「カルモジュリン」の版間の差分

95行目: 95行目:
 脳機能において、カルモジュリンは、そのターゲットとなるCaMKII、カルシニューリン、アデニル酸シクラーゼなどの下流のエフェクター酵素の制御を通してのシナプス可塑性や記憶・学習の制御に関して不可欠な役割を果たしている。例えば、海馬CA1領域における長期増強や長期抑圧はNMDA受容体の活性化によりCa<sup>2+</sup>が流入し、カルモジュリンと結合することで下流の酵素を活性化して引き起こされる。カルモジュリンの脳内での主要なターゲットであるCaMKIIαは、海馬のシェーファー側枝からCA1錐体細胞への長期増強に関わることがが報告されており<ref><pubmed> 2847049</pubmed></ref><ref><pubmed>2549423 </pubmed></ref><ref><pubmed>1378648 </pubmed></ref>、CaMKIIαのノックアウトマウスや点変異導入マウスでは海馬依存的な空間学習に異常がみられる<ref><pubmed> 1321493</pubmed></ref><ref><pubmed>9452388 </pubmed></ref>。同様にカルモジュリンによって活性化されるアデニル酸シクラーゼ1、8やカルシニューリンもシナプス可塑性や記憶・学習に関与することが薬理学的実験や遺伝子改変動物実験などによって報告されている<ref><pubmed> 7515479 </pubmed></ref><ref><pubmed>10200317 </pubmed></ref><ref><pubmed>10482244</pubmed></ref><ref><pubmed>11733061 </pubmed></ref>。こうした電気生理学的・行動学的な変化を引き起こす分子・細胞生物学的なプロセスとして、カルモジュリンはCa<sup>2+</sup>流入に伴うスパインの構造的可塑性の誘導<ref><pubmed>15190253 </pubmed></ref><ref><pubmed>15572107</pubmed></ref><ref><pubmed>23269840</pubmed></ref>やアクチン細胞骨格の再構築<ref><pubmed>18341992</pubmed></ref><ref><pubmed>17404223</pubmed></ref>、種々の酵素の活性化<ref><pubmed> 26139370 </pubmed></ref><ref><pubmed> 19295602</pubmed></ref><ref><pubmed> 23602566 </pubmed></ref>やCREBを介した新規遺伝子発現<ref><pubmed>  8980227</pubmed></ref><ref><pubmed>19116276</pubmed></ref><ref><pubmed> 25277455 </pubmed></ref>に関わることが示されている。また、Ca2+流入に伴うカルモジュリン依存的な酵素の活性化は均等に起こるのではなく、神経入力のパターンに応じて異なる強弱で活性化され、状況に応じて適切な神経細胞機能を発現していると考えられている。
 脳機能において、カルモジュリンは、そのターゲットとなるCaMKII、カルシニューリン、アデニル酸シクラーゼなどの下流のエフェクター酵素の制御を通してのシナプス可塑性や記憶・学習の制御に関して不可欠な役割を果たしている。例えば、海馬CA1領域における長期増強や長期抑圧はNMDA受容体の活性化によりCa<sup>2+</sup>が流入し、カルモジュリンと結合することで下流の酵素を活性化して引き起こされる。カルモジュリンの脳内での主要なターゲットであるCaMKIIαは、海馬のシェーファー側枝からCA1錐体細胞への長期増強に関わることがが報告されており<ref><pubmed> 2847049</pubmed></ref><ref><pubmed>2549423 </pubmed></ref><ref><pubmed>1378648 </pubmed></ref>、CaMKIIαのノックアウトマウスや点変異導入マウスでは海馬依存的な空間学習に異常がみられる<ref><pubmed> 1321493</pubmed></ref><ref><pubmed>9452388 </pubmed></ref>。同様にカルモジュリンによって活性化されるアデニル酸シクラーゼ1、8やカルシニューリンもシナプス可塑性や記憶・学習に関与することが薬理学的実験や遺伝子改変動物実験などによって報告されている<ref><pubmed> 7515479 </pubmed></ref><ref><pubmed>10200317 </pubmed></ref><ref><pubmed>10482244</pubmed></ref><ref><pubmed>11733061 </pubmed></ref>。こうした電気生理学的・行動学的な変化を引き起こす分子・細胞生物学的なプロセスとして、カルモジュリンはCa<sup>2+</sup>流入に伴うスパインの構造的可塑性の誘導<ref><pubmed>15190253 </pubmed></ref><ref><pubmed>15572107</pubmed></ref><ref><pubmed>23269840</pubmed></ref>やアクチン細胞骨格の再構築<ref><pubmed>18341992</pubmed></ref><ref><pubmed>17404223</pubmed></ref>、種々の酵素の活性化<ref><pubmed> 26139370 </pubmed></ref><ref><pubmed> 19295602</pubmed></ref><ref><pubmed> 23602566 </pubmed></ref>やCREBを介した新規遺伝子発現<ref><pubmed>  8980227</pubmed></ref><ref><pubmed>19116276</pubmed></ref><ref><pubmed> 25277455 </pubmed></ref>に関わることが示されている。また、Ca2+流入に伴うカルモジュリン依存的な酵素の活性化は均等に起こるのではなく、神経入力のパターンに応じて異なる強弱で活性化され、状況に応じて適切な神経細胞機能を発現していると考えられている。


 また、カルモジュリンは記憶・学習といった成体における脳機能だけではなく、神経突起形成<ref><pubmed> 12873385 </pubmed></ref><ref><pubmed>17553424  </pubmed></ref>、軸索伸展<ref><pubmed>15363394 </pubmed></ref><ref><pubmed>19864584 </pubmed></ref><ref><pubmed>24849351  </pubmed></ref>、シナプスの形成<ref><pubmed> 18184567 </pubmed></ref>などを通して、神経回路の発達にも関わっており、非常に重要な機能を果たしている。
 また、カルモジュリンは記憶・学習といった成体における脳機能だけではなく、神経突起形成<ref><pubmed> 12873385 </pubmed></ref><ref><pubmed>17553424  </pubmed></ref>、軸索伸展<ref><pubmed>15363394 </pubmed></ref><ref><pubmed>19864584 </pubmed></ref><ref><pubmed>24849351  </pubmed></ref>、シナプスの形成<ref><pubmed> 18184567 </pubmed></ref>などを通して、神経回路の発達にも関わっている。例えば、発生期に神経細胞が軸索を伸展し標的となる細胞に投射して神経回路を構築する際には、軸索の先端部は成長円錐を形成し、細胞外の軸索ガイダンス分子などのシグナルに応じて誘引されたり反発されたりすることで、その伸展する方向を制御している。このガイダンス分子としては、おもにアフリカツメガエルの脊髄神経細胞やニワトリの後根神経節細胞を用いた実験などを元に、Netrin1<ref><pubmed>  10638760 </pubmed></ref><ref><pubmed>  15758951  </pubmed></ref>やSEMA3A<ref><pubmed>  18549782 </pubmed></ref><ref><pubmed>  18536712 </pubmed></ref>をはじめさまざま知られており、これらは受容体を介して局所的なCa2+上昇を引き起こし、その濃度や局在によってカルモジュリンは異なるターゲットを活性化し、成長円錐の誘引や反発をコントロールしている。


==サブファミリー==
==サブファミリー==
88

回編集