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<font size="+1">湯本 洋介、樋口 進</font><br> | <font size="+1">湯本 洋介、樋口 進</font><br> | ||
''独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター''<br> | ''独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター''<br> | ||
DOI:<selfdoi /> | DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2016年3月25日 原稿完成日:2016年4月12日<br> | ||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/tadafumikato 加藤 忠史](国立研究開発法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br> | 担当編集委員:[http://researchmap.jp/tadafumikato 加藤 忠史](国立研究開発法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br> | ||
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アルコールは[[感覚]]、[[知能]]、[[wj:循環器|循環]]、[[消化管|消化]]、[[wj:代謝|代謝]]、[[運動]]にかかわる器官のほぼ全てに影響を与える。そのため、飲酒の制御困難による大量飲酒は、様々な機能障害を起こす。WHOによれば、アルコールは60以上もの疾患の原因になると言われている。代表的なものを挙げると、[[肝臓障害]]、[[膵炎]]、[[糖尿病]]、[[痛風]]、[[消化管出血]]、[[癌]]、[[脳萎縮]]、[[wj:骨粗鬆症|骨粗鬆症]]、[[wj:大腿骨頭壊死|大腿骨頭壊死]]など多くの臓器に渡ってその影響が出る。 | アルコールは[[感覚]]、[[知能]]、[[wj:循環器|循環]]、[[消化管|消化]]、[[wj:代謝|代謝]]、[[運動]]にかかわる器官のほぼ全てに影響を与える。そのため、飲酒の制御困難による大量飲酒は、様々な機能障害を起こす。WHOによれば、アルコールは60以上もの疾患の原因になると言われている。代表的なものを挙げると、[[肝臓障害]]、[[膵炎]]、[[糖尿病]]、[[痛風]]、[[消化管出血]]、[[癌]]、[[脳萎縮]]、[[wj:骨粗鬆症|骨粗鬆症]]、[[wj:大腿骨頭壊死|大腿骨頭壊死]]など多くの臓器に渡ってその影響が出る。 | ||
以上のような身体面への影響だけではない。以下に精神面への影響について述べる。健常者に対する飲酒実験によると、10名の健常者を対象に、2時間ごとに飲酒を行う(24時間で最大25ドリンクまでの上限)実験を連日続けた結果、全員が[[抑うつ症状]]を認め、4名が最初の1週間で[[希死念慮]]を認めたため実験が中止になり、飲酒を中止したところ、抑うつ症状は改善したとの報告がある<ref><pubmed> | 以上のような身体面への影響だけではない。以下に精神面への影響について述べる。健常者に対する飲酒実験によると、10名の健常者を対象に、2時間ごとに飲酒を行う(24時間で最大25ドリンクまでの上限)実験を連日続けた結果、全員が[[抑うつ症状]]を認め、4名が最初の1週間で[[希死念慮]]を認めたため実験が中止になり、飲酒を中止したところ、抑うつ症状は改善したとの報告がある<ref><pubmed>14372008</pubmed></ref>。したがって大量飲酒は一過性の抑うつ症状を引き起こすことがあり、連続飲酒に陥っているアルコール依存症者は抑うつ症状を伴うことがしばしばある。またアルコール依存症の既往がある者では、ない者に比べて、[[大うつ病性障害]]を発症する危険性は4倍高いとする報告があり<ref><pubmed>2232018</pubmed></ref>、アルコール依存症は、将来の[[うつ病]]発症リスクに関連する可能性がある。 | ||
アルコール依存症が[[自殺]]や[[自殺企図]]のリスク因子であることも多くの研究から確認されている。アルコール依存症、[[気分障害]]、[[統合失調症]]で自殺の生涯リスクを比較した研究によるとアルコール依存症で7%、気分障害で6%、[[統合失調症]]で4%と推計されており、アルコール依存症は気分障害より自殺のリスクが高いとされる<ref><pubmed>9534829</pubmed></ref>。また、入院治療を受けたアルコール依存症の国内調査では、アルコール依存症群は一般人口に比べて男性で約9倍、女性で35倍高い自殺の危険があるという研究結果がある<ref><pubmed>3435274</pubmed></ref>。 | アルコール依存症が[[自殺]]や[[自殺企図]]のリスク因子であることも多くの研究から確認されている。アルコール依存症、[[気分障害]]、[[統合失調症]]で自殺の生涯リスクを比較した研究によるとアルコール依存症で7%、気分障害で6%、[[統合失調症]]で4%と推計されており、アルコール依存症は気分障害より自殺のリスクが高いとされる<ref><pubmed>9534829</pubmed></ref>。また、入院治療を受けたアルコール依存症の国内調査では、アルコール依存症群は一般人口に比べて男性で約9倍、女性で35倍高い自殺の危険があるという研究結果がある<ref><pubmed>3435274</pubmed></ref>。 | ||
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治療目標の設定は、断酒を原則とすることが通常である。米国APA(American Psychiatric Association)の治療ガイドラインによれば、断酒継続が最も長期間の良好なアウトカムを示すと記述されている。一方でコントロール使用を希望する患者が多くいるのも事実であるが、物質使用障害の患者がコントロール使用を選択するのは非現実的であり、治療者はアルコールを摂取し続けることの悪い結果を患者と共有し、長期間の断酒がもっともよい治療の選択肢であるという認識を共有していくべきであるとされている<ref>'''American Psychiatric Association'''<br>Practice guideline for the Treatment of Patients with Substance Use Disorders<br>Second Edition. 2006. US [http://psychiatryonline.org/pb/assets/raw/sitewide/practice_guidelines/guidelines/substanceuse.pdf PDF]</ref>。 | 治療目標の設定は、断酒を原則とすることが通常である。米国APA(American Psychiatric Association)の治療ガイドラインによれば、断酒継続が最も長期間の良好なアウトカムを示すと記述されている。一方でコントロール使用を希望する患者が多くいるのも事実であるが、物質使用障害の患者がコントロール使用を選択するのは非現実的であり、治療者はアルコールを摂取し続けることの悪い結果を患者と共有し、長期間の断酒がもっともよい治療の選択肢であるという認識を共有していくべきであるとされている<ref>'''American Psychiatric Association'''<br>Practice guideline for the Treatment of Patients with Substance Use Disorders<br>Second Edition. 2006. US [http://psychiatryonline.org/pb/assets/raw/sitewide/practice_guidelines/guidelines/substanceuse.pdf PDF]</ref>。 | ||
また、英国国立医療技術評価機構NICE(National institute for Health and Care | また、英国国立医療技術評価機構NICE(National institute for Health and Care Excellence)の治療ガイドラインでは、アルコール依存、または何らかの精神的あるいは身体的合併症のあるアルコール使用障害には断酒をすすめるべきであるとされている。患者が節酒を望む場合には断酒が最も適切な目標であることを強くすすめる。しかし、断酒をゴールとしないからと言って治療を拒んではならない。断酒を目標に考えていない患者には、ひとまず減酒を提案するなど、飲酒によって被る害を減らすことに注目したケアを行ってもよい。しかし、それは断酒を見据えてのものでなければならないとされている<ref>'''National Institute for Health and Care Excellence'''<br>Alcohol Use Disorders<br>Diagnosis and Assessment and Management of Harmful Drinking and Alcohol Dependence<br>2011. UK [https://www.nice.org.uk/guidance/cg115 URL]</ref>。 | ||
=== 離脱症状のコントロール === | === 離脱症状のコントロール === |