興奮性シナプス

提供:脳科学辞典
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英:Excitatory synapse、独:exzitatorische Synapse、仏:synapses excitatrices

 興奮性シナプスとは、シナプス伝達によってシナプス後細胞を興奮させるシナプス結合のことである。興奮性シナプスからの入力によってシナプス後細胞の膜電位は脱分極し、閾値を超えると活動電位が発生する。興奮性シナプスを形成するシナプス前細胞は、興奮性ニューロンと呼ばれる。一方、抑制性シナプスは、シナプス伝達によってシナプス後細胞を抑制する。

興奮性シナプスとは

 シナプス伝達を介してシナプス後細胞を脱分極(興奮)させるシナプス前細胞を興奮性ニューロンと呼び、逆にシナプス後細胞を過分極(抑制)させるシナプス前細胞のことを抑制性ニューロンと呼ぶ。興奮性シナプスとは、興奮性ニューロンとシナプス後細胞の間で形成されるシナプスのことである。興奮性シナプスからの入力により、シナプス後細胞の膜電位は脱分極し、膜電位が閾値を超えると活動電位が発生して次のニューロンへと情報が伝播してゆく。

 シナプス伝達によってシナプス後細胞が興奮するか抑制されるかは、シナプス前終末から放出される神経伝達物質とシナプス後膜上の伝達物質受容体の種類によって決まる。同じ伝達物質が放出されても受容体の種類が異なれば、シナプス後細胞の応答も異なる。中枢神経系ではグルタミン酸が、末梢神経系ではアセチルコリンが主な興奮性の伝達物質として用いられている。

構造

 興奮性シナプスといった場合には、一般的に興奮性の化学シナプスのことを指し、基本的な構造は抑制性シナプスと共通である。神経伝達物質を内包するシナプス小胞がシナプス前終末に集積し、シナプス間隙を挟んで伝達物質受容体の並ぶシナプス後膜と相対している。シナプス前終末には神経伝達が放出されるアクティブゾーンがあり、直径40-50 nmのシナプス小胞とともに、伝達物質の開口放出に必要なカルシウムチャネルSNARE複合体が集積している。シナプス間隙は、シナプス前終末と後細胞間の12-20 nmの間隙であり、開口放出された伝達物資はこの間隙を拡散して受容体に結合する。シナプス後膜には神経伝達物質受容体が並んでおり、膜直下にはシナプスの構造タンパク質や調節タンパク質が集積したシナプス後肥厚(postsynaptic density; PSD)と呼ばれる構造がある。興奮性シナプスはシナプス後肥厚が発達し、電子顕微鏡像において顕著に観察される。

 脳の広い領域に見られるボタン状シナプスの他、網膜のリボン状シナプスや、動眼神経節や脳幹で見られる杯状シナプスなど、興奮性シナプスの形態は多岐にわたる。

シナプス伝達過程

 シナプス前細胞で発生した活動電位は軸索を伝播し、シナプス前終末に到達する。シナプス前終末では、活動電位による脱分極で電位依存性カルシウムチャネルが開き、カルシウムイオンが細胞内に流入する。カルシウムイオンが引き金となってactive zoneに結合しているシナプス小胞が細胞膜に融合し、シナプス小胞に内包されていた神経伝達物質がシナプス間隙に開口放出される。

 開口放出された伝達物質はシナプス後細胞膜上の受容体に結合する。イオンチャネル共役型受容体の場合は、即座にイオンチャネルが開いて陽イオンが細胞内に流入することで脱分極が起こる。代謝型活性型受容体の場合は、伝達物質結合の後、細胞内シグナルを介して別のイオンチャネルが開いて遅い時間スケールでの脱分極が起こる(遅いシナプス後電位)。

電気生理

 興奮性シナプス伝達では、陽イオンの流入によってシナプス後細胞は脱分極し、この膜電位変化はホールセルパッチクランプ法(カレントクランプモード)において興奮性シナプス後電位(excitatory postsynaptic potential; EPSP)として観察される。このとき電流は細胞の内側に向かって流れ(内向き電流)、ホールセルパッチクランプ法(ボルテージクランプモード)において興奮性シナプス後電流(excitatory postsynaptic current; EPSC)として観察される。また、電流が流れることによって細胞外電場にも変化が生じるので、細胞外電極によって興奮性シナプス後場電位(field EPSP; fEPSP)として観察することが可能である。

 興奮性のシナプス入力によって受容体からカルシウムイオンが細胞内に流入するので、カルシウム指示薬カルシウム感受性蛍光タンパク質を用いることで興奮性シナプス伝達を光学的に観察することも可能である。

可塑性

関連項目

参考文献

(執筆担当者:酒井 誠一郎、八尾 寛、担当編集委員:河西 春郎)