運動ニューロン

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大屋 知徹関 和彦
独立行政法人国立精神・神経医療研究センター
DOI XXXX/XXXX 原稿受付日:2013年12月25日 原稿完成日:2013年月日
担当編集委員:岡本 仁(独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)

英語名:motoneuron, motor neuron, motoneurone

 最終共通路(final common path)とCharles S Sherringtonが命名したように、運動に関わる信号が末梢神経からの求心性のものと上位中枢からの信号が最終的に収束する、中枢神経系における外界とのフロントエンドである。運動ニューロンの軸索は神経筋接合部を介して複数の筋線維を神経支配し、運動単位と呼ばれる機能単位を構成する。これにより、運動ニューロンが活動電位を放電すると活動電位が軸索を伝わり支配下にある筋線維が同時に活動電位を放電する(Motor unit action potential; MUAP)。すなわち運動ニューロンの活動電位が運動単位の活動電位に対応する。これらはヒトにおいても筋内電極記録などで観察することができ、中枢神経系の単一神経活動を低侵襲的に観察できる希少な方法である。皮膚表面に貼付した電極により多数のMUAPの混合信号を記録したものを表面筋電図とよぶ。この比較的簡易な方法は運動軸索の伝導異常などの臨床的な診断や、運動生理学などのヒトを対象とした科学的知見を得ることに貢献してきた。

 運動ニューロンは大別して2つのグループが存在する:骨格筋線維を神経支配する細胞をα運動ニューロン、筋固有受容器である筋紡錘の錘内筋繊維を神経支配する細胞をγ運動ニューロンと呼ぶ(β運動ニューロンは骨格筋、錘内筋双方を神経支配している細胞:ほ乳類では例えばネコの脊髄において報告されている)。 

解剖

 脊髄腹側の前角(Rexed’s Lamina IX)に密集して存在する。この部位は運動ニューロンプール、または運動核(Motor Nucleus)とも呼ばれることがある。

形態

 多極性細胞であり樹状突起を細胞体から複数の方向へ伸ばし、前根を介して軸索を末梢の筋へ送る。細胞体の大きさは脊髄の神経細胞の中では最も大きい。軸索の太さ、細胞体の大きさに関して、α運動ニューロンはγ運動ニューロンを上回る。

入力

 運動ニューロンへの入力様式には伝達物質と受容体の種類によって大別するとイオンチャネル内蔵型と代謝調節型に分けられる。前者はシナプス伝達と呼ばれ、一過的で局所的な情報の伝達であるのに対し、後者は神経調節と呼ばれ長時間にわたり広く作用する調節機構である。 シナプス伝達については運動ニューロンに単シナプス投射があることが報告されているのは大脳皮質、赤核、網様体、前庭などの脊髄上位にある下行路の起始核、またIa求心性線維からの末梢入力, Renshaw 細胞、他脊髄介在細胞などの脊髄内局所的入力がある。主に興奮性シナプス入力はグルタミン酸を伝達物質としたシナプス結合、抑制性シナプス入力は グリシンまたはGABAを伝達物質としたシナプスで結合している。神経調節型について、運動ニューロンは脳幹の縫線核(raphe nucleus)から セロトニン青斑核 (locus ceruleus ) からノルアドレナリンなどの伝達物質による調節を受ける (Rekling 2000)。

出力

 α運動ニューロンは骨格筋、γ運動ニューロンは筋紡錘内にある錘内筋線維を神経支配する。 また、近傍のRenshaw細胞に興奮性のシナプス投射しており、再帰的な抑制回路(Recurrent inhibition)を形成している。

サイズの原理と随意運動

 α運動ニューロンの細胞体と軸索径のサイズは細胞の様々な特性と高い相関を示し、それが機能的階層性をもたらしている。これを一般にサイズの原理 (size principle) と呼ぶ。この原理はElwood Hennemanが整理して体系化したため、Hennemanのサイズ原理ともいわれる (Henneman et al. 1965, Henneman and Mendell 1981)。小さい細胞は大きい細胞より高い入力抵抗を持つため (Kernell 1966, Fleshman et al. 1981, Gustaffson and Pinter 1984)、一定の電流(または機械的刺激)が印加されると、小さい細胞が低い閾値で活動電位を連続的に発火する。大きい細胞はより高い閾値で連続発火を開始する (Freshman et al. 1981, Kernell 1966, Kernell and Monster 1981)。また小さい細胞が支配する筋線維の数は少なく、頻回の発火に対して疲労耐性を持つ(遅筋線維)。一方で、大きい細胞は速い伝導速度を持つ軸索を持ち、多数の速筋線維を神経支配する。さらに低閾値の細胞における後過分極(Afterhyperoplarization: AHP)の持続時間は高閾値の細胞のそれより長いため、低い頻度での定常的発火を示す (Kernell 1965)。このことから、低閾値で動員された細胞は遅筋線維を支配し、長く発火することに有利で、高閾値で動員される細胞は速筋線維を支配し、より大きい力を短い時間発揮するのに適している。このような特徴は各々の支配筋の筋張力-収縮頻度特性をよく一致することから (Hammarberg and Kellerth 1975, Dum and Kennedy 1980, Zengel et al. 1985, Cope et al. 1986, Gardiner 1993, Kernell 1983, Bakels and Kernell 1993a,b)、運動ニューロンプールの細胞群が機能的な要請に適応した様式で動員されていることが分かる。

 実際、覚醒下での等尺性収縮中や関節の伸展によるIa求心性線維の活動下での運動単位の記録を行うと、上記のような階層性、つまり振幅の小さい運動単位活動電位(MUAP)が最初に観察され、発揮張力や関節の伸展に比例して順次大きい電位を持つ運動単位が動員される(Adrian and Bronk 1929, Denny-Brown 1929, Feund et al. 1975, Desmedt and Godaux 1977)。このことから末梢入力や下降性運動指令など入力源には依存せず、運動ニューロン、及び筋活動の動員様式はサイズの原理に従うと考えられている。

 一方で、随意運動中において動員後のそれぞれの運動単位の発火頻度の様態については未だ一致した見解は得られていない。低閾値の電位の小さい運動単位が最も高い発火頻度を示し、高閾値の電位の大きい運動単位が最も低い頻度を示すという結果(Freund et al. 1975, Freund 1983, De Luca and Erim 1994) と、その全く逆の結果が多数報告されている(Gydikov and Kosarov 1974, Tokizane and Shimazu 1964, Grimby et al. 1979)。支配する筋を十分に強縮させるという機能的な側面から考えると、遅筋線維が低頻度、速筋線維が高頻度のMUAPを必要とするため後者のほうがより合理的にように見える (Kernell 1983, Kernell et al. 1983, Bakels and Kernell 1993a,b)。こうした結果の不一致は主に技術的な要因、つまり最大収縮強度(Maximal Voluntary Contraction; MVC) 等の非常に高い収縮強度においては、多数のMUAPが高頻度で発火して重なりあってしまうため単離が困難であることに起因している。しかし近年では多極電極と筋電位の分離アルゴリズムを組み合わせて最大収縮強度までの運動単位を分離した結果、少なくとも下肢のヒラメ筋においては支配する筋線維の収縮特性と運動単位の発火頻度の一致するという報告がなされている(Oya et al. 2009)。

参考文献