「カタトニア」の版間の差分

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(ページの作成:「<div align="right"> <font size="+1">[http://researchmap.jp/read0194204 鈴木 一正]</font><br> ''東北大学''<br> DOI XXXX/XXXX 原稿受付日:2014年4月2...」)
 
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 2003年、M.FinkとM.A.Taylorは著書“Catatonia”にて、臨床的視点から統合失調症と結び付けられやすかったカタトニアを再定義し、その症状や特徴を記載した。以下に彼らが再定義したカタトニアの特徴とその説明を記す。
 2003年、M.FinkとM.A.Taylorは著書“Catatonia”にて、臨床的視点から統合失調症と結び付けられやすかったカタトニアを再定義し、その症状や特徴を記載した。以下に彼らが再定義したカタトニアの特徴とその説明を記す。


#カタトニアは一つの症候群として括ることができる<br>
#カタトニアは一つの症候群として括ることができる<br>せん妄を様々な病因から生じる病態として独立した一症候群にまとめ、臨床上有用であった事に着目し、同様にカタトニアも様々な病因から生じる独立した一症候群として認識していくことが臨床上有用である。カタトニアはその特徴的な症状を注意深く観察すれば誰でも診断可能であり、その方法としてはBush Francis Catatonia Rating Scale(付録1,2)を使うとよい。
せん妄を様々な病因から生じる病態として独立した一症候群にまとめ、臨床上有用であった事に着目し、同様にカタトニアも様々な病因から生じる独立した一症候群として認識していくことが臨床上有用である。カタトニアはその特徴的な症状を注意深く観察すれば誰でも診断可能であり、その方法としてはBush Francis Catatonia Rating Scale(付録1,2)を使うとよい。
#カタトニアはよく見られる症候群である<br>カタトニアは上記の診断方法によると精神科急性期入院患者では5-10%に見られ、カタトニアを呈する患者数は年間の自殺者よりも多い。カタトニアの多くは見過ごされており、カタトニアの症状を積極的に見つけ出し診断し治療することが重要である(表1)。
#カタトニアはよく見られる症候群である<br>
#カタトニアでは様々な病像が見られる<br>カタトニアは以前から、良性昏迷、せん妄躁病、夢幻状態、致死性緊張病、神経遮断薬誘発性カタトニア、混合感情状態など様々な名前で語られてきた多様な病像を呈する。それをカタトニア症候群に統合し、大きく3つの病型に分類した。昏迷状態を呈する制止型、カタトニアを伴う躁病に代表される興奮型、急性に、発熱、重篤な身体生理機能の異常で発症する悪性カタトニアがある。これらの病型は、運動症状や治療反応性では共通している。鎮静作用の抗けいれん薬(Benzodiazepines, Barbiturate)とECTは、カタトニアのどの病型においても有効である。
カタトニアは上記の診断方法によると精神科急性期入院患者では5-10%に見られ、カタトニアを呈する患者数は年間の自殺者よりも多い。カタトニアの多くは見過ごされており、カタトニアの症状を積極的に見つけ出し診断し治療することが重要である(表1)。
#神経遮断薬性悪性症候群(NMS)は悪性カタトニア(MC)である<br>NMSはドパミン遮断薬の投与を契機に発症した悪性カタトニアの一亜型と解釈される。NMSとMCでは症状とラボデータでは区別できず、通常のNMSの治療で軽快しない場合、NMSをMCと解釈することで、NMSにもカタトニアに有効な治療法(ECT)が考慮される点でこの解釈は重要である。
#カタトニアでは様々な病像が見られる<br>
#カタトニアは通常統合失調症とは関係ない<br>カタトニア症候群を呈する病因は多様である。なかでも躁うつ病が最も多い病因であり、その次は一般の身体及び神経疾患である。一方、カタトニアを呈する患者が統合失調症の診断基準に合致するのは約10%である。したがって、カタトニアを呈する患者は統合失調症以外の病因を持つことが多い。このことは、カタトニアは統合失調症であるという従来の考えに対して、パラダイムシフトであり、それにより治療に対する考え方や治療選択肢が広がる。
カタトニアは以前から、良性昏迷、せん妄躁病、夢幻状態、致死性緊張病、神経遮断薬誘発性カタトニア、混合感情状態など様々な名前で語られてきた多様な病像を呈する。それをカタトニア症候群に統合し、大きく3つの病型に分類した。昏迷状態を呈する制止型、カタトニアを伴う躁病に代表される興奮型、急性に、発熱、重篤な身体生理機能の異常で発症する悪性カタトニアがある。これらの病型は、運動症状や治療反応性では共通している。鎮静作用の抗けいれん薬(Benzodiazepines, Barbiturate)とECTは、カタトニアのどの病型においても有効である。
#カタトニアは予後良好である<br>カタトニアには明瞭な治療法がある。まず、急性期治療の段階でカタトニアは命にかかわる状態に進展する可能性があることを認識していなければならない。次に、カタトニアの症状が十分出そろった患者(特に制止型)に対しては、表2の処置を注意深く順々に施行してゆく。カタトニアの治療反応性については、現在までの文献や自験例によるとほとんどすべてのカタトニアのエピソードが消退することが示されている。しかし、カタトニアを呈した病因の疾患から回復するかどうかは、その疾患による。
#神経遮断薬性悪性症候群(NMS)は悪性カタトニア(MC)である<br>
NMSはドパミン遮断薬の投与を契機に発症した悪性カタトニアの一亜型と解釈される。NMSとMCでは症状とラボデータでは区別できず、通常のNMSの治療で軽快しない場合、NMSをMCと解釈することで、NMSにもカタトニアに有効な治療法(ECT)が考慮される点でこの解釈は重要である。
#カタトニアは通常統合失調症とは関係ない<br>
カタトニア症候群を呈する病因は多様である。なかでも躁うつ病が最も多い病因であり、その次は一般の身体及び神経疾患である。一方、カタトニアを呈する患者が統合失調症の診断基準に合致するのは約10%である。したがって、カタトニアを呈する患者は統合失調症以外の病因を持つことが多い。このことは、カタトニアは統合失調症であるという従来の考えに対して、パラダイムシフトであり、それにより治療に対する考え方や治療選択肢が広がる。
#カタトニアは予後良好である<br>
カタトニアには明瞭な治療法がある。まず、急性期治療の段階でカタトニアは命にかかわる状態に進展する可能性があることを認識していなければならない。次に、カタトニアの症状が十分出そろった患者(特に制止型)に対しては、表2の処置を注意深く順々に施行してゆく。カタトニアの治療反応性については、現在までの文献や自験例によるとほとんどすべてのカタトニアのエピソードが消退することが示されている。しかし、カタトニアを呈した病因の疾患から回復するかどうかは、その疾患による。


 このようにフィンクのカタトニア概念は、カタトニア症候群は様々な病因から生ずると言いながらも、カールバウムのカタトニアのうちクレッペリンが躁うつ病に含めたせん妄躁病、昏迷(うつ状態)、混合状態を中核例に据え、クレッペリンが早発性痴呆に組み込んだ慢性カタトニアについては辺縁的な扱いとなっている。そのことより、予後良好性について強調しすぎているとも考えられる。治療については、カタトニア症候群への特異的な治療法としてBenzodiazepines、Barbiturate、特にECTの有用性を強調し、抗精神病薬(特に高力価の)については禁忌に近い態度をとっている。
 このようにフィンクのカタトニア概念は、カタトニア症候群は様々な病因から生ずると言いながらも、カールバウムのカタトニアのうちクレッペリンが躁うつ病に含めたせん妄躁病、昏迷(うつ状態)、混合状態を中核例に据え、クレッペリンが早発性痴呆に組み込んだ慢性カタトニアについては辺縁的な扱いとなっている。そのことより、予後良好性について強調しすぎているとも考えられる。治療については、カタトニア症候群への特異的な治療法としてBenzodiazepines、Barbiturate、特にECTの有用性を強調し、抗精神病薬(特に高力価の)については禁忌に近い態度をとっている。

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