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神経細胞は脳室帯等の細胞分裂層で産生された後、自らが機能する部位へと移動する([[神経細胞移動]])。神経細胞移動の不全は皮質の層構造形成に異常を引き起こすことが知られており、層構造異常の原因遺伝子として同定されたLis1, Doublecortin等の中心体および微小管関連遺伝子が神経細胞移動に関与することが示されている。神経細胞は移動に際して先導突起と呼ばれる神経突起を進行方向へと伸ばし、細胞核およびその他の細胞内小器官を先導突起内へと移入させる。これまでに、中心体が移動中の神経細胞において細胞核の前方(先導突起側)に局在しており細胞核に先行して先導突起内に移動すること、移動時の細胞核が'''microtubule cage'''と呼ばれる微小管の籠状構造に覆われていることが報告されており<ref><pubmed>15173193</pubmed></ref><ref><pubmed>15475953</pubmed></ref>、このことから中心体は自身から伸長する微小管によって先導突起と細胞核を連結し、細胞核を先導突起内へ牽引するというモデルが提唱されている。しかし、移動中の神経細胞内では細胞核周辺の微小管が必ずしも中心体に収束しておらず(図3)細胞核と中心体は独立に移動するという、上記の核牽引モデルと矛盾する報告もある<ref><pubmed>17913873</pubmed></ref>。中心体は細胞の極性形成および維持に関与することから、細胞核を牽引するのではなく移動方向を決定することで間接的に細胞核移動に関与しているのかもしれない。また、細胞核移動を駆動する力は微小管モーター蛋白質[[ダイニン]]が担うと考えられているが、ダイニンが細胞内のどこで作用しているのか(先導突起内、中心体、細胞核表面等)は明らかではない。加えてアクチンモーターである[[ミオシン]]が細胞核移動に作用するという報告もある<ref><pubmed>15958735</pubmed></ref><ref><pubmed>16174753</pubmed></ref>。中心体自身の移動もダイニンとミオシンの連動により制御されると考えられているがその詳細は不明である<ref><pubmed>17618279</pubmed></ref><ref><pubmed>19607793</pubmed></ref>。
神経細胞は脳室帯等の細胞分裂層で産生された後、自らが機能する部位へと移動する([[神経細胞移動]])。神経細胞移動の不全は皮質の層構造形成に異常を引き起こすことが知られており、層構造異常の原因遺伝子として同定されたLis1, Doublecortin等の中心体および微小管関連遺伝子が神経細胞移動に関与することが示されている。神経細胞は移動に際して先導突起と呼ばれる神経突起を進行方向へと伸ばし、細胞核およびその他の細胞内小器官を先導突起内へと移入させる。これまでに、中心体が移動中の神経細胞において細胞核の前方(先導突起側)に局在しており細胞核に先行して先導突起内に移動すること、移動時の細胞核が'''microtubule cage'''と呼ばれる微小管の籠状構造に覆われていることが報告されており<ref><pubmed>15173193</pubmed></ref><ref><pubmed>15475953</pubmed></ref>、このことから中心体は自身から伸長する微小管によって先導突起と細胞核を連結し、細胞核を先導突起内へ牽引するというモデルが提唱されている。しかし、移動中の神経細胞内では細胞核周辺の微小管が必ずしも中心体に収束しておらず(図3)細胞核と中心体は独立に移動するという、上記の核牽引モデルと矛盾する報告もある<ref><pubmed>17913873</pubmed></ref>。中心体は細胞の極性形成および維持に関与することから、細胞核を牽引するのではなく移動方向を決定することで間接的に細胞核移動に関与しているのかもしれない。また、細胞核移動を駆動する力は微小管モーター蛋白質[[ダイニン]]が担うと考えられているが、ダイニンが細胞内のどこで作用しているのか(先導突起内、中心体、細胞核表面等)は明らかではない。加えてアクチンモーターである[[ミオシン]]が細胞核移動に作用するという報告もある<ref><pubmed>15958735</pubmed></ref><ref><pubmed>16174753</pubmed></ref>。中心体自身の移動もダイニンとミオシンの連動により制御されると考えられているがその詳細は不明である<ref><pubmed>17618279</pubmed></ref><ref><pubmed>19607793</pubmed></ref>。


=== 一次繊毛の形成 ===
=== 繊毛の形成 ===


神経幹細胞を含む多くの細胞は一次繊毛と呼ばれる微小管束によって膜が突出したアンテナ状構造を持つ。一次繊毛は[[wikipedia:jp:ソニック・ヘッジホッグ|hedgehog]][[シグナル伝達|シグナル]]や[[wikipedia:jp:Wntシグナル経路|Wnt]]シグナルなどの細胞外シグナル分子に対するセンサーとして働く。[[wikipedia:jp:細胞周期|間期]]の細胞において中心体は基底小体として一次繊毛の基部に存在しその形成に関与する。一次繊毛の欠失は脳の発生過程においてhedgehogシグナル依存的な[[細胞増殖]]の不全を始めとして様々な障害を引き起こすと考えられている<ref><pubmed>21386674</pubmed></ref>
神経幹細胞を含む多くの細胞は一次繊毛と呼ばれる微小管束によって膜が突出したアンテナ状構造を持つ。一次繊毛は[[wikipedia:jp:ソニック・ヘッジホッグ|hedgehog]][[シグナル伝達|シグナル]]やPDGFシグナルなどの細胞外シグナルに対するセンサーとして働く。[[wikipedia:jp:細胞周期|間期]]の細胞において中心体は基底小体として一次繊毛の基部に存在しその形成に関与する。繊毛の形成不全は脳の発生過程や機能において様々な障害を引き起こすことが知られている<ref><pubmed></pubmed>21435552</ref>。小脳顆粒細胞や海馬歯状回顆粒細胞の前駆細胞はSonic Hedgehogシグナル依存的な細胞増殖を行うことが知られており、一次繊毛の形成不全を示すIFT88やKif3a欠損マウスにおいてはこれらの細胞数が減少する。また、嗅覚受容神経細胞や上衣細胞は一次繊毛から派生した二次繊毛を持つ。一次繊毛が1つの細胞にⅠ本なのに対して二次繊毛は1つの細胞に複数存在し得る。嗅覚受容神経細胞は嗅覚受容体を局在させた二次繊毛を嗅上皮に露出させることでにおい物質を感知する。繊毛の形成不全に起因する疾患において嗅覚障害が伴うことが知られている。上衣細胞は脳室壁に存在しており複数の二次繊毛を脳室に向かって伸ばしている。上衣細胞の繊毛は単細胞生物の繊毛や鞭毛のように運動を行い、脳室内の脳脊髄液を循環させる。


== 中心体関連遺伝子と神経疾患  ==
== 中心体関連遺伝子と神経疾患  ==


これまで脳の形成不全を伴う神経疾患の原因遺伝子として多くの中心体関連分子が同定されている。小頭症に関してはその原因遺伝子として7つの中心体関連遺伝子(''MCPH1~7'')が同定されている。小頭症では大脳皮質の神経細胞数が著しく減少していることから、細胞分裂または対称・非対称分裂の制御に異常があることが示唆される。ただし、中心体関連遺伝子の多くはDNA損傷応答にも関与しており、DNA損傷に伴う細胞死が関与している可能性もある。小頭症では皮質の層構造には異常が見られないことから神経細胞移動の関与は少ないと考えられる。一方、'''Ⅰ型滑脳症'''においては神経細胞移動の障害に起因する皮質の層構造異常が見られる。Ⅰ型滑脳症の原因遺伝子としてLis1、Doublecortinなどが同定されているがこれらの分子もまた中心体や微小管に局在することが報告されている。また、一次繊毛の形成および機能に関連する遺伝子の変異は'''Joubert症候群'''や'''Bardet – Biedl症候群'''等の'''ciliopathy'''と呼ばれる疾患を引き起こすことが知られている。
これまで脳の形成不全を伴う神経疾患の原因遺伝子として多くの中心体関連分子が同定されている。小頭症に関してはその原因遺伝子として7つの中心体関連遺伝子(''MCPH1~7'')が同定されている。小頭症では大脳皮質の神経細胞数が著しく減少していることから、細胞分裂または対称・非対称分裂の制御に異常があることが示唆される。ただし、中心体関連遺伝子の多くはDNA損傷応答にも関与しており、DNA損傷に伴う細胞死が関与している可能性もある。小頭症では皮質の層構造には異常が見られないことから神経細胞移動の関与は少ないと考えられる。一方、'''Ⅰ型滑脳症'''においては神経細胞移動の障害に起因する皮質の層構造異常が見られる。Ⅰ型滑脳症の原因遺伝子としてLis1、Doublecortinなどが同定されているがこれらの分子もまた中心体や微小管に局在することが報告されている。また、一次繊毛の形成および機能に関連する遺伝子の変異は'''Joubert症候群'''や'''Bardet – Biedl症候群'''等の'''ciliopathy'''と呼ばれる疾患を引き起こすことが知られている<ref><pubmed>21386674</pubmed></ref>。




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