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==構造== | ==構造== | ||
SNAP-25およびSNAP-23はN末側およびC末側の2か所にSNAREモチーフを持っており、SNARE複合体形成時にはQcおよびQbの2本のへリックスを供出する<ref name=ref4 /> <ref name=ref15><pubmed>16038056</pubmed></ref> <ref name=ref16><pubmed>16912714</pubmed></ref> | SNAP-25およびSNAP-23はN末側およびC末側の2か所にSNAREモチーフを持っており、SNARE複合体形成時にはQcおよびQbの2本のへリックスを供出する<ref name=ref4 /> <ref name=ref15><pubmed>16038056</pubmed></ref> <ref name=ref16><pubmed>16912714</pubmed></ref>。SNAP-25結合タンパク質として[[Snapin]]が同定されている。[[線虫]](''[[C. elegans]]'' )を用いた研究ではSnapinはSNAP-25に結合してSNARE複合体を安定化させる役割を持つと考えられているが<ref name=ref32><pubmed>23469084</pubmed></ref>、SNAP-25上の結合部位は特定されていない。 | ||
===パルミトイル化=== | |||
シンタキシンやVAMP-2とは異なり細胞膜を貫通するへリックス構造は持っていないが、分子の中央部付近にパルミトイル化されたシステインクラスターを有しており、細胞膜に係留されている<ref name=ref2 /> <ref name=ref17><pubmed>8641455</pubmed></ref> <ref name=ref18><pubmed>10329400</pubmed></ref>。パルミトイル化はダイナミックに制御されており<ref name=ref19><pubmed>9349529</pubmed></ref>、パルミトイル化には[[パルミトイル化#S-パルミトイル化酵素の発見とその反応機構|DHHCファミリーS-パルミトイルアシル転移酵素遺伝子]]が、脱パルミトイル化には[[パルミトイル化#脱パルミトイル化酵素|タンパク質パルミトイルチオエステラーゼ1]]が関わっている<ref name=ref20><pubmed>20074052</pubmed></ref>。 | |||
===リン酸化=== | |||
またSer187が[[プロテインキナーゼC]]([[PKC]])によってリン酸化されるとシンタキシンとの結合が強まり、Ca<sup>2+</sup>非依存的なシナプトタグミン1との結合が低下する<ref name=ref25><pubmed>8662851</pubmed></ref> <ref name=ref26><pubmed>17325194</pubmed></ref>。SNAP-25は[[cAMP依存性タンパク質キナーゼ]]([[PKA]])によってもThr138がリン酸化されるが、この場合にはシンタキシンおよびシナプトタグミン1との結合はいずれも抑制される<ref name=ref26 />。[[セロトニン]]などの[[メタボリックレセプター]]が活性化されると、開口放出による神経伝達物質放出が抑制されることが知られている。活性化型[[Gタンパク質]]である[[Gβγ]]はSNAP-25と直接結合し、結合部位としてAsp99, Lys102, Arg198, Lys201を含む膜に近い部位と、Arg135、Arg136、Arg161、Arg142を含む2か所が同定され、セロトニンレセプターの活性化に伴う放出抑制にはC末端に近いArg198, Lys201へのGβγの結合が関与することが示されている<ref name=ref27><pubmed>22962332</pubmed></ref>。 | |||
===ボツリヌス毒素による分解=== | |||
SNAP-25のC末端付近のGln197-Arg198、Arg180-Ile181およびArg198-Ala199間の[[wj:ペプチド結合|ペプチド結合]]がA型(BoNT/A)、E型(BoNT/E)およびC型ボツリヌス毒素(BoNT/C)によって特異的に切断される。マウスのSNAP-23はBoNT/AやBoNT/Eで切断されるがヒトのSNAP-23は切断されない<ref name=ref21><pubmed>9886085</pubmed></ref>。SNAP-25がBoNT/Eで切断を受けると開口放出による神経伝達物質放出が抑制され、BoNT/AでC末が切断されると放出のCa<sup>2+</sup>依存性が変化する<ref name=ref22><pubmed>9295365</pubmed></ref> <ref name=ref23><pubmed>16020741</pubmed></ref>。これらのことからSNAP-25のC末端付近の構造はSNAP-25の機能にとって不可欠な役割を果たしていると考えられている。SNAP-25のC末端付近にあるArg198やLys201に変異を加えて正電荷を無くすと放出速度や放出頻度の低下が起こる<ref name=ref24><pubmed>25698757</pubmed></ref>。 | SNAP-25のC末端付近のGln197-Arg198、Arg180-Ile181およびArg198-Ala199間の[[wj:ペプチド結合|ペプチド結合]]がA型(BoNT/A)、E型(BoNT/E)およびC型ボツリヌス毒素(BoNT/C)によって特異的に切断される。マウスのSNAP-23はBoNT/AやBoNT/Eで切断されるがヒトのSNAP-23は切断されない<ref name=ref21><pubmed>9886085</pubmed></ref>。SNAP-25がBoNT/Eで切断を受けると開口放出による神経伝達物質放出が抑制され、BoNT/AでC末が切断されると放出のCa<sup>2+</sup>依存性が変化する<ref name=ref22><pubmed>9295365</pubmed></ref> <ref name=ref23><pubmed>16020741</pubmed></ref>。これらのことからSNAP-25のC末端付近の構造はSNAP-25の機能にとって不可欠な役割を果たしていると考えられている。SNAP-25のC末端付近にあるArg198やLys201に変異を加えて正電荷を無くすと放出速度や放出頻度の低下が起こる<ref name=ref24><pubmed>25698757</pubmed></ref>。 | ||
==発現== | ==発現== | ||
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SNAP-25はt-SNAREタンパク質として開口放出による[[神経伝達物質]]放出や水溶性[[ホルモン]]の分泌に不可欠な役割を果たしている<ref name=ref4 /> <ref name=ref15 /> <ref name=ref16 />。 | SNAP-25はt-SNAREタンパク質として開口放出による[[神経伝達物質]]放出や水溶性[[ホルモン]]の分泌に不可欠な役割を果たしている<ref name=ref4 /> <ref name=ref15 /> <ref name=ref16 />。 | ||
SNARE複合体形成に際しては、構成する4本のへリックスの中でQcおよびQbの2本のへリックスを供出する。SNAP-25がBoNT/Eで切断を受けると神経伝達物質放出が見られなくなることや<ref name=ref5 />、SNAP-25の[[KOマウス]]ではCa<sup>2+</sup>誘発性の神経伝達物質放出が見られないこと<ref name=ref6 />、SNAP-25とsyntaxinを組み込んだリポゾームをVAMP- | SNAREタンパク質による神経伝達物質放出はCa<sup>2+</sup>[[イオン]]によって誘発され、その場合のCa<sup>2+</sup>センサーとしてはシナプトタグミンが同定されている<ref name=ref28><pubmed>24183019</pubmed></ref>。シナプトタグミン1との結合部位としてAsp51, Glu52, Glu55<ref name=ref29><pubmed>16267273</pubmed></ref>およびAsp172, Asp179, Asp186, Asp193<ref name=ref30><pubmed>12062043</pubmed></ref>が同定されている。いずれも変異を加えると[[PC12細胞]]からの放出が抑制される。[[膜容量測定法|膜容量測定]]による時間分解能の良いアッセイではAsp51, Glu52, Glu55がCa<sup>2+</sup>依存性放出に必須でAsp172, Asp179, Asp186, Asp193はフュージョン誘発にあまり影響しないが、[[放出可能プール]](readily releasable pool)を少し減少させる ことが示されている<ref name=ref31><pubmed>24005294</pubmed></ref>。<u>編集部コメント:この段落は構造のところから移しました。</u> | ||
SNARE複合体形成に際しては、構成する4本のへリックスの中でQcおよびQbの2本のへリックスを供出する。SNAP-25がBoNT/Eで切断を受けると神経伝達物質放出が見られなくなることや<ref name=ref5 />、SNAP-25の[[KOマウス]]ではCa<sup>2+</sup>誘発性の神経伝達物質放出が見られないこと<ref name=ref6 />、SNAP-25とsyntaxinを組み込んだリポゾームをVAMP-2を組み込んだ[[リポゾーム]]を混ぜるとリポゾーム同士の[[膜融合]]が起こることなどから<ref name=ref33><pubmed>25997356</pubmed></ref>、SNAP-25は開口放出による神経伝達物質放出に必須なタンパク質であると結論されている。SNAP-25は内分泌細胞にも発現し、水溶性ホルモン分泌に不可欠な役割を果たしている。 | |||
開口放出は小胞内の内容物を放出する以外にも、小胞膜上のタンパク質を細胞膜に組み込んだり、細胞膜を伸長させたりする機能も持っている。SNAP- | 開口放出は小胞内の内容物を放出する以外にも、小胞膜上のタンパク質を細胞膜に組み込んだり、細胞膜を伸長させたりする機能も持っている。SNAP-25は[[電位依存性カルシウムチャネル]]や[[アクアポリン]]などのチャネルタンパク質や[[NMDA型グルタミン酸|NMDA型]]および[[AMPA型グルタミン酸]]レセプターなどの細胞膜への組み込みに関与していることが示されている<ref name=ref34><pubmed>11276228</pubmed></ref> <ref name=ref35><pubmed>11487629</pubmed></ref> <ref name=ref36><pubmed>17624753</pubmed></ref> <ref name=ref37><pubmed>18162553</pubmed></ref> <ref name=ref38><pubmed>19679075</pubmed></ref> <ref name=ref39><pubmed>20053906</pubmed></ref> <ref name=ref40><pubmed>20118925</pubmed></ref> <ref name=ref41><pubmed>25565955</pubmed></ref>。 | ||
さらにSNAP-25は[[成長円錐]]にも局在し、成長円錐の伸長に関わるほか<ref name=ref42><pubmed>19805073</pubmed></ref>、[[アダプタータンパク質]]である[[p140Cap]]と相互作用して[[ | さらにSNAP-25は[[成長円錐]]にも局在し、成長円錐の伸長に関わるほか<ref name=ref42><pubmed>19805073</pubmed></ref>、[[アダプタータンパク質]]である[[p140Cap]]と相互作用して[[樹状突起スパイン]]の形成にも関与することが示されている<ref name=ref43><pubmed>23868368</pubmed></ref>。しかしSNAP-25のノックアウトマウスでは、出生時に脳の構造に異常は認められないことから、これらの機能は出生後に起こる[[シナプス可塑性]]に関わっている可能性が高い。 | ||
SNAP-25は[[イオンチャネル]]の機能制御にも直接関わることも知られており、[[P/Q型カルシウムチャネル|P/Q型]]、[[N型カルシウムチャネル|N型]]および[[T型カルシウムチャネル]]などに結合し<ref name=ref44><pubmed>23060963</pubmed></ref>、不活性化の電位依存性をシフトさせたり<ref name=ref45><pubmed>11583809</pubmed></ref> <ref name=ref46><pubmed>15820397</pubmed></ref>[[カリウムチャネル]]機能の制御に関わることが示されている<ref name=ref47><pubmed>11910352</pubmed></ref> <ref name=ref48><pubmed>16478442</pubmed></ref> <ref name=ref49><pubmed>18192874</pubmed></ref>。 | SNAP-25は[[イオンチャネル]]の機能制御にも直接関わることも知られており、[[P/Q型カルシウムチャネル|P/Q型]]、[[N型カルシウムチャネル|N型]]および[[T型カルシウムチャネル]]などに結合し<ref name=ref44><pubmed>23060963</pubmed></ref>、不活性化の電位依存性をシフトさせたり<ref name=ref45><pubmed>11583809</pubmed></ref> <ref name=ref46><pubmed>15820397</pubmed></ref>[[カリウムチャネル]]機能の制御に関わることが示されている<ref name=ref47><pubmed>11910352</pubmed></ref> <ref name=ref48><pubmed>16478442</pubmed></ref> <ref name=ref49><pubmed>18192874</pubmed></ref>。 | ||
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SNAP-25の3' 側および5’側の非翻訳領域の1塩基変異が、[[注意欠陥・多動性障害]]([[ADHD]])と関連があることが統計学的解析から示されている<ref name=ref50><pubmed>16961425</pubmed></ref> <ref name=ref51><pubmed>20599404</pubmed></ref> <ref name=ref52><pubmed>25395980</pubmed></ref>。 | SNAP-25の3' 側および5’側の非翻訳領域の1塩基変異が、[[注意欠陥・多動性障害]]([[ADHD]])と関連があることが統計学的解析から示されている<ref name=ref50><pubmed>16961425</pubmed></ref> <ref name=ref51><pubmed>20599404</pubmed></ref> <ref name=ref52><pubmed>25395980</pubmed></ref>。 | ||
SNAP-25を含む領域の[[染色体]]欠失を起こした自然発症のColobomaマウスはSNAP-25の発現が半減し多動性を示す<ref name=ref53><pubmed>10654661</pubmed></ref>。しかしSNAP-25のノックアウトマウスのヘテロ接合体はSNAP-25の発現量が半減しているが多動は示さないことから<ref name=ref6 />、多動性の発現はSNAP-25の発現低下のみに起因するものではないと考えられる。3' | SNAP-25を含む領域の[[染色体]]欠失を起こした自然発症のColobomaマウスはSNAP-25の発現が半減し多動性を示す<ref name=ref53><pubmed>10654661</pubmed></ref>。しかしSNAP-25のノックアウトマウスのヘテロ接合体はSNAP-25の発現量が半減しているが多動は示さないことから<ref name=ref6 />、多動性の発現はSNAP-25の発現低下のみに起因するものではないと考えられる。3' 側あるいは5’側の[[非翻訳領域]]の[[一塩基多型|一塩基変異]]が[[線維筋痛症]]患者で見られる精神症状や<ref name=ref54><pubmed>24885975</pubmed></ref>、ADHD患者などで見られる[[衝動性]]にも関連が見出されている<ref name=ref55><pubmed>24391914</pubmed></ref>。さらに健常人の[[気質]]に関してもSNAP-25の[[一塩基多型]]との相関が見られる<ref name=ref56><pubmed>20333500</pubmed></ref>。 | ||
非翻訳領域の変異の一部はSNAP-25の発現低下を引き起こして表現型を表している可能性がある<ref name=ref57><pubmed>23593184</pubmed></ref>。[[統合失調症]]や[[躁病]]患者の脳では、[[前頭皮質]]や[[海馬]]の異なる部域でSNAP-25の発現低下が見られる<ref name=ref58><pubmed>9513732</pubmed></ref> <ref name=ref59><pubmed>12691775</pubmed></ref> <ref name=ref60><pubmed>11711867</pubmed></ref>。脳血管性認知症の脳でSNAP-25の量が低下している<ref name=ref61><pubmed>25559750</pubmed></ref>。[[自閉症]]患者の認知機能の低下にSNAP-25の発現低下が関係している<ref name=ref62><pubmed>25629685</pubmed></ref>。 | 非翻訳領域の変異の一部はSNAP-25の発現低下を引き起こして表現型を表している可能性がある<ref name=ref57><pubmed>23593184</pubmed></ref>。[[統合失調症]]や[[躁病]]患者の脳では、[[前頭皮質]]や[[海馬]]の異なる部域でSNAP-25の発現低下が見られる<ref name=ref58><pubmed>9513732</pubmed></ref> <ref name=ref59><pubmed>12691775</pubmed></ref> <ref name=ref60><pubmed>11711867</pubmed></ref>。脳血管性認知症の脳でSNAP-25の量が低下している<ref name=ref61><pubmed>25559750</pubmed></ref>。[[自閉症]]患者の認知機能の低下にSNAP-25の発現低下が関係している<ref name=ref62><pubmed>25629685</pubmed></ref>。 | ||
SNAP-25KOマウスのヘテロ接合体では、重篤ではないが[[脳波]]に異常発火が見られる<ref name=ref63><pubmed>23064108</pubmed></ref>。SNAP-25bをSNAP-25aに置き換えたマウス<ref name=ref64><pubmed>19043548</pubmed></ref>やリン酸化部位に変異を加えたマウスでは<ref name=ref65><pubmed>26220374</pubmed></ref>SNAP-25の発現低下と機能低下が起こっているが、生後3週くらいから[[てんかん]]発作を多発するようになる。重篤な全身発作を多発するヒトの患者でVal48がPheに変異していることが見出されている<ref name=ref66><pubmed>25003006</pubmed></ref>。いずれの場合も、てんかん発症がSNAP-25のどのような機能の異常に起因しているかは明らかではない。 | SNAP-25KOマウスのヘテロ接合体では、重篤ではないが[[脳波]]に異常発火が見られる<ref name=ref63><pubmed>23064108</pubmed></ref>。SNAP-25bをSNAP-25aに置き換えたマウス<ref name=ref64><pubmed>19043548</pubmed></ref>やリン酸化部位に変異を加えたマウスでは<ref name=ref65><pubmed>26220374</pubmed></ref>SNAP-25の発現低下と機能低下が起こっているが、生後3週くらいから[[てんかん]]発作を多発するようになる。重篤な全身発作を多発するヒトの患者でVal48がPheに変異していることが見出されている<ref name=ref66><pubmed>25003006</pubmed></ref>。いずれの場合も、てんかん発症がSNAP-25のどのような機能の異常に起因しているかは明らかではない。 | ||
==関連項目== | |||
* [[SNARE複合体]] | |||
* [[シナプトブレビン]] | |||
* [[シンタキシン]] | |||
* [[シナプトタグミン]] | |||
* [[膜融合]] | |||
* [[シナプス小胞]] | |||
* [[神経伝達物質]] | |||
==参考文献== | ==参考文献== | ||
<references /> | <references /> |