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<font size="+1">[http://researchmap.jp/masahikotakada 高田 昌彦]</font><br>
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''京都大学 霊長類研究所''<br>
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DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2015年6月1日 原稿完成日:2015年月日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2015年6月1日 原稿完成日:2022年3月12日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/noritakaichinohe 一戸 紀孝](国立精神・神経医療研究センター 神経研究所)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/noritakaichinohe 一戸 紀孝](国立精神・神経医療研究センター 神経研究所)<br>
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英語名: midbrain、mesencephalon
英語名:midbrain、mesencephalon 独:Mittelhirn 仏:mésencéphale


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{{box|text= 中脳は間脳と橋の間に位置し、中脳水道より背側の中脳蓋と、腹側の中脳被蓋、大脳脚の3つの部分に大別される。中脳蓋には上丘と下丘が、中脳被蓋には黒質や赤核が、また、中心灰白質には動眼神経核や滑車神経核が存在する。}}
 中脳は間脳と橋の間に位置し、中脳水道より背側の中脳蓋と、腹側の中脳被蓋、大脳脚の3つの部分に大別される。中脳蓋には上丘と下丘が、中脳被蓋には黒質や赤核が、また、中心灰白質には動眼神経核や滑車神経核が存在する。
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}}
中脳を赤で、それ以外の部位を半透明にして示してある。([http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Midbrain_small.gif Wikipedia]より引用。原図は[http://dbcls.rois.ac.jp/services/contents/bp3d Anatomography])]]
[[image:中脳の前頭断.jpg|thumb|350px|'''図2.中脳の前頭断'''<br>動眼神経核を通る断面]]


[[image:中脳の前頭断.jpg|thumb|350px|'''図1.中脳の前頭断'''<br>動眼神経核を通る断面]]
==中脳とは==
 中脳とは[[間脳]]と[[橋]]の間に位置する脳構造である。
 
 [[中脳水道]]より背側の[[中脳蓋]]と、腹側の[[中脳被蓋]]、[[大脳脚]]の3つの部分に大別される。中脳蓋には、[[視覚]]反射中枢である[[上丘]]および[[聴覚]]中枢である[[下丘]]が存在する。中脳被蓋には、[[黒質]]や[[赤核]]など、主として運動制御に関与する[[神経核]]が存在する。[[中脳水道]]の[[周囲灰白質]]である[[中心灰白質]]には、[[動眼神経核]]や[[滑車神経核]]など、[[眼球運動]]を支配する[[脳神経核]]が存在する。また、中脳の中心部には[[脳幹網様体]]が分布し、脳幹を貫くカラム構造の最前方部を形成する。


==構造==
==構造==
 中脳は、[[中脳水道]]より背側の[[中脳蓋]]と、腹側の[[中脳被蓋]]、[[大脳脚]]の3つの部分に大別される。中脳蓋には、[[視覚]]反射中枢である[[上丘]]および[[聴覚]]中枢である[[下丘]]が存在する。中脳被蓋には、[[黒質]]や[[赤核]]など、主として運動制御に関与する[[神経核]]が存在する。[[中脳水道]]の[[周囲灰白質]]である[[中心灰白質]]には、[[動眼神経核]]や[[滑車神経核]]など、[[眼球運動]]を支配する脳神経核が存在する。また、中脳の中心部には[[脳幹網様体]]が分布し、脳幹を貫くカラム構造の最前方部を形成する。以下に、主な構造について概説する。
===上丘===
===上丘===
 上丘は、7層から成る明瞭な層構造を示す。[[哺乳類]]より下等の[[脊椎動物]]では、上丘はもっとも重要な視覚中枢であり、[[視蓋]]とよばれる。哺乳類の上丘では、視覚中枢としての機能が失われ、移動目標の捕捉や[[追視]]のための[[眼球]]および頭頸部の反射運動に関与する。特に、上丘により誘発される眼球運動は、[[サッカード]]と呼ばれる[[衝動性眼球運動]]としてよく知られている。このような視覚性反射に関わる[[網膜]]からの[[視索]]線維は、[[視床]]の[[外側膝状体]]には終止せず、対側優位に上丘の浅層に直接投射する([[網膜視蓋投射]])。網膜視蓋投射線維網は上丘において網膜部位局在的に分布する。また、大脳皮質[[後頭葉]]の[[一次視覚野]]から上丘浅層に投射する皮質視蓋投射も正確な部位局在性を示す。上丘浅層が主に視覚入力を受ける層であるのに対して、上丘深層は眼球運動に関わる[[中脳網様体]]や頭頸部の運動に関わる脊髄(頸髄上部)に投射線維を送る出力層である。
 上丘は、7層から成る明瞭な層構造を示す。[[哺乳類]]より下等の[[脊椎動物]]では、上丘はもっとも重要な視覚中枢であり、[[視蓋]]とよばれる。哺乳類の上丘では、視覚中枢としての機能が失われ、移動目標の捕捉や[[追視]]のための[[眼球]]および頭頸部の反射運動に関与する。特に、上丘により誘発される眼球運動は、[[サッカード]]と呼ばれる[[衝動性眼球運動]]としてよく知られている。このような視覚性反射に関わる[[網膜]]からの[[視索]]線維は、[[視床]]の[[外側膝状体]]には終止せず、対側優位に上丘の浅層に直接投射する([[網膜視蓋投射]])。網膜視蓋投射線維網は上丘において網膜部位局在的に分布する。また、大脳皮質[[後頭葉]]の[[一次視覚野]]から上丘浅層に投射する皮質視蓋投射も正確な部位局在性を示す。上丘浅層が主に視覚入力を受ける層であるのに対して、上丘深層は眼球運動に関わる[[中脳網様体]]や頭頸部の運動に関わる脊髄(頸髄上部)に投射線維を送る出力層である。
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===黒質===
===黒質===
 黒質は中脳被蓋の腹側部に位置し、背側の[[黒質緻密部|緻密部]]と腹側の[[黒質網様部|網様部]]に分けられる。黒質の緻密部は[[ドーパミン]]作動性ニューロンを含み、ドーパミン合成過程で[[wikipedia:ja:メラニン|メラニン]]色素を産生するため肉眼的に黒く見える。ドーパミンニューロンは線条体に投射し([[黒質線条体路]])、このニューロンの変性・脱落により重篤な運動障害を主徴とする[[パーキンソン病]]が発症する。黒質緻密部の内側には、もうひとつのドーパミンニューロン群である[[腹側被蓋野]]が存在し、大脳皮質に投射する[[中脳皮質路]]と辺縁系に投射する中脳辺縁系路が起こる。これらの神経路は[[認知機能]]や精神活動に関係すると考えられている。黒質の網様部は[[GABA]]作動性ニューロンを含み、[[大脳基底核]]の出力部として、視床や上丘などに投射する。
 黒質は中脳被蓋の腹側部に位置し、背側の[[黒質緻密部|緻密部]]と腹側の[[黒質網様部|網様部]]に分けられる。黒質の緻密部は[[ドーパミン]]作動性ニューロンを含み、ドーパミン合成過程で[[wj:メラニン|メラニン]]色素を産生するため肉眼的に黒く見える。ドーパミンニューロンは線条体に投射し([[黒質線条体路]])、このニューロンの変性・脱落により重篤な運動障害を主徴とする[[パーキンソン病]]が発症する。黒質緻密部の内側には、もうひとつのドーパミンニューロン群である[[腹側被蓋野]]が存在し、大脳皮質に投射する[[中脳皮質路]]と辺縁系に投射する中脳辺縁系路が起こる。これらの神経路は[[認知機能]]や精神活動に関係すると考えられている。黒質の網様部は[[GABA]]作動性ニューロンを含み、[[大脳基底核]]の出力部として、視床や上丘などに投射する。


===赤核===
===赤核===

2022年3月12日 (土) 12:15時点における最新版

高田 昌彦
京都大学 霊長類研究所
DOI:10.14931/bsd.5902 原稿受付日:2015年6月1日 原稿完成日:2022年3月12日
担当編集委員:一戸 紀孝(国立精神・神経医療研究センター 神経研究所)

英語名:midbrain、mesencephalon 独:Mittelhirn 仏:mésencéphale

 中脳は間脳と橋の間に位置し、中脳水道より背側の中脳蓋と、腹側の中脳被蓋、大脳脚の3つの部分に大別される。中脳蓋には上丘と下丘が、中脳被蓋には黒質や赤核が、また、中心灰白質には動眼神経核や滑車神経核が存在する。

図1. 中脳の位置を様々な方向から見た動画
中脳を赤で、それ以外の部位を半透明にして示してある。(Wikipediaより引用。原図はAnatomography
図2.中脳の前頭断
動眼神経核を通る断面

中脳とは

 中脳とは間脳の間に位置する脳構造である。

 中脳水道より背側の中脳蓋と、腹側の中脳被蓋大脳脚の3つの部分に大別される。中脳蓋には、視覚反射中枢である上丘および聴覚中枢である下丘が存在する。中脳被蓋には、黒質赤核など、主として運動制御に関与する神経核が存在する。中脳水道周囲灰白質である中心灰白質には、動眼神経核滑車神経核など、眼球運動を支配する脳神経核が存在する。また、中脳の中心部には脳幹網様体が分布し、脳幹を貫くカラム構造の最前方部を形成する。

構造

上丘

 上丘は、7層から成る明瞭な層構造を示す。哺乳類より下等の脊椎動物では、上丘はもっとも重要な視覚中枢であり、視蓋とよばれる。哺乳類の上丘では、視覚中枢としての機能が失われ、移動目標の捕捉や追視のための眼球および頭頸部の反射運動に関与する。特に、上丘により誘発される眼球運動は、サッカードと呼ばれる衝動性眼球運動としてよく知られている。このような視覚性反射に関わる網膜からの視索線維は、視床外側膝状体には終止せず、対側優位に上丘の浅層に直接投射する(網膜視蓋投射)。網膜視蓋投射線維網は上丘において網膜部位局在的に分布する。また、大脳皮質後頭葉一次視覚野から上丘浅層に投射する皮質視蓋投射も正確な部位局在性を示す。上丘浅層が主に視覚入力を受ける層であるのに対して、上丘深層は眼球運動に関わる中脳網様体や頭頸部の運動に関わる脊髄(頸髄上部)に投射線維を送る出力層である。

下丘

 内耳蝸牛に由来する聴覚情報は、蝸牛神経核台形体核から外側毛帯を介して下丘に入力する。下丘は聴覚の中継核として、処理した情報を視床の内側膝状体に送る。下丘の中心部にある中心核のニューロンはタマネギ状の層状配列を呈し、各層は蝸牛における周波数局在と密接に関連した周波数局在を示す。

黒質

 黒質は中脳被蓋の腹側部に位置し、背側の緻密部と腹側の網様部に分けられる。黒質の緻密部はドーパミン作動性ニューロンを含み、ドーパミン合成過程でメラニン色素を産生するため肉眼的に黒く見える。ドーパミンニューロンは線条体に投射し(黒質線条体路)、このニューロンの変性・脱落により重篤な運動障害を主徴とするパーキンソン病が発症する。黒質緻密部の内側には、もうひとつのドーパミンニューロン群である腹側被蓋野が存在し、大脳皮質に投射する中脳皮質路と辺縁系に投射する中脳辺縁系路が起こる。これらの神経路は認知機能や精神活動に関係すると考えられている。黒質の網様部はGABA作動性ニューロンを含み、大脳基底核の出力部として、視床や上丘などに投射する。

赤核

 赤核は中脳被蓋の内側部に位置し、鉄分を含有するためピンク色の外観を呈する。赤核は対側の小脳核から上行性投射を、大脳皮質運動野から下行性投射を受ける。大細胞性赤核小細胞性赤核に分類されるが、ヒトでは大部分が小細胞性であり、同側の下オリーブ核や網様体に投射する。大細胞性赤核のニューロンは脊髄に投射する。このような線維結合から、赤核は運動野と脊髄の間の中継部位として(皮質―赤核―脊髄路)、また、下オリーブ核を介した小脳へのフィードバック系の中継部位として(赤核―オリーブ核―小脳路)、運動制御に関わる神経核であると考えられている。

中脳被蓋を通る神経線維

 中脳被蓋の外側部には内側毛帯脊髄視床路三叉神経視床路などを形成する神経線維が通る。また、背側部には中心被蓋路内側縦束が走行する。

大脳脚

 大脳脚には橋核に投射する皮質橋線維と脊髄に投射する皮質脊髄路が含まれる。大脳脚の内側部には前頭葉からの皮質橋線維が、外側部には頭頂葉、後頭葉、側頭葉からの皮質橋線維が通る。皮質脊髄路は大脳脚の中央部に位置する。

動眼神経核と滑車神経核

 中心灰白質の腹側部には、眼球運動に関与する脳神経核である動眼神経核と滑車神経核が存在し、それぞれ動眼神経滑車神経が起こる。動眼神経は腹内側方に向かい、脚間窩から脳の外に出る。滑車神経は、脳幹の背側部から外に出る唯一の脳神経である。また、中心灰白質の辺縁部には、感覚性脳神経核として三叉神経中脳路核のニューロンが分布する。

関連項目

参考文献

1. 監修 伊藤正男、編集 金澤一郎、篠田義一、廣川信隆、御子柴克彦、宮下保司
 脳神経科学
 三輪書店 2003

2. 監訳 白尾智明
 イラストレイテッド神経科学
 丸善出版 2013