プロテアソーム
田中啓二、佐伯泰
東京都医学総合研究所蛋白質代謝研究室
DOI XXXX/XXXX 原稿受付日:2012年XX月XX日 原稿完成日:2013年X月XX日
担当編集委員:林 康紀(独立行政法人理化学研究所)
英語名:proteasome 独:Proteasom 仏:protéasome
真核生物の細胞内には進化的に保存された二つのタンパク質分解系、ユビキチン・プロテアソームシステム(UPS)とオートファジー・リソソームシステムが存在している。UPSは選択的タンパク質を担う中心的な酵素系であり、一方、オートファジー・リソソームシステムは一般に非選択的なタンパク質を担っている。プロテアソームは、ユビキチン化されたタンパク質を選択的に分解するタンパク質分解酵素の巨大複合体である。ユビキチン化されたタンパク質の除去により、細胞周期・アポトーシス・シグナル伝達・転写制御・シナプス可塑性などに関与する。その破綻により異常タンパク質の細胞内蓄積を来たし、神経変成疾患の発症につながる。
プロテアソームとは
タンパク質は、細胞内で絶えず合成と分解を繰り返しており、動的なリサイクル(新陳代謝)システムを構成している。特にタンパク質分解は多様な生体反応を不可逆的に制御する方法として発生や分化など様々な生命現象に不可欠な役割を果たしている。細胞内に生じた不良品の積極的な除去に深く関与しているほか、良品であっても不要な(細胞活動に支障をきたす)場合、あるいは緊急時の栄養素の確保のために、積極的に作動される。このようにタンパク質は細胞内でリサイクルし, 動的平衡を保つことによって身体の中を浄化(不要品のクリアランス)して新鮮さを保ち、健康を維持している。
真核生物の細胞内には進化的に保存された二つのタンパク質分解系、ユビキチン・プロテアソームシステム(UPS)とオートファジー・リソソームシステムが存在しているが、このうちUPSは選択的タンパク質を担う中心的な酵素系で、プロテアソームは、ユビキチン化されたタンパク質を選択的に分解するタンパク質分解酵素の巨大複合体である。
ユビキチンシステム
1977年、米国ハーバード大学のGoldbergのグループは網状赤血球の抽出液がエネルギー依存性のタンパク質分解活性を示すことを見いだした[2]。その後間もなく、イスラエルのwj:Hershkoとwj:Ciechanoverは、米国のRoseと共に、熱安定性の小さなタンパク質であるユビキチンがその主役であることを見出した。
ユビキチンは76個のアミノ酸からなる小さなタンパク質であり、進化的保存性が高くそのアミノ酸配列は全ての真核生物でほとんど同じである。1980年頃までに彼らは、ユビキチンが活性化酵素(E1)・結合酵素(E2)・リガーゼ(E3)から構成された複合酵素系(ユビキチンシステム)によって標的タンパク質に共有結合(ユビキチンのC末端のカルボキシル基とタンパク質中のリジン残基のε-アミノ基が縮合したイソペプチド結合)する翻訳後修飾分子であることを明らかにした(図1)[3] [4]。このE1の作用にはATPの加水分解が必要である。そしてタンパク質に結合したユビキチン内の(主として48番目の)リジン残基と新しいユビキチン分子内のC末端のグリシンの間でイソペプチド結合ができ、さらにユビキチン分子間での縮合反応を繰り返すことによって、多数のユビキチン分子が鎖状に伸長したポリユビキチン鎖が形成される。
Hershkoら及びVarshavskyらは生じたポリユビキチン鎖が基質タンパク質を分解装置に輸送するためのシグナル(目印)として機能するという“ユビキチンシグナル”仮説を提唱した[3] [4] [5]。この仮説は、ポリユビキチン鎖の形成が(オーバーオールの反応としては)分解シグナルの提示反応であるが、実際に起きている化学反応は(イソ)ペプチド結合の形成(タンパク質合成と類似の反応)であり、エネルギー要求性を説明できた。2004年、ユビキチンシステムの発見者たち3名は、ノーベル化学賞を受賞した。
プロテアソームの発見
1983年、われわれはユビキチン化タンパク質の分解にATPのエネルギーが必要であることを見出し、同じくエネルギーを必要とするユビキチン間のステップに加え、“エネルギー依存性タンパク質分解機構の2段階説”を発表した[6]。後に、このATP要求性のタンパク質分解反応を触媒する酵素が、真核生物のATP依存性プロテアーゼであることが判明し、1988年、プロテアソーム(プロテアーゼ活性を有した巨大粒子〜some)と命名した。
プロテアソームの分子構造
触媒粒子(core particle, CP、20Sプロテアソーム)の両端に調節粒子(regulatory particle, 19S RP)が会合した分子量250万、総サブユニット数66個から構成されたATP依存性プロテアーゼ多成分複合体を26Sプロテアソームという(図2)[10] [11] [12]。原子レベルでの構造は不明であり、現在、極低温電子顕微鏡(cryo-electron microscopy; Cryo-EM)による単粒子解析が進行中である[13]。
また19S RP以外の活性化因子の存在や、20Sプロテアソームが活性化因子の介在なしに天然変成タンパク質や酸化修飾タンパク質を直接分解することも報告されている[14] [15]。
触媒粒子
触媒粒子はαリングとβリング(各々7種のサブユニットから構成)がαββαの順で会合した分子量75万の円筒型粒子である。本酵素はカスパーゼ型(β1)、トリプシン型(β2)、キモトリプシン型(β5)の触媒活性を有しており、これらの活性中心はβリングの内表面に露出している。CPは、通常、αリングが閉じているため細胞内では不活性型として存在している。
調節粒子
調節粒子(別称:PA700)はlid(蓋部)とbase(基底部)から構成されており,lid複合体とbase複合体は、夫々10個と9個のサブユニットから構成されている。二つのユビキチンリセプターRpn10とRpn13は分子表面の離れた位置に存在してユビキチン化タンパク質を捕捉している[7]。調節粒子にはポリユビキチン鎖を根本から切断して解離するRpn11と、それ以外に末端からユビキチンを1個ずつ解離させる酵素USP14(酵母のUbp6)とUch37(酵母には存在しない)の3つの脱ユビキチン酵素が存在する。
Cryo-EMよる解析からlidサブユニット群の位置情報が明らかにされている[8]。またbaseは6種のAAA型ATPaseサブユニット(Rpt1〜Rpt6)を含んでおり、この冠(Crown)型構造のATPaseリングは,触媒粒子のαリングと結合してその中央部のゲートを開き,基質タンパク質の通過を可能にさせる機能を有している他、ATPの加水分解エネルギーを利用してタンパク質の3次元構造を破壊(アンフォールディング)し,変性した基質がαリングを通ってβリングの内部に到達できるようにするアンチシャペロン作用を持っている[16] [17] [18](図3)。
PA28
RP/PA700以外の活性化因子としてPA28α、β、γが知られている[19][20]。
PA28α/βからなるヘテロ7量体は細胞質局在に局在し、インターフェロンγによって強く誘導され、内在性抗原のプロセッシングに関与している。
ホモ7量体を形成しているPA28γは核に局在し、その欠損マウスは成長が遅延する。
また20Sプロテアソームの両端にPA700とPA28の両調節ユニットを併せ持った“ハイブリッドプロテアソーム”も存在する[21]。
PA200
PA200も活性化因子として知られ、酵母からヒトまで普遍的に存在するが、その役割は諸説あって確定していない[22]。
プロテアソーム複合体形成に関与するシャペロン分子
プロテアソームの分子集合には専門的な多数のシャペロン分子が関与している(図4)[1] [23]。
Proteasome Assembling Chaperone
20Sプロテアソームの形成に特化した分子シャペロンProteasome Assembling Chaperone (PAC)1-4は、7種のαサブユニットと階層性をもって結合し、αリングの形成を促進する。PAC1/PAC2ヘテロ二量体はαリング同士の凝集体の形成を阻止する働きを示し、PAC3/PAC4ヘテロ二量体はαリング上へのαサブユニットの段階的な会合を促進して、迅速に正確なαリングを形成させる。βサブユニット群は、逐次的にαリング上に会合してβリングを形成する。この段階的な会合にはβ2やβ5のプロペプチド及びβ2のC末端伸長領域などが“分子内シャペロン”として作用する[1]。
Ump1/POMP/Proteassemblin
βサブユニットの会合やハーフ・プロテアソームの重合プロセスに関与している[1][24]。
RP assembling chaperones RAC
19S RPのbaseを構成するATPase リングの分子集合に関与するシャペロン分子で 1-4のサブタイプがある。これらは、それぞれ当初プロテアソームと一時的に結合するタンパク質(proteasome-interacting proteins、 PIPs:数十個存在)として同定されていた分子群、即ちNas2/p27、Nas6/gankyrin (p28)、Rpn14/PAAF1、Hsm3/S5b(出芽酵母/ヒト)であった[9]が最近、RP assembling chaperones RAC 1-4と呼ばれている[23]。
UBP6/USP14
ユビキチン鎖のbase中間体への偶発的な結合を阻止し、base複合体の形成を促進する[25]。
生理機能
ユビキチン-プロテアソーム系をコードする遺伝子の数は、ゲノム総遺伝子数の3〜5 %を占めると推定されており、細胞周期・DNA修復・アポトーシス・シグナル伝達・シナプス可塑性・転写制御・代謝調節・免疫応答・タンパク質の品質管理・ストレス応答・感染応答など、迅速に、順序よく、一過的にかつ一方向に決定する手段としての役割を担っている[27]。これらの生理作用は、細胞内における標的タンパク質の量の厳密な制御を反映しており、とくにユビキチンシステムの多様性に負うところが大きい。一方、プロテアソームは分解系としての役割以外に、前駆体タンパク質のプロセシングによる活性型への転換(例えば、NF-κBの成熟プロセス)やその生成ペプチドを抗原エピトープとして利用するなどポジティブな生命応答に貢献していることも知られている。
細胞性免疫応答
適応(獲得)免疫の中心的なテーマである自己と非自己の識別において必須な役割を果たすために、プロテアソームのアイソフォーム(免疫型プロテアソーム)(図5)が存在する[28] [29] [30]。免疫型プロテアソームの遺伝子は、進化的には適応免疫の誕生と同時期に獲得している[28] [31]。
免疫プロテアソーム
- 主要組織適合性遺伝子複合体 (major histocompatibility antigen comple; MHC)を獲得した有顎脊椎動物では、プロテアソームはMHCクラスI結合ペプチド産生の必須酵素でもあり、CD8+T細胞を介した細胞性免疫応答に不可欠な役割を果たしている。ウイルスやガン抗原等の内在性抗原のプロセシング酵素として専門的に作用する酵素が存在する。これは標準/構成型プロテアソーム(standard/constitutive proteasome)と区別して、 “免疫プロテアソーム(immunoproteasome)”と呼ばれる[32] [33] [34]。この亜型酵素はインターフェロンγ(IFNγ)などのサイトカインにより強く誘導される3種の新しいβ型触媒サブユニット(β1i, β2i, β5i)が優先的分子集合機構によって分子内置換した酵素である。
- 免疫プロテアソームは高いキモトリプシン様活性を有し、MHCクラスIのペプチド収容溝に高い親和性をもつペプチドを効率的に産生することができる(分子レベルでの自己と非自己の識別)。当初免疫プロテアソームは抗原プロセシングに特化した酵素と見られていたが、最近、免疫プロテアソームが有害タンパク質の凝集阻止を通してインターフェロン依存的な酸化ストレスによる細胞死を防御していること[35]やβ5iの特異的な阻害剤PR-957がサイトカインの産生や自己抗体レベルを低下させることから自己免疫疾患に関与していること[36] [37]などの役割を担っていることが示唆されている。
胸腺プロテアソーム
- 脊椎動物の胸腺皮質上皮細胞cTECにはβ5tという新規な触媒サブユニットが特異的に発現している。β5tの組み込まれた(β1iとβ2iをパートナーとする)亜型酵素は、胸腺プロテアソーム(thymoproteasome)と呼ばれる[38] [39]。
- 胸腺プロテアソームは、MHCクラスIに結合するリガンド(抗原エピトープ)の種類を変化させている。β5t欠損マウスではCD8+T細胞が減少し、リンパ球分化(様々なT細胞受容体を持った有用なCD8+T細胞のレパトア形成)に異常をきたし、胸腺プロテアソームが胸腺における“正の選択”を駆動する抗原ペプチドを生成している(細胞レベルでの自己と非自己の識別)[26]。
シナプス可塑性
(シナプス可塑性に関するUPSの関与についてお願い致します)
老化
エイジング(老化)と共にプロテアソームの機能が低下するとの報告は、数多くある[40]が、実際にはプロテアソームの機能評価は必ずしも容易でなく、それらの信憑性には疑義がもたれていた。多くの場合、蛍光合成基質を用いたペプチダーゼ活性を指標とした報告であるが、これらの実験値が真にこの酵素の細胞内での機能レベルを正確に反映していることの保証はないからである。ところが最近、ハエを用いた遺伝学的スクリーンから老化に依存したニューロンのproteotoxity(異常タンパク質の蓄積による細胞障害)を抑圧する遺伝子としてプロテアソームのRPサブユニット(Rpn11)が分離され、26Sプロテアソームの障害を起因としたプロテアソーム活性の低下が明らかとなった[41]。この結果は、プロテアソームの機能破綻が寿命の短縮に寄与していることを直接的に示しており、エイジングにおけるプロテアソームの役割の重要性が具体的に示唆された。
神経変性疾患
プロテアソームと神経凝集体
- 通常、活発に分裂している細胞の細胞質や核に蓄積した異常タンパク質(アンフォールド/ミスフォールドした変異タンパク質)は、細胞増殖によってクリアランス(浄化)できるが、非分裂細胞であるニューロンにおいては、それらを処理できないために、タンパク質の品質管理(不要タンパク質の処理)が細胞の生存に不可欠である[42] [43]。Kopitoらは、細胞内に異常タンパク質を強制発現させると、プロテアソームがそれらを処理できずに活性の低下を引き起こし[44]、蓄積した異常タンパク質が凝集しアグレゾーム(様々な神経変性疾患・患者脳の残存ニューロンに同定されている封入体と類似の凝集構造体)を形成することを示した[45]。この結果は、プロテアソームの機能減弱と神経変性の関連性を示唆している。
- 多くの神経変性疾患に観察される封入体が抗ユビキチン抗体で染色されること[46]から、UPSの破綻が神経変性疾患の発症原因であると考えられた[47]。McNaughtらはプロテアソーム阻害剤を直接マウス小脳に注入してパーキンソン病と類似の症状を引き起こすことを報告し、プロテアソームの抑制とニューロン死の直接的な関係を示唆した[48]が、再現性が乏しく、決定的な結論が得られていなかった[49]。
- しかし、生後間もないマウスへのプロテアソーム阻害剤の長期間・連続投与によって神経変性が誘導される[50]。また、プロテアソームRPを構成するATPaseサブユニットRpt2を脳特異的にノックアウトすると、ユビキチン陽性のLewy体様の封入体が蓄積すると共に神経変性が誘導される[51]。われわれも20Sプロテアソームの分子集合因子PAC1をマウス中枢神経系で欠損させてニューロンのプロテアソームレベルを持続的に低下させると、小脳変性を誘発して神経変性疾患様の症状に陥ることを見出した(図6)。これらにより、プロテアソームが神経細胞の恒常性維持に必須であることを遺伝学的に証明した[15]。
家族性パーキンソン病とパーキン
- ユビキチン系E3リガーゼをコードしているパーキンが常染色体劣性若年性パーキンソン病の原因遺伝子であることが同定[52][53]され、UPSの破綻と神経変性疾患の関係が注目された。即ち、パーキンの標的分子がドーパミンニューロンに蓄積し、細胞死を誘導すると考えられた。
- この機構としてYouleらやわれわれは若年性に発症する常染色体劣性遺伝性パーキンソン病の原因遺伝子産物であるセリン/スレオニン型タンパク質リン酸化酵素PINK1と パーキンとの関連に着目した。[54] [55]。
- 通常ミトコンドリア外膜局在型のPINK1は健常なミトコンドリアにおいては、PARL酵素とプロテアソーム系による恒常的な分解を受けているが、膜電位が低下すると、これらの分解系から免れてミトコンドリア外膜上に蓄積する。蓄積したPINK1は細胞質の不活性型パーキンを損傷ミトコンドリアに移行・活性型に変換させる。その結果、複数のミトコンドリア外膜タンパク質がユビキチン化され、これが引き金となってプロテアソームによる損傷ミトコンドリアはオートファジーにより分解(ミトファジー)、除去される[56]。
- 言い換えると、PINK1/パーキンは膜電位が低下した時のみに発動するように巧妙に制御されているので、損傷ミトコンドリアだけが細胞から除去されることになる。この品質管理が適切に行われずにニューロン内に異常ミトコンドリアが蓄積すると、ドーパミンニューロンの変性を引き起こしパーキンソン病が発症すると想定される(図7)。
- このスキームにおける核心は、不良ミトコンドリアのモニタリングであり、その機序としてYouleらは、膜電位依存的なPINK1の(PARLが局在する)ミトコンドリア内膜への輸送仮説を提案しており、その骨子は「膜電位が低下するとPINK1の内膜への輸送が障害されてPINK1が外膜に蓄積する」ことである[57]。一方われわれは膜電位依存的な不活性型PINK1の自己リン酸化による活性化が不良Mtを感知するもう一つのメカニズムであることを突き止めた(尾勝ら、論文投稿中)。
- 不良なミトコンドリアの累積は、活性酸素(ROS)を増産させ、DNA・タンパク質・脂質などを修飾して細胞障害を引き起こす。自立的な増殖が可能なミトコンドリアの品質管理(不良品の処理)は、細胞分裂によって損傷ミトコンドリアを浄化(クリアランス)できないニューロンなどの非分裂細胞にとっては、健康を維持するために必須である。実際、パーキンソン病におけるミトコンドリアの機能異常(呼吸鎖の低下やミトコンドリアDNAの欠失など)が報告されている[58]。従ってミトコンドリアの良・不良をモニター(監視)することは、ニューロンが健全に活動するために不可欠である。
癌
細胞周期制御におけるUPSの重要性は、その基質であるサイクリンをHuntらが発見したことを端緒とする(2001年、ノーベル生理学医学賞)。その後、細胞周期に関わる様々な制御因子がリン酸化とUPSに率いられたタンパク質分解で調節されていること、そしてその破綻が癌化の要因となることが明らかになった。癌遺伝子や癌抑制遺伝子の多くが短寿命タンパク質であり、これらがUPSで厳格に調節されている。その代表例は癌抑制遺伝子p53である。これらの多くの例は、ユビキチンシステムによる基質の識別が注目されてきており、プロテアソームは調節というよりは寧ろ分解装置としての役割で貢献してきた。
免疫疾患
免疫プロテアソームのキモトリプシン型活性をコードするβ5i遺伝子(PSMB8)のミスセンス変異が、中条-西村症候群(凍瘡様皮疹と限局性脂肪萎縮を伴う遺伝性周期熱症候群)を引き起こすことが判明した[59] [60]。中条-西村症候群は、1939に発見された遺伝性疾病で、プロテアソームの分子集合異常に起因した機能不全のためにタンパク質の品質管理が破綻し、IL-6が過剰に産生されることによって引き起こされる炎症性疾患である。これはプロテアソームのヒト遺伝性疾患の最初の例であり、国内外で注目されている。
オートファジーとの関連
神経変性疾患に関係して、協同的に作用するオートファジーの役割が注目されている。オートファジーの最も重要な機能は飢餓適応(低栄養応答)である。即ちオートファジーによる自己成分の分解はアミノ酸供給を通じてエネルギーの恒常的な確保に関与しており、飢餓に対するバックアップシステムと考えられる(誘導的オートファジー)。この意味でオートファジーは自律的な栄養素確保を可能にする生存戦略となっている。しかしオートファジーは日常的にも低いレベルでおこっている。この基底レベルのオートファジー(恒常的オートファジー)は、細胞内タンパク質の選択的な浄化機構として重要であると考えられている[61]。
異常タンパク質あるいは変性タンパク質の細胞内蓄積はさまざまな変性疾患や老化過程でも観察されており、プロテアソームは大きな凝集体は処理できないために、これらの病態発症におけるオートファジーの関与が注目されている。実際、多く神経変性疾患においてオートファジーの亢進が報告されている。そして中枢神経系特異的にオートファジーを欠損させたマウスは神経変性疾患の症状を引き起こす[62] [63]。さらにプロテアソームを阻害すると、オートファジーが亢進することから、この二つのUPSとオートファジーには、相互補完的な役割があると考えられる[64]。
阻害剤・活性化剤
天然の阻害剤としてlactacystinやepoxomicinが知られている。
プロテアソーム阻害剤であるPS-341(別名 bortezomib、商品名 velcade)[65]が多発性骨髄腫細胞のアポトーシス誘導を示すことが報告され、2003年再発・難治性骨髄腫を対象疾患として臨床応用されている。さらに副作用の少ない多くのプロテアソーム阻害剤の開発が進められており、既存の抗ガン剤との併用を視野に固形ガンを含め臨床治験が進行中である。
またプロテアソームの脱ユビキチン酵素の一つUSP14の阻害剤IU1が、プロテアソームを活性化することが見出された[66]。またプロテアソームに会合している二種の脱ユビキチン酵素(USP14とUch37/UCHL5)を同時に抑制する阻害薬として開発されたb-AP15が、ガン細胞のアポトーシシスを誘導することが見出され、がん治療への貢献が期待されている[67]。さらにユビキチンリガーゼや脱ユビキチン化酵素の異常で様々な病気が発症することが知られており、これらに対する阻害剤の開発が欧米を中心に活発に行われている。従ってこれらをターゲットとした新薬が開発され、健康科学の発展に大きく寄与することが期待されている[68]。
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