「統合失調症」の版間の差分

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===認知機能障害===
===認知機能障害===
 陽性症状・陰性症状と並ぶ第三群の症状として[[認知機能障害]]を挙げることがあり、さらに統合失調症の病態において最も重要とされることもある。認知機能障害を症状と位置づけることが適切かには議論があるが、知的機能についての陰性症状と言えるかもしれない。統合失調症の本質的な障害として作業記憶や[[実行機能]]の障害が強調されることが多いが、より広い範囲の認知機能障害を考えることが必要である。統合失調症の認知機能について、これまでに明らかになった事実は、次のようにまとめられている。
 陽性症状・陰性症状と並ぶ第三群の症状として[[認知機能障害]]を挙げることがあり、さらに統合失調症の病態において最も重要とされることもある。認知機能障害を症状と位置づけることが適切かには議論があるが、知的機能についての陰性症状と言えるかもしれない。統合失調症の本質的な障害として[[作業記憶]]や[[実行機能]]の障害が強調されることが多いが、より広い範囲の認知機能障害を考えることが必要である。統合失調症の認知機能について、これまでに明らかになった事実は、次のようにまとめられている。


#認知機能障害は軽度から中程度(健常群の平均マイナス1標準偏差)で、認知機能の領域ごと患者ごとに差がある。
#認知機能障害は軽度から中程度(健常群の平均マイナス1標準偏差)で、認知機能の領域ごと患者ごとに差がある。
#認知機能の障害はほとんどの認知領域について認められ、[[言語]]の即時再生の障害と処理速度の低下がもっとも著しい。注目されることが多い作業記憶や実行機能に、より強い障害を認めるかは必ずしも一貫しない。
#認知機能の障害はほとんどの認知領域について認められ、[[言語]]の即時再生の障害と処理速度の低下がもっとも著しい。注目されることが多い作業記憶や実行機能に、より強い障害を認めるかは必ずしも一貫しない。
#約20~25%の患者で神経心理検査成績は正常範囲にある。
#20~25%の患者で[[神経心理検査]]成績は正常範囲にある。
#臨床的な発症前から認知機能には軽度の障害があり、発症に伴ってIQ換算で5~10点に相当する低下を生じ、(長期入院患者以外では)その後は一定に留まる。
#臨床的な発症前から認知機能には軽度の障害があり、発症に伴って[[IQ]]換算で5~10点に相当する低下を生じ、(長期入院患者以外では)その後は一定に留まる。
#日常生活機能や社会生活機能についての能力は、認知機能障害ともっとも関連しており、陰性症状との関連はより弱く、陽性症状とはあまり関係しない。その能力を実際に発揮している程度と認知機能障害との関連はより弱い。認知機能障害や機能レベルと社会認知障害の関係については、さらに検討が必要である。
#[[日常生活機能]]や[[社会生活機能]]についての能力は、認知機能障害ともっとも関連しており、陰性症状との関連はより弱く、陽性症状とはあまり関係しない。その能力を実際に発揮している程度と認知機能障害との関連はより弱い。認知機能障害や機能レベルと社会認知障害の関係については、さらに検討が必要である。
#抗精神病薬による認知機能の回復については検討が十分ではなく、機能的に意味のある改善は確認できていない。
#抗精神病薬による認知機能の回復については検討が十分ではなく、機能的に意味のある改善は確認できていない。


 以上のような症状のために、統合失調症は生活の障害と結びつきやすい。さまざまな疾患が生活を障害する程度を数値化した検討において、すべての疾患のなかで統合失調症の急性期が最大の障害をもたらすとされている(Lancet 380:2129–43, 2012)。そのため、統合失調症による社会経済的なコストについての各国のデータを日本の人口に換算すると年間2兆7千億円となり、その内訳は医療費を上回って就労できないことによるところが大きい。
 以上のような症状のために、統合失調症は生活の障害と結びつきやすい。さまざまな疾患が生活を障害する程度を数値化した検討において、すべての疾患のなかで統合失調症の急性期が最大の障害をもたらすとされている<ref><pubmed> 23245605 </pubmed></ref>。そのため、統合失調症による社会経済的なコストについての各国のデータを日本の人口に換算すると年間2兆7千億円となり、その内訳は医療費を上回って就労できないことによるところが大きい。


==診断==
==診断==