「心理療法」の版間の差分

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===恐怖症スペクトラムに対する認知行動療法の作用機序===
===恐怖症スペクトラムに対する認知行動療法の作用機序===


 恐怖症は、特定の対象に対する強烈な恐怖と、その対象に対する回避行動を主症状とする障害である。恐怖の対象が、血液や高所ということもあれば、対人交流や自身の身体症状ということもある(対人の場合は[[社交不安障害]]、身体症状の場合はパニック障害とされる)。こうした恐怖症スペクトラムに対するCBTでは、実施後に、治療前に高かった辺縁系領域([[扁桃体]]や[[海馬]]、[[海馬傍回]])、[[前帯状皮質]] (ACC) 背側部、[[島]]などの活動量が有意に減少し、健常者と同程度の活動量になったことが報告されている<ref name=ref9><pubmed>17425531</pubmed></ref> <ref name=ref12><pubmed>11982446</pubmed></ref> <ref name=ref19><pubmed>12595193</pubmed></ref> <ref name=ref24><pubmed>16889985</pubmed></ref> <ref name=ref26><pubmed>17902000</pubmed></ref> <ref name=ref28><pubmed>16087353</pubmed></ref>。
 特定の対象に対する強烈な恐怖と、その対象に対する回避行動を主症状とする障害を、恐怖症という。恐怖の対象には、血液や高所などがある。恐怖の対象が対人交流の場合は、[[社交不安障害]]、身体症状の場合はパニック障害とされる。こうした恐怖症スペクトラムに対するCBTでは、実施後に、治療前に高かった辺縁系領域([[扁桃体]]や[[海馬]]、[[海馬傍回]])、[[前帯状皮質]] (ACC) 背側部、[[島]]などの活動量が有意に減少し、健常者と同程度の活動量になったことが報告されている<ref name=ref9><pubmed>17425531</pubmed></ref> <ref name=ref12><pubmed>11982446</pubmed></ref> <ref name=ref19><pubmed>12595193</pubmed></ref> <ref name=ref24><pubmed>16889985</pubmed></ref> <ref name=ref26><pubmed>17902000</pubmed></ref> <ref name=ref28><pubmed>16087353</pubmed></ref>。


 これまでの基礎研究では、扁桃体や海馬、[[嗅内皮質]]は、[[恐怖条件づけ]]の[[消去学習]]を生じるうえで重要な役割を果たすことが明らかになっている<ref name=ref3><pubmed>17435934</pubmed></ref>。恐怖症スペクトラム障害に対するCBTは、エクスポージャー法による恐怖条件づけ記憶の消去学習であることを考慮すると、CBT後の扁桃体や海馬といった辺縁系領域の活動減少は、消去学習メカニズムと密接に関与している可能性が考えられる<ref name=ref22><pubmed>16164763</pubmed></ref>。
 これまでの基礎研究では、扁桃体や海馬、[[嗅内皮質]]は、[[恐怖条件づけ]]の[[消去学習]]を生じるうえで重要な役割を果たすことが明らかになっている<ref name=ref3><pubmed>17435934</pubmed></ref>。恐怖症スペクトラム障害に対するCBTは、エクスポージャー法による恐怖条件づけ記憶の消去学習であることを考慮すると、CBT後の扁桃体や海馬といった辺縁系領域の活動減少は、消去学習メカニズムと密接に関与している可能性が考えられる<ref name=ref22><pubmed>16164763</pubmed></ref>。
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 治療手段が薬物療法であれCBTであれ、うつ症状寛解後は、VLPFC活動の有意な減少が認められている<ref name=ref11><pubmed>18550030</pubmed></ref> <ref name=ref13 /> <ref name=ref14 />。しかし、CBTでは、[[薬物療法]]とは異なり、背側ACCやPCC、さらに扁桃体や海馬にも何らかの変化を生じさせて抑うつ症状を改善している可能性が示唆される<ref name=ref11 /> <ref name=ref13 /> <ref name=ref14 /> <ref name=ref21 />。とりわけ治療前には、情動刺激を呈示されても、うつ病患者の扁桃体や海馬はほとんど賦活しなかったものの、治療後には、両者が賦活するようになっていたことが示した研究もある<ref name=ref21 />。
 治療手段が薬物療法であれCBTであれ、うつ症状寛解後は、VLPFC活動の有意な減少が認められている<ref name=ref11><pubmed>18550030</pubmed></ref> <ref name=ref13 /> <ref name=ref14 />。しかし、CBTでは、[[薬物療法]]とは異なり、背側ACCやPCC、さらに扁桃体や海馬にも何らかの変化を生じさせて抑うつ症状を改善している可能性が示唆される<ref name=ref11 /> <ref name=ref13 /> <ref name=ref14 /> <ref name=ref21 />。とりわけ治療前には、情動刺激を呈示されても、うつ病患者の扁桃体や海馬はほとんど賦活しなかったものの、治療後には、両者が賦活するようになっていたことが示した研究もある<ref name=ref21 />。


 また、情動刺激処理時の扁桃体活動量が相対的に高い患者ほど、CBT後にうつ症状が改善した程度も大きかったという報告もある (Siegle, Carter and Thase 2006)。これらの知見から、うつ病患者では、扁桃体を中心とする辺縁系領域は本来期待される程度には働いておらず、CBTはその働きを活性化させることで抑うつ症状の改善を導く可能性も示唆される。
 また、情動刺激処理時の扁桃体活動量が相対的に高い患者ほど、CBT後にうつ症状が改善した程度も大きかったという報告もある<ref name=ref22><pubmed>16585452</pubmed></ref>。これらの知見から、うつ病患者では、扁桃体を中心とする辺縁系領域は本来期待される程度には働いておらず、CBTはその働きを活性化させることで抑うつ症状の改善を導く可能性も示唆される。


 いずれにしても、うつ病におけるCBTの神経作用メカニズムについては、サブタイプや重症度、合併症なども考慮に入れて、更に細やかな検討がなされることが必要である。
 いずれにしても、うつ病におけるCBTの神経作用メカニズムについては、サブタイプや重症度、合併症なども考慮に入れて、更に細やかな検討がなされることが必要である。

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