「小脳原基」の版間の差分

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== 小脳原基発生異常とがん、遺伝病 ==
== 小脳原基発生異常とがん、遺伝病 ==
 小脳神経上皮からの神経細胞の分化は特定の遺伝子によって厳密に制御されている。言い換えると、発生期におけるこれらの神経細胞の分化異常は、ヒトにおいて、遺伝病の発生に密接に関わる。特に近年のゲノムシーケンス技術の発達により、患者の生殖細胞突然変異を調べることで、原因遺伝子を特定しようとする試みが加速している。例えば、自閉症患者の生殖細胞突然変異は公共のデータベースで情報が共有されている(https://gene.sfari.org/)。チャージ症候群や自閉症患者では、小脳が萎縮しているケースがしばしば見られるが、最近の遺伝子組換えマウスを用いた研究で、原因遺伝子とされるクロマチン制御因子Chd7の機能欠損はOtx2の発現の脱抑制とFGF8の発現抑制を誘導し、結果として小脳の形成不全を起こすことが明らかになった(45)。さらにマウス小脳顆粒前駆細胞におけるChd7の体細胞突然変異は小脳萎縮、およびRelnシグナルの欠損によるプルキンエ細胞の分布に異常を引き起こす(46, 47)。これは自閉症患者に見られる表現形を分子的に説明している。
 小脳神経上皮からの神経細胞の分化は特定の遺伝子によって厳密に制御されている。言い換えると、発生期におけるこれらの神経細胞の分化異常は、ヒトにおいて、遺伝病の発生に密接に関わる。特に近年のゲノムシーケンス技術の発達により、患者の生殖細胞突然変異を調べることで、原因遺伝子を特定しようとする試みが加速している。例えば、自閉症患者の生殖細胞突然変異は公共のデータベースで情報が共有されている([https://gene.sfari.org/ SFARI Gene])。チャージ症候群や自閉症患者では、小脳が萎縮しているケースがしばしば見られるが、最近の遺伝子組換えマウスを用いた研究で、原因遺伝子とされるクロマチン制御因子Chd7の機能欠損はOtx2の発現の脱抑制とFGF8の発現抑制を誘導し、結果として小脳の形成不全を起こすことが明らかになった(45)。さらにマウス小脳顆粒前駆細胞におけるChd7の体細胞突然変異は小脳萎縮、およびRelnシグナルの欠損によるプルキンエ細胞の分布に異常を引き起こす(46, 47)。これは自閉症患者に見られる表現形を分子的に説明している。


 脳腫瘍も神経細胞分化の異常が原因で起こりうる疾患である。近年のがんサンプルの体細胞突然変異のゲノム解析から、小脳で発生するがんと突然変異遺伝子群の関連性が明らかになり(48-51)、また情報共有のための公共のデータベースもよく整備されている(https://pecan.stjude.cloud/home;https://cancergenome.nih.gov/)。これらを基盤として、特定の小脳細胞における遺伝子変異が腫瘍形成に関与していることが、モデル動物を用いて示されつつある。例えば、遺伝子変異によるSHHシグナル異常活性が小脳顆粒細胞で生じることが、髄芽腫の一因とされる(52)。逆に小脳顆粒細胞においてEGFシグナルの異常活性を誘導することで膠芽腫が誘導されること(53)や、がん遺伝子Mycの小脳原基における過剰発現が異なるタイプの髄芽腫を誘導することも示されており(54)、どの細胞にどのような遺伝子変異が起こりうるかが、がんの個性決定に影響すると考えられている。
 脳腫瘍も神経細胞分化の異常が原因で起こりうる疾患である。近年のがんサンプルの体細胞突然変異のゲノム解析から、小脳で発生するがんと突然変異遺伝子群の関連性が明らかになり(48-51)、また情報共有のための公共のデータベースもよく整備されている([https://pecan.stjude.cloud/home St. Jude Cloud PeCan ];[https://cancergenome.nih.gov/ The Cancer Genome Atlas])。これらを基盤として、特定の小脳細胞における遺伝子変異が腫瘍形成に関与していることが、モデル動物を用いて示されつつある。例えば、遺伝子変異によるSHHシグナル異常活性が小脳顆粒細胞で生じることが、髄芽腫の一因とされる(52)。逆に小脳顆粒細胞においてEGFシグナルの異常活性を誘導することで膠芽腫が誘導されること(53)や、がん遺伝子Mycの小脳原基における過剰発現が異なるタイプの髄芽腫を誘導することも示されており(54)、どの細胞にどのような遺伝子変異が起こりうるかが、がんの個性決定に影響すると考えられている。


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