「小脳原基」の版間の差分

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cerebellar excitatory interneuron
cerebellar excitatory interneuron
 小脳顆粒細胞(cerebellar granule cell)は成体脳で最も多く存在する神経細胞群であり、小脳においては興奮性介在ニューロンとして機能する。マウスにおいて顆粒細胞は、受精後12日目から16日目にかけて、Atoh1陽性の上菱脳唇から生まれる(27, 28)。これらの前駆細胞は、興奮性の小脳核前駆細胞と同じく小脳原基表層を移動するが、顆粒細胞の前駆体は移動中も分裂能を示すのが特徴である。小脳表層に移動した顆粒細胞前駆体の[[有糸分裂]]は分泌たんぱく質[[SHH]]によって活性化され、マウスにおいては生後1週齢前後に分裂能がピークに達する(33)。またAtoh1の発現は前駆体においてもみられ、[[細胞分裂]]の停止を抑制する役割を担っている(34)。分裂を終えた顆粒細胞は、小脳外顆粒層を接線方向に移動した後、[[バーグマングリア細胞]]を足場として、小脳深部に向かって放射状に移動し、最終的に内顆粒層を形成する(35)。マウスにおいて小脳顆粒細胞の移動は約3週齢で終了する。[[遺伝子組換えマウス]]を用いた実験から、発生後期に生まれる顆粒細胞は主に尾側に分布すること(28)、特定の転写因子が吻側-尾側に異なって発現すること(36)は、小脳顆粒細胞の個性が小脳内で多様であることを示している。単極刷子細胞(Unipolar brush cell)も主な興奮性介在ニューロンの一つであり、他の興奮性ニューロンと同じくAtoh1陽性の上菱脳唇から生まれる(37)。マウスでは受精後十三日目頃、[[ラット]]では受精後十五日目ごろから生後数日までかけて生み出される(図2)。その前駆細胞は、他の興奮性ニューロンの前駆体とは異なり、接線方向移動の様式で直接小脳深部に向かって移動し、内顆粒層で成熟する。この細胞移動にRelnが関与していることが報告されている一方で(37)、他の小脳興奮性細胞と異なる移動経路をたどるための分子機構については不明な点が多い。この神経細胞は内顆粒層で[[軸索]]を伸長させ、顆粒細胞と[[シナプス]]を形成する。
 小脳顆粒細胞(cerebellar granule cell)は成体脳で最も多く存在する神経細胞群であり、小脳においては興奮性介在ニューロンとして機能する。マウスにおいて顆粒細胞は、受精後12日目から16日目にかけて、Atoh1陽性の上菱脳唇から生まれる(27, 28)。これらの前駆細胞は、興奮性の小脳核前駆細胞と同じく小脳原基表層を移動するが、顆粒細胞の前駆体は移動中も分裂能を示すのが特徴である。小脳表層に移動した顆粒細胞前駆体の[[有糸分裂]]は分泌たんぱく質[[SHH]]によって活性化され、マウスにおいては生後1週齢前後に分裂能がピークに達する(33)。またAtoh1の発現は前駆体においてもみられ、[[細胞分裂]]の停止を抑制する役割を担っている(34)。分裂を終えた顆粒細胞は、小脳外顆粒層を接線方向に移動した後、[[バーグマングリア細胞]]を足場として、小脳深部に向かって放射状に移動し、最終的に内顆粒層を形成する(35)。マウスにおいて小脳顆粒細胞の移動は約3週齢で終了する。[[遺伝子組換えマウス]]を用いた実験から、発生後期に生まれる顆粒細胞は主に尾側に分布すること(28)、特定の転写因子が吻側-尾側に異なって発現すること(36)は、小脳顆粒細胞の個性が小脳内で多様であることを示している。単極刷子細胞(Unipolar brush cell)も主な興奮性介在ニューロンの一つであり、他の興奮性ニューロンと同じくAtoh1陽性の上菱脳唇から生まれる(37)。マウスでは受精後十三日目頃、[[ラット]]では受精後十五日目ごろから生後数日までかけて生み出される(図2)。その前駆細胞は、他の興奮性ニューロンの前駆体とは異なり、接線方向移動の様式で直接小脳深部に向かって移動し、内顆粒層で成熟する。この細胞移動にRelnが関与していることが報告されている一方で(37)、他の小脳興奮性細胞と異なる移動経路をたどるための分子機構については不明な点が多い。この神経細胞は内顆粒層で[[軸索]]を伸長させ、顆粒細胞と[[シナプス]]を形成する。
=== グリア細胞 ===
 小脳におけるグリア細胞の中で、星状グリア細胞(Astrocyte)は神経上皮に存在する放射状グリアが起源であると考えられている(38)。最近の遺伝子組換えマウスを用いた実験により、星状グリア細胞とPax2陽性抑制性介在性ニューロンは同じ細胞を起源に持ち、抑制性介在性ニューロンへの運命決定にはbHLH型転写因子Ascl1が関与していることが示唆されている(38, 39)。一方で、小脳の主な乏突起膠細胞(Oligodendrocyte)起源は、ニワトリ-ウズラ胚脳組織などの移植実験により、小脳外部であるという説もある(39, 40)が、まだ不明な点も多い。また特徴的な形態を持つバーグマングリア細胞は、神経上皮から小脳原基内を放射状に移動し、最終的にプルキンエ細胞層で成熟する(41)。放射状グリアと異なり、成熟したバーグマングリアは複数の突起を小脳表層に伸長させる。これらの正常な突起形成にはNotchシグナルが関与していることが知られている(42, 43)。
== 小脳原基に投射する求心性神経細胞群 ==
 発生期に小脳原基に投射する線維は主に苔状線維と登上線維に大別される(44)。苔状線維は体性感覚経路や前庭小脳線維、小脳前核ニューロンとして小脳原基に投射し、最終的に小脳顆粒細胞の樹状突起にシナプスを形成する。後脳下オリーブ核より起こる登上線維は大脳皮質や視床、赤核、三叉核や脊髄など様々な小脳への入力を仲介、伝達する。登上線維も胎児期に小脳原基に投射するが、こちらはプルキンエ細胞とシナプスを形成する。また小脳はモノアミン系神経伝達物質作動性のニューロンの投射も受ける(44)。例えば縫線核(Raphe nucleus)由来のセロトニン作動性ニューロンや青斑核(locus coeruleus)由来のノルアドレナリン作動性ニューロンは小脳顆粒細胞やプルキンエ細胞、小脳核に投射する。
== 小脳原基発生異常とがん、遺伝病 ==
 小脳神経上皮からの神経細胞の分化は特定の遺伝子によって厳密に制御されている。言い換えると、発生期におけるこれらの神経細胞の分化異常は、ヒトにおいて、遺伝病の発生に密接に関わる。特に近年のゲノムシーケンス技術の発達により、患者の生殖細胞突然変異を調べることで、原因遺伝子を特定しようとする試みが加速している。例えば、自閉症患者の生殖細胞突然変異は公共のデータベースで情報が共有されている(https://gene.sfari.org/)。チャージ症候群や自閉症患者では、小脳が萎縮しているケースがしばしば見られるが、最近の遺伝子組換えマウスを用いた研究で、原因遺伝子とされるクロマチン制御因子Chd7の機能欠損はOtx2の発現の脱抑制とFGF8の発現抑制を誘導し、結果として小脳の形成不全を起こすことが明らかになった(45)。さらにマウス小脳顆粒前駆細胞におけるChd7の体細胞突然変異は小脳萎縮、およびRelnシグナルの欠損によるプルキンエ細胞の分布に異常を引き起こす(46, 47)。これは自閉症患者に見られる表現形を分子的に説明している。
 脳腫瘍も神経細胞分化の異常が原因で起こりうる疾患である。近年のがんサンプルの体細胞突然変異のゲノム解析から、小脳で発生するがんと突然変異遺伝子群の関連性が明らかになり(48-51)、また情報共有のための公共のデータベースもよく整備されている(https://pecan.stjude.cloud/home;https://cancergenome.nih.gov/)。これらを基盤として、特定の小脳細胞における遺伝子変異が腫瘍形成に関与していることが、モデル動物を用いて示されつつある。例えば、遺伝子変異によるSHHシグナル異常活性が小脳顆粒細胞で生じることが、髄芽腫の一因とされる(52)。逆に小脳顆粒細胞においてEGFシグナルの異常活性を誘導することで膠芽腫が誘導されること(53)や、がん遺伝子Mycの小脳原基における過剰発現が異なるタイプの髄芽腫を誘導することも示されており(54)、どの細胞にどのような遺伝子変異が起こりうるかが、がんの個性決定に影響すると考えられている。
==関連項目==
== 参考文献 ==
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