「ゲノム編集」の版間の差分

編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
65行目: 65行目:


==== エピゲノム制御 ====
==== エピゲノム制御 ====
 ヒストンの修飾やDNAのメチル化などのエピゲノミックな修飾は、脳形成や神経可塑性において重要な役割をもち、さらに、精神神経疾患の発症に関与することが報告されている。CRISPR/Casシステムを用いることにより、従来困難であった特定のゲノム領域のエピゲノミックな修飾状態を改変する「エピゲノム編集」が可能になった<ref><pubmed>28985525</pubmed></ref>[24]。ヒストンはメチル化やアセチル化などの翻訳後修飾を受け、転写の制御やクロマチン濃縮などに関与する。dCas9にヒストン修飾を導入する酵素(ヒストンアセチル基転移酵素、ヒストン脱アセチル化酵素、リジンメチル基転移酵素、リジン脱メチル化酵素など)を融合させた人工タンパク質と標的ゲノム部位と相補的配列を持つガイドRNAを細胞に導入すると、標的遺伝子のエピゲノミックな修飾状態を改変できる。また、DNAを構成する4種類の塩基のなかでシトシンのみがメチル基の付加・除去を受け、転写を制御している。dCas9にDNAメチル化を制御する酵素(DNAメチル化酵素やDNA脱メチル化酵素)を融合させた人工タンパク質と標的ゲノム部位と相補的配列を持つガイドRNAを細胞に導入すると、標的ゲノム領域のDNAのメチル化状態を改変できる。しかし、一つのdCas9に対し一つのエピゲノム修飾因子を結合させてもエピゲノム制御は不十分であり、通常は、dCas9またはガイドRNAに複数のエピゲノム修飾因子を付加する系が使われている<ref><pubmed></pubmed></ref>[25]。Rudolf Jaenischのグループは、dCas9にTet1(シトシンのメチル基を除去する酵素)を融合させた人工タンパク質を用い、Fragile X症候群のiPS細胞モデルの治療に成功している[26]。Fragile X症候群では、FMR1遺伝子の転写開始より少し上流にあるCGGの繰り返し配列が増加しメチル化が促進され、FMR1遺伝子の発現が抑制されている。Fragile X症候群の患者さんから作成したiPS細胞に、FMR1遺伝子の転写開始より少し上流を標的にしたガイドRNAとdCas9-tet1を導入し、CGGの繰り返し配列のメチル基を外し、FMR1遺伝子の発現を回復させることに成功した。FMR1遺伝子の発現が回復した患者iPS細胞を神経細胞に分化させると、神経細胞の過活動が正常に戻った。
 ヒストンの修飾やDNAのメチル化などのエピゲノミックな修飾は、脳形成や神経可塑性において重要な役割をもち、さらに、精神神経疾患の発症に関与することが報告されている。CRISPR/Casシステムを用いることにより、従来困難であった特定のゲノム領域のエピゲノミックな修飾状態を改変する「エピゲノム編集」が可能になった<ref><pubmed>28985525</pubmed></ref>[24]。ヒストンはメチル化やアセチル化などの翻訳後修飾を受け、転写の制御やクロマチン濃縮などに関与する。dCas9にヒストン修飾を導入する酵素(ヒストンアセチル基転移酵素、ヒストン脱アセチル化酵素、リジンメチル基転移酵素、リジン脱メチル化酵素など)を融合させた人工タンパク質と標的ゲノム部位と相補的配列を持つガイドRNAを細胞に導入すると、標的遺伝子のエピゲノミックな修飾状態を改変できる。また、DNAを構成する4種類の塩基のなかでシトシンのみがメチル基の付加・除去を受け、転写を制御している。dCas9にDNAメチル化を制御する酵素(DNAメチル化酵素やDNA脱メチル化酵素)を融合させた人工タンパク質と標的ゲノム部位と相補的配列を持つガイドRNAを細胞に導入すると、標的ゲノム領域のDNAのメチル化状態を改変できる。しかし、一つのdCas9に対し一つのエピゲノム修飾因子を結合させてもエピゲノム制御は不十分であり、通常は、dCas9またはガイドRNAに複数のエピゲノム修飾因子を付加する系が使われている<ref><pubmed> 27571369</pubmed></ref>[25]。Rudolf Jaenischのグループは、dCas9にTet1(シトシンのメチル基を除去する酵素)を融合させた人工タンパク質を用い、Fragile X症候群のiPS細胞モデルの治療に成功している<ref><pubmed>29456084</pubmed></ref>[26]。Fragile X症候群では、FMR1遺伝子の転写開始より少し上流にあるCGGの繰り返し配列が増加しメチル化が促進され、FMR1遺伝子の発現が抑制されている。Fragile X症候群の患者さんから作成したiPS細胞に、FMR1遺伝子の転写開始より少し上流を標的にしたガイドRNAとdCas9-tet1を導入し、CGGの繰り返し配列のメチル基を外し、FMR1遺伝子の発現を回復させることに成功した。FMR1遺伝子の発現が回復した患者iPS細胞を神経細胞に分化させると、神経細胞の過活動が正常に戻った。


==== RNA制御 ====
==== RNA制御 ====
72行目: 72行目:
=== 個体への応用 ===
=== 個体への応用 ===
==== 受精卵におけるゲノム編集 ====
==== 受精卵におけるゲノム編集 ====
 従来、遺伝子改変動物は、ES細胞の相同組換えによる遺伝子改変を基盤として作成されてきた。しかし、その作成には長い時間、多大な労力、多額の費用が必要である。さらに、遺伝子改変動物の作成は、マウス等、ES細胞が樹立されているごく一部の動物種に限られていた。CRISPR/Cas9システムは、この状況を一変させた。CRISPR/Cas9システムを用いた遺伝子改変動物の作成は、標的配列に対するガイドRNA、Cas9をコードするmRNAおよびノックインの場合にはドナーDNAを受精卵に注入するだけで、受精卵内で標的遺伝子が改変され、短時間にノックアウト・ノックイン動物を得ることができる(図4)。さらに最近、従来の「顕微注入法」で必要とされる受精卵の単離、顕微注入、移植といった一連の作業を省略できるGONAD(Genome-editing via Oviductal Nucleic Acids Delivery)法が報告された[27]。GONAD法では、0.7日胚(着床前)を有する妊娠雌マウスの卵管内に標的配列に対するガイドRNA、Cas9をコードするmRNAを注入し、卵管全体に対し直接電気穿孔法を行う。CRISPR/Cas9システムを用いた遺伝子改変動物の作製法は、そのきわめて迅速で簡便で高い効率性が特徴である。以下に、遺伝子欠損・塩基置換・外来遺伝子ノックイン動物の作成法を、マウスを中心に概説する。
 従来、遺伝子改変動物は、ES細胞の相同組換えによる遺伝子改変を基盤として作成されてきた。しかし、その作成には長い時間、多大な労力、多額の費用が必要である。さらに、遺伝子改変動物の作成は、マウス等、ES細胞が樹立されているごく一部の動物種に限られていた。CRISPR/Cas9システムは、この状況を一変させた。CRISPR/Cas9システムを用いた遺伝子改変動物の作成は、標的配列に対するガイドRNA、Cas9をコードするmRNAおよびノックインの場合にはドナーDNAを受精卵に注入するだけで、受精卵内で標的遺伝子が改変され、短時間にノックアウト・ノックイン動物を得ることができる('''図4''')。さらに最近、従来の「顕微注入法」で必要とされる受精卵の単離、顕微注入、移植といった一連の作業を省略できるGONAD(Genome-editing via Oviductal Nucleic Acids Delivery)法が報告された<ref><pubmed>29482575</pubmed></ref>[27]。GONAD法では、0.7日胚(着床前)を有する妊娠雌マウスの卵管内に標的配列に対するガイドRNA、Cas9をコードするmRNAを注入し、卵管全体に対し直接電気穿孔法を行う。CRISPR/Cas9システムを用いた遺伝子改変動物の作製法は、そのきわめて迅速で簡便で高い効率性が特徴である。以下に、遺伝子欠損・塩基置換・外来遺伝子ノックイン動物の作成法を、マウスを中心に概説する。


===== 遺伝子欠損マウスの作製 =====
===== 遺伝子欠損マウスの作製 =====
 標的配列に対するガイドRNA、Cas9をコードするmRNAを野生型受精卵に注入する(図4)。注意点としては、標的遺伝子に3の倍数の塩基欠損や挿入が起こることがあり、その際にはフレームシフトが起こらず、標的遺伝子の機能破壊の有無を何らかの方法で確認する必要がある。CRISPR/Cas9を用いた遺伝子欠損マウスの作成は効率が高く(通常50〜100%)、複数の遺伝子を同時に欠損させることもできる[28]。
 標的配列に対するガイドRNA、Cas9をコードするmRNAを野生型受精卵に注入する('''図4''')。注意点としては、標的遺伝子に3の倍数の塩基欠損や挿入が起こることがあり、その際にはフレームシフトが起こらず、標的遺伝子の機能破壊の有無を何らかの方法で確認する必要がある。CRISPR/Cas9を用いた遺伝子欠損マウスの作成は効率が高く(通常50〜100%)、複数の遺伝子を同時に欠損させることもできる<ref name=Wang2013><pubmed>23643243</pubmed></ref>[28]。


===== 塩基置換マウスの作製 =====
===== 塩基置換マウスの作製 =====
 塩基置換する配列が数十塩基以内であれば、一本鎖のオリゴDNAを標的配列に対するガイドRNA、Cas9をコードするmRNAと伴に野生型受精卵に注入する(図4)。CRISPR/Cas9を用いた塩基置換マウスの作成は効率が高く、複数の遺伝子に同時に変異を導入することもできる[28]。
 塩基置換する配列が数十塩基以内であれば、一本鎖のオリゴDNAを標的配列に対するガイドRNA、Cas9をコードするmRNAと伴に野生型受精卵に注入する('''図4''')。CRISPR/Cas9を用いた塩基置換マウスの作成は効率が高く、複数の遺伝子に同時に変異を導入することもできる<ref name=Wang2013/>[28]。


===== 外来遺伝子ノックインマウスの作製 =====
===== 外来遺伝子ノックインマウスの作製 =====
 遺伝子改変マウスの作成を容易にしたCRISPR/Cas9であるが、数kbの長い外来遺伝子のノックインマウスの作製は困難である。Rudolf Jaenischらにより外来遺伝子のノックインマウス作製の成功が報告されているが、その作成効率は10%程度であり、遺伝子欠損や塩基置換ノックインと比べて低い[29]。数kbの外来遺伝子のノックインは、蛍光タンパク質やCreリコンビナーゼ等の機能カセットを標的部位に挿入したり、floxedマウスを作成するのに必要であり、生命科学にとって欠かすことのできない重要な技術である。このため、ノックインマウス作製の効率化は、CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集にとって大きな課題の一つであった。
 遺伝子改変マウスの作成を容易にしたCRISPR/Cas9であるが、数kbの長い外来遺伝子のノックインマウスの作製は困難である。Rudolf Jaenischらにより外来遺伝子のノックインマウス作製の成功が報告されているが、その作成効率は10%程度であり、遺伝子欠損や塩基置換ノックインと比べて低い<ref><pubmed>23992847</pubmed></ref>[29]。数kbの外来遺伝子のノックインは、蛍光タンパク質やCreリコンビナーゼ等の機能カセットを標的部位に挿入したり、floxedマウスを作成するのに必要であり、生命科学にとって欠かすことのできない重要な技術である。このため、ノックインマウス作製の効率化は、CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集にとって大きな課題の一つであった。
 従来、CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集では、Cas9およびガイドRNAをともにRNAの形で受精卵の前核に顕微注入している(図5)。従来法でCas9がヌクレアーゼとして前核内で働くためには、まず注入されたCas9 mRNAが前核から細胞質へ輸送され、蛋白質に翻訳され、さらに翻訳された蛋白質が再度、前核に移行し、標的部位に到達、切断を行う必要がある。この過程は時間を要する。外来遺伝子のノックインに必要な相同組換えは、細胞周期のS期からG2期にのみ起こることから、その効率を上げるためには、Cas9は受精卵に注入後できるだけ早くDNA二本鎖切断活性を持つ必要がある。そこで筆者らは、Cas9をmRNAではなく蛋白質として受精卵前核に注入することで、ノックイン効率を向上できるのではないかと考えた。実際、培養細胞ではCas9をmRNAではなく蛋白質として導入することにより、DNA二本鎖切断が迅速に起こることが示されている。さらに、外来遺伝子のノックイン効率を向上させるため、Cas9の標的部位切断効率を上げる工夫をした。細菌の獲得免疫系としてのCRISPR/Cas9システムは、Cas9と2種類のガイドRNA(標的部位と相補的な配列を持つをcrRNAとCas9およびcrRNAの橋渡しを担うtracrRNA)からなる3要素のシステムである(図2C)。しかし従来のCRISPR/Cas9システムは、実験操作を簡便にするためcrRNAとtracrRNAを連結した一本鎖ガイドRNA(sgRNA)とCas9の2要素からなるシステムである(図5)。自然界の3要素システムの方が、2要素システムより、高い標的配列切断活性を持つことが報告されている。そこで筆者らは、sgRNAのかわりにcrRNAとtracrRNAを用い、Cas9蛋白質と組み合わせることで、ノックイン効率を向上できるのではないかと考えた。crRNAとtracrRNAを用いるもう一つの利点は、化学合成が可能になり、sgRNAの作製に必要な大腸菌での遺伝子組換え実験を省略できる点である。sgRNAの長さは約100塩基であるが、crRNA、tracrRNAは各々50塩基程度であり、化学合成が可能である。筆者らの改良したCRISPR/Cas9システムは、Cas9蛋白質と化学合成したcrRNAとtracrRNAの3要素からなる(図5)。このシステムは、大腸菌での遺伝子組換え実験を行うことなくゲノム編集が可能で、クローニングフリーCRISPR/Cas9システムと名づけた[30]。このクローニングフリーCRISPR/Cas9システムは、ガイドRNAの活性評価も簡便である。従来のような培養細胞を用いた実験は必要なく、試験管内で標的配列を含むPCR産物、Cas9蛋白質、crRNA、tracrRNAをインキュベートして電気泳動するだけで(in vitro digestion assay:IDA)、その切断活性を調べることができる。クローニングフリーCRISPR/Cas9システムを用い、Act(actin beta)遺伝子座にEGFP(enhanced green fluorescent protein)を含む2.5 kbの外来遺伝子をノックインするマウスを作成したところ、およそ50%の新生仔マウスにEGFPが目的部位にノックインされていた。従来用いられてきたCas9 mRNAとsgRNAからなる2要素システムを用い対照実験を行ったところ、その効率は10%程度だった。このことからクローニングフリーCRISPR/Cas9システムは、外来遺伝子のノックイン効率を大幅に向上させることが明らかになった[30]。さらに作製したノックインマウスを野生型マウスと交配し、次世代への伝達効率を調べたところ、すべての系統から、50%の効率で次世代のノックインマウスが得られた。このことは、従来型CRISPR/Cas9システムで問題となるモザイク(同一個体内の一部の細胞のみに遺伝子改変が起こっている)の頻度が低いことを示している。つまり、クローニングフリーCRISPR/Cas9システムでは、標的部位のDNA二本鎖切断が迅速に起こり、受精卵の第一卵割までに片アリルに外来遺伝子がノックインされたことを示している。またオフターゲット変異の候補となる部位を解析したところ、いずれのノックインマウスでも変異は検出されなかった。このことは、クローニングフリーCRISPR/Cas9システムでは、Cas9を蛋白質として注入したことによりCas9の半減期が短くなり、標的部位を切断した後迅速に分解されるため、従来型CRISPR/Cas9システムの大きな課題であるオフターゲット変異(ガイドRNA配列に類似した配列の非特異的切断)が大幅に減少することを示している。以上の結果は、クローニングフリーCRISPR/Cas9システムが簡便で高効率、そしてモザイクとオフターゲットの少ないノックインマウス作成法であることを示している。さらに、最近、ノックインする鋳型としてプラスミドDNAより長鎖一本鎖DNAの方が効率が高いことが報告された[31]。従って、現時点で最も高効率な外来遺伝子のノックインマウス作成法は、一本鎖DNAを鋳型として用いるクローニングフリーCRISPR/Cas9システムである。筆者らの研究室では、この方法を用いて約50%の効率でfloxedマウスやCreノックインマウスなどを作成している。
 
  クローニングフリーCRISPR/Cas9システムを用いた外来遺伝子ノックインマウス作成法の欠点は、煩雑なターゲッティングベクターの作成が必要な点である。その点を改良したのが、PITCh(Precise Integration into Target Chromosomes)法である(図6)[32]。PITCh法は、相同組換やNHEJと異なるDNA二本鎖切断の修復機構であるマイクロホモロジー媒介末端結合(microhomology mediated end-joining; MMEJ)を利用した外来遺伝子のノックイン法である。MMEJは、DNA二本鎖切断の際に生じた切断末端間で、相補的配列(5〜25塩基対)同士で結合し、DNA二本鎖切断を修復する機構である。従来の相同組換えを利用した遺伝子挿入法では、挿入効率を上げるため外来遺伝子の両側に500〜1000塩基対の相同配列を付加したターゲッティングベクターを作成する必要があった。しかし、PITCh法では相同配列の長さが約20塩基対でよく、ターゲッティングベクターの作成が簡便化される。PITCh法では、ターゲッティングベクターにCRISPR/Cas9の認識配列とDNA二本鎖切断時に標的部位とベクターの切断末端で相補結合するような短い配列を外来遺伝子の両端に付加している。筆者らは最近、PITCh法、クローニングフリーCRISPR/Cas9システム、MMEJの効率を上げるexonuclease 1を組み合わせることにより、より簡便で高効率な外来遺伝子ノックインマウス作成法を開発した[33]。従来のCRISPR/Cas9システムを用いた標的部位への外来遺伝子のノックインは、相同組換えの活性に依存しおり、限られた生物種や細胞種にしか応用できなかった。しかし、PITCh法は、相同組換え活性の低い生物種や細胞種にも応用可能で、昆虫から哺乳類まで幅広く適応可能である。
 従来、CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集では、Cas9およびガイドRNAをともにRNAの形で受精卵の前核に顕微注入している('''図5''')。従来法でCas9がヌクレアーゼとして前核内で働くためには、まず注入されたCas9 mRNAが前核から細胞質へ輸送され、蛋白質に翻訳され、さらに翻訳された蛋白質が再度、前核に移行し、標的部位に到達、切断を行う必要がある。この過程は時間を要する。外来遺伝子のノックインに必要な相同組換えは、細胞周期のS期からG2期にのみ起こることから、その効率を上げるためには、Cas9は受精卵に注入後できるだけ早くDNA二本鎖切断活性を持つ必要がある。そこで筆者らは、Cas9をmRNAではなく蛋白質として受精卵前核に注入することで、ノックイン効率を向上できるのではないかと考えた。実際、培養細胞ではCas9をmRNAではなく蛋白質として導入することにより、DNA二本鎖切断が迅速に起こることが示されている。さらに、外来遺伝子のノックイン効率を向上させるため、Cas9の標的部位切断効率を上げる工夫をした。細菌の獲得免疫系としてのCRISPR/Cas9システムは、Cas9と2種類のガイドRNA(標的部位と相補的な配列を持つをcrRNAとCas9およびcrRNAの橋渡しを担うtracrRNA)からなる3要素のシステムである(図2C)。
 しかし従来のCRISPR/Cas9システムは、実験操作を簡便にするためcrRNAとtracrRNAを連結した一本鎖ガイドRNA(sgRNA)とCas9の2要素からなるシステムである(図5)。自然界の3要素システムの方が、2要素システムより、高い標的配列切断活性を持つことが報告されている。そこで筆者らは、sgRNAのかわりにcrRNAとtracrRNAを用い、Cas9蛋白質と組み合わせることで、ノックイン効率を向上できるのではないかと考えた。crRNAとtracrRNAを用いるもう一つの利点は、化学合成が可能になり、sgRNAの作製に必要な大腸菌での遺伝子組換え実験を省略できる点である。sgRNAの長さは約100塩基であるが、crRNA、tracrRNAは各々50塩基程度であり、化学合成が可能である。筆者らの改良したCRISPR/Cas9システムは、Cas9蛋白質と化学合成したcrRNAとtracrRNAの3要素からなる('''図5''')。このシステムは、大腸菌での遺伝子組換え実験を行うことなくゲノム編集が可能で、クローニングフリーCRISPR/Cas9システムと名づけた<ref name=Aida2015><pubmed>25924609</pubmed></ref>[30]。このクローニングフリーCRISPR/Cas9システムは、ガイドRNAの活性評価も簡便である。従来のような培養細胞を用いた実験は必要なく、試験管内で標的配列を含むPCR産物、Cas9蛋白質、crRNA、tracrRNAをインキュベートして電気泳動するだけで(in vitro digestion assay:IDA)、その切断活性を調べることができる。クローニングフリーCRISPR/Cas9システムを用い、Act(actin beta)遺伝子座にEGFP(enhanced green fluorescent protein)を含む2.5 kbの外来遺伝子をノックインするマウスを作成したところ、およそ50%の新生仔マウスにEGFPが目的部位にノックインされていた。従来用いられてきたCas9 mRNAとsgRNAからなる2要素システムを用い対照実験を行ったところ、その効率は10%程度だった。このことからクローニングフリーCRISPR/Cas9システムは、外来遺伝子のノックイン効率を大幅に向上させることが明らかになった<ref name=Aida2015/>[30]。さらに作製したノックインマウスを野生型マウスと交配し、次世代への伝達効率を調べたところ、すべての系統から、50%の効率で次世代のノックインマウスが得られた。このことは、従来型CRISPR/Cas9システムで問題となるモザイク(同一個体内の一部の細胞のみに遺伝子改変が起こっている)の頻度が低いことを示している。つまり、クローニングフリーCRISPR/Cas9システムでは、標的部位のDNA二本鎖切断が迅速に起こり、受精卵の第一卵割までに片アリルに外来遺伝子がノックインされたことを示している。またオフターゲット変異の候補となる部位を解析したところ、いずれのノックインマウスでも変異は検出されなかった。このことは、クローニングフリーCRISPR/Cas9システムでは、Cas9を蛋白質として注入したことによりCas9の半減期が短くなり、標的部位を切断した後迅速に分解されるため、従来型CRISPR/Cas9システムの大きな課題であるオフターゲット変異(ガイドRNA配列に類似した配列の非特異的切断)が大幅に減少することを示している。以上の結果は、クローニングフリーCRISPR/Cas9システムが簡便で高効率、そしてモザイクとオフターゲットの少ないノックインマウス作成法であることを示している。さらに、最近、ノックインする鋳型としてプラスミドDNAより長鎖一本鎖DNAの方が効率が高いことが報告された<ref><pubmed>28511701</pubmed></ref>[31]。従って、現時点で最も高効率な外来遺伝子のノックインマウス作成法は、一本鎖DNAを鋳型として用いるクローニングフリーCRISPR/Cas9システムである。筆者らの研究室では、この方法を用いて約50%の効率でfloxedマウスやCreノックインマウスなどを作成している。
 
  クローニングフリーCRISPR/Cas9システムを用いた外来遺伝子ノックインマウス作成法の欠点は、煩雑なターゲッティングベクターの作成が必要な点である。その点を改良したのが、PITCh(Precise Integration into Target Chromosomes)法である('''図6''')<ref><pubmed> 25410609</pubmed></ref>[32]。PITCh法は、相同組換やNHEJと異なるDNA二本鎖切断の修復機構であるマイクロホモロジー媒介末端結合(microhomology mediated end-joining; MMEJ)を利用した外来遺伝子のノックイン法である。MMEJは、DNA二本鎖切断の際に生じた切断末端間で、相補的配列(5〜25塩基対)同士で結合し、DNA二本鎖切断を修復する機構である。従来の相同組換えを利用した遺伝子挿入法では、挿入効率を上げるため外来遺伝子の両側に500〜1000塩基対の相同配列を付加したターゲッティングベクターを作成する必要があった。しかし、PITCh法では相同配列の長さが約20塩基対でよく、ターゲッティングベクターの作成が簡便化される。PITCh法では、ターゲッティングベクターにCRISPR/Cas9の認識配列とDNA二本鎖切断時に標的部位とベクターの切断末端で相補結合するような短い配列を外来遺伝子の両端に付加している。筆者らは最近、PITCh法、クローニングフリーCRISPR/Cas9システム、MMEJの効率を上げるexonuclease 1を組み合わせることにより、より簡便で高効率な外来遺伝子ノックインマウス作成法を開発した<ref><pubmed> 27894274</pubmed></ref>[33]。従来のCRISPR/Cas9システムを用いた標的部位への外来遺伝子のノックインは、相同組換えの活性に依存しおり、限られた生物種や細胞種にしか応用できなかった。しかし、PITCh法は、相同組換え活性の低い生物種や細胞種にも応用可能で、昆虫から哺乳類まで幅広く適応可能である。




===== 遺伝子改変非ヒト霊長類の作製 =====
===== 遺伝子改変非ヒト霊長類の作製 =====
 ヒトの疾患、特に精神神経疾患のモデル動物としてマウスよりヒトと解剖学的、生理学的、遺伝学的に類似している非ヒト霊長類の疾患モデルが重要である。ゲノム編集技術を用いた標的遺伝子改変非ヒト霊長類の作成には、2014年に3つのグループが成功した[34][35][36]。TALENを用いたアカゲザルとカニクイザルのMECP2遺伝子の破壊とCRISPR/Cas9システムを用いたカニクイザルの3つの遺伝子(Nr0b1, Ppar-, Rag1)の破壊が報告された。2015年には、CRISPR/Cas9システムを用い一本鎖のオリゴDNAによるp53遺伝子への塩基置換が報告された[37]。2018年には、mCherryやGFPなどの標的部位へのノックインカニクイザルの作成が報告された[38][39]。現在までに作成された精神疾患の非ヒト霊長類モデルは、レット症候群のモデルであるMecP2欠損カニクイザルと自閉症スペクトラム障害のモデルであるSHANK3欠損カニクイザルがあり、いずれも疾患の症状を再現している[40][41]。CRISPR/Cas9システムを用いることにより、忠実に疾患病態を再現した非ヒト霊長類の作製が可能になった。しかし、ゲノム編集の効率化、モザイクの抑制、オフターゲットの抑制など、まだ技術の改良が必要である。また、非ヒト霊長類をモデル動物として用いる場合、個体間のゲノム多様性も重要な問題になる。最近、カニクイザルで体細胞からのクローン作成が報告されたので[42]、クローン技術とCRISPR/Casシステムを組み合わせることにより、より優れた精神神経疾患モデルを作出できると期待される。
 ヒトの疾患、特に精神神経疾患のモデル動物としてマウスよりヒトと解剖学的、生理学的、遺伝学的に類似している非ヒト霊長類の疾患モデルが重要である。ゲノム編集技術を用いた標的遺伝子改変非ヒト霊長類の作成には、2014年に3つのグループが成功した<ref><pubmed>24486104</pubmed></ref> <ref><pubmed>24529597</pubmed></ref> <ref><pubmed>24838303</pubmed></ref>[34][35][36]。TALENを用いたアカゲザルとカニクイザルのMECP2遺伝子の破壊とCRISPR/Cas9システムを用いたカニクイザルの3つの遺伝子(Nr0b1, Ppar-, Rag1)の破壊が報告された。2015年には、CRISPR/Cas9システムを用い一本鎖のオリゴDNAによるp53遺伝子への塩基置換が報告された<ref><pubmed>25430965</pubmed></ref>[37]。2018年には、mCherryやGFPなどの標的部位へのノックインカニクイザルの作成が報告された<ref><pubmed> 29327726</pubmed></ref> <ref><pubmed>29327727</pubmed></ref>[38][39]。現在までに作成された精神疾患の非ヒト霊長類モデルは、レット症候群のモデルであるMecP2欠損カニクイザルと自閉症スペクトラム障害のモデルであるSHANK3欠損カニクイザルがあり、いずれも疾患の症状を再現している<ref><pubmed>28741620</pubmed></ref> <ref><pubmed>28525759</pubmed></ref>[40][41]。CRISPR/Cas9システムを用いることにより、忠実に疾患病態を再現した非ヒト霊長類の作製が可能になった。しかし、ゲノム編集の効率化、モザイクの抑制、オフターゲットの抑制など、まだ技術の改良が必要である。また、非ヒト霊長類をモデル動物として用いる場合、個体間のゲノム多様性も重要な問題になる。最近、カニクイザルで体細胞からのクローン作成が報告されたので<ref><pubmed>29395327</pubmed></ref>[42]、クローン技術とCRISPR/Casシステムを組み合わせることにより、より優れた精神神経疾患モデルを作出できると期待される。


==== 生体におけるゲノム編集 ====
==== 生体におけるゲノム編集 ====
 生体における遺伝子ノックアウトは、標的遺伝子に対するガイドRNAとCas9のcDNAを、様々な臓器に導入し、非相同末端結合(NHEJ)を利用した修復により可能である。しかし、標的部位への遺伝子ノックインには、相同組換えを利用した修復が必要である。神経細胞などの非分裂細胞は、相同組換え活性が低く、従来の遺伝子ノックイン技術を適用することは難しい。最近、非分裂細胞に効率よく遺伝子をノックインできる技術が開発されたので、以下に2つの新技術を概説する。ゲノム編集に必要な核酸を生体に導入する方法として、アデノ随伴ウイルスベクターを用いる方法、電気穿孔法、ハイドロダイナッミク法などがある。ハイドロダイナッミク法は肝臓でのゲノム編集に用いられるが[43]、脳でのゲノム編集は主にアデノ随伴ウイルスベクターを用いる方法と電気穿孔法が用いられる。
 生体における遺伝子ノックアウトは、標的遺伝子に対するガイドRNAとCas9のcDNAを、様々な臓器に導入し、非相同末端結合(NHEJ)を利用した修復により可能である。しかし、標的部位への遺伝子ノックインには、相同組換えを利用した修復が必要である。神経細胞などの非分裂細胞は、相同組換え活性が低く、従来の遺伝子ノックイン技術を適用することは難しい。最近、非分裂細胞に効率よく遺伝子をノックインできる技術が開発されたので、以下に2つの新技術を概説する。ゲノム編集に必要な核酸を生体に導入する方法として、アデノ随伴ウイルスベクターを用いる方法、電気穿孔法、ハイドロダイナッミク法などがある。ハイドロダイナッミク法は肝臓でのゲノム編集に用いられるが<ref>'''Ibraheim E, Song CQ, Mir A, Amrani N, Xue W, Sontheimer EJ.'''<br>All-in-One adeno-associated virus delivery and genome editing. <br>bioRxiv Posted April 4, 2018</ref>[43]、脳でのゲノム編集は主にアデノ随伴ウイルスベクターを用いる方法と電気穿孔法が用いられる。
 生体におけるゲノム編集は、疾患の悪化に関与する遺伝子の破壊あるいは変異遺伝子の修復により、いままで治療法のなかった精神神経疾患に新しい治療法を提供する可能性を持っている。筋ジストロフィーの新しい治療法として、アンチセンスオリゴヌクレオチドを用いたexon skipping(変異のあるエクソンを飛ばして、多少短くなるがある程度機能のある原因遺伝子ジストロフィンを産生させる方法)が注目されている。しかし、exon skippingの効率や副作用など、多くの克服すべき課題が多い。そこで、アンチセンスオリゴヌクレオチドの代わりにCRISPR/Cas9を用いてexon skippingを起こさせる試みがデュシャンヌ型筋ジストロフィー(DMD)のモデルマウスを用いて行われた。米国の3つの研究グループは、ほぼ同時に、CRISPR/Cas9を使ってDMDモデルマウスのジストロフィン遺伝子の変異部分のみを切除し、機能的なジストロフィンを生成させ、筋力を回復させることに成功した[44][45][46]。患者を対象とした臨床治験を始めるには、CRISPR/Cas9の効率向上・骨格筋へのデリバリー法の開発・免疫原性など克服すべき課題も多いが、in vivoでのゲノム編集が有効なことを示した成果である。
 
 生体におけるゲノム編集は、疾患の悪化に関与する遺伝子の破壊あるいは変異遺伝子の修復により、いままで治療法のなかった精神神経疾患に新しい治療法を提供する可能性を持っている。筋ジストロフィーの新しい治療法として、アンチセンスオリゴヌクレオチドを用いたexon skipping(変異のあるエクソンを飛ばして、多少短くなるがある程度機能のある原因遺伝子ジストロフィンを産生させる方法)が注目されている。しかし、exon skippingの効率や副作用など、多くの克服すべき課題が多い。そこで、アンチセンスオリゴヌクレオチドの代わりにCRISPR/Cas9を用いてexon skippingを起こさせる試みがデュシャンヌ型筋ジストロフィー(DMD)のモデルマウスを用いて行われた。米国の3つの研究グループは、ほぼ同時に、CRISPR/Cas9を使ってDMDモデルマウスのジストロフィン遺伝子の変異部分のみを切除し、機能的なジストロフィンを生成させ、筋力を回復させることに成功した<ref><pubmed>26721683</pubmed></ref> <ref><pubmed>26721684</pubmed></ref> <ref><pubmed>26721686</pubmed></ref>[44][45][46]。患者を対象とした臨床治験を始めるには、CRISPR/Cas9の効率向上・骨格筋へのデリバリー法の開発・免疫原性など克服すべき課題も多いが、in vivoでのゲノム編集が有効なことを示した成果である。




===== 非相同末端結合を利用した遺伝子ノックイン[47] =====
===== 非相同末端結合を利用した遺伝子ノックイン[47] =====
 DNA二本鎖切断の主要な修復機構の一つであるNHEJによる修復は、細胞周期を通して効率が高いので、神経細胞などの分裂を行っていない細胞にも応用可能である。HITI(homology-independent targeted integration)法は、NHEJを利用した外来遺伝子のノックイン法である。ターゲッティングベクターを作成する際、挿入したい外来遺伝子の隣にノックインしたい標的部位と相同な20塩基対程度の配列を逆向きに付加する。この工夫により、標的部位に外来遺伝子が正しくノックインされない場合、Cas9によるDNA二本鎖切断が繰り返され、結果的にノックイン効率が向上する。HITI法を利用することにより、成体マウスの様々な臓器に外来遺伝子をノックインすることが可能になった。この方法を用い、網膜色素変性症モデルラットの疾患原因遺伝子が修復され、視覚障害の部分的な回復が見られた[47]。この方法の欠点は、挿入部位周辺に塩基欠損や挿入を伴うこととターゲッティングベクターの余分な配列が挿入されことである。
 DNA二本鎖切断の主要な修復機構の一つであるNHEJによる修復は、細胞周期を通して効率が高いので、神経細胞などの分裂を行っていない細胞にも応用可能である。HITI(homology-independent targeted integration)法は、NHEJを利用した外来遺伝子のノックイン法である。ターゲッティングベクターを作成する際、挿入したい外来遺伝子の隣にノックインしたい標的部位と相同な20塩基対程度の配列を逆向きに付加する。この工夫により、標的部位に外来遺伝子が正しくノックインされない場合、Cas9によるDNA二本鎖切断が繰り返され、結果的にノックイン効率が向上する。HITI法を利用することにより、成体マウスの様々な臓器に外来遺伝子をノックインすることが可能になった。この方法を用い、網膜色素変性症モデルラットの疾患原因遺伝子が修復され、視覚障害の部分的な回復が見られた<ref><pubmed>27851729</pubmed></ref>[47]。この方法の欠点は、挿入部位周辺に塩基欠損や挿入を伴うこととターゲッティングベクターの余分な配列が挿入されことである。


===== 相同組換えを利用した遺伝子ノックイン =====
===== 相同組換えを利用した遺伝子ノックイン =====
 最近、挿入する外来遺伝子をアデノ随伴ウイルスベクターを用い脳に導入することにより、相同組換えによるノックイン効率が高くなることが報告された[48]。標的部位のDNA二本鎖切断に必要なガイドRNA、Cas9のcDNA、相同性を持つ外来遺伝子をアデノ随伴ウイルスベクターに組み込み、脳へ局所注入することにより、HITI法と同等な効率で狙った部位に遺伝子をノックインできる。
 最近、挿入する外来遺伝子をアデノ随伴ウイルスベクターを用い脳に導入することにより、相同組換えによるノックイン効率が高くなることが報告された<ref><pubmed>29056297</pubmed></ref>[48]。標的部位のDNA二本鎖切断に必要なガイドRNA、Cas9のcDNA、相同性を持つ外来遺伝子をアデノ随伴ウイルスベクターに組み込み、脳へ局所注入することにより、HITI法と同等な効率で狙った部位に遺伝子をノックインできる。


== ゲノム編集研究の今後 ==
== ゲノム編集研究の今後 ==
 CRISPR/Casシステムによるゲノム編集技術は、急速に進歩しており、従来困難であった変異遺伝子の修復や外来遺伝子の標的部位へのノックインが可能になりつつある。遺伝子異常が原因で起こる疾患の根本治療は、異常な遺伝子を正常に戻すことであり、ゲノム編集技術はそれを可能にする技術である。最近、CRISPR/Casシステムを用い、ヒト受精卵の遺伝子改変を行った論文が報告され、世界的に大きな問題となっている[49][50][51][52][53][54]。CRISPR/Casシステムの技術開発および応用に関しては、環境(生物多様性)、安全性、倫理などの面からの議論が必要である。しかし、重要なことは、この技術が人類にもたらすリスクとメリットを客観的に分析し、感情に流されることなく、社会的コンセンサスを得ながら、応用の方向性を決めることである。さらに、この技術の開発スピードは早いので、社会的コンセンサス自体の不断な改変が必要不可欠である。
 CRISPR/Casシステムによるゲノム編集技術は、急速に進歩しており、従来困難であった変異遺伝子の修復や外来遺伝子の標的部位へのノックインが可能になりつつある。遺伝子異常が原因で起こる疾患の根本治療は、異常な遺伝子を正常に戻すことであり、ゲノム編集技術はそれを可能にする技術である。最近、CRISPR/Casシステムを用い、ヒト受精卵の遺伝子改変を行った論文が報告され、世界的に大きな問題となっている<ref><pubmed>25894090</pubmed></ref> <ref><pubmed> 28251317</pubmed></ref> <ref><pubmed>27052831</pubmed></ref> <ref><pubmed>28783728</pubmed></ref> <ref><pubmed>28875305</pubmed></ref> <ref><pubmed>28942539</pubmed></ref>[49][50][51][52][53][54]。CRISPR/Casシステムの技術開発および応用に関しては、環境(生物多様性)、安全性、倫理などの面からの議論が必要である。しかし、重要なことは、この技術が人類にもたらすリスクとメリットを客観的に分析し、感情に流されることなく、社会的コンセンサスを得ながら、応用の方向性を決めることである。さらに、この技術の開発スピードは早いので、社会的コンセンサス自体の不断な改変が必要不可欠である。


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
<references/>
<references/>