「ニューロリギン」の版間の差分

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英語名:neuroligin
英語名:neuroligin


{{box|text= ニューロリギンは[[wikipedia:ja:I型膜タンパク|I型膜タンパク]]であり、[[ニューレキシン]]の内因性リガンドである。[[シナプス後部]]に存在する接着タンパクであり、シナプスの成熟や機能を調整している<ref name=ref1><pubmed>18923512</pubmed></ref>。}}
{{box|text= ニューロリギンはシナプス後部(postsynapse)に存在する1回膜貫通型タンパク質であり、シナプス前末端(presynapse,presynaptic terminal)に存在する[[ニューレキシン]](Neurexin: NRXN)の内因性リガンドであり、シナプスの成熟や機能を調整している<ref name=ref1><pubmed>18923512</pubmed></ref>。ニューロリギンのアイソフォームは、グルタミン酸作動性・GABA作動性神経シナプスの構築の選別に影響すると考えられている。また、自閉症や統合失調症のリスク遺伝子として考えられており、遺伝子改変マウスは自閉症様行動を示す<ref><pubmed>17823315</pubmed></ref> <ref><pubmed>21808020</pubmed></ref> <ref><pubmed>23183221</pubmed></ref> <ref><pubmed>19243448</pubmed></ref>。


== 歴史 ==
== 歴史 ==
[[image:図2興奮性シナプスにおけるNRXNとNLGNの結合模式図.jpg|thumb|330px|'''図2.興奮性シナプスにおけるニューレキシンとニューロリギンの結合模式図'''<br>ニューレキシンとニューロリギンはシナプス前末端とシナプス後部間で結合している。ニューレキシンとニューロリギンはそれぞれシナプス前末端とシナプス後部のシナプス局在分子と直接・間接的に結合している。]]
{{PBB|geneid=22871}}{{PBB|geneid=57555}}{{PBB|geneid=54413}}{{PBB|geneid=57502}}
{{PBB|geneid=22871}}{{PBB|geneid=57555}}{{PBB|geneid=54413}}{{PBB|geneid=57502}}


 ニューレキシン1βの[[wikipedia:ja:アフィニティーカラム|アフィニティーカラム]]を用いた研究により、ニューレキシン1βの結合タンパク質としてニューロリギン1が初めて同定された<ref><pubmed>7736595</pubmed></ref>。
 ニューレキシン1βの[[wikipedia:ja:アフィニティーカラム|アフィニティーカラム]]を用いた実験により、ニューレキシン1βの結合タンパク質としてニューロリギン1が初めて同定された<ref name=ref6><pubmed>7736595</pubmed></ref>。


==サブタイプ==
==サブタイプ==
 ヒトでは5つのニューロリギン遺伝子がある([[ニューロリギン1|NLGN1]]、[[ニューロリギン2|NLGN2]]、[[ニューロリギン3|NLGN3]]、[[ニューロリギン4|NLGN4]]、[[ニューロリギン4Y|NLGN4Y]])。
 ヒトでは5つのニューロリギン遺伝子がある([[ニューロリギン1|NLGN1]]、[[ニューロリギン2|NLGN2]]、[[ニューロリギン3|NLGN3]]、[[ニューロリギン4|NLGN4]]、[[ニューロリギン4Y|NLGN4Y]])。(4遺伝子<ref><pubmed>20547130</pubmed></ref> <ref><pubmed>21228178</pubmed></ref>)やアメフラシ(1遺伝子<ref><pubmed>21555073</pubmed></ref>)、ミツバチ(5遺伝子<ref><pubmed>18974885</pubmed></ref> <ref><pubmed>20161754</pubmed></ref>、線虫(1遺伝子<ref><pubmed>20083577</pubmed></ref>)などの無脊椎動物においてもニューロリギン遺伝子の発現が認められている。
(編集コメント:他の動物におけるサブタイプも御願い致します。)
 
{| class="wikitable"
|+ 表1.ニューロリギンとニューレキシンのスプライス変異体の結合様式<ref name=1001><pubmed>16242404</pubmed></ref> <ref><pubmed>20624592</pubmed></ref> <ref><pubmed>20543817</pubmed></ref><br>灰色内:結合能の相対的比較
|-
|
| αニューレキシン(+SS4)
| αニューレキシン(-SS4)
| βニューレキシン(+SS4)
| βニューレキシン(-SS4)
|-
| ニューロリギン1(-)
| style="text-align:center" | +
| style="text-align:center" | +
| style="background-color:#d3d3d3; text-align:center" | +++
| style="background-color:#d3d3d3; text-align:center" | ++++
|-
| ニューロリギン1A
| style="text-align:center" | +
| style="text-align:center" | +
| style="background-color:#d3d3d3; text-align:center" | +++
| style="background-color:#d3d3d3; text-align:center" | ++++
|-
| ニューロリギン1B
| style="text-align:center" | -
| style="text-align:center" | -
| style="background-color:#d3d3d3; text-align:center" | ++
| style="background-color:#d3d3d3; text-align:center" | ++++
|-
| ニューロリギン1AB
| style="text-align:center" | -
| style="text-align:center" | -
| style="background-color:#d3d3d3; text-align:center" | ++
| style="background-color:#d3d3d3; text-align:center" | ++++
|-
| ニューロリギン2
| style="text-align:center" | +
| style="text-align:center" | +
| style="background-color:#d3d3d3; text-align:center" | ++
| style="background-color:#d3d3d3; text-align:center" | ++++
|-
| ニューロリギン3
| style="text-align:center" | +
| style="text-align:center" | +
| style="background-color:#d3d3d3; text-align:center" | +
| style="background-color:#d3d3d3; text-align:center" | ++
|-
| ニューロリギン4
|
|
| style="background-color:#d3d3d3; text-align:center" |
| style="background-color:#d3d3d3; text-align:center" | +
|-
|}


=== スプライシング変異体 ===
=== スプライシング変異体 ===
 Splice site B insertを含むニューロリギン(+Bニューロリギン)は、splice site 4を含むβ-ニューレキシン(+S4 β-ニューレキシン)とは低親和性であるが、splice site B insertを含まないニューロリギン(-Bニューロリギン)は、splice site 4の有無に関わらずβ-ニューレキシンと高親和性である。
 ニューロリギン1は選択的スプライシング部位A(alternative splice site A:SSA)と選択的スプライシング部位B(SSB)の2つを、ニューロリギン2,ニューロリギン3とニューロリギン4はSSAのみを有しており[ニューロリギン3には2つのスプライシング部位(SSA1, SSA2)が存在]、合計12種類のスプライス変異体(ニューロリギン1:4、ニューロリギン2:2、ニューロリギン3:4、ニューロリギン4:2)が存在する<ref><pubmed>20510934</pubmed></ref>。ニューロリギンは選択的スプライシングの有無により、ニューレキシンとの結合親和性が異なることが報告されている(表1)。SSBを有さないニューロリギン [NLGN1(-), NLGN1A, NLGN2(-)とNLGN2A]はβニューレキシンのSS4の有無に関わらず高親和性に結合するが、ニューロリギンのSSBの挿入(NLGN1B, NLGN1AB)はβニューレキシンのスプライス変異体との結合親和性を低下させる<ref name=ref1000><pubmed>16846852</pubmed></ref> <ref><pubmed>16624946</pubmed></ref>。さらに、SSBを有するニューロリギンはαニューレキシンと結合しない<ref name=1001 />。SSBの挿入は抑制性シナプスの形成を阻害することが示唆されている<ref name=ref1000>。


 ニューロリギン2(ほとんどが-Bニューロリギン)は+Bニューロリギンよりも[[VGAT]]のクラスタリングを促進する。
==構造==
[[image:図2.興奮性シナプスにおけるNRXNとNLGNの結合模式図.jpg|thumb|350px|'''図2.ニューロリギンのドメイン構造'''<br>矢印:選択的スプライシング部位 SP:シグナルペプチド、CHO: carbohydrate-attachment sequence、TM:膜貫通領域、PDZ-BD:PDZ-domain-binding site]]


 -Bニューロリギンは+S4 β-ニューレキシンと共に[[GABA作動性]]神経シナプスの分化を促進し、一方で、+Bニューロリギン1は-S4 β-ニューレキシンと共にグルタミン酸作動性神経シナプスの分化を促進している。
 ニューロリギンは1回膜貫通型蛋白質であり、細胞外ドメインと比較的短い細胞内ドメインを有している(図1)。細胞外ドメインはアセチルコチンエステラーゼ(acetylcholinesterase:AChE)と相同性を有しているが、コリンエステラーゼ活性は無く、ニューレキシン結合領域となっている<ref name=ref6 />。


 また、+Bニューロリギン1は-Bニューロリギン1と比較して、成熟[[ラット]]の[[海馬]]や[[皮質]]、[[小脳]]でのニューロリギン1の大多数を占めている<ref name=ref2><pubmed>17275284</pubmed></ref>。
 ニューロリギンとβニューレキシン複合体の3次元構造が明らかとなっている<ref><pubmed>18093522</pubmed></ref>, <ref>https://www.youtube.com/watch?v=DuARiSOGy88</ref>)。AChE相同領域にはSSAがあり、加えてニューロリギン1にのみ同領域にSSBが存在する。in situ chemical cross-linking法(細胞膜表面に存在するcis複合体を保持する為)と免疫沈降法を組み合わせた解析によって、全てのニューロリギンアイソフォームがホモ二量体を形成することが示唆され、ニューロリギン1-ニューロリギン2とニューロリギン1-ニューロリギン3ヘテロ二量体の存在が確認されている<ref name=ref1002><pubmed>22671294</pubmed></ref>。上記の解析ではニューロリギン2-ニューロリギン3ヘテロ二量体は認められていないが<ref name=ref1002 />、他グループの免疫沈降法では報告されている<ref name=ref1003><pubmed>17897391</pubmed></ref>。二量体形成は、ニューロリギンの細胞膜への輸送に必要であり<ref name=ref1002 />、この形成に関与する部位はAChE相同領域に存在する<ref><pubmed>12796785</pubmed></ref> <ref name=ref1002 />。細胞外ドメインの膜貫通ドメイン側にはCHO配列(carbohydrate-attachment sequence)がある。細胞内ドメインのC-末端には、シナプス足場蛋白(PSD-95等)との結合に重要であると推定されるPDZドメイン[postsynaptic density (PSD)-95/ discs large/ zona-occludens-1ドメイン]結合部位が存在する<ref><pubmed>15555927</pubmed></ref> <ref><pubmed>9278515</pubmed></ref> <ref><pubmed>15458844</pubmed></ref>。また、膜貫通ドメインとPDZドメイン結合部位の間には、gephyrin結合ドメインと、構造が同定されていないcriticalドメインが存在する(図2)<ref><pubmed>19755106</pubmed></ref> <ref><pubmed>21532576</pubmed></ref>。


==構造==
== 発現 ==
 ニューロリギンの主な細胞外ドメインは[[acetylcholinesterase]](AChE)と相同性を有しているが、[[choliesterase]]活性は無く、ニューレキシンとの結合を調整している。ニューロリギンはAChE相同性部位を介してホモ多量体を形成している。
 ニューロリギン1とニューロリギン2はそれぞれ中枢神経系のグルタミン酸作動性神経(興奮性)シナプスとGABA作動性神経(抑制性)シナプスに発現している<ref><pubmed>9927700</pubmed></ref> <ref><pubmed>15540461</pubmed></ref> <ref><pubmed>15620359</pubmed></ref>。ニューロリギンの興奮性・抑制性シナプスにおける局在はシナプス足場蛋白(PSD-95とgephyrin)によって調節されていることが示唆されている<ref><pubmed>1991435</pubmed></ref>。また、ヒトでは、ニューロリギン2の膵島と大腸における発現が確認されている<ref><pubmed>18755801</pubmed></ref>。ニューロリギン3は興奮性と抑制性の両シナプスに発現しており<ref name=ref1003 />、げっ歯類ではグリア細胞にも発現が確認されている<ref><pubmed>11329178</pubmed></ref>。また、ヒトではニューロリギン3は心臓、骨格筋、胎盤、膵臓にも発現している<ref><pubmed>10767552</pubmed></ref>。ニューロリギン4は心臓、肝臓、骨格筋、膵臓に発現し、脳では低レベルで発現しており<ref><pubmed>11368788</pubmed></ref>、網膜のグリシン作動性神経シナプス後部に発現していることが報告されている<ref><pubmed>21282647</pubmed></ref>。


 ニューロリギンのAChE相同領域には[[wikipedia:ja:選択的スプライシング|選択的スプライシング]]部位Aがあり、さらにニューロリギン1には同領域に選択的スプライシング部位Bがある。また、他のシナプス関連タンパク質と結合するために重要であると推定される[[PDZドメイン]]結合部位を末端に持つ細胞内ドメインを有している<ref name=ref2 />。
Allen Brain Atlasでの発現パターン(Mouse)<br>
(編集コメント:図があればよいかと思います)
[[http://mouse.brain-map.org/experiment/show?id=70300553 NLGN1]]
[[http://mouse.brain-map.org/experiment/show?id=77656728 NLGN2]]
[[http://mouse.brain-map.org/experiment/show?id=70300559 NLGN3]]


==機能==
==機能==
======
===神経===
 ニューロリギンの細胞内C末端は[[PSD-95]]([[postsynaptic density 95]])のような[[PDZタンパク質]]と結合し、細胞外ドメインはニューレキシンと結合する。


 ニューロリギンの過剰発現はシナプス数を増加し、ポストシナプスの[[分化]]を促進するが、[[RNAi]]によるニューロリギンの発現抑制は、シナプスの減少を引き起こすことから、ニューロリギンはシナプス形成の際の細胞と細胞の連結の調節因子として働いているようである<ref><pubmed>15681343</pubmed></ref>。
 非神経細胞でのニューロリギン強制発現は、共培養した神経細胞のシナプス前末端の分化を誘導する<ref><pubmed>10892652</pubmed></ref>。また、ニューロリギンはシナプス後部の分化にも重要である。
 
 ニューロリギン1またはニューロリギン3の強制発現は興奮性シナプス伝達機能を増加させ、一方、ニューロリギン2強制発現は抑制性シナプス伝達機能を増加させる<ref><pubmed>17582332</pubmed></ref> <ref><pubmed>17237775</pubmed></ref> <ref><pubmed>21532576</pubmed></ref>。ニューロリギン1とニューロリギン2は、それぞれβ-、αニューレキシンと機能的なシナプスを形成することから、ニューロリギンとニューレキシンのアイソフォームの特異的な組み合わせが興奮性と抑制性シナプスの仕分けに関与していることが示唆されている。また、ニューロリギンのシナプス伝達への機能には、細胞内ドメインではなく細胞外ドメインが重要であると考えられている<ref><pubmed>23426688</pubmed></ref>。


 ニューロリギン1とニューロリギン2はそれぞれ[[興奮性シナプス]]と[[抑制性シナプス]]に局在し、ニューロリギン3は両シナプスに発現している。各ニューロリギンは異なるポストシナプス[[足場タンパク質]]と核をなすことで機能している。ニューロリギン1は興奮性シナプスの分化に必要なPSD95と結合している。一方、ニューロリギン2は抑制性ポストシナプス特異的な足場タンパク質である[[gephyrin]]を介して、抑制性シナプスの構築に貢献している。[[シナプス後肥厚]]でのニューロリギンと足場タンパク質の結合は、[[NMDA型]]や[[AMPA型グルタミン酸]]受容体のような膜貫通受容体のポストシナプス側への動員を誘導する<ref name=ref3><pubmed>21394644</pubmed></ref>。
 ニューロリギン1はPSD-95との結合によって、選択的に興奮性シナプスを構築する<ref><pubmed>15358863</pubmed></ref>。一方、ニューロリギン2は抑制性シナプス後部特異的な足場蛋白であるgephyrinを介して、抑制性シナプスを構築する<ref><pubmed>19755106</pubmed></ref>。また、ニューロリギン1の細胞外ドメインは、NMDA型受容体と相互作用を示し、シナプス後部におけるNMDA型受容体の機能を調節していると報告されている<ref><pubmed>23269831</pubmed></ref>。シナプスの形成にはニューロリギンのホモ二量体、ヘテロ二量体形成が必要であることが報告されている<ref><pubmed>17897391</pubmed></ref> <ref><pubmed>23129658</pubmed></ref> <ref><pubmed>22671294</pubmed></ref>。


 さらに、ニューロリギンは[[前シナプス]]に発現しているニューレキシンと結合することにより、前シナプスの成熟を促進し、[[N-Cadherin]]とポストシナプス足場タンパク質である[[S-SCAM]]とともに前シナプス小胞クラスタリングを促進させる<ref name=ref3 />。
 神経活動依存的にニューロリギン1は翻訳後修飾を受けることが知られている。細胞膜上のニューロリギン1は、NMDA受容体依存的に活性化されたプロテアーゼによって切断される<ref><pubmed>23083741</pubmed></ref> <ref><pubmed>23083742</pubmed></ref>。その結果、興奮性シナプス伝達能の低下する<ref><pubmed>23083741</pubmed></ref>。この活動依存的NLGN1切断はシナプス密度を調節し<ref><pubmed>23083742</pubmed></ref>、興奮性シナプス伝達効率を変化させる<ref><pubmed>23083741</pubmed></ref>。


 また、ニューロリギンは接着相手であるプレシナプスの[[グルタミン酸]]作動性神経と[[GABA]]作動性神経への分化を誘導する<ref name=ref2 />。
 ニューロリギン1は記憶と学習の分子基盤と考えられる長期増強現象(long-term potentiation:LTP)の発現に必要であり、SSBの存在が寄与している<ref><pubmed>23083734</pubmed></ref> <ref><pubmed>20147539</pubmed></ref> <ref><pubmed>18579781</pubmed></ref>。一方、ニューロリギン3は、knockdown実験とknockoutマウスではLTPには関与しないことが報告されているが、ミスセンス変異(Arg451Cys置換)ニューロリギン3 knockinマウスではLTPの増大が認められている<ref><pubmed>23083734</pubmed></ref> <ref><pubmed>21808020</pubmed></ref>。


 ニューロリギンのそれぞれの[[knockoutマウス]]は生存可能であり、繁殖能力を有するが、NLGN1; NLGN2;NLGN3 triple knockoutマウスは呼吸器障害が原因となり、生後すぐに死亡する。これらの[[マウス]]のシナプスの形態は正常のようであるが、シナプス伝達能が低下している。これらのマウスではGABA作動性/グリシン作動性神経シナプスでの[[誘発伝達]]の[[失敗率]]が正常マウスと比較して十倍以上高い。一方、グルタミン酸作動性神経においてはこのような変化がない。足場タンパク質であるgephyrinやPSD95のクラスタリングの変化は認められていないが、[[GABAA受容体|GABA<sub>A</sub>受容体]]のポストシナプスでのクラスタリングが誘発伝達失敗率上昇の一因のようである<ref name=ref2 />
 PSD-95とニューロリギン1の複合体による逆行性の神経伝達物質放出機調節はβニューレキシンを介して行われていることが示唆されている<ref><pubmed>17237775</pubmed></ref>。遺伝子改変マウス


===血管===
====ニューロリギン1 knockout, knock downマウス====
 ニューロリギン1は[[wikipedia:ja:腫瘍|腫瘍]]形成環境下において[[wikipedia:ja:血管新生|血管新生]]を促進する<ref><pubmed>19926856</pubmed></ref>。
 
 空間記憶ならびに恐怖記憶の障害を示す。NMDA受容体を介したシナプス伝達応答とLTPの減弱が認められる<ref><pubmed>20147539</pubmed></ref> <ref><pubmed>18579781</pubmed></ref> <ref><pubmed>17582332</pubmed></ref>。
 
====ニューロリギン2 knockoutマウス====
 抑制性シナプス伝達能の低下と不安様行動の増加が認められる<ref><pubmed>19016888</pubmed></ref> <ref><pubmed>20530218</pubmed></ref> <ref><pubmed>17582332</pubmed></ref>。パルバルブミン(Parvalbumin)陽性抑制性細胞を介した抑制性シナプス伝達効率は減弱するが、ソマトスタチン(Somatostatin)陽性抑制性細胞を介した伝達はニューロリギン2のノックアウト効果が見られない<ref><pubmed>19889999</pubmed></ref>。この結果は、抑制性入力に依存して異なるニューロリギンとニューレキシン結合が抑制性シナプスの機能に寄与していることを示唆している。
 
====ニューロリギン3 knockoutマウス====
 社会的行動の障害(social novelty preferenceの低下)とultrasonic vocalizationの減少を示す<ref><pubmed>19243448</pubmed></ref>。脳容積の減少が認められる<ref><pubmed>19243448</pubmed></ref>。抑制性シナプス伝達能の僅かな増加と興奮性シナプス伝達能の僅かな減少が認められるが、シナプス可塑性の変化は認められない<ref><pubmed>21808020</pubmed></ref>。また、海馬ではパルバルブミン陽性抑制性細胞を介した抑制性シナプス伝達効率の変化は認められないが、コレシストキニン(cholesystokinin)陽性抑制性細胞を介した伝達効率の増加が認められる<ref><pubmed>23583622</pubmed></ref>。
 
====ニューロリギン4 knockoutマウス====
 社会的行動の障害(reciprocal social interaction)とultrasonic vocalizationの減少を示す。脳容積の減少が認められる<ref><pubmed>18227507</pubmed></ref>。


== 疾患との関連 ==
====ニューロリギン1,2,3 knockoutマウス====
 呼吸器障害により生後間もなく死亡する。この呼吸器障害は神経伝達の低下によると示唆されているが、シナプスの構造は野生型マウスに比べ差異が見られない<ref><pubmed>16982420</pubmed></ref>。これはニューロリギンがシナプス構造構築ではなく、シナプス機能を制御していることを示唆している。


 ニューロリギン4遺伝子で2つの[[wikipedia:ja:フレームシフト変異|フレームシフト変異]]、5つの[[wikipedia:ja:ミスセンス変異|ミスセンス変異]]と3つの内部欠損が[[自閉症]]患者において発見され、ニューロリギン3遺伝子でも一つのミスセンス変異(Arg451Cys置換)が発見されている。さらに、ニューロリギン4遺伝子座を含む[[wikipedia:ja:X染色体|X染色体]]DNAで5つの欠失が自閉症患者において発見されている<ref name=ref1 />。
====ニューロリギン3 Arg451Cys knockinマウス==== 
 自閉症患者より発見されたニューロリギン3の変異を模倣したノックインマウス。


 細胞培養実験では、ニューロリギン4でのフレームシフト変異(396X)とニューロリギン3でのミスセンス変異(R451C)はニューロリギンの細胞内滞留時間を増加させ、[[シナプス形成]]能を低下させている。
 体性感覚皮質(somatosensory cortex)において抑制性シナプス伝達能の増加が認められ<ref><pubmed>17823315</pubmed></ref>、海馬では興奮性シナプス伝達効率およびLTPの増加が認められる<ref><pubmed>21808020</pubmed></ref>。さらに、海馬ではパルバルブミン陽性抑制性細胞を介した抑制性シナプス伝達効率の減弱と、コレシストキニン陽性抑制性細胞を介した伝達効率の増加が認められる<ref><pubmed>23583622</pubmed></ref>。皮質においてパルバルブミン陽性細胞の数が減弱している<ref><pubmed>20664807</pubmed></ref>。社会的行動障害を示すことが報告されているが<ref><pubmed>17823315</pubmed></ref> <ref><pubmed>21808020</pubmed></ref>、明白な障害を示さないという報告もある<ref><pubmed>19360662</pubmed></ref>。


 Arg451Cys置換knock-inマウスは全てではないが、ヒト自閉症患者と同様の症状を示している。このマウスは[[不安]]や[[社会性コミュニケーション]]の障害を示しているが、[[空間記憶]]能力は大きく上昇している。この症状は自閉症患者の中で極稀な驚異的な記憶力を有していたりする[[サヴァン症候群]]と類似している。しかし、Arg451Cys置換を有するヒト自閉症患者は[[学習]]能力障害を患っており、この点は不可解である。
====ニューロリギン3 Arg704Cys knockinマウス====
 Arg704Cysのアミノ酸置換はニューロリギン4において発見されたが、ニューロリギン3でのArg704Cysの影響が検討されている。ニューロリギン3 Arg704Cys knockinマウスではシナプス構造の著名な変化は認められないが、AMPA型受容体を介したシナプス伝達応答の減弱が認められる<ref><pubmed>21642956</pubmed></ref>。


 ニューロリギン3やニューロリギン4に遺伝子変異の無い自閉症患者もいることから、これらの遺伝子変異を有する患者数は限られている。
===血管===
 ニューロリギン1は[[wikipedia:ja:腫瘍|腫瘍]]形成環境下において[[wikipedia:ja:血管新生|血管新生]]を促進する<ref><pubmed>19926856</pubmed></ref>。


 また、ニューロリギン4遺伝子でのナンセンス変異(429X)は[[精神遅滞]]の人において発見されている<ref name=ref2 />。
===膵臓===
 ニューロリギン2はβ細胞からのインスリン分泌を調節している<ref><pubmed>18755801</pubmed></ref> <ref><pubmed>22528485</pubmed></ref>。


 ニューロリギン2については、ミスセンス変異が[[統合失調症]]患者で発見されている<ref><pubmed>21551456</pubmed></ref>。
== 疾患との関連 ==


 ニューロリギン1については、自閉症と関係性が提案されている<ref><pubmed>1940425</pubmed></ref>。さらにニューロリギン1は[[アミロイドβタンパク質]]と結合することが報告されており、[[アルツハイマー病]]発症と関与することが考えられている<ref><pubmed>21838267</pubmed></ref>。
===自閉症===
 X染色体に局在するニューロリギン3とニューロリギン4の変異が報告されている<ref><pubmed>12669065</pubmed></ref> <ref><pubmed>15622415</pubmed></ref> <ref><pubmed>19726642</pubmed></ref>。ニューロリギン3の細胞外ドメインのArg451がCysに変異した兄弟において、一人は自閉症を、もう一人はアスペルガー症候群を示し、自閉症スペクトラムの中でも異なる症状を示すことは興味深い<ref><pubmed>12669065</pubmed></ref>。
 
===統合失調症===
 ニューロリギン2に変異が発見されている<ref><pubmed>21551456</pubmed></ref>。
 
===アルツハイマー病===
 ニューロリギン1はアミロイドβ蛋白と結合することが報告されており、アルツハイマー病発症への関与が示唆されている<ref><pubmed>21838267</pubmed></ref>。また、アミロイド前駆体蛋白を切断するADAM10(A disintegrin and metalloproteinase 10)やγ-secretase、アミロイドβ蛋白の代謝に関与するMMP-9がニューロリギン1の切断にも関与することが報告されている<ref><pubmed>23083741</pubmed></ref> <ref><pubmed>23083742</pubmed></ref>。


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
<references />
<references />