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前庭や視覚の機能の検査に、ドラム状の縞模様のスクリーンを定加速度かつ定方向にまわすことで誘発される視覚運動性眼振 (OKN) が用いられる。OKNは、1820年に、小脳のプルキンエ細胞の命名者である[[wikipedia:Jan Evangelista Purkyně|J. E. Purkinje]] (1787-1869) によって初めて記載された。図3AにウサギとヒトのOKNの例を示す。 | 前庭や視覚の機能の検査に、ドラム状の縞模様のスクリーンを定加速度かつ定方向にまわすことで誘発される視覚運動性眼振 (OKN) が用いられる。OKNは、1820年に、小脳のプルキンエ細胞の命名者である[[wikipedia:Jan Evangelista Purkyně|J. E. Purkinje]] (1787-1869) によって初めて記載された。図3AにウサギとヒトのOKNの例を示す。 | ||
OKNでは、遅い眼球運動と速い眼球運動が規則的に繰り返される。遅い眼球運動は、OKRと同じくスクリーンの回転と同方向に生じ、緩徐相(slow phase)と呼ばれる。一方、スクリーンの回転と逆方向に生じる速い眼球運動は、急速相(fast | OKNでは、遅い眼球運動と速い眼球運動が規則的に繰り返される。遅い眼球運動は、OKRと同じくスクリーンの回転と同方向に生じ、緩徐相(slow phase)と呼ばれる。一方、スクリーンの回転と逆方向に生じる速い眼球運動は、急速相(fast phase)と呼ばれる。ウサギでは、スクリーンの回転開始からかなり遅れてOKNの緩徐相が出現し、やがて一定速度に達する。その速度はスクリーンの速度に比べてかなり小さい。一方、ヒトやサルでは、緩徐相はスクリーンが回転を始めると急速に立ち上がり、そのあと数秒かけて徐々に増加しやがてスクリーンの回転速度にほぼ等しくなる。一方、OKNの緩徐相がスクリーンの回転速度に達した段階でスクリーンの回転を止めてまっ暗にすると、視(覚)運動性後眼振(optokinetic after nystagmus, OKAN)が生じる(図3B)。ヒトやサルのOKANの緩徐相の速度とその減衰の時間経過は、ウサギのOKANの緩徐相のそれらに似ている 。一方、ウサギで観察されるOKNの緩徐相には、サルやヒトで見られる速い立ち上がりの成分はなく、OKANの緩徐相と同じような遅い成分しかない。そこで、ヒトやサルのOKNの緩徐相のうちの数秒の時間経過で立ち上がる遅い部分とOKANの緩徐相が、OKRによるものと考えられる。ヒトやサルのOKNの緩徐相の立ち上がりの速い成分はOKRではなく、むしろに随意運動の滑動性追跡眼球運動に由来すると考えられる(図3C)。サルでは両側の[[前庭器官]]を破壊するとOKANが完全に消失し、ヒトでも両側の[[迷路]]障害でOKANが障害される。ヒトで網膜の中心部の損傷により滑動性追跡眼球運動が障害されても、遅い成分のOKNは誘発される。これらの所見は、ヒトやサルの立ち上がりの遅いOKNの緩徐相 = OKANの緩徐相 = OKRという考え方を支持する<ref name="ref10">'''時田喬'''<br>眼振の生理と検査<br>''金原出版'', 東京, 1973.</ref>。 | ||
ヒトのサルでは、眼前に提示した比較的大きなパターンをステップランプ状に動かす時に、サッケード眼球運動に引き続いてランプ状のパターンの動きに依存したドリフト状の遅い眼球運動が誘発される。この眼球運動は[[追従性眼球運動反応]](ocular following response, OFR)と呼ばれる。OFRは前述の立ち上がりの速いOKNの緩徐相に相当するようであるが、その発現には[[大脳皮質]][[視覚連合野]][[MT野]]や[[橋核]]、小脳腹側傍片葉が関与する。滑動性追跡眼球運動には大脳皮質の[[前頭眼野]]や[[頭頂連合野]]に由来するものがあり、OFRはそのうちの頭頂連合野に由来するものと考えられる。 | ヒトのサルでは、眼前に提示した比較的大きなパターンをステップランプ状に動かす時に、サッケード眼球運動に引き続いてランプ状のパターンの動きに依存したドリフト状の遅い眼球運動が誘発される。この眼球運動は[[追従性眼球運動反応]](ocular following response, OFR)と呼ばれる。OFRは前述の立ち上がりの速いOKNの緩徐相に相当するようであるが、その発現には[[大脳皮質]][[視覚連合野]][[MT野]]や[[橋核]]、小脳腹側傍片葉が関与する。滑動性追跡眼球運動には大脳皮質の[[前頭眼野]]や[[頭頂連合野]]に由来するものがあり、OFRはそのうちの頭頂連合野に由来するものと考えられる。 |