「低分子量Gタンパク質」の版間の差分

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''神戸大学 大学院 医学研究科''<br>
DOI XXXX/XXXX 原稿受付日:2012年7月23日 原稿完成日:2012年9月18日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/haruokasai 河西 春郎](東京大学 大学院医学系研究科)<br>
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同義語:低分子量GTPアーゼ (small GTPase)  
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 低分子量Gタンパク質とは、分子量20-30kDaの[[wikipedia:ja:グアノシン三リン酸|グアノシン三リン酸]](GTP)結合タンパク質である。[[wikipedia:ja:グアノシン二リン酸|グアノシン二リン酸]](GDP)結合型からGTP結合型への転換により活性型となり、特異的な標的分子に結合して[[細胞内シグナル]]を伝達する分子スイッチとして機能する(図)<ref name="ref1"><pubmed>22270915</pubmed></ref>。活性調節は時間的、空間的に制御されており、バイオタイマーとしても機能する<ref name="ref2"><pubmed>11152757</pubmed></ref>。5つのファミリーに分類され、[[細胞増殖|増殖]]、[[分化]]、[[遺伝子発現]]、[[運動]]、[[小胞輸送]]などの細胞機能を制御する(表1)。神経系においては、低分子量G蛋白質は、神経細胞の軸索や樹状突起の伸長といった形態形成、神経細胞間の情報伝達など様々な機能を制御する(表2)。  
 低分子量Gタンパク質とは、分子量20-30kDaの[[wikipedia:ja:グアノシン三リン酸|グアノシン三リン酸]](GTP)結合タンパク質である。[[wikipedia:ja:グアノシン二リン酸|グアノシン二リン酸]](GDP)結合型からGTP結合型への転換により活性型となり、特異的な標的分子に結合して[[細胞内シグナル]]を伝達する分子スイッチとして機能する(図)<ref name="ref1"><pubmed>22270915</pubmed></ref>。活性調節は時間的、空間的に制御されており、バイオタイマーとしても機能する<ref name="ref2"><pubmed>11152757</pubmed></ref>。5つのファミリーに分類され、[[細胞増殖|増殖]]、[[分化]]、[[遺伝子発現]]、[[運動]]、[[小胞輸送]]などの細胞機能を制御する(表1)。神経系においては、低分子量G蛋白質は、神経細胞の軸索や樹状突起の伸長といった形態形成、神経細胞間の情報伝達など様々な機能を制御する(表2)。  
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== 低分子量Gタンパク質とは  ==
== 低分子量Gタンパク質とは  ==
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'''表3.神経系における低分子量G蛋白質の主な機能'''
'''表3.神経系における低分子量G蛋白質の主な機能'''


== 参考文献  ==
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(執筆者:力武良行、高井義美 担当編集委員:河西春郎)

2013年7月12日 (金) 14:49時点における版

力武 良行高井 義美
神戸大学 大学院 医学研究科
DOI XXXX/XXXX 原稿受付日:2012年7月23日 原稿完成日:2012年9月18日
担当編集委員:河西 春郎(東京大学 大学院医学系研究科)

Hras surface colored by conservation.png
H-Ras structure PDB 121p, surface colored by conservation in Pfam seed alignment: gold, most conserved; dark cyan, least conserved.
Identifiers
Symbol Ras
Pfam PF00071
InterPro IPR013753
PROSITE PDOC00017
SCOP 5p21
SUPERFAMILY 5p21
OPM protein 1uad
CDD cd00882

英:small G protein 独:kleine G-Protein 仏:petites protéines G

同義語:低分子量GTPアーゼ (small GTPase)

図.低分子量G蛋白質の活性調節と作用機構
GDIと複合体を形成しているGDP結合型(不活性型)の低分子量G蛋白質はGDF によりGDI が遊離すると、GFFによりGTP結合型(活性型)となり、標的蛋白質に作用する。一方、GTP結合型の低分子量G蛋白質はGAPによりGTPが加水分解されてGDP結合型(不活性型)となる。
GDI:GDP解離阻害因子
GDF:GDI置換因子
GEF:GDP/GTP交換因子
GAP:GTPase活性化蛋白質

 低分子量Gタンパク質とは、分子量20-30kDaのグアノシン三リン酸(GTP)結合タンパク質である。グアノシン二リン酸(GDP)結合型からGTP結合型への転換により活性型となり、特異的な標的分子に結合して細胞内シグナルを伝達する分子スイッチとして機能する(図)[1]。活性調節は時間的、空間的に制御されており、バイオタイマーとしても機能する[2]。5つのファミリーに分類され、増殖分化遺伝子発現運動小胞輸送などの細胞機能を制御する(表1)。神経系においては、低分子量G蛋白質は、神経細胞の軸索や樹状突起の伸長といった形態形成、神経細胞間の情報伝達など様々な機能を制御する(表2)。

低分子量Gタンパク質とは

 三量体Gタンパク質に対して、分子量20-30kDaのサブユニット構造を持たないGTP結合タンパク質を低分子量Gタンパク質という。酵母からヒトまでの真核生物に存在する。ヒトやマウスでは150以上の分子からなり[1]、主に5つのファミリーに分類される(表1、2)。不活性型のGDP結合型と活性型のGTP結合型が存在し、両者の転換により細胞内シグナルを伝達する分子スイッチとして機能する(図)。なお、低分子量Gタンパク質は低分子量GTPアーゼ(small GTPase)とも表記されるが、GTPase活性のない分子もあることや、他のGTPaseとは異なり、GTPase活性は標的分子への作用には必要なく、作用の終了後に必要であることから、低分子量GTPアーゼよりも低分子量Gタンパク質と表記する方がより適切である。

分類と機能

 低分子量Gタンパク質は、Ras[3]Rho[4]Rab[5]Ran[6]Sar/Arf[7]の5つのファミリーに分類される(表1)。

Rasファミリー

 ラットの肉腫から発見されたRas (Rat sarcoma)やRap (Ras-related protein)、Ral (Ras-like)などのサブファミリーからなる。Rasサブファミリーの分子にはH-RasK-RasN-Rasなど、RapサブファミリーにはRap1ARap1BRap2ARap2BRap2C、RalサブファミリーにはRalARalBがある。細胞の増殖や分化、遺伝子発現、細胞間接着などを制御する。ras遺伝子の変異は癌遺伝子として機能し、細胞のがん化に関与する。

Rhoファミリー

 Rho (Ras homologous)、Rac (Ras-related C3 botulinum toxin substrate)、Cdc42 (cell division cycle42)のサブファミリーからなる。Rhoサブファミリーの分子にはRhoARhoBRhoCなど、RacサブファミリーにはRac1Rac2Rac3、Cdc42サブファミリーにはCdc42、TC10TCLなどがある。細胞骨格の形成を調節して、細胞の運動を制御する。例えば、ヒト線維芽細胞の運動時には、Cdc42はフィロポディアの形成を、Rac はラメリポディアラッフルの形成を、Rhoはストレスファイバーの形成を制御する。RacはNADPHオキシダーゼの活性化を調節して活性酸素種 (reactive oxygen species: ROS)の産生も制御する。

 詳細はRhoファミリー低分子量GTP結合タンパク質の項目参照。

Rabファミリー

 Rab (Rat brain)は、Rab4Rab5Rab7Rab11などの多数の分子からなるファミリーを形成する。ヒトでは約70ものRab分子が同定されている。トランスゴルジネットワークエンドソーム間、エンドソーム−細胞膜間、細胞膜−エンドソーム間、エンドソーム−リソソーム間など、細胞内の小胞輸送を制御する。

 詳細はRabファミリー低分子量GTP結合タンパク質の項目参照。

Ranファミリー

 Ran (Ras-related nuclear protein)は細胞質−間の輸送、有糸分裂紡錘体集合、微小管構築、核膜形成を制御する。最近では、細胞増殖やがん化との関連も報告されている。

Sar/Arfファミリー

 Sar (Secretion-associated and Ras-related)/Arf (ADP-ribosylation factor: ARF)は細胞内の小胞輸送、アクチン線維のリモデリングの制御のほか、NADPHオキシダーゼホスホリパーゼDホスファチジルイノシトールキナーゼなどを活性化する。

ファミリー サブファミリー 主な機能
Ras Ras, Rap, Ral 細胞の増殖や分化、遺伝子発現
Rho Rho, Rac, Cdc42 細胞の運動、細胞骨格
Rab 小胞輸送
Ran 細胞質−核間の輸送、有糸分裂の紡錘体集合、微小管構築
Sar/Arf 小胞輸送

表1.低分子量G蛋白質の分類と主な機能


サブファミリー メンバー
Ras DIRAS1; DIRAS2; DIRAS3; ERAS; GEM; HRAS; KRAS; MRAS; NKIRAS1; NKIRAS2; NRAS; RALA; RALB; RAP1A; RAP1B; RAP2A; RAP2B; RAP2C; RASD1; RASD2; RASL10A; RASL10B; RASL11A; RASL11B; RASL12; REM1; REM2; RERG; RERGL; RRAD; RRAS; RRAS2
Rho RHOA; RHOB; RHOBTB1; RHOBTB2; RHOBTB3; RHOC; RHOD; RHOF; RHOG; RHOH; RHOJ; RHOQ; RHOU; RHOV; RND1; RND2; RND3; RAC1; RAC2; RAC3; CDC42
Rab RAB1A; RAB1B; RAB2; RAB3A; RAB3B; RAB3C; RAB3D; RAB4A; RAB4B; RAB5A; RAB5B; RAB5C; RAB6A; RAB6B; RAB6C; RAB7A; RAB7B; RAB7L1; RAB8A; RAB8B; RAB9; RAB9B; RABL2A; RABL2B; RABL4; RAB10; RAB11A; RAB11B; RAB12; RAB13; RAB14; RAB15; RAB17; RAB18; RAB19; RAB20; RAB21; RAB22A; RAB23; RAB24; RAB25; RAB26; RAB27A; RAB27B; RAB28; RAB2B; RAB30; RAB31; RAB32; RAB33A; RAB33B; RAB34; RAB35; RAB36; RAB37; RAB38; RAB39; RAB39B; RAB40A; RAB40AL; RAB40B; RAB40C; RAB41; RAB42; RAB43
Rap RAP1A; RAP1B; RAP2A; RAP2B; RAP2C
Arf ARF1; ARF3; ARF4; ARF5; ARF6; ARL1; ARL2; ARL3; ARL4; ARL5; ARL5C; ARL6; ARL7; ARL8; ARL9; ARL10A; ARL10B; ARL10C; ARL11; ARL13A; ARL13B; ARL14; ARL15; ARL16; ARL17; TRIM23, ARL4D; ARFRP1; ARL13B
Ran RAN
Rheb RHEB; RHEBL1
RGK RRAD; GEM; REM; REM2
Rit RIT1; RIT2
Miro RHOT1; RHOT2

表2 低分子量Gタンパク質ファミリー(Wikipediaより一部改変)

未分類:

活性調節機構

GFFとGAPによる活性調節

 低分子量Gタンパク質は、GDP/GTP交換因子(GDP/GTP exchange factor: GEF)によってGDPとGTPが交換され、GDP結合型からGTP結合型となる結果、活性化される(図)。一方、GTPase活性化タンパク質(GTPase activating protein: GAP)によって低分子量Gタンパク質自身の有するGTPase活性が亢進して、結合しているGTPが加水分解されてGDPとなる結果、不活性化される。

GDFとGDIによる活性調節

 Rasを除く低分子量Gタンパク質は、通常、不活性型のGDP結合型の時には、GDP解離阻害因子(GDP dissociation inhibitor: GDI)と複合体を形成して細胞質に存在する(図)。これにより、GDPが解離して活性型に変換されるのが阻害されている。GDI置換因子(GDI displacement factor: GDF)により、GDIが遊離するとGFFによる活性化が可能となる。

プレニル化

 低分子量Gタンパク質が細胞膜で活性化されるためには、細胞質から細胞膜に移行して結合する必要がある。低分子量Gタンパク質はC末端側のCys残基がプレニル化されて細胞膜に結合する。プレニル化には、ファルネシル基が結合するファルネシル化ゲラニルゲラニル基が結合するゲラニルゲラニル化がある。Rasはファルネシル化を受けるのに対し、RhoやRabなど多くの低分子量Gタンパク質はゲラニルゲラニル化を受ける。

神経系における低分子量G蛋白質の機能

 低分子量G蛋白質は、神経細胞の形態や神経細胞間のシグナル伝達など様々な機能を制御する(表3)。Rasファミリーは、前シナプスからのグルタミン酸やGABAなどの神経伝達物質の放出や後シナプスでのグルタミン酸受容体のターンオーバーを調節し、シナプスの可塑性を制御する[8]。RhoファミリーやRanファミリーは、神経細胞の軸索や樹状突起の伸長など、形態形成を制御する[9] [10]。Rabファミリーは、神経細胞の軸索突起の伸長、シナプス小胞のエクソサイトーシスとエンドサイトーシス、輸送を制御する[11]。Sar/Arfファミリーは、形態形成およびシナプス小胞のエクソサイトーシスとエンドサイトーシスを調節し、シナプスの可塑性を制御する[12]

ファミリー 主な機能 参考文献
Ras 神経伝達物質の放出
シナプスの可塑性
[8]
Rho 神経軸索突起の伸長 [9]
Rab 神経軸索突起の伸長
シナプス小胞のエクソサイトーシス、エンドサートーシス、
輸送
[11]
Ran 神経軸索突起の伸長 [10]
Sar/Arf 神経突起の伸長
シナプスの可塑性
[12]

表3.神経系における低分子量G蛋白質の主な機能

参考文献

  1. 1.0 1.1 Rojas, A.M., Fuentes, G., Rausell, A., & Valencia, A. (2012).
    The Ras protein superfamily: evolutionary tree and role of conserved amino acids. The Journal of cell biology, 196(2), 189-201. [PubMed:22270915] [PMC] [WorldCat] [DOI]
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    Ras oncogenes: split personalities. Nature reviews. Molecular cell biology, 9(7), 517-31. [PubMed:18568040] [PMC] [WorldCat] [DOI]
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