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== 遺伝学 == | == 遺伝学 == | ||
[[image:自殺1.png|thumb|350px|'''図1.自殺行動のストレスー素因モデル'''<br>(Mann JJ, 2003 9) より改変)]] | |||
家族研究、双生児研究、養子研究により、自殺には遺伝的要因が関与することが示されている。これまでの研究から、自殺行動の致死性が高いほど、すなわち自殺念慮から自殺既遂へと致死性が高くなるほど、遺伝的要因も強くなることが示されている(1)。家族研究では自殺者および非自殺者の血縁者における自殺傾性を比較するが、対象や評価方法、解析方法等の問題はあるものの、自殺者の家族では対照者と比べて自殺行動をとる危険性が高くなると報告されている(2)。また、双生児研究では、自殺関連行動の一卵性双生児における一致率は、二卵性双生児のそれよりも有意に高い(24.1% vs 2.8%)ことがメタ解析で報告されている(3)。さらに養子研究では、自殺の遺伝負因を持つ養子は負因を持たない養子に比べて自殺率が高いと報告されている(4)。自殺行動の水準を、自殺念慮から致死的な自殺企図まで幅をもたせて設定すると、自殺行動の遺伝性(heritability)は30-55%と推測されており、それらは精神疾患の有無から独立した遺伝性として同定される(2)。 | 家族研究、双生児研究、養子研究により、自殺には遺伝的要因が関与することが示されている。これまでの研究から、自殺行動の致死性が高いほど、すなわち自殺念慮から自殺既遂へと致死性が高くなるほど、遺伝的要因も強くなることが示されている(1)。家族研究では自殺者および非自殺者の血縁者における自殺傾性を比較するが、対象や評価方法、解析方法等の問題はあるものの、自殺者の家族では対照者と比べて自殺行動をとる危険性が高くなると報告されている(2)。また、双生児研究では、自殺関連行動の一卵性双生児における一致率は、二卵性双生児のそれよりも有意に高い(24.1% vs 2.8%)ことがメタ解析で報告されている(3)。さらに養子研究では、自殺の遺伝負因を持つ養子は負因を持たない養子に比べて自殺率が高いと報告されている(4)。自殺行動の水準を、自殺念慮から致死的な自殺企図まで幅をもたせて設定すると、自殺行動の遺伝性(heritability)は30-55%と推測されており、それらは精神疾患の有無から独立した遺伝性として同定される(2)。 | ||
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[[ヒト]]ゲノム上には多くの遺伝子多型が存在し、自殺行動に関わる遺伝的な背景に関与すると考えられている。これらの自殺への感受性を担う遺伝子多型は世代間で伝達され、自殺傾性の遺伝的要因となりうる。どの遺伝子多型が自殺行動への重要な遺伝要因であるか、個別の多型について自殺行動への関与を調べる遺伝子相関研究がこれまでに数多くおこなわれてきた。しかしながら、従来の遺伝子相関研究では一度に検討できる遺伝子多型数が限られていたことや、他の精神疾患同様、個々の多型が自殺に及ぼす影響は大きくないと考えられることもあり、これまでのところ自殺の遺伝要因と定義できる明確な遺伝子多型は同定されていない。近年、目覚ましい遺伝子工学の発展に伴い、ヒトがもつすべての遺伝子についての網羅的[[検索]]を可能にする全遺伝子相関研究genome-wide association study (GWAS) が利用可能となっていることから、その技術を自殺の遺伝子研究に用いる試みが現在始まっている(5,6,7)。一方では、こうした親から子へと直接的に伝わる遺伝的要因に加え、[[エピジェネティック]]な機構を通じて人生早期のライフイベント(過酷な養育環境など)が遺伝子発現に変化をもたらすことも、自殺に至る生物学的背景になると考えられている(8)。こういった自殺に至る素因を背景に、精神疾患への罹患がリスクを高め、心的負荷となるライフイベントへの暴露といった急性のストレスが引き金となり、その帰結として自殺行動が引き起こされるとする「ストレス-素因モデル」が提唱されている(図1)(9)。 | [[ヒト]]ゲノム上には多くの遺伝子多型が存在し、自殺行動に関わる遺伝的な背景に関与すると考えられている。これらの自殺への感受性を担う遺伝子多型は世代間で伝達され、自殺傾性の遺伝的要因となりうる。どの遺伝子多型が自殺行動への重要な遺伝要因であるか、個別の多型について自殺行動への関与を調べる遺伝子相関研究がこれまでに数多くおこなわれてきた。しかしながら、従来の遺伝子相関研究では一度に検討できる遺伝子多型数が限られていたことや、他の精神疾患同様、個々の多型が自殺に及ぼす影響は大きくないと考えられることもあり、これまでのところ自殺の遺伝要因と定義できる明確な遺伝子多型は同定されていない。近年、目覚ましい遺伝子工学の発展に伴い、ヒトがもつすべての遺伝子についての網羅的[[検索]]を可能にする全遺伝子相関研究genome-wide association study (GWAS) が利用可能となっていることから、その技術を自殺の遺伝子研究に用いる試みが現在始まっている(5,6,7)。一方では、こうした親から子へと直接的に伝わる遺伝的要因に加え、[[エピジェネティック]]な機構を通じて人生早期のライフイベント(過酷な養育環境など)が遺伝子発現に変化をもたらすことも、自殺に至る生物学的背景になると考えられている(8)。こういった自殺に至る素因を背景に、精神疾患への罹患がリスクを高め、心的負荷となるライフイベントへの暴露といった急性のストレスが引き金となり、その帰結として自殺行動が引き起こされるとする「ストレス-素因モデル」が提唱されている(図1)(9)。 | ||
== 神経心理学 == | == 神経心理学 == | ||
自殺企図者もしくは自殺既遂者における衝動性・攻撃性の亢進が報告されており、特に若年者の自殺との関連が指摘されている(10)。また、うつ病や境界性パーソナリティ障害などの精神疾患に罹患していたとしても、衝動性・攻撃性が高い個人はより自殺のリスクが高いことが示されているように、背景となる精神疾患に関わらず、衝動性・攻撃性の高さは自殺行動につながりやすい(10)。さらに、衝動性や攻撃性の表出と考えられる怒りや暴力が、自殺行動と相関することも報告されている(11)。 | 自殺企図者もしくは自殺既遂者における衝動性・攻撃性の亢進が報告されており、特に若年者の自殺との関連が指摘されている(10)。また、うつ病や境界性パーソナリティ障害などの精神疾患に罹患していたとしても、衝動性・攻撃性が高い個人はより自殺のリスクが高いことが示されているように、背景となる精神疾患に関わらず、衝動性・攻撃性の高さは自殺行動につながりやすい(10)。さらに、衝動性や攻撃性の表出と考えられる怒りや暴力が、自殺行動と相関することも報告されている(11)。 |