「神経筋接合部」の版間の差分

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== 神経伝達機構  ==
== 神経伝達機構  ==


 神経筋接合部は、神経科学研究の良い材料として使われてきた。まず、第1に、神経伝達物質放出機構に関する研究が行われ、数々の重要な知見が得られた。たとえば、[[wikipedia:JA:カエル|カエル]]の神経筋接合部を用いて、神経伝達物質放出には、神経終末膜の脱分極時に細胞外の[[カルシウム]]イオンが必要であること<ref><pubmed>6040160</pubmed></ref>が示された。さらに、アセチルコリン放出は、一定の単位ずつ行われるという[[量子仮説]]が提唱された<ref><pubmed>14946732</pubmed></ref>。さらに、ひとつの量子は、アセチルコリン約7000分子からなることが示された<ref><pubmed>171380</pubmed></ref>。  
 神経筋接合部は、神経科学研究の良い材料として使われてきた。まず、第1に、神経伝達物質放出機構に関する研究が行われ、数々の重要な知見が得られた。たとえば、[[wikipedia:JA:カエル|カエル]]の神経筋接合部を用いて、神経伝達物質放出には、神経終末膜の脱分極時に細胞外の[[カルシウム]]イオンが必要であること<ref><pubmed>6040160</pubmed></ref>が示された。さらに、アセチルコリン放出は、一定の単位ずつ行われるという[[量子仮説]]が提唱され<ref><pubmed>14946732</pubmed></ref>、ひとつの量子は、アセチルコリン約7000分子からなることが示された<ref><pubmed>171380</pubmed></ref>。  


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== シナプス形成に関わる分子機構  ==
== シナプス形成に関わる分子機構  ==


 さらに、脊椎動物の神経筋接合部を用いて、発生過程におけるシナプス形成過程の分子機構の研究が進められた。基底膜のように神経筋接合部特有の構造もあるが、基本的なシナプス前後の構造、例えば、アクティブゾーンや受容体集積部位などは、神経―神経間のシナプスと同様の構造であり、共通のシナプス形成機構が存在すると考えられ、良いモデル系となっている。Xenopus胚から単離・培養された神経筋接合部のモデル系を用いて、神経終末が筋肉細胞に接触すると、アセチルコリン放出が観測され、放出量の増大が見られた。このことから、筋肉細胞と神経終末が接触すると数分以内に、機能的なシナプス結合が形成されることが明らかになった<ref><pubmed>2723739</pubmed></ref>。シナプス構造の分化過程では、まず、シナプス部へのアセチルコリン受容体の集積が起こる。これは、最初に、神経終末が筋肉細胞に接触してから、数時間以内に始まる。神経筋接合部におけるアセチルコリン受容体の集積は、コリン作動性神経終末特異的であり、神経細胞から集積を促す分子が分泌されていると考えられ、アグリンが同定された<ref><pubmed>1329871</pubmed></ref>。アグリンは、ヘパラン硫酸プロテオグリカンであり、ラミニンやヘパリン、ヘパリン結合タンパク質、インテグリンなどと相互作用する部位をもつ<ref><pubmed>9430625</pubmed></ref>。さらに、アグリンの受容体の一部として、muscle-specific receptor tyrosine kinase (MuSK)が同定され<ref><pubmed>8653786</pubmed></ref>、以降、シナプス後部の構造構築に働く細胞内シグナル機構の研究が盛んに行われている。近年では、分泌型glycoproteinであるWntがMuSKのリガンドとして働く可能性が示され<ref><pubmed>12165471</pubmed></ref>、研究の新展開が見られる。アセチルコリン受容体の集合だけでなく、合成も神経細胞の接触により引き起こされることも示されている<ref name="ref2" />。  
 さらに、脊椎動物の神経筋接合部を用いて、発生過程におけるシナプス形成過程の分子機構の研究が進められた。基底膜のように神経筋接合部特有の構造もあるが、基本的なシナプス前後の構造、例えば、アクティブゾーンや受容体集積部位などは、神経―神経間のシナプスと同様の構造であり、共通のシナプス形成機構が存在すると考えられ、良いモデル系となっている。Xenopus胚から単離・培養された神経筋接合部のモデル系を用いて、神経終末が筋肉細胞に接触すると、数秒以内にアセチルコリン放出が観測され、20分後には放出量の増大が見られた。このことから、筋肉細胞と神経終末が接触すると数分以内に、機能的なシナプス結合が形成されることが明らかになった<ref><pubmed>2723739</pubmed></ref>。シナプス構造の分化過程のうちシナプス部へのアセチルコリン受容体の集積は、最初に、神経終末が筋肉細胞に接触してから、数時間以内に始まる。神経筋接合部におけるアセチルコリン受容体の集積は、コリン作動性神経終末特異的であり、神経細胞から集積を促す分子が分泌されていると考えられ、アグリンという蛋白質が同定された<ref><pubmed>1329871</pubmed></ref>。アグリンは、ヘパラン硫酸プロテオグリカンであり、ラミニンやヘパリン、ヘパリン結合タンパク質、インテグリンなどと相互作用する部位をもつ<ref><pubmed>9430625</pubmed></ref>。さらに、アグリンの受容体の一部として、muscle-specific receptor tyrosine kinase (MuSK)が同定され<ref><pubmed>8653786</pubmed></ref>、以降、シナプス後部の構造構築に働く細胞内シグナル機構の研究が盛んに行われている。近年では、分泌型glycoproteinであるWntがMuSKのリガンドとして働く可能性が示され<ref><pubmed>12165471</pubmed></ref>、研究の新展開が見られる。アセチルコリン受容体の集合だけでなく、合成も神経細胞の接触により引き起こされることも示されている<ref name="ref2" />。  


== シナプス除去に関わる分子機構  ==
== シナプス除去に関わる分子機構  ==


 初期シナプス形成の良いモデルとなっているだけでなく、出来上がったシナプスが再編される過程であるシナプス競合のモデルとしても研究が盛んである。脊椎動物の神経筋接合部では、発生初期において、一本の筋繊維上に、複数の神経繊維の終末がシナプスを形成するが、やがて、一本の神経繊維からの終末だけが残るようになる。これは、複数の神経終末間で競合が起こり、シナプス除去の機構が働いた結果起こると考えられている<ref><pubmed>5499804</pubmed></ref>, <ref><pubmed>978579</pubmed></ref>, <ref><pubmed>8426240</pubmed></ref>。シナプス除去は、神経細胞の活動を抑制すると、抑制されることから、神経活動依存的であることが示されている<ref><pubmed>14946732</pubmed></ref>。さらに、神経活動依存的に筋肉細胞側からの因子を奪い合う結果起こる可能性が考えられている <ref>Nichols JG, Martin AR, Wallace BG, Fuchs PA. In From Neuron to Brain, Fourth Edition, Chapter 23.</ref>。<br>
 脊椎動物の神経筋接合部は、初期シナプス形成の良いモデルとなっているだけでなく、出来上がったシナプスが再編される過程であるシナプス競合のモデルとしても研究が盛んである。脊椎動物の神経筋接合部では、発生初期において、一本の筋繊維上に、複数の神経繊維の終末がシナプスを形成するが、やがて、一本の神経繊維からの終末だけが残るようになる。これは、複数の神経終末間で競合が起こり、シナプス除去の機構が働いた結果起こると考えられている<ref><pubmed>5499804</pubmed></ref>, <ref><pubmed>978579</pubmed></ref>, <ref><pubmed>8426240</pubmed></ref>。シナプス除去は、神経細胞の活動を抑制すると、抑制されることから、神経活動依存的であることが示されている<ref><pubmed>14946732</pubmed></ref>。さらに、神経活動依存的に筋肉細胞側からの因子を奪い合う結果起こる可能性が考えられている <ref>Nichols JG, Martin AR, Wallace BG, Fuchs PA. In From Neuron to Brain, Fourth Edition, Chapter 23.</ref>。<br>


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