自己意識が無い状態における自発性の精神活動として捉えれば(ただし、明晰夢では自己意識が存在する。詳しくは[[夢#明晰夢|「明晰夢」]]を参照)、夢の脳科学的研究は睡眠にとどまらずヒトの意識や自発性の脳活動と精神活動の関連を研究するための重要な研究手段となりうる。
 活性化合成仮説が主張するように、夢を見ること自体はレム睡眠の付随現象かもしれない。しかし、われわれの意識・精神活動は脳の神経細胞の電気的活動に基づくものであるが、覚醒時の行動の多くが意識には上らない脳活動の影響を受けている。「無我夢中」という言葉があるように、レム睡眠中の夢では、後述の明晰夢を除いていわゆる[[自己意識]]は無い(夢を見ながら、これは現実ではなく、自分は夢を見ていると気がつくことはまれである)。レム睡眠中におけるヒトの夢見という現象を、覚醒ともノンレム睡眠とも異なる、覚醒に近いが自己意識が無い状態における自発性の精神活動として捉えれば(ただし、明晰夢では自己意識が存在する。詳しくは[[夢#明晰夢|''明晰夢''の節]]を参照)、夢の脳科学的研究は睡眠にとどまらずヒトの意識や自発性の脳活動と精神活動の関連を研究するための重要な研究手段となりうる。


== レム睡眠に特異的か?  ==
== レム睡眠に特異的か?  ==