プライミング効果

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月浦 崇
京都大学 人間・環境学研究科 認知科学分野
DOI:10.14931/bsd.1417 原稿受付日:2012年5月9日 原稿完成日:2012年5月17日
担当編集委員:定藤 規弘(自然科学研究機構 生理学研究所 大脳皮質機能研究系)

英語名:priming effect  

 プライミング効果とは、先行する刺激(プライマー)の処理が後の刺激(ターゲット)の処理を促進または抑制する効果のことを指す。プライミング効果は潜在的(無意識的)な処理によって行われるのが特徴であり、知覚レベル(知覚的プライミング効果)や意味レベル(意味的プライミング効果)で起こる。前者の処理は刺激の知覚様式(モダリティ)の違いによって、それぞれのモダリティに特異的な大脳皮質によって媒介される一方、後者の処理は側頭連合野などの意味処理に関連する大脳皮質によって媒介される。

心理学的概要

 プライミング効果とは、先行する刺激(プライマー)の処理によって、後続刺激(ターゲット)の処理が促進または抑制される効果と定義される。抑制される場合には、特にネガティブプライミング効果と呼ばれることもある。日常的には、混雑している街の中で、不意に知らない人物の顔が目に飛び込んで来た場合、実はその人物は毎日の通勤電車の中で知らず知らずのうちに見かけていた、などの場面で経験される。 

 プライミング効果は、プライマーとターゲットの関係性から、大きく分けて直接プライミング効果間接プライミング効果とに分類される。

直接プライミング効果

 直接プライミング効果とは、プライマーとターゲットとで同じ刺激が繰り返されることで起こるプライミング効果のことを指し、通常は知覚レベル(知覚的プライミング効果)で観察される現象である。反復プライミング効果とも呼ばれる.実験心理学では、単語完成課題などの課題で評価される。単語完成課題では、たとえばプライマーとして「しんりがく」のような単語を提示し、その後「し□□がく」のような単語完成課題を行わせると、プライマーとして最初に「しんりがく」を処理していた場合には、それを処理していない場合と比較して有意にターゲット単語の正答率が向上したり、反応時間が速くなったりということでプライミング効果が同定される.ここで重要なのは、単語完成課題を遂行している際には、プライマーとして提示されている単語を意識的には想起していない、ということである。すなわち、直接プライミング効果は、潜在的な想起過程において起こっている現象であることは留意すべきである。 

間接プライミング効果

 直接プライミング効果に対して、間接プライミング効果とはプライマーとターゲットとが異なる場合に起きるプライミング効果であり、通常は意味レベル(意味的プライミング効果)で観察されることが知られている。意味的プライミング効果を評価する課題では、たとえばプライマーとして「トラ」が提示された際に、ターゲットとして「ライオン」が提示された場合には、「ヒマワリ」が提示された場合と比較して、ターゲットの語彙判断に要する時間が有意に速くなる、などによってプライミング効果が評価される。間接プライミング効果においても、直接プライミング効果と同様にターゲット刺激に対する想起意識は潜在的であることは重要である。

神経基盤

 直接プライミング効果に関連する脳領域として、これまでの脳機能イメージング研究は、刺激の様式(モダリティ)に特異的に関与する脳領域の重要性を指摘している。たとえば、視覚提示された刺激の知覚的プライミング効果は、後頭側頭葉皮質などの視覚的形態の処理に関連する領域の賦活が低下することと関連することが報告されている[1]。また、聴覚的に提示された単語に関連する知覚的プライミング効果には、側頭葉の聴覚皮質の賦活の低下との関連性が指摘されている[2]。これらの結果は、知覚的プライミング効果は各々のモダリティに特異的な脳領域の賦活の低下と関連しており、モダリティに特異的な情報処理システム(知覚表象システム)[3]によって媒介されていることを示唆している。 

 意味的プライミング効果に関連する脳領域に関しては一致した見解は得られていないが、ひとつの可能性として、左前方側頭葉の重要性が指摘されている。たとえば、語彙判断課題における賦活をプライマーとターゲットが意味的に関連している条件と関連していない条件とで比較した際に、左前方側頭葉領域の賦活が有意に低下することが報告されている[4]。この結果は、左前方側頭葉の有意な委縮を示す前頭側頭型認知症の症例において、意味認知症の症状が認められるという神経心理学的知見[5]とも一致しており、左前方側頭葉領域が意味システムを媒介して起こると考えられる意味的プライミング効果の神経基盤のひとつであることが示唆される。

関連項目

参考文献

  1. Schacter, D.L., Dobbins, I.G., & Schnyer, D.M. (2004).
    Specificity of priming: a cognitive neuroscience perspective. Nature reviews. Neuroscience, 5(11), 853-62. [PubMed:15496863] [WorldCat] [DOI]
  2. Gagnepain, P., Chételat, G., Landeau, B., Dayan, J., Eustache, F., & Lebreton, K. (2008).
    Spoken word memory traces within the human auditory cortex revealed by repetition priming and functional magnetic resonance imaging. The Journal of neuroscience : the official journal of the Society for Neuroscience, 28(20), 5281-9. [PubMed:18480284] [PMC] [WorldCat] [DOI]
  3. Tulving, E., & Schacter, D.L. (1990).
    Priming and human memory systems. Science (New York, N.Y.), 247(4940), 301-6. [PubMed:2296719] [WorldCat] [DOI]
  4. Rossell, S.L., Price, C.J., & Nobre, A.C. (2003).
    The anatomy and time course of semantic priming investigated by fMRI and ERPs. Neuropsychologia, 41(5), 550-64. [PubMed:12638581] [WorldCat] [DOI]
  5. Knibb, J.A., & Hodges, J.R. (2005).
    Semantic dementia and primary progressive aphasia: a problem of categorization? Alzheimer disease and associated disorders, 19 Suppl 1, S7-14. [PubMed:16317259] [WorldCat]