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腸管神経系

56 バイト追加, 2015年10月28日 (水) 09:33
構成細胞
==はじめに==
 腸管神経系は消化管全域に存在する内在性の神経系であり、筋層間神経叢(Auerbach 腸管神経系は[[消化管]]全域に存在する内在性の神経系であり、筋層間神経叢(Auerbach's plexus or myenteric plexus)と粘膜下神経叢(Meissner's plexus or submucosal plexus)という2つの神経叢からなる。筋層間神経叢は縦走筋と輪走筋との間に存在し、粘膜下神経叢は[[wikipedia:ja:粘膜|粘膜]]と輪走筋との間の粘膜下組織に存在する。
 自律神経系の一部をなす腸管神経系は、[[wikipedia:ja:交感神経系|交感神経系]]や[[wikipedia:ja:副交感神経系|副交感神経系]]をはじめ、中枢神経系とも緊密に連絡しており、生体全体の生理的制御を行う中枢神経系と協調しながら、消化管における局所的制御を行っている。
 一方、腸管神経系は[[中枢神経系]]を介さずに消化管機能を制御できることから「第二の脳」とも呼ばれ、[[末梢神経系]]において局所的に自律機能を制御することのできる複雑な神経回路網を有している。すなわち、消化管における様々な物理的・化学的変化を検出し、その情報を統合し、出力を消化管[[wikipedia:ja:平滑筋|平滑筋]]や粘膜上皮などの各種効果器へ伝えることができる。消化管壁内に存在する腸管神経系は唯一、末梢神経系で[[反射弓]]を構成する神経系である。従って、消化管は[[副交感神経]]や[[交感神経]]などの外来神経の支配がなくとも、物理的・化学的刺激に応答して[[蠕動反射]]や[[wikipedia:ja:電解質|電解質]]・水分泌反射を誘発することができる。・水[[分泌]]反射を誘発することができる。
 本稿では腸管神経系の一般的な構造と主な機能について概説する。
[[image:腸管神経系2.png|thumb|300px|'''図2.小腸壁に存在する神経叢'''<br>(メルボルン大学 J.B Furness教授の好意により掲載)<br>A: 消化管壁の模式図<br>B:横断図]]
 腸管神経系は食道から肛門に及ぶ消化管と[[wikipedia:ja:膵臓|膵臓]]、[[wikipedia:ja:胆嚢|胆嚢]]や[[wikipedia:ja:胆道|胆道]]系の壁内に存在し、神経節と神経節間を結ぶ神経線維、および粘膜上皮や小動脈などの系の壁内に存在し、[[神経節]]と神経節間を結ぶ神経線維、および粘膜上皮や小動脈などの[[効果器]]へ投射する神経線維から成り立っている(図1)。[[ヒト]]の腸管神経系に存在する神経細胞の数は4億から6億に達し<ref name=ref1 />、他のどの末梢器官に存在する神経細胞の数より多く、[[脊髄]]に存在する神経細胞の総数に匹敵する。
 腸管神経節には[[神経細胞]]と[[グリア細胞]]が存在し、多くの点で中枢神経系の構造に類似している。しかしながら、腸管神経節には[[wikipedia:ja:結合組織|結合組織]]性の要素は存在せず、中枢神経系でみられる[[血液脳関門]]のような構造も存在しない<ref name=ref2><pubmed>22392290</pubmed></ref>。
===筋層間神経叢===
[[image:腸管神経系3.png|thumb|300px|'''図3.筋層間神経叢(写真)'''<br>モルモット遠位結腸縦走筋‐筋層間神経叢のホールマウント標本を蛍光免疫染色した。<br>A: 神経性NO 合成酵素(NOS)に対する特異的抗体を一次抗体とした。図中の白線は 合成酵素([[NOS]])に対する特異的抗体を一次抗体とした。図中の白線は 500 μm を意味する。<br>B: NOS (緑)と NPY (赤)の二重染色。NOS 陽性神経の細胞体と神経線維、NPY 陽性の神経膨隆部がみられる。図中の白線は 100 μm を意味する。
<ref name=ref3>'''唐木晋一郎、桑原厚和'''<br>大腸の腸管神経系 -腸管神経細胞の携帯・機能的分類と神経回路-<br>''Foods & Food Ingredients Journal of Japan'', 212(12):1044-1053, 2007.</ref>より引用]]
[[モルモット]]小腸での結果をまとめたもの(The Enteric Nervous System, John Barton Furness 2006から引用)。<br>
*小腸以外の場所で観察された神経。ACh,アセチルコリン(acetylcholine); BN,ボンベシン(bombesin); CCK, コレシストキニン(cholecystokinin); ChAT,コリンアセチルトランスフェラーゼ(choline acetyltransferase); CART,コカイン・アンフェタミン調節ペプチド[[コカイン]]・[[アンフェタミン]]調節ペプチド(cocaine and amphetamine-regulated transcript peptide); CGRP,カルシトニン遺伝子関連ペプチド(calcitonin gene-related peptide); CFR,副腎皮質刺激ホルモン放出因子(corticotrophin-releasing factor); ENK,エンケファリン(enkephalin); [[GABA]],γアミノ酪酸(γ amino butyric acid); GAL,ガラニン(galanin); GRP,ガストリン放出ペプチド(gastrin-releasing peptide); 5-HT,5-ヒドロキシトリプタミン(5-hydroxytryptamine); IB4,イソレクチンB4(isolectin B4); NeuNcyt, cytoplasmic immunoreactivity for neuronal nuclear protein NeuN; NFP,ニューロフィラメントたんぱく質(neurofilament protein); NK,ニューロキニン(neurokinin); NOS,[[一酸化窒素合成酵素]]([[nitric oxide synthase]]); NPT,神経ペプチドY[[神経ペプチド]]Y(neuropeptide Y); PACAP,脳下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド(pituitary adenylate cyclase activating peptide); SOM,ソマトスタチン(somatostatin); TK,タキキニン(tachykinin); VIP,血管作用性小腸ペプチド(vasoactive intestinal peptide)
===内在性一次求心性神経===
 内在性求心性神経はDogiel II型神経に分類され、消化管の機械的・化学的刺激を感知する感覚神経と考えられている。この神経の[[細胞体]]は円形あるいは卵円形(13-47 μm)で、筋層間神経叢及び粘膜下神経叢にある神経細胞の約10-15%を占める<ref name=ref8>'''Dogiel A.S.'''<br>Üeber den Bau der Ganglien in den Geflechten des Darmes und der Gallenblase des Menschen und der Säugethiere.<br>Arch. Anat. Physiol. Leip. Anat. Abt., 130-158, 1899.</ref>。この型の細胞は3~10本の[[樹状突起]]と1本の軸索を有していると報告されたが、現在では形態的・機能的研究からすべての突起は軸索であると考えられている<ref name=ref9>'''Stach W.'''<br>Zur neuronalen Organisation des Plexus myentericus (Auerbach) im Schweinedünndarm. II. Typ II-Neurone.<br>Z. Mikrosk. Anat. Forsch., 95(2): 161-182, 1981.</ref> <ref name=ref10><pubmed>10424871</pubmed></ref>(図6)。
 筋層間神経叢からの内在性一次求心性神経線維は粘膜下神経叢へも側枝を伸ばし、粘膜下神経叢に存在する内在性一次求心性神経と共に粘膜にも投射する。内在性一次求心性神経は後根神経節に存在する外来性一次求心性神経(extrinsic  筋層間神経叢からの内在性一次求心性神経線維は粘膜下神経叢へも側枝を伸ばし、粘膜下神経叢に存在する内在性一次求心性神経と共に粘膜にも投射する。内在性一次求心性神経は[[後根神経節]]に存在する外来性一次求心性神経(extrinsic primary afferent neuron)と特性が似ており、サブスタンスPや[[カルシトニン遺伝子関連ペプチド]]([[calcitonin gene-related peptide]]; [[CGRP]])を[[神経伝達物質]]とする。また、[[感覚神経]]としてばかりでなく、[[侵害受容器]]としても機能する<ref name=ref4 />。
 Digiel II型神経は電気生理学的分類における[[AH神経細胞]]とほぼ一致するので、[[AH/Type II神経細胞]]と呼ばれることが多い。AH 神経細胞の“AH”は、[[後過分極]] after-hyperpolarizing の頭文字であり、[[活動電位]]の発生後に数秒から数十秒にわたって続く、[[遅い後過分極]]が見られるのが特徴である(図5 AH)。通常、AH神経細胞の活動電位は[[脱分極]]刺激に反応して75-110 mVという大きな活動電位を1つしか発生しない<ref name=ref7 />。また、この神経細胞には速い[[興奮性シナプス後電位]](fast excitatory synaptic potential; fast EPSP)は発生せず、細胞体から記録される活動電位は、[[テトロドトキシン]]-感受性の[[Na+チャネル|Na<sup>+</sup>チャネル]]と非感受性の[[Ca2+チャネル|Ca<sup>2+</sup>チャネル]]を介した内向き電流からなるため、細胞体の活動電位はテトロドトキシン存在下でもCa<sup>2+</sup>電流のみで充分発生させることができる。これに対し、軸索から記録される活動電位はテトロドトキシンにより遮断されるので、テトロドトキシン感受性のNa<sup>+</sup>チャネルは軸索での伝導に関与することが考えられる。
===運動神経===
 消化管を構成する粘膜筋板、輪走筋および縦走筋は、興奮性と抑制性の神経支配を受けている。これらの運動神経は単一の軸索を持つS型の神経である。 消化管を構成する粘膜筋板、輪走筋および縦走筋は、[[興奮性]]と[[抑制性]]の神経支配を受けている。これらの運動神経は単一の軸索を持つS型の神経である。[[S神経細胞]]の“S”は synaptic の頭文字であり、近傍の神経線維束を電気刺激することによってfast EPSPが観察されることから命名された。
 S型神経は比較的高い入力抵抗を示し、脱分極刺激を行っている間は活動電位を発生するばかりでなく、20-100 ms程度の短い後過分極を伴う。また、この神経に発生する活動電位はテトロドトキシンにより抑制されるため、Na<sup>+</sup>チャネルによるものである(図5S)。さらに、S型神経細胞においてはfast EPSPの加重により活動電位を発生するが、slow EPSPも記録される。S型神経細胞の形状は様々であるが、全て軸索を1本のみ有する神経細胞でありDogiel II型には分類されない。従って、その機能は運動神経あるいは介在神経と考えられる。
 腸管神経叢の神経細胞や神経線維を支持している多数のグリア細胞はDogielにより1899年に初めて記載されたが<ref name=ref8 />、1970年代に電子顕微鏡レベルでの解析がなされるまで、その詳細については明らかにされなかった<ref name=ref22><pubmed>4335909</pubmed></ref> <ref name=ref23><pubmed>7219723</pubmed></ref>。しかしながら、ここ数年、腸管グリアに関しての形態的及び機能的知見が集積しはじめ、消化管機能との関連について注目が集まってきている。
 現在のところ、[[カルシウム]]結合タンパクである[[S100]]<ref name=ref24><pubmed>7043279</pubmed></ref>や[[glial fibrillary acidic protein]]([[GFAP]])<ref name=ref25><pubmed>6997753</pubmed></ref>および[[SOX8]]、[[SOX9]]あるいは[[SOX10]]<ref name=ref26><pubmed>18512230</pubmed></ref>などの[[転写因子]]を発現する細胞を腸管グリアと呼んでおり、電気生理学的特性が中枢神経系のアストログリアと極めて類似している<ref name=ref27><pubmed>10762619</pubmed></ref>。神経細胞よりわずかに多い腸管グリアは腸管神経叢ばかりでなく、粘膜の直下にある結合組織にも存在する。神経細胞よりわずかに多い腸管グリアは腸管神経叢ばかりでなく、粘膜の直下にある[[結合組織]]にも存在する<ref name=ref28><pubmed>22890111</pubmed></ref>。腸管グリア細胞はその形態的特徴と分布域から少なくとも4種類に区別することができる<ref name=ref28 />。
 粘膜直下に存在する腸管グリアはS100とGFAPを含んでおり、上皮細胞の[[分化]]やバリアー機能に重要な因子([[S-nitrosoglutathione]], [[15-deoxy-Δ-12,14-prostaglandin J2]](15-d-PGJ)、[[transforming growth factor β1]]、[[proepidermal growth factor]])を分泌する<ref name=ref28 />。腸管グリアと腸管神経細胞の連絡は[[connexin-43]]が関与する細胞内カルシウム濃度の上昇を介して行われる<ref name=ref29><pubmed>22426419</pubmed></ref> <ref name=ref30><pubmed>24211490</pubmed></ref>。腸管神経の保護や再生に関与している腸管グリア<ref name=ref31><pubmed>19906678</pubmed></ref> <ref name=ref32><pubmed>21865643</pubmed></ref>には、多くの神経伝達物質[[受容体]]や[[神経調節物質]]受容体も発現しているため、神経から放出される伝達物質にも反応する<ref name=ref29 /> <ref name=ref33><pubmed>19250649</pubmed></ref>。すなわち、腸管神経から放出されたATPが腸管グリア上の[[P2受容体]]に結合して腸管グリアを活性化させたり、腸管グリアの減少が消化管運動の減弱を引き起こす<ref name=ref34><pubmed>16236773</pubmed></ref>。

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