「中心体」の版間の差分

ナビゲーションに移動 検索に移動
編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
12行目: 12行目:




中心体は染色体と同様に細胞周期の制御下で複製され娘細胞に分配されることが知られている。まず、G1期からS期にかけて各々の中心小体の側部にSas6など新たな中心小体の鋳型となる分子が集積する。S期からG2期には鋳型を基に中心小体を構成する微小管が伸長し二対の中心小体が形成される。M期に入ると元の中心小体を連結していたリンカーが解離し、新たに形成された2つの中心体は分離して紡錘体の両端にそれぞれ局在し紡錘体の形成に関与する。それらの中心体は細胞分裂によって[[wikipedia:jp:娘細胞|娘細胞]]に一つずつ分配される。分配された一対の中心小体は次のG1期においてリンカー蛋白質によって再び連結される<ref><pubmed>22321829</pubmed></ref>。
中心体は染色体と同様に細胞周期の制御下で複製され、娘細胞に分配されることが知られている。まず、G1期からS期にかけて各々の中心小体の側部にSas6などの新たな中心小体の鋳型となる分子が集積する。S期からG2期には鋳型を基に中心小体を構成する微小管が伸長し、二対の中心小体が形成される。M期に入ると元の中心小体を連結していたリンカーが解離し、新たに形成された2つの中心体は分離して紡錘体の両端にそれぞれ局在し、紡錘体の形成に関与する。それらの中心体は細胞分裂によって[[wikipedia:jp:娘細胞|娘細胞]]に一つずつ分配される。分配された一対の中心小体は次のG1期においてリンカー蛋白質によって再び連結される<ref><pubmed>22321829</pubmed></ref>。




18行目: 18行目:




一般的な細胞では、間期においては中心体は細胞体の中心部に位置し周縁部に向かって微小管を放射状に伸ばしている(ただし、中心体で重合した微小管は必ずしも常に中心体に繋ぎ止められているわけではなく細胞によっては速やかに微小管から放出される場合もある)。また、中心体の近傍にはゴルジ体が存在しており、微小管に沿った輸送システムにより膜小胞を細胞周縁部に供給している。極性化した細胞では中心体の位置が中心からずれることにより不均等な微小管の配置や局所的な膜成分および蛋白質の供給を促していると考えられている。
一般に間期の細胞では、中心体は細胞体の中心部に位置し周縁部に向かって微小管を放射状に伸ばしている(ただし、中心体で重合した微小管は必ずしも常に中心体に繋ぎ止められているわけではなく、細胞によっては速やかに微小管から放出される場合もある)。また、中心体の近傍にはゴルジ体が存在しており、微小管に沿った輸送システムにより膜小胞を細胞周縁部に供給している。極性化した細胞では中心体の位置が中心からずれることにより不均等な微小管の配置や局所的な膜成分および蛋白質の供給を促していると考えられている。




25行目: 25行目:
=== 神経幹細胞の非対称分裂  ===
=== 神経幹細胞の非対称分裂  ===


[[大脳皮質]]の神経幹細胞は発生初期においては対称分裂により自らと同じ性質をもつ娘細胞を2つ産生し神経幹細胞の数を増大させる。その後、神経幹細胞は'''非対称分裂'''により1つの神経幹細胞と1つの神経細胞を産生し、神経幹細胞の数を維持しながら神経細胞の数を増大させる。中心体は細胞分裂に関与するのに加えて非対称分裂の制御にも重要であると考えられている。Cdk5rap2などの中心体関連蛋白質を欠失させると神経幹細胞を維持できなくなり、大脳皮質の神経細胞数が著しく減少する('''小頭症''')<ref><pubmed>21632253</pubmed></ref>。また、非対称分裂の際には”より古い”中心小体を含む中心体が神経幹細胞側の娘細胞に継承されること、subdistal appendageに局在するNineinが神経幹細胞の維持に必要であることが報告されている<ref><pubmed>19829375</pubmed></ref>。  
[[大脳皮質]]の神経幹細胞は、発生初期においては対称分裂により自らと同じ性質をもつ娘細胞を2つ産生し神経幹細胞の数を増大させる。その後、'''非対称分裂'''により1つの神経幹細胞と1つの神経細胞を産生し、神経幹細胞の数を維持しながら神経細胞の数を増大させる。中心体は細胞分裂に関与するのに加えて非対称分裂の制御にも重要であると考えられている。Cdk5rap2などの中心体関連蛋白質を欠失させると神経幹細胞を維持できなくなり、大脳皮質の神経細胞数が著しく減少する('''小頭症''')<ref><pubmed>21632253</pubmed></ref>。また、非対称分裂の際には”より古い”中心小体を含む中心体が神経幹細胞側の娘細胞に継承されること、subdistal appendageに局在するNineinが神経幹細胞の維持に必要であることが報告されている<ref><pubmed>19829375</pubmed></ref>。  


=== 軸索形成  ===
=== 軸索形成  ===


[[海馬]]や[[大脳皮質]]の錐体ニューロンはまず複数の未分化な神経突起を形成した後、そのうちの1本を急速に伸長させ[[軸索]]へと分化させる。その際、中心体は軸索へと分化する神経突起の根元に局在することが報告されており、中心体が神経細胞における軸索決定を担う因子であることが示唆されている。中心体が主要な微小管重合開始点であるのに加えて[[ゴルジ体]]が中心体近傍に局在することから、中心体の局在により特定の神経突起に対して選択的に微小管や膜成分を供給している可能性が考えられる。しかし、他のニューロンにおいては軸索決定と中心体の位置に相関は見られないという報告もあり、軸索決定における中心体の局在は特定の神経細胞において必要なのか、神経細胞の極性化に付随して起こる現象にすぎないのかはいまだ明らかではない。また、レーザー照射による中心体破壊実験の結果から、決定した後の軸索の伸長には中心体が必要ないことも報告されている。分化した神経細胞では中心体の微小管重合能は低下しており、主な微小管重合は軸索および[[樹状突起]]内に広く分布した非中心体性の&gamma;-tubulinによって担われると考えられている<ref><pubmed>21722732</pubmed></ref>。  
[[海馬]]や[[大脳皮質]]の錐体ニューロンはまず複数の未分化な神経突起を形成した後、そのうちの1本を急速に伸長させ[[軸索]]へと分化させる。その際、中心体は軸索へと分化する神経突起の根元に局在することが報告されており、中心体が神経細胞における軸索決定に関与することが示唆されている。中心体が主要な微小管重合開始点であることに加えて、[[ゴルジ体]]が中心体近傍に局在することから、中心体の局在により特定の神経突起に対して選択的に微小管や膜成分を供給している可能性が考えられる。しかし、他のニューロンにおいては軸索決定と中心体の位置に相関は見られないという報告もあり(ref)、軸索決定における中心体の局在は特定の神経細胞において必要なのか、神経細胞の極性化に付随して起こる現象にすぎないのかはいまだ明らかではない。また、レーザー照射による中心体破壊実験の結果から、決定した後の軸索の伸長には中心体が必要ないことも報告されている(ref)。分化した神経細胞では中心体の微小管重合能は低下しており、主な微小管重合は軸索および[[樹状突起]]内に広く分布した非中心体性の&gamma;-tubulinによって担われると考えられている<ref><pubmed>21722732</pubmed></ref>。  


=== 神経細胞移動  ===
=== 神経細胞移動  ===


[[神経細胞移動|移動中の神経細胞]]において中心体は細胞核の前方に局在し極性移動に関与すると考えられている。移動時において神経細胞はまず進行方向へと先導突起と呼ばれる神経突起を伸ばした後、細胞核およびその他の細胞内小器官を先導突起内へと移入させる。中心体は自身から伸長する微小管によって先導突起と細胞核を連結し細胞核を先導突起内へ牽引するというモデルが提唱されている<ref><pubmed>15173193</pubmed></ref>。しかし、移動中の神経細胞内では細胞核周辺の微小管が必ずしも中心体に収束しておらず(図3)、細胞核と中心体は独立に移動するという報告もあり<ref><pubmed>17913873</pubmed></ref>、神経細胞移動における中心体の正確な役割についてはいまだ結論が出ていない。また中心体自身の移動についても微小管モータータンパク質[[ダイニン]]<ref><pubmed>17618279</pubmed></ref>とアクチンモーターである[[ミオシン]]<ref><pubmed>19607793</pubmed></ref>の制御を受けるとされているが、その詳細はいまだ不明である。
[[神経細胞移動|移動中の神経細胞]]において中心体は細胞核の前方に局在し、細胞極性の形成と維持に関与すると考えられている。移動時の神経細胞はまず進行方向へと先導突起と呼ばれる神経突起を伸ばした後、細胞核およびその他の細胞内小器官を先導突起内へと移入させる。このとき中心体は自身から伸長する微小管によって先導突起と細胞核を連結し、細胞核を先導突起内へ牽引するというモデルが提唱されている<ref><pubmed>15173193</pubmed></ref>。しかし、移動中の神経細胞内では細胞核周辺の微小管が必ずしも中心体に収束しておらず(図3)、細胞核と中心体は独立に移動するという核牽引モデルと矛盾する報告もある<ref><pubmed>17913873</pubmed></ref>。中心体自身の移動は微小管モータータンパク質[[ダイニン]]<ref><pubmed>17618279</pubmed></ref>とアクチンモーターである[[ミオシン]]<ref><pubmed>19607793</pubmed></ref>の連動により制御されると考えられているが、その詳細はまだ明らかでない。


=== 一次繊毛の形成  ===
=== 一次繊毛の形成  ===
89

回編集

案内メニュー