ハンチントン病

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英:Huntington’s disease、英略語:HD 独:Huntington-Krankheit 仏:maladie de Huntington

 ハンチントン病は、四肢末端に始まりやがて全身に及ぶ舞踏運動(chorea)を中心とする不随意運動易怒性易刺激性などの性格変化、注意力記銘力低下などの認知機能障害、幻覚妄想などの精神障害を古典的主症状とする常染色体優性遺伝形式の進行性の神経変性疾患である。病因遺伝子は4番染色体短腕4p16.3に位置するハンチンチン(huntingtin)タンパク質をコードするHTT遺伝子であり、第1エクソンコーディング領域の三塩基CAGの繰り返し配列(リピート)の伸長によって起こる。CAG配列はグルタミンに翻訳されるため、トリプレット病のうち、ポリグルタミン病(polyQ disease)あるいはCAGリピート病と呼ばれる疾患の一つである。このリピート数は正常では35以下で、患者では36以上であるが、この境界は必ずしも厳密ではなく、人種やほかの遺伝的バックグラウンドによって若干のずれが生じうる。

図 ハンチントン病患者のMR前額断像
尾状核頭部萎縮、側脳室前角の拡大、大脳皮質の萎縮が認められる。http://www.radpod.org/2007/05/01/huntingtons-disease/より。


歴史

 ハンチントン病を最初に報告したのはGeorge Huntingtonである。彼は米国New York州のLong Islandで祖父の代から開業していたが、その地域に広く見られる「あの病気」と言われる疾患の存在を父から知らされていた。彼はそれを詳細に調査し、成人発症で遺伝性の精神症状と舞踏運動を伴う疾患として1872年に発表した。時にHuntington舞踏病と呼ばれたが、舞踏運動以外の症状も重要であることより、現在ではHuntington病と呼ばれる。

臨床的特徴

 発症年齢は30~40歳代が多いがばらつきがある。CAGリピート数と発症年齢は逆相関し、また父親から遺伝する場合には発症年齢の低下、臨床症候の重症化が認められる。この現象を表現促進現象(anticipation)という。我が国における有病率は100万人あたり7人程度であり、コーカソイドの10分の1程度である。

 典型的には舞踏運動発症の10年程前にうつ易刺激性などの精神障害あるいは行動異常が出現し、次いで手足や口唇に舞踏運動が出現し、それにより構音障害も伴う。進行に伴い認知機能低下が出現する。ジストニアアテトーゼといった他の不随意運動を伴うこともある。10%未満を占める20歳以下で発症する若年型は、臨床像は多彩であるが、筋強剛痙攣知的機能障害が目立つ症例が多い。特に筋強剛型は若年型の1/3を占める。また、若年型はCAGリピート数が多いことが知られている。一方で高齢発症の症例としては60~70歳代での発症があるが、この場合リピート数は38-39程度であり、不随意運動のみで認知機能が保たれる場合が多い。

 検査所見として、次に述べる病理変化に対応して頭部CTMRIにて尾状核の萎縮と側脳室前角の拡大が認められることが特徴的である。進行に伴い大脳萎縮も認める。

病理所見

 病理学的には尾状核被殻の神経細胞脱落とグリオーシスが見られる。特に線条体ではGABA作動性小型細胞の脱落が顕著であり、アセチルコリン作動性の大型細胞は比較的残存する。ユビキチンあるいはハンチンチンの免疫染色により、核内封入体が認められる。大脳皮質の神経突起内にもユビキチン陽性封入体を認める。

ハンチンチンの構造・機能

 病因遺伝子産物のハンチンチンは3145アミノ酸残基、分子量約330 kDaの巨大なタンパク質である。生理的に神経細胞を含む全身の細胞に発現し、正常では内に局在する。ハンチンチンは最N末端領域とC末端領域にnuclear export signal(NES)を持ち、全長にわたってタンパク質間相互作用を司ると想定されるHuntingtin, Elongator factor3, PR65/A regulatory subunit of PP2A, and Tor1(HEAT)リピートを有する。HEATリピート領域は構造の弾性を生み、立体構造をとるための折りたたみ機能も持つと考えられている。またN末端領域のpolyQ鎖は何らかの重要な神経機能に関わることが示唆されている[1]

 HTTホモログであるHdhノックアウトマウスでは、Hdhを発現する外胚葉においてアポトーシスの増加が認められ、早期の胎生致死となることが示されている。

病態生理

 ハンチントン病患者に発現している伸長したpolyQ鎖を含む変異型ハンチンチンがどのように病態に関与するかについて多角的に検討されており、またそのような研究を通じて多岐にわたるハンチンチンの生理機能が部分的に解明されてきている。

ハンチンチンの断片化

 いくつかの神経変性疾患において、凝集体内にその構成成分の断片が含まれることが知られており、蓄積タンパク質の切断は病態機序に関係していると考えられている。ハンチンチンのN末端領域を含む切断産物は特に線条体において多く認められ、ハンチントン病患者脳やモデルマウスで切断産物が増加していることから、病態との関与が示唆される。ハンチントン病患者脳の核内封入体はN末端領域の抗体によってのみ検出されること、細胞に発現させるとN末端断片は全長型よりも速く凝集し、より毒性が強いことから、N末端断片が毒性を持つと考えられてきた。特にマウスモデルを用いた研究から、N末端領域に相当する144-150リピートを含むexon1トランスジェニックマウス(R6/2マウス)は全長型を発現するトランスジェニックマウスと同様の症状及び病理変化をより早期からより急速に呈すること、150リピートを含むハンチンチンノックインマウス(HdhQ150ノックインマウス)では症状発現前から第1エクソンに相当するN末端領域の断片の蓄積が見られること[2]、586番アミノ酸で切断するカスパーゼ6による切断を受けない変異を導入した全長型のトランスジェニックマウスは運動症状や線条体の変性を来さないこと[3]が示されており、その推察を裏付ける根拠となっている。

 しかしながら、N末端断片のみの毒性に焦点を当てたCAGリピートの伸長したexon1の過剰発現は、細胞モデル・動物モデルの構築に簡便ではあるものの、ハンチンチンの有する多くの機能を無視した人工的なモデルであるとの批判もあり、真に病態を反映しているか疑問視する議論もある。またハンチンチンはカスパーゼ、カルパインカテプシンといったプロテアーゼによって切断され、多種の断片が存在することが明らかになってきていることからも、病態を模倣するためには全長型ハンチンチンを用いた研究が重要であろう。

プロテアソーム機能異常

 ユビキチン―プロテアソーム系(ubiquitin-proteasome system; UPS)は、ミスフォールドされた、あるいは異常局在した、あるいは変性したタンパク質を分解する機構であり、その機能不全が神経変性疾患の病態において重要な役割を果たすと考えられている。  ハンチントン病患者脳、マウスモデル、細胞モデルのいずれにおいても変異型ハンチンチンの凝集体にはユビキチンが共局在していること[4]から、UPSの破綻が病態の本質であるとの根強い説がある。また、細胞モデルにおいてUPSの構成因子である26Sプロテアソームのサブユニットや、HSP40HSP70BiP/GRP78といった分子シャペロンがハンチンチン陽性封入体に含まれ、UPSの破綻が示されている。逆に変異型ハンチンチン第1エクソンのTet誘導型トランスジェニックマウスを用いた検討から、ハンチンチンの発現抑制により凝集体は消失するものの、UPSの阻害で凝集体のクリアランスが抑制されることが示されている。同様にユビキチンの変異によりハンチンチンの凝集体形成は促進することが明らかになっている。

 一方、ハンチントン病患者脳やトランスジェニックマウスではUPS活性はむしろ上昇していることを示した研究もあり、UPSに関連しない細胞内プロセスの変化を反映している可能性や、変異型ハンチンチンによりUPSに過剰な負荷がかかっている可能性、あるいは大きな凝集体によって物理的にUPSが妨害されている可能性が挙げられる。それにより他の細胞内タンパク質の分解能が低下すると考えられる。また、変異型ハンチンチンの凝集体がUPSの構成因子を巻き込み、正常な細胞機能への利用を阻害している可能性も示唆されている。

 UPS活性の変化と変異ハンチンチンの蓄積のどちらが先に起こる事象であるかわかっていないが、封入体形成前よりも封入体形成後の方がUPSの障害の程度は低い、あるいは封入体形成を促進する薬物の投与により細胞毒性はむしろ減じるといった報告もあり、封入体形成はUPSを介して変異ハンチンチンの毒性からの保護的な役割を果たす可能性も示唆されている。

 R6/2マウスにトレハロースを投与すると、適切に立体構造を取れないポリグルタミン鎖が安定化し、それによりハンチンチンの凝集と細胞死を抑制し、運動機能や生存率を改善することが示された。凝集体形成過程における毒性の抑制であり、既に存在する凝集体への効果はないが、治療薬として期待される[5]

オートファジー機能異常

 オートファジーは種々の神経変性疾患において、ミスフォールドし凝集する傾向のあるタンパク質の排出に重要な役割を果たす。ハンチントン病の細胞モデルでは、オートファジーコンパートメントの拡大が見られ、変異型ハンチンチンは部分的にオートファジー小胞と共局在する。ノックインマウスにおいても初期にはオートファジー関連タンパク質の増加が認められる。

 患者脳やモデルマウスにおいてオートファジーの抑制因子であるMammalian target of rapamycin(mTOR)は凝集体に巻き込まれていることが示されており、mTORのキナーゼ活性が低下し、その結果オートファジーの誘導が起きている。細胞モデルにおいてmTOR活性化によるオートファジー抑制によりハンチンチン凝集体の形成と細胞毒性の増加が認められ、逆にmTOR特異的阻害剤である[[ラパマイシン]処理によりオートファジーが誘導され、ハンチンチンの凝集を抑制し、細胞死を抑制する[6]。患者脳で認める現象は、毒性から細胞を守るメカニズムであろうと考えられている。

 変異型ハンチンチンは、翻訳後に444番リジン残基にアセチル化を受け、オートファジー小胞への輸送を増加させ、オートファジー経路による分解が促進される。一方、変異型ハンチンチン発現細胞において、オートファジー小胞の形成には問題ないものの、細胞質カーゴの認識の障害のため積み込みができず、ターンオーバーが低下し異常蓄積につながる可能性も示唆されている。

 ラパマイシンは副作用が大きくオートファジー促進剤としての使用は難しいが、それに代わるオートファジーの促進因子は治療薬候補の一つである。より選択的なシャペロン介在オートファジーの誘導も有望な治療法である。

転写制御異常

 ハンチントン患者脳におけるMRNAレベルの減少は長年観察されていた現象であるが、患者脳や異なるモデルマウスにおいて非常に似たパターンの、特定のmRNAの減少が見られることがわかってきた。ハンチントン病の尾状核において発現レベルが変化している遺伝子は、神経シグナリングと恒常性にかかわる遺伝子であり、その多くは発現レベルが低下している。特に、代謝調節型イオン調節型受容体サブユニットや異なる神経伝達物質からシグナルを受ける受容体のmRNAレベルの変化が見られた。

 このようなmRNAレベルの変化を起こすメカニズムも広く研究されている。例えば、ハンチンチンは、核内受容体リプレッサーNCoR、CREB binding protein(CBP)、TATA-binding protein(TBP)、TAFII130Repressor element 1 transcription factor(REST)といった多くの転写活性化タンパク質と相互作用し、そのうち一部のタンパク質はハンチンチン凝集体中に検出される。また、変異型ハンチンチンはPPARγ coactivator 1α(PGC 1α)のプロモーター領域に直接結合して転写因子CREB/TAF4の結合を妨げ、PGC 1αの発現を抑制する。PGC1αはミトコンドリアの生合成や呼吸を制御する因子であり、これにより後述するミトコンドリアへの作用の一部は説明できる可能性がある。

 さらに、ハンチンチンの過剰発現により、線条体神経細胞の生存に必要な皮質神経細胞における脳由来神経栄養因子 (brain-derived neurotrophic factor, BDNF)の転写のup-regulationが見られ、この作用はハンチンチンが細胞質において転写抑制因子REST/Neuron restrictive silencer factor(NRSF)に結合して核への移行を留め、神経選択的サイレンサーneural restrictive silencer element(NRSE)の活性を阻害することにより起こるという報告がある。一方、変異型ハンチンチンではREST/NRSFへの結合能が低下し、REST/NRSFの核への移行が見られ、その結果としてBDNFの転写の促進が見られないことも、病因の一つの理由として示されている[7]

 転写の抑制に対して直接効果を発揮することが期待されるヒストン脱アセチル化酵素 (histon deacetylase, HDAC)阻害剤など、RNA発現プロファイルの変化を改善するような治療法がトランスジェニックショウジョウバエ[8]やトランスジェニックマウスモデル[9]で試みられ、効果を示している。

細胞内輸送の障害

 ハンチンチンは、HAP1HIP1HIP14HAP40PSCSIN1といった小胞輸送に関わるいくつかのタンパク質やSNAREが介在する小胞融合に関わるタンパク質と相互作用することが知られている。またハンチンチンは直接ダイニンに結合し、小胞の可動性を促進することや、ゴルジ装置の形成にはハンチンチンとダイニンやHAP1との相互作用に依存することなども示されている。変異型ハンチンチンではこのようなタンパク質との相互作用が変化していることがわかってきた。ハンチンチンのノックアウトやノックダウンによりAPPやBDNFを含む複数のタンパク質の細胞内輸送が障害されること、細胞内小器官の蓄積が見られることも、ハンチンチンと細胞内輸送との関連を示すデータである。

 ハンチントン病患者脳における細胞内輸送の障害のメカニズムとして、輸送関連タンパク質のmRNAレベルの変化が示されている。他に特筆すべき現象として、他のポリグルタミン病と同様に、変異型ハンチンチン凝集体は非常に巨大なため、電子顕微鏡観察にて軸索断面全体を占めることがあり、細胞質や神経突起内で物理的に軸索輸送を阻害する可能性も示唆されている。また、凝集したハンチンチンが小胞輸送に必要なタンパク質を巻き込んでしまい利用できなくする可能性も挙げられる。

 このような細胞内輸送の障害の結果、神経栄養因子の供給ができなくなったり、神経突起の伸長や維持が障害されたり、ミトコンドリア輸送が障害された結果、エネルギー供給ができなくなったり、神経伝達物質受容体の輸送が障害されて数が減少したりするなどの異常が起こると推測されている。

エネルギー代謝の障害

 ハンチントン病患者の脳や筋肉において代謝の変化が見られることが数十年前から知られていた。そのためモデル動物や細胞におけるエネルギー経路の変化の探索が行われてきた。 MRSを用いた研究では、ハンチントン患者脳においてN-acetyl aspartate(NAA)が増加していることが示され、ミトコンドリアの減少や神経機能不全を反映しているものと考えられている。ハンチントン病患者脳における乳酸の増加やクレアチンレベルの減少も観察され、FDG-PETにおいても発症前から線条体のエネルギー代謝が低下していることが示されている。

 分子メカニズムとしては、ミトコンドリアのComplex II/III活性の欠如、Complex IV活性の減少による酸化的リン酸化の障害が示唆されている。またモデルマウスの細胞や組織レベルでミトコンドリアへのCa2+流入が減少しており、内膜の透過性亢進とATP産生を阻害する膜電位の喪失を伴うミトコンドリアの膜透過性遷移孔の活性化につながる可能性も挙げられる。

 このようなミトコンドリアにおける代謝の変化は他の事象に引き続く二次的な変化の可能性が高いが、病態において重要な役割を果たすと考えられる。

興奮毒性

 ハンチントン病では、早期から線条体の投射ニューロンであるGABA作動性の中型有棘ニューロンの脱落が認められる。これらの細胞はNMDA型グルタミン酸受容体NR2Bサブタイプを豊富に発現しており、大脳皮質からの興奮性入力を受け取る。そのため興奮毒性が長く疑われてきた。これを検証した研究として、ハンチントン病トランスジェニックマウスと野生型マウスの皮質線条体スライスを用いてEPSCを測定したところ、トランスジェニックマウスにおいて有意にEPSCが増加していることが示された[10]。また、シナプス前のグルタミン酸の放出確率は変わらないことが示唆されることから、シナプス後のNMDA型グルタミン酸受容体活性が上昇していると考えられる。ただし、トランスジェニックマウスに対するNR2B選択的アンタゴニストによる治療の試みは成功していない。

Sirtuinの関与

 抗老化遺伝子として知られる[アセチル化#ヒストン脱アセチル化酵素|[Sirtuin]]も病態に関係する。変異型ハンチンチントランスジェニックマウス(N171-82Qマウス)においてSirtuin1 (Sirt1)を過剰発現させるとSirt1の脱アセチル化活性が促進し、トランスジェニックマウスにおいて減少していたBDNFの発現とその受容体TrkBのリン酸化、およびドーパミンシグナルカスケードの主要な構成分子であるDARPP32の発現が回復し、それらにより神経保護作用を発揮し、運動機能や脳萎縮の改善をもたらすことが示されている。逆にSirt1のノックダウンにより変異型ハンチンチンの毒性は増悪する。

 このSirt1の神経保護作用にはSirt1の脱アセチル化活性が必要である。Sirt1の基質の一つにエネルギー代謝や酸化ストレスからの保護に関わるFoxo3aが知られているが、変異型ハンチンチンがSirt1に直接結合し脱アセチル活性を阻害することによって引き起こされるFoxo3aの過アセチル化に対し、過剰発現したSirt1の脱アセチル化活性が拮抗して作用し、生存促進機能が働く可能性が示唆されている[11]

治療

 今後有望な治療薬は上記でも述べたが、現在のところ個々の症状に対する対症療法のみで有効とされる根本療法はない。

 少数例ではあるが胎児線条体の移植も試みられており、良好な経過をたどった症例では5年間を超えるフォローアップで臨床的な改善、PETにてD2受容体結合能の改善が続いていることが示されている[12]。また、トランスジェニックマウスではAAVベクターを用いたハンチンチンに対するRNAi治療により臨床症状の改善を示すことに成功しており、患者への応用が期待される[13]

関連項目

参考文献

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(執筆者:井原涼子、岩田淳 担当編集委員:高橋良輔)