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=== ユビキチンシステム=== | === ユビキチンシステム=== | ||
[[image:プロテオソーム1.jpg|thumb|350px|'''図1.ユビキチン・プロテアソームシステム'''<br>Ub:ユビキチン、E1: Ub活性化酵素、E2: Ub結合酵素、E3: | [[image:プロテオソーム1.jpg|thumb|350px|'''図1.ユビキチン・プロテアソームシステム'''<br>Ub:ユビキチン、E1: Ub活性化酵素、E2: Ub結合酵素、E3: Ubリガーゼ(連結酵素)、DUB: 脱ユビキチン酵素。基質を選別するE3酵素は、HECT型とRING型に大別される(最近では、HECT型とRING型のハイブリッド型E3としてRBR型E3ファミリーが提唱されている)。26Sプロテアソームは不要なユビキチン化タンパク質をエネルギー依存的に分解する巨大なタンパク質分解酵素複合体である<ref name=ref22><pubmed>19165213</pubmed></ref>。UPSの作動機構においてATPの加水分解は、基質のユビキチン化(E1の作用)と26Sプロテアソームによる分解作用(基質のアンフォールディング)の二つのプロセスに必要である。]] | ||
1977年、米国ハーバード大学の[[wj:ゴールドバーグ|Goldberg]]のグループは[[wj:網状赤血球|網状赤血球]]の抽出液がエネルギー依存性のタンパク質分解活性を示すことを見いだした<ref name=ref1><pubmed>264694</pubmed></ref>。その後間もなく、イスラエルの[[wj:アブラム・ハーシュコ|Hershko]]と[[wj:アーロン・チカノーバー|Ciechanover]]は、米国のRoseと共に、熱安定性の小さなタンパク質である[[ユビキチン]]がその主役であることを見出した。 | 1977年、米国ハーバード大学の[[wj:ゴールドバーグ|Goldberg]]のグループは[[wj:網状赤血球|網状赤血球]]の抽出液がエネルギー依存性のタンパク質分解活性を示すことを見いだした<ref name=ref1><pubmed>264694</pubmed></ref>。その後間もなく、イスラエルの[[wj:アブラム・ハーシュコ|Hershko]]と[[wj:アーロン・チカノーバー|Ciechanover]]は、米国のRoseと共に、熱安定性の小さなタンパク質である[[ユビキチン]]がその主役であることを見出した。 | ||
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==プロテアソームの分子構造== | ==プロテアソームの分子構造== | ||
[[image:プロテオソーム2.jpg|thumb|350px|'''図2.26S プロテアソームの構造モデル:分子形状とサブユニット構成'''<br>左図:26Sプロテアソーム(CPとRPの複合体)の電子顕微鏡による分子形状(単粒子解析: 独マックスプランク研究所W. Baumeister、S. Nickellから供与)。U:ユビキチン。<br> | [[image:プロテオソーム2.jpg|thumb|350px|'''図2.26S プロテアソームの構造モデル:分子形状とサブユニット構成'''<br>上図:26Sプロテアソームの単粒子解析とX線結晶構造解析に基づいた高次構造。<br> | ||
左図:26Sプロテアソーム(CPとRPの複合体)の電子顕微鏡による分子形状(単粒子解析: 独マックスプランク研究所W. Baumeister、S. Nickellから供与)。U:ユビキチン。<br> | |||
右図:サブユニットの構成モデル.触媒粒子(CP、20Sプロテアソーム)はα/βリングがαββαの順に会合した円柱状粒子(図3参照)。調節粒子(RP、PA700)はlid(蓋部)とbase(基底部)から構成された複合体。RPはRpn(RP non-ATPase)とRpt(RP triple-ATPase)サブユニット群から構成されている。Rpn10、Rpn13:ポリユビキチンリセプター、Rpn11:DUB(脱ユビキチン酵素)、 β1 (カスパーゼ様活性), β2(トリプシン様活性), β5(キモトリプシン様活性):触媒サブユニット。図には示していないが、DUBであるUSP14はRpn1に、そして Uch37はRpn13を介してRpn2に会合している(図4参照)。 | |||
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[[image:プロテオソーム3.jpg|thumb|350px|''' | [[image:プロテオソーム3.jpg|thumb|350px|'''図3.触媒粒子(20Sプロテアソーム)の立体構造と触媒活性部位'''<br>詳細は本文参照。プロテアソームは、N-terminal threonine protease(Endopeptidase)というユニークな酵素である。]] | ||
[[image:プロテオソーム4.jpg|thumb|350px|''' | [[image:プロテオソーム4.jpg|thumb|350px|'''図4.26Sプロテアソームの作動機構モデル'''<ref name=ref11><pubmed>22215586</pubmed></ref><ref name=ref12><pubmed>22237024</pubmed></ref><br>Ub:ユビキチン、Rpn10、Rpn13:ユビキチンリセプター、Rpn11、USP14/(酵母のUbp6)、Uch37:脱ユビキチン酵素]] | ||
触媒粒子(core particle, CP、20Sプロテアソーム)の両端に調節粒子(regulatory particle, 19S RP)が会合した分子量250万、総サブユニット数66個から構成されたATP依存性プロテアーゼ多成分複合体を26Sプロテアソームという(図2下パネル)<ref name=ref7><pubmed>8811196</pubmed></ref> <ref name=ref8><pubmed>9476896</pubmed></ref> <ref name=ref9><pubmed>19145068</pubmed></ref>。原子レベルでの構造は不明であり、現在、[[wj:極低温電子顕微鏡|極低温電子顕微鏡]](cryo-electron microscopy; Cryo-EM)による[[wj:単粒子解析|単粒子解析]]と個々の構成サブユニットの結晶構造を組み合わせた解析が進行中である<ref name=ref10><pubmed>21098295</pubmed></ref>(図2上パネル)。 | 触媒粒子(core particle, CP、20Sプロテアソーム)の両端に調節粒子(regulatory particle, 19S RP)が会合した分子量250万、総サブユニット数66個から構成されたATP依存性プロテアーゼ多成分複合体を26Sプロテアソームという(図2下パネル)<ref name=ref7><pubmed>8811196</pubmed></ref> <ref name=ref8><pubmed>9476896</pubmed></ref> <ref name=ref9><pubmed>19145068</pubmed></ref>。原子レベルでの構造は不明であり、現在、[[wj:極低温電子顕微鏡|極低温電子顕微鏡]](cryo-electron microscopy; Cryo-EM)による[[wj:単粒子解析|単粒子解析]]と個々の構成サブユニットの結晶構造を組み合わせた解析が進行中である<ref name=ref10><pubmed>21098295</pubmed></ref>(図2上パネル)。 | ||
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==プロテアソーム複合体形成に関与するシャペロン分子== | ==プロテアソーム複合体形成に関与するシャペロン分子== | ||
[[image:プロテオソーム5.jpg|thumb|350px|'''図5.26Sプロテアソームの分子集合機構経路'''<ref name=ref25><pubmed>22350895</pubmed></ref><br>詳細は本文参照。]] | |||
プロテアソームの分子集合には専門的な多数のシャペロン分子が関与している(図5)<ref name=ref22><pubmed>19165213</pubmed></ref> <ref name=ref23><pubmed>21461838</pubmed></ref>。 | プロテアソームの分子集合には専門的な多数のシャペロン分子が関与している(図5)<ref name=ref22><pubmed>19165213</pubmed></ref> <ref name=ref23><pubmed>21461838</pubmed></ref>。 | ||
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== 生理機能== | == 生理機能== | ||
[[image: | [[image:プロテオソーム6.jpg|thumb|350px|'''図6.プロテアソームの多様性:免疫型酵素の発見'''<ref name=ref39><pubmed>19935803</pubmed></ref><br>詳細は本文参照。]] | ||
ユビキチン-プロテアソーム系をコードする遺伝子の数は、ゲノム総遺伝子数の3〜5 %を占めると推定されており、[[細胞周期]]・[[wj:DNA修復|DNA修復]]・アポトーシス・シグナル伝達・シナプス可塑性・[[転写]]制御・[[代謝]]調節・[[免疫応答]]・タンパク質の品質管理・[[ストレス応答]]・[[wj:感染|感染]]応答など、迅速に、順序よく、一過的にかつ一方向に決定する手段としての役割を担っている<ref name=ref27><pubmed>21860393</pubmed></ref>。これらの生理作用は、細胞内における標的タンパク質の量の厳密な制御を反映しており、とくにユビキチンシステムの多様性に負うところが大きい。一方、プロテアソームは分解系としての役割以外に、前駆体タンパク質のプロセシングによる活性型への転換(例えば、NF-κBの成熟プロセス)やその生成ペプチドを抗原エピトープとして利用するなどポジティブな生命応答に貢献していることも知られている。 | ユビキチン-プロテアソーム系をコードする遺伝子の数は、ゲノム総遺伝子数の3〜5 %を占めると推定されており、[[細胞周期]]・[[wj:DNA修復|DNA修復]]・アポトーシス・シグナル伝達・シナプス可塑性・[[転写]]制御・[[代謝]]調節・[[免疫応答]]・タンパク質の品質管理・[[ストレス応答]]・[[wj:感染|感染]]応答など、迅速に、順序よく、一過的にかつ一方向に決定する手段としての役割を担っている<ref name=ref27><pubmed>21860393</pubmed></ref>。これらの生理作用は、細胞内における標的タンパク質の量の厳密な制御を反映しており、とくにユビキチンシステムの多様性に負うところが大きい。一方、プロテアソームは分解系としての役割以外に、前駆体タンパク質のプロセシングによる活性型への転換(例えば、NF-κBの成熟プロセス)やその生成ペプチドを抗原エピトープとして利用するなどポジティブな生命応答に貢献していることも知られている。 | ||
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===老化=== | ===老化=== | ||
[[image: | [[image:プロテオソーム7.jpg|thumb|350px|'''図7.プロテアソーム分子集合因子PAC1の中枢神経系特異的欠損マウス'''<br>20Sプロテアソーム(αリング)の形成に必須な分子集合因子PAC1(図4参照)の条件的ノックアウトマウスをNestin-Creトランスジェニックマウス を交配させたマウスの生後3週間後の表現系と行動 <ref name=ref21 />。]] | ||
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[[image:プロテオソーム8.jpg|thumb|350px|'''図8.PINK1/Parkin依存的な“ミトコンドリア品質管理”仮説のモデル図'''<br>詳細は本文参照。]] | |||
エイジング(老化)と共にプロテアソームの機能が低下するとの報告は、数多くある<ref name=ref41><pubmed>21587205</pubmed></ref>が、実際にはプロテアソームの機能評価は必ずしも容易でなく、それらの信憑性には疑義がもたれていた。多くの場合、蛍光合成基質を用いた[[wj:ペプチダーゼ|ペプチダーゼ]]活性を指標とした報告であるが、これらの実験値が真にこの酵素の細胞内での機能レベルを正確に反映していることの保証はないからである。ところが最近、[[ショウジョウバエ|ハエ]]を用いた遺伝学的スクリーンから老化に依存したニューロンのproteotoxity(異常タンパク質の蓄積による細胞障害)を抑圧する遺伝子としてプロテアソームのRPサブユニット(Rpn11)が分離され、26Sプロテアソームの障害を起因としたプロテアソーム活性の低下が明らかとなった<ref name=ref42><pubmed>19075009</pubmed></ref>。この結果は、プロテアソームの機能破綻が寿命の短縮に寄与していることを直接的に示しており、エイジングにおけるプロテアソームの役割の重要性が具体的に示唆された。 | エイジング(老化)と共にプロテアソームの機能が低下するとの報告は、数多くある<ref name=ref41><pubmed>21587205</pubmed></ref>が、実際にはプロテアソームの機能評価は必ずしも容易でなく、それらの信憑性には疑義がもたれていた。多くの場合、蛍光合成基質を用いた[[wj:ペプチダーゼ|ペプチダーゼ]]活性を指標とした報告であるが、これらの実験値が真にこの酵素の細胞内での機能レベルを正確に反映していることの保証はないからである。ところが最近、[[ショウジョウバエ|ハエ]]を用いた遺伝学的スクリーンから老化に依存したニューロンのproteotoxity(異常タンパク質の蓄積による細胞障害)を抑圧する遺伝子としてプロテアソームのRPサブユニット(Rpn11)が分離され、26Sプロテアソームの障害を起因としたプロテアソーム活性の低下が明らかとなった<ref name=ref42><pubmed>19075009</pubmed></ref>。この結果は、プロテアソームの機能破綻が寿命の短縮に寄与していることを直接的に示しており、エイジングにおけるプロテアソームの役割の重要性が具体的に示唆された。 |