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このような手法は、人間を対象に様々な脳イメージング技術をつかって行うのが最も一般的であるが(Tong, Meng, & Blake, 2006)、サルなどのモデル動物でも実験を行うことができる。ドイツのLogothetis らは1980年代以降、両眼視野闘争や関連する視覚イリュージョン中に、サルに彼らの経験を報告させる訓練に成功し、そのような視覚経験中の神経活動記録に成功している。(図2)。 | このような手法は、人間を対象に様々な脳イメージング技術をつかって行うのが最も一般的であるが(Tong, Meng, & Blake, 2006)、サルなどのモデル動物でも実験を行うことができる。ドイツのLogothetis らは1980年代以降、両眼視野闘争や関連する視覚イリュージョン中に、サルに彼らの経験を報告させる訓練に成功し、そのような視覚経験中の神経活動記録に成功している。(図2)。 | ||
===意識と無意識=== | |||
意識研究は無意識研究と対になって発展してきた。無意識研究で扱われるのは、脳内の処理の中には意識にのぼらない処理があるのはなぜなのか、という問題である。 | |||
意識にのぼらない神経活動の最たるものは、小脳の脳活動だ。小脳には、約800億個ものニューロンがある。これは、大脳−視床システムの約200億個に比べて4倍もの数である。しかし、小脳は、たとえば癌などの症状によって、全摘出手術を受けたとしても、患者の意識レベル・意識の内容にほとんど影響を与えない。他にも、大脳基底核による複雑な運動制御、網膜などの感覚入力、運動野や脊髄による筋肉のコントロール、なども意識にのぼらない(Massimini & Tononi)。 | |||
大脳-視床システムの活動においても、意識にのぼらないものが詳しく研究されてきている。そのような研究では、バックワード・マスキング(Breitmeyer & Ogmen, 2007)や連続フラッシュ抑制(N. Tsuchiya & Koch, 2005)などの手法をつかって、感覚入力刺激が網膜に呈示されているにも関わらず、それが意識にのぼらない、という状況をつくりだし、その時に生じている脳活動の特徴が、脳イメージングや神経活動記録によって調べられている。また、心理学的な研究により、無意識に処理される脳活動が、実際に行動に影響を与えることができるか、与えるとすればどのような影響なのかなどが研究されている。 | |||
このような無意識研究は、意識にのぼる活動だけがサポートできる機能とはなにか、という問いに答えるための実証的な方法を提供する。過去には、複雑なプロセスは、一般に無意識処理ではできないとされてきた。しかし、近年、短期的でフレキシブルな記憶(Soto & Silvanto, 2014)や学習(Raio, Carmel, Carrasco, & Phelps, 2012)、注意を向ける・惹きつける(Koch & Tsuchiya, 2007)、高度に抽象的な言語・計算処理等(Sklar et al., 2012)も、無意識の処理で可能だということが示されている(Kouider & Dehaene, 2007 ; Mudrik, Breska, Lamy, & Deouell, 2011 )。ただし、ほとんどの場合、無意識処理が行動に与える影響は、意識処理に比べて効果が弱く、時間的にも持続しない。 | |||
===意識と関連する認知機能=== | |||
NCC研究が盛んになるにつれ、意識の内容についての概念の整理や定義の洗練化がすすんだ。特に近年、意識と関連する認知機能と意識そのものとの関係性がより深く議論されるようになり、操作的な定義をもとにさまざまな実証実験が行われるようになっている。 | |||
意識に関係する概念を整理するのに重要なのは、哲学者Ned Block が提唱した「アクセス意識(access consciousness)」と「現象的意識(phenomenal consciousness)」という区別である(Block, 2005)。アクセス意識は、報告できる意識内容のことであり、その内容は短期的に記憶に保持され、意図的な行動の計画に使われる。現象的意識は、「クオリア」のことであり、意識内容を報告できるかどうかは関係がない。たとえば、読者がこのページを読んでいる現在、直接に読んでいる注視点の付近の単語は意識にのぼっており、アクセス可能であるが、注視点周辺では、文字らしきものが意識にはのぼっているが、それがどのような文字であるかを報告することはできない。そのような文字は現象的には意識にのぼっているが、アクセスができない状態にあると考えることもできる。 | |||
現在の意識研究者の間でも、脳科学はアクセス意識に集中して研究すべきだと考える研究者(Cohen & Dennett, 2011; S. Dehaene, 2015)と、脳科学が真に研究すべきは現象的意識の方であると考える研究者(N Tsuchiya, Wilke, Frässle, & Lamme, 2015)に分かれている。注意と意識の関係性については(Cohen et al., 2012; N. Tsuchiya & Koch, 2015)を参照。作業記憶と意識については(Soto & Silvanto, 2014)を参照。報告と意識については(Aru, Bachmann, Singer, & Melloni, 2012; N Tsuchiya et al., 2015)を参照。 |