アルコール依存症

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湯本 洋介、樋口 進
独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター
DOI:10.14931/bsd.7036 原稿受付日:2016年3月25日 原稿完成日:2016年月日
担当編集委員:

 アルコールを含む依存性物質の使用障害は数々の定義を経ながら、1964年にWHOがdependence(依存)の用語を規定し、診断や治療の変遷を得て現在に至る。飲酒の制御困難を本質的部分とするアルコール依存症は、大量飲酒による様々な問題、例えば、身体面への影響、うつや自殺リスクを上げるなどの精神面への影響、家族関係など周囲の人々への影響、飲酒運転等の社会への影響など、アルコール依存症を発端とする問題は多岐に渡る。診断についてはICD10またはDSM5にてなされる。DSM5では「アルコール依存症」という分類はなくなり、基準となる症状の項目数により「アルコール使用障害」の診断の中で重症度を判定する仕組みとなっている。アルコール依存症の成因については、遺伝要因と環境要因の相互作用が考えられ、アルコール依存症の中間表現型を規定する遺伝子が検索されている。また、神経科学的側面からは、脳内報酬系等のアロステリックな変化が、物質使用障害における使用制御の困難を生み出す基盤と考えられている。治療は断酒を目標とした集団療法や様々な個人療法が認められているが、一方であくまで断酒を最終目標としながらも治療への参加を促すため、減酒を当初の目標とすることもある。

物質依存、概念の歴史

 依存を生じる精神作用物質のうち、最も古くから多くの人に親しまれているのはアルコール飲料であろう。アルコールなどの発酵性飲料の効果の発見はおそらく数千年前にまでさかのぼる。古代エジプトやメソポタミアなどの古代文明の時代から酩酊や暴飲について述べられた文章が残されており、アルコール依存症者も古代から相当数存在していたと推測される。古代ローマ時代にも「自治市の要職就任の日も酔ったままであった」や「どんな場所でも飲むことをやめない人がいる」など[1]、現在でいうアルコール依存症を推察させるような記録がある。

 古代には、主にビール、ワインなどの醸造酒のみしか普及しておらず、そのアルコール濃度の上限は約十数%程度であった。しかし、中性〜近代にかけてヨーロッパ諸国を中心に、よりアルコール濃度が高く携帯性、保存性の優れるラム酒やジン・ウイスキーなどの蒸留酒が普及すると、アルコール乱用・依存がさらに社会問題化してくるようになった[2]

 現在の物質依存に相当する医学用語は、1820年頃からアヘンにpoisoning(中毒)が用いられるようになり、その後コカインやアルコールにも用いられるようになった。1880年頃からhabit(習慣)、〜ism(症)が、1920年頃からaddiction(嗜癖)へと変遷していった。世界的な診断基準としては、1957年には世界保健機関(World Health Organization: WHO)は、addiction(嗜癖)とhabituation(習慣性)を学術用語として定義した。Addictionは「著明な身体依存」「薬物摂取の渇望」「大きな社会的弊害」の3条件を満たす薬物の使用とされ、habituationはこれより程度の軽い薬物の習慣的使用とされた。しかし、身体依存がなくとも精神依存により薬物摂取への欲求、渇望が起こりうることが判明し、1964年にWHOによってそれまでのaddictionやhabituationに代わって、dependence(依存)の用語が提唱され、現在に至る[3]

症状

 アルコールは感覚、知能、循環、消化、代謝、運動にかかわる器官のほぼ全てに影響を与える。そのため、飲酒の制御困難による大量飲酒は、様々な機能障害を起こす。WHOによれば、アルコールは60以上もの疾患の原因になると言われている。代表的なものを挙げると、肝臓障害、膵炎、糖尿病、痛風、消化管出血、癌、脳萎縮、骨粗鬆症、大腿骨頭壊死など多くの臓器に渡ってその影響が出る。

 以上のような身体面への影響だけではない。以下に精神面への影響について述べる。健常者に対する飲酒実験によると、10名の健常者を対象に、2時間ごとに飲酒を行う(24時間で最大25ドリンクまでの上限)実験を連日続けた結果、全員が抑うつ症状を認め、4名が最初の1週間で希思念慮を認めたため実験が中止になり、飲酒を中止したところ、抑うつ症状は改善したとの報告がある[4]。したがって大量飲酒は一過性の抑うつ症状を引き起こすことがあり、連続飲酒に陥っているアルコール依存症者は抑うつ症状を伴うことがしばしばある。またアルコール依存症の既往がある者では、ない者に比べて、大うつ病性障害を発症する危険性は4倍高いとする報告があり[5]、アルコール依存症は、将来のうつ病発症リスクに関連する可能性がある。

 アルコール依存症が自殺や自殺企図のリスク因子であることも多くの研究から確認されている。アルコール依存症、気分障害、統合失調症で自殺の生涯リスクを比較した研究によるとアルコール依存症で7%、気分障害で6%、統合失調症で4%と推計されており、アルコール依存症は気分障害より自殺のリスクが高いとされる[6]。また、入院治療を受けたアルコール依存症の国内調査では、アルコール依存症群は一般人口に比べて男性で約9倍、女性で35倍高い自殺の危険があるという研究結果がある[7]

 周囲の人々に与える影響として、繰り返される酩酊状態は家庭内暴力やDV、あるいはネグレクトの契機となる。女性のアルコール依存症者は、家族が本人を飲酒させまいと暴力を振るわれやすく、暴力被害者の立場になることもある。また、アルコール依存症者の振る舞う行動に他の家族が振り回され、家族は常に依存症者に対して監視の目を光らせざるを得なくなり、家族関係の変化が起こってくる。このようにして、アルコール依存症は「機能不全家族」と呼ばれる、常に家庭内に対立の空気が流れる家庭環境の原因となり得る。

 さらに、アルコールによる社会的な影響も無視できない。飲酒運転がその一つである。飲酒運転とアルコール依存症の関連は国内外の多くの研究で指摘されている。医療と警察が協力して行った神奈川県の調査で、飲酒運転で検挙された経験があるもののうち「アルコール依存症の可能性が高い」に該当していた者の割合は、男性47.2%、女性の38.9%に上った[8]。一般人口におけるアルコール依存症者の割合は、2003年の全国調査にて男性1.0%、女性0.2%とされているため、飲酒運転者の中にはアルコール依存症者が高い割合で含まれると言える。  

診断

 現在、世界的に見て、アルコール依存症は2通りの診断体系を用いて同定され得る。一つは、世界保健機関(WHO)国際疾病分類第10版ICD-10)が定めるアルコールによる依存症候群(分類コード:F10.2)である。左記と診断するには、以下の6項目のうち、通常過去1年間のある機関に以下の3項目を満たす事が必要である。①飲酒に対する渇望、②飲酒行動の抑制喪失、③離脱症状、④耐性の増大、⑤飲酒中心の生活、⑥有害な飲酒に対する抑制の喪失[9]

 一方、アメリカ精神医学会の精神障害の診断と統計マニュアル第5版(DSM5)では、依存という名称が無くなり、前版のDSMⅣ–TRまでで定義されていたアルコール依存症という概念は「アルコール使用障害」のカテゴリーに含められることとなった。診断基準11項目(表1)のうち2〜3項目が該当すれば軽症、4〜5項目が該当すれば中等症、6項目以上が該当すれば重症とするアルコール使用障害の程度の重み付けがあるのみであり、依存症という診断概念そのものは定義していない[10]。このように、2通りの診断体系、ICD-10とDSM5はアルコール依存症に対してそれぞれ異なる診断基準を提示している。

 尚、ICD–10ではアルコール依存症までには至っていないが、飲酒による問題が起きている状態を「アルコールの有害な使用」と表現している。また、連続飲酒や離脱症状はないが、飲酒問題がある状態を「プレアルコホリック」と表現し、アルコール依存症とは言えないが適切な飲酒ができてはいないグループとして捉え、飲酒の減量あるいは断酒を目的とした介入が行われることがある。

表1.DSM5によるアルコール使用障害の診断基準
No 内容 診断項目
1 社会障害 物質使用の結果、社会的役割を果たせない。
2 社会障害 身体的に危険な状況下で反復使用する。
3 社会障害 社会・対人関係の問題が生じているにも関わらず、使用を続ける。
4 耐性 反復使用による効果の減弱、または使用量の増加。
5 離脱 中止や減量による離脱症状の出現。
6 自己制御困難 当初の思惑よりも、摂取量が増えたり、長期間使用する。
7 自己制御困難 やめようとしたり、量を減らす努力や、その失敗がある。
8 自己制御困難 物質に関係した活動(入手、使用、影響からの回復)に費やす時間が増加する。
9 自己制御困難 物質使用のために重要な社会活動を犠牲にする。
10 自己制御困難 心身に問題が生じているにもかかわらず、使用を続ける。
11 欲求 物質使用への強い欲求や衝動がある。

※同じ12ヶ月以内で起こること。
2〜3項目が該当すれば軽症、4〜5項目が該当すれば中等症、6項目以上が該当すれば重症。[11]

成因

 アルコール依存症の成因には諸説あり、さまざまな要因が関与するという考えが主流であるが、ほぼ確実と考えられているのは遺伝要因と環境要因の相互作用である。双生児や養子研究からアルコール依存症の50〜60%に遺伝因子が関与するとされるが[12]、具体的な遺伝子については同定が難しい。その理由としては、他の精神疾患と同様に、依存症には特定の遺伝子が強く関与するのではなく、影響の小さい複数の遺伝子が関与していることや、環境因子が関与していることがあげられる。

 そこで、現在は中間表現型とそれに関わる遺伝子の検索を探す試みが行われるようになってきている。アルコール依存症の中間表現型には、合併精神疾患、アルコール代謝酵素の遺伝子型、性格傾向(反社会性、衝動性、新規希求性など)、アルコールに対する反応などが提唱されている。なかでもアルコールに対する反応については、アルコールに対する反応が弱いことがアルコール依存症のリスクを高めるという実験がある。この実験は、飲酒実験をしたときの酔いの強さをアルコール依存症の家族歴の有無で比較したもので、家族歴があって依存症のリスクが高いと考えられる被験者は家族歴のない被験者と比較して酔いの強度が低いことから提唱されている[13]。リスクの高い者は酔った感じが弱いので多量に飲酒し、飲酒時に感じられるはずの危険信号にも鈍感なのでそのまま飲み続けるのではないかと考えられた。

 このような、アルコールの反応の弱さに相関するいくつかの候補遺伝子が報告されている。Gamma-aminobutyric acid(GABA)A受容体の中のGABAAα2サブユニットは五量体(α2β1γ1)を形成し、中脳辺縁ドーパミン神経の報酬経路に存在し、GABRA2遺伝子によってコードされる。この遺伝子多型とアルコール使用障害やアルコールの効果に関する相関研究によって、GABRA2のマイナーな遺伝子多型がアルコールに対して反応が弱いことと相関すると報告されている[14]

 一方、オピオイドμ1受容体の遺伝子(OPRM1)はアルコール使用障害に相関する遺伝子のひとつであり、βエンドルフィンやμオピオイド受容体がアルコールの報酬・強化効果に重要な役割を果たしていることから注目を集めている。OPRM1遺伝子の多型が飲酒時のドーパミンの放出に関わり、アルコールへの反応を調節している可能性が示唆されている[14]

脳内メカニズム

 一方で、アルコールを含む物質使用障害の生物学的基盤に目をやると、脳内報酬系とストレスシステムのアロステリックな変化がアルコール依存症の成因を担っているとの研究が長年に渡って議論されてきている。

 依存性物質が脳に影響する作用を解き明かす端緒となった重要な実験のひとつにOldsとMilnerらが行った自己電気刺激実験がある[15]。彼らは、ラットの脳内のある部位に電極を埋め込み、限られた空間の中を自由に動けるようにし、室内のレバーを踏むと短時間電気刺激を受けられるようにした。ラットは最初、箱の中を自由に歩き回っていたが、レバーを偶然に踏むと間もなく、レバーを繰り返し押すようになった。時には、飲水や食事を摂らず、衰弱するまでレバーを押し続けた。この実験において、電気刺激はレバーを押すという習性を「強化」する「報酬」となっており、このように「強化」を効率よく引き起こす部位を刺激電極を与える位置を移動させて検討したところ、中脳腹側非被蓋野に細胞体があって、内側前脳束を中心に扁桃体、側坐核、大脳皮質前頭前野に投射するドーパミン作動性神経繊維に沿った部位であることが確認された。その後の研究により、アルコールを含む嗜癖物質の多くが、直接ないし間接的に腹側被蓋野から側坐核へ至るドーパミン神経に作用していることが明らかとなった。

 アルコールは間接的に側坐核のドーパミン濃度を増やすことが言われている。そのメカニズムは、アルコールが腹側被蓋野や扁桃体、側坐核に発現しているGABAAレセプターに作用してGABAの放出を促し、さらに腹側被蓋野と側坐核、扁桃体中心核でオピオイドペプチドを放出させることに端を発する。この腹側被蓋野と側坐核のGABAとオピオイドの放出を介して、側坐核でドーパミンの放出が起こるという仮説が示されている。

 ドーパミンの放出によって快の情動が生まれ、物質使用の使用初期にあたっては快の情動を求めて物質使用の頻度が増す。この強化行動を「正の強化」という。一方でSolomonは1980年にOpponent-Process Theory(情動の恒常性維持メカニズム)を提唱した。Solomonによれば、依存性物質使用後の快の情動はいつまでも持続せず、快の情動が立ち上がった後に、少し遅れてそれを鎮静する不快な情動が立ち上がり、情動は快・不快に偏ることなくバランスを維持しようとする働きがあることを論じた。また、快の情動は物質使用の繰り返しによって次第に減少し、それに代わって不快の情動が次第に増すという変化が起こり、初めは快を得るために物質を使っていたが、不快を避けるために物質を使うという物質使用の目的変化が起こることを唱えた。この不快な情動を取り除くために物質使用の頻度が増すことを「負の強化」と言い、この「負の強化」による物質使用行動が強迫的になるという変化が指摘されている[16]

 このような強化行動の変化は脳内の神経伝達物質のアロステリックな変化に裏打ちされていると言われている。それは、「正の強化」行動の役割を担うドーパミンが関与する脳内報酬系の機能が減弱し、その代わりに「負の強化」行動を担う、ストレスホルモンと表現されるコルチコトロピン放出因子(CRF: Corticotropin-releasing factor)を介した脳内ストレスシステムの働きの方が優勢となることが推察されている[17]。以上の過程により、「負の強化」に対して強迫的となり、使用制御の困難という依存症の本質的部分が生み出されるという仮説が提唱されている。

治療

 治療目標の設定は、断酒を原則とすることが通常である。米国APA(American Psychiatric Association)の治療ガイドラインによれば、断酒継続が最も長期間の良好なアウトカムを示すと記述されている。一方でコントロール使用を希望する患者が多くいるのも事実であるが、物質使用障害の患者がコントロール使用を選択するのは非現実的であり、治療者はアルコールを摂取し続けることの悪い結果を患者と共有し、長期間の断酒がもっともよい治療の選択肢であるという認識を共有していくべきであるとされている[18]

 また、英国国立医療技術評価機構NICE(National institute for Health and Care Excellence)の治療ガイドラインに目をやると、アルコール依存、または何らかの精神的あるいは身体的合併症のあるアルコール使用障害には断酒をすすめるべきであるとされている。患者が節酒を望む場合には断酒が最も適切な目標であることを強くすすめる。しかし、断酒をゴールとしないからと言って治療を拒んではならない。断酒を目標に考えていない患者には、ひとまずハームリダクションの考えに基づき、飲酒によって被る害を減らすことに注目したケアを行ってもよい。しかし、それは断酒を見据えてのものでなければならないとされている[19]

 アルコールの離脱症状が出現している場合、まずは離脱症状のコントロールが重要となる。離脱症状の全てに対してベンゾジアゼピン系薬剤(benzodiazepines)の使用が推奨されている。離脱期における振戦、頻脈、血圧上昇、発汗などの自律神経症状、アルコール離脱けいれんやせん妄に対してもアルコールと交差耐性、交差依存をもつベンゾジアゼピン系薬剤の投与が推奨されている。こうしたベンゾジアゼピン系薬剤の使用によって、アルコール離脱の症状の軽減のほか、致死率の低下、出現時間の短縮、興奮状態の鎮静に要する時間の短縮、せん妄のコントロールが適切にできるとしている[20]

 前述のNICEのガイドラインによれば離脱症状がコントロールされた後の治療選択肢の基本原則については、全ての患者に有効な単一の治療法はない、とされている。種々の心理社会的治療法(NICEでは動機づけ強化療法(MET)と英国で発展した心理社会的治療法の一つであるSocial Behavior and Network Therapy(SBNT)を比較している)の有効性を比較したところ、治療の成功と患者側の特性について有意な因子を発見するに至らなかった、という報告がその裏付けとなっている。そのため、同ガイドラインではそれぞれの患者のニーズに応じた治療が提供されるべきであると論じられている。

 我が国で行われている代表的な治療について述べる。薬物療法についてまず述べてみたい。本邦ではアルコール依存症の飲酒への渇望を抑制する薬剤として、acamprosateを用いることができる。同薬剤はアミノ酸の一種であるタウリンの誘導体で、GABAと類似の構造を示す。明確な作用機序は不明であるが、脳内のNMDA受容体の働きを抑制することで、渇望を下げる役割があるとされている。臨床的には、飲酒欲求を抑えること、飲酒頻度を抑えること、断酒率を高める効果があることが多くの臨床研究で報告されている。また、シアナミド、ジスルフィラムの2剤の抗酒剤を使用することができる。ともにアルコールの代謝を阻害することで、少量の飲酒でも体内にアルデヒドが蓄積し、動悸、顔面紅潮、嘔気、頭痛などの不快な症状が出現する。抗酒剤の服用には患者自身が、アルコール依存症を治療するという意思を持って自ら服用することが重要である[21]

 もう一方は心理社会的治療である。集団療法として、AA(Alcohol Anonymous)のミーティングや断酒会の例会への参加がある。有効性の一例を挙げるとすれば、ミーティングや例会では傾聴と自己開示および内省が身につく。他者に共感できる能力や理解する能力も開発される。自助グループの集団の力は、アルコールによって人生の軌道から外れてしまったアルコール依存症者が社会復帰にあたって学ぶ必要のある様々な社会経験を積む事ができる、いわば有効なリハビリテーション装置である。

 集団療法に並行して個人の特性に合わせた個人療法を実施する。断酒の決意を促すためには動機づけ面接法が効果的であり、断酒した後の生き方を変えていくために、認知行動療法が行われる。動機づけ面接法は、面接者と患者が対立しないように配慮を持ちつつ、直接的な指示こそしないが面接を通じて患者の断酒へのモチベーションが高まるように、そっと誘導する指示的な技法である。認知行動療法では、依存対象物質(アルコール)が状況を改善する(気分をよくする)という信念を変えて物質への渇望を抑制すること、再燃予防、飲酒が不要となる新しい生き方の学習を目的とし、アルコールにまつわる認知や行動を修正していくことに主眼を置いている[22]

疫学

 2013年に成人の飲酒実態に関する全国調査が実施された。ICD-10によるアルコール依存症の生涯経験率は2013年では1.0%(男1.9%、女0.2%)で、推計数は107万人(推計数は2013年日本人口で計算:男94万人、女13万人)であった。アルコール依存症の現在有病率は2013年では0.5%(男:1.0%、女0.1%)で推計数は57万人であった[23]。アルコール依存症の罹患者数は、2008年の調査では、アルコール依存症の生涯経験率は、男1.0%、女0.2%で推計50万人、現在有病率は男0.5%、女0.1%で推計29万人とされており、増加傾向にある。一方で、アルコール依存症のうち、数%の者しか医療に結びついていないとも指摘されている。2008年の調査で、アルコール使用による精神及び行動の障害による受診患者数の推計値(入院+外来)の17,200人はわずか6%にすぎず、アルコール依存症ではあるが、多くの者が医療に結びついていない可能性がある[24]

参考文献

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