「パーソナリティ障害」の版間の差分

ナビゲーションに移動 検索に移動
編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
22行目: 22行目:
 現代に通じるパーソナリティ障害概念を最初に規定したのはSchneider, K.であった<ref name=ref2>'''Schneider K.'''<br>Die Psychopathischen Persönlichkeiten.<br>''Wien: Franz Deuticke''; 1923<br>'''懸田克躬他訳'''<br>精神病質人格<br>''みすず書房''、 東京、 1954</ref>。Schneider, K.は、異常パーソナリティ(abnorme Persönlichkeit)を平均的なパーソナリティからの偏位として規定し、さらにその一部として、「そのパーソナリティの異常さのゆえに自らが悩む(leiden)か、または、社会が苦しむ(を苦しませる(stören))異常」を精神病質パーソナリティと定義した。
 現代に通じるパーソナリティ障害概念を最初に規定したのはSchneider, K.であった<ref name=ref2>'''Schneider K.'''<br>Die Psychopathischen Persönlichkeiten.<br>''Wien: Franz Deuticke''; 1923<br>'''懸田克躬他訳'''<br>精神病質人格<br>''みすず書房''、 東京、 1954</ref>。Schneider, K.は、異常パーソナリティ(abnorme Persönlichkeit)を平均的なパーソナリティからの偏位として規定し、さらにその一部として、「そのパーソナリティの異常さのゆえに自らが悩む(leiden)か、または、社会が苦しむ(を苦しませる(stören))異常」を精神病質パーソナリティと定義した。


 パーソナリティ障害はその後、[[wj:世界保健機構|世界保健機構]](World Health Organization (WHO))の国際疾病分類第6版(The international classification of diseases, 6th revision (ICD-6))(1948)や、APAのDSM-I (1952)以降、当時広く使われていたパーソナリティ障害のタイプを包括する診断として取り上げられるようになった。
 パーソナリティ障害はその後、[[wj:世界保健機構|世界保健機構]](World Health Organization (WHO))の国際疾病分類第6版(The international classification of diseases, 6th revision (ICD-6))(1948)や、APAのDSM-I (1952)以降、当時広く使われていたパーソナリティ障害のタイプを包括する診断として取り上げられるようになった。


===DSM-IIIの変革とその後===
===DSM-IIIの変革とその後===
36行目: 36行目:


====ディメンショナルモデルの提唱====
====ディメンショナルモデルの提唱====
 元々パーソナリティ心理学では、[[因子分析]]などの統計学的方法を使って信頼性の高いパーソナリティ傾向のディメンショナルな評価が確立されていた。他方、パーソナリティ障害の診断では、DSM-IIIの多神論的記述的症候論モデルが導入されても、まだ信頼性が他の精神障害のレベルに達しないなどの問題点が残されていた。それは、当時[[ICD-10]] (1992)<ref name=ref4>'''World Health Organization (WHO)'''<br>The ICD-10 Classification of Mental and Behavioural Disorders. Clinical Descriptions and Diagnostical Guidlines.<br>''Geneva: WHO''; 1992<br>'''融道男、中根允文、小見山実、他'''  監訳 <br>ICD-10 精神および行動の障害:臨床記述と診断ガイドライン、新訂版<br>''医学書院''、2005</ref>やDSM-III-R (1987)で採用されていたカテゴリカルモデルによる診断が原因だと主張されていた。そこで、[[DSM-IV]]<ref name=ref5>'''American Psychiatric Association'''<br>Diagnostic and statistical manual of mental disorders, Fourth Edition (DSM-IV)<br>''Washington DC: American Psychiatric Association''; 1994<br>'''髙橋三郎、大野裕、染矢俊幸'''監訳<br>DSM-IV精神疾患の診断・統計マニュアル<br>''医学書院、東京''、1996</ref>では、これへの対策として、Widigerら(1996)の見解に基づいて、DSMの新版でのディメンショナルモデルの導入が提唱された。
 元々パーソナリティ心理学では、[[因子分析]]などの統計学的方法を使って信頼性の高いパーソナリティ傾向のディメンショナルな評価が確立されていた。他方、パーソナリティ障害の診断では、DSM-IIIの多神論的記述的症候論モデルが導入されても、まだ信頼性が他の精神障害のレベルに達しないなどの問題点が残されていた。それは、当時[[ICD-10]] (1992)<ref name=ref4>'''World Health Organization (WHO)'''<br>The ICD-10 Classification of Mental and Behavioural Disorders. Clinical Descriptions and Diagnostical Guidlines.<br>''Geneva: WHO''; 1992<br>'''融道男、中根允文、小見山実、他'''  監訳 <br>ICD-10 精神および行動の障害:臨床記述と診断ガイドライン、新訂版<br>''医学書院''、2005</ref>やDSM-III-R (1987)で採用されていたカテゴリカルモデルによる診断が原因だと主張されていた。そこで、[[DSM-IV]]<ref name=ref5>'''American Psychiatric Association'''<br>Diagnostic and statistical manual of mental disorders, Fourth Edition (DSM-IV)<br>''Washington DC: American Psychiatric Association''; 1994<br>'''髙橋三郎、大野裕、染矢俊幸'''監訳<br>DSM-IV精神疾患の診断・統計マニュアル<br>''医学書院、東京''、1996</ref>では、これへの対策として、Widigerら<ref><pubmed> 8666708</pubmed></ref>の見解に基づいて、DSMの新版でのディメンショナルモデルの導入が提唱された。


 その後、Costa, P.T. & McCrae, R.R.の主要5因子モデル(Five Factor Model(1990))から発展した5次元モデルや、Trull, T.J.ら(2007)による4次元モデルなどの診断モデルの検討が進められた。
 その後、Costa, P.T. & McCrae, R.R.の主要5因子モデル(Five Factor Model<ref>'''McCrae. R. R., & Costa, P. T.. Jr.'''<br>Personality' in adulthood<br>''New York: Guilford.'', 1990</ref>)から発展した5次元モデルや、Trull T.J.らによる4次元モデル<ref><pubmed>17324033</pubmed></ref>などの診断モデルの検討が進められた。


==現在のパーソナリティ障害の概念・定義==
==現在のパーソナリティ障害の概念・定義==
74行目: 74行目:
|+表1. DSM-5代替診断基準で規定されているパーソナリティ機能の4領域
|+表1. DSM-5代替診断基準で規定されているパーソナリティ機能の4領域
|-
|-
|colspan="2" style="text-align:center" |パーソナリティ機能の領域
|colspan="2" style="text-align:center" |'''パーソナリティ機能の領域'''||style="text-align:center"|'''説明'''
|style="text-align:center" |説明
|-
|-
|rowspan="2" |自己機能   
|rowspan="2" |'''自己機能'''  
|同一性<br>(Identity)
|'''同一性<br>(Identity)'''
|自己と他者との明瞭な境界をもって唯一の存在としての自己を体験すること;<br>自尊心の安定性と自己評価の正確さ;幅広い感情を体験し制御する能力
|自己と他者との明瞭な境界をもって唯一の存在としての自己を体験すること;<br>自尊心の安定性と自己評価の正確さ;幅広い感情を体験し制御する能力
|-
|-
|自己志向性<br>(Self-direction)
|'''自己志向性<br>(Self-direction)'''
|一貫した有意義な短期および人生の目標の追求;建設的で向社会的な行動規範を利用すること;<br>生産的に内省する能力
|一貫した有意義な短期および人生の目標の追求;建設的で向社会的な行動規範を利用すること;<br>生産的に内省する能力
|-
|-
|rowspan="2" |対人関係機能
|rowspan="2" |'''対人関係機能'''
|共感性<br>(Empathy)
|'''共感性<br>(Empathy)'''
|他者の体験と動機の理解と尊重;異なる見方の容認;自分自身の行動が他者に与える影響の理解
|他者の体験と動機の理解と尊重;異なる見方の容認;自分自身の行動が他者に与える影響の理解
|-
|-
|親密さ<br>(Intimacy)
|'''親密さ<br>(Intimacy)'''
|他者との関係の深さと持続;親密さに対する欲求および適応力;対人行動に反映される配慮の相互性
|他者との関係の深さと持続;親密さに対する欲求および適応力;対人行動に反映される配慮の相互性
|-
|-
101行目: 100行目:
|-
|-
|
|
|style="text-align:center" |説明
|style="text-align:center" |'''説明'''||style="text-align:center"|'''特性側面'''
|style="text-align:center" |特性側面
|-
|-
|否定的感情 (vs 感情安定)
|'''否定的感情 (vs 感情安定)'''
|[[不安]]、[[抑うつ]]、[[罪悪感]]、[[羞恥心]]、[[怒り]]といった否定的感情が広範囲で高度である。さらにそれに基づく自傷行為などの行動や依存などの対人関係が見られる。
|[[不安]]、[[抑うつ]]、[[罪悪感]]、[[羞恥心]]、[[怒り]]といった否定的感情が広範囲で高度である。さらにそれに基づく自傷行為などの行動や依存などの対人関係が見られる。
|[[不安傾向]]、[[分離不安]]、従順さ、敵意、[[固執]]、[[抑うつ傾向]]、[[猜疑心]]、[[感情不安定]](制限された感情の欠如)
|[[不安傾向]]、[[分離不安]]、従順さ、敵意、[[固執]]、[[抑うつ傾向]]、[[猜疑心]]、[[感情不安定]](制限された感情の欠如)
|-
|-
|離脱 (vs 外向性)
|'''離脱 (vs 外向性)'''
|社会的感情的関わりの忌避。引きこもる、楽しみなどの感情体験を避ける。
|社会的感情的関わりの忌避。引きこもる、楽しみなどの感情体験を避ける。
|親密さ回避、[[アンヘドニア]]、抑うつ傾向、制限された感情、猜疑心
|親密さ回避、[[アンヘドニア]]、抑うつ傾向、制限された感情、猜疑心
|-
|-
|対立 (vs 協調)
|'''対立 (vs 協調)'''
|自己イメージが尊大で、自分に特別な取り計らいを求める、他者に嫌悪感・反感を抱く、他者に配慮せず他者を自分のために利用する。
|自己イメージが尊大で、自分に特別な取り計らいを求める、他者に嫌悪感・反感を抱く、他者に配慮せず他者を自分のために利用する。
|[[虚偽性]]、[[誇大性]]、[[注意喚起]]、[[冷淡]]、[[敵意]]
|[[虚偽性]]、[[誇大性]]、[[注意喚起]]、[[冷淡]]、[[敵意]]
|-
|-
|[[脱抑制]] (vs 誠実性)
|'''[[脱抑制]] (vs 誠実性)'''
|直接的に欲求の充足を求めて、その場の考えや感情、状況からの刺激に反応して衝動的な行動に走る。
|直接的に欲求の充足を求めて、その場の考えや感情、状況からの刺激に反応して衝動的な行動に走る。
|衝動性、[[転導性]]、無謀さ、硬直した完璧主義(の欠如)
|衝動性、[[転導性]]、無謀さ、硬直した完璧主義(の欠如)
|-
|-
|精神病性 (vs 明晰性)
|'''精神病性 (vs 明晰性)'''
|文化にそぐわない奇妙な、普通でない行動や認知を示す。
|文化にそぐわない奇妙な、普通でない行動や認知を示す。
|奇妙さ、認知と知覚の統制障害
|奇妙さ、認知と知覚の統制障害
129行目: 127行目:
 DSM-5第3部の代替診断基準でも、パーソナリティ障害タイプごとに設定された診断基準に従って操作的に診断手続きが行われる。次に境界性パーソナリティ障害の例を示す。
 DSM-5第3部の代替診断基準でも、パーソナリティ障害タイプごとに設定された診断基準に従って操作的に診断手続きが行われる。次に境界性パーソナリティ障害の例を示す。


 診断の過程は2つの段階から構成されている。まず、パーソナリティ機能(表1参照)の2項目以上における中等度またはそれ以上の障害があることが条件になる。次いで、3つの病的パーソナリティ特性(否定的感情、脱抑制、対立 (表2参照))に属する7つの特性側面:
 診断の過程は2つの段階から構成されている。まず、パーソナリティ機能('''表1'''参照)の2項目以上における中等度またはそれ以上の障害があることが条件になる。次いで、3つの病的パーソナリティ特性(否定的感情、脱抑制、対立 ('''表2'''参照))に属する7つの特性側面:
#情動不安定(否定的感情の一側面)
#情動不安定(否定的感情の一側面)
#不安傾向(否定的感情の一側面)
#不安傾向(否定的感情の一側面)
138行目: 136行目:
#敵意(対立の一側面)
#敵意(対立の一側面)


のうち4つ以上があり、そのうちの少なくとも1つは 5、6、7のいずれか(脱抑制と敵対のどちらか)である必要があるとされる。
のうち4つ以上があり、そのうちの少なくとも1つは 5.、6.、7.のいずれか(脱抑制と敵対のどちらか)である必要があるとされる。


 他のタイプの診断でも、この例のようにパーソナリティ機能の評価と病的パーソナリティ特性側面の評価の両方が実施される。
 他のタイプの診断でも、この例のようにパーソナリティ機能の評価と病的パーソナリティ特性側面の評価の両方が実施される。
147行目: 145行目:
 ここでは、パーソナリティ障害のタイプの特徴について概説する。
 ここでは、パーソナリティ障害のタイプの特徴について概説する。
    
    
 DSM- 5第2部のパーソナリティ障害では、10のタイプが措定されている。それらの特徴を表3に示す。ICD-10のパーソナリティ障害タイプは、DSM-5第2部のものとほぼ同じであるが、名称が異なるものはICD-10の名称を括弧に入れて示す。
 DSM- 5第2部のパーソナリティ障害では、10のタイプが措定されている。それらの特徴を'''表3'''に示す。ICD-10のパーソナリティ障害タイプは、DSM-5第2部のものとほぼ同じであるが、名称が異なるものはICD-10の名称を括弧に入れて示す。
{|class="wikitable"
{|class="wikitable"
|+表3.DSM-5 第2部におけるパーソナリティ障害のタイプ
|+表3.DSM-5 第2部におけるパーソナリティ障害のタイプ
|-
|-
|style="text-align:center" |
|||style="text-align:center"|'''類型'''||'''中心的特徴'''||'''臨床特徴'''
|style="text-align:center" |類型
|style="text-align:center" |中心的特徴
|style="text-align:center" |臨床特徴
|-
|-
| rowspan="3" |A群・奇妙で風変わり
| rowspan="3" |'''A群'''・奇妙で風変わり
|[[妄想性パーソナリティ障害]]
|[[妄想性パーソナリティ障害]]
|他者への疑念や不信から、危害が加えられることや裏切りを恐れること。
|他者への疑念や不信から、危害が加えられることや裏切りを恐れること。
170行目: 165行目:
|統合失調症に発展しやすい。
|統合失調症に発展しやすい。
|-
|-
| rowspan="4" |B群・[[演技的感情的]]で移り気
| rowspan="4" |'''B群'''・[[演技的感情的]]で移り気
|境界性パーソナリティ障害
|境界性パーソナリティ障害
|感情や対人関係の不安定さ、衝動をうまく制御することができないこと。
|感情や対人関係の不安定さ、衝動をうまく制御することができないこと。
187行目: 182行目:
|女性に多い。
|女性に多い。
|-
|-
| rowspan="3" |C群・不安で内向的
| rowspan="3" |'''C群'''・不安で内向的
|[[依存性パーソナリティ障害]]
|[[依存性パーソナリティ障害]]
|他者への過度の依存。自らの行動や決断に他者の助言や指示を求めること。
|他者への過度の依存。自らの行動や決断に他者の助言や指示を求めること。
207行目: 202行目:
|+表4. DSM-5第3部の代替診断モデルの6種のパーソナリティ障害と病的パーソナリティ特性との関連
|+表4. DSM-5第3部の代替診断モデルの6種のパーソナリティ障害と病的パーソナリティ特性との関連
|-
|-
|病的パーソナリティ特性
|'''病的パーソナリティ特性'''
|反社会性パーソナリティ障害
|'''反社会性パーソナリティ障害'''
|回避性パーソナリティ障害
|'''回避性パーソナリティ障害'''
|境界性パーソナリティ障害
|'''境界性パーソナリティ障害'''
|自己愛性パーソナリティ障害
|'''自己愛性パーソナリティ障害'''
|強迫性パーソナリティ障害
|'''強迫性パーソナリティ障害'''
|統合失調型パーソナリティ障害
|'''統合失調型パーソナリティ障害'''
|-
|-
|否定的感情
|'''否定的感情'''
|
|
|style="text-align:center" |高
|style="text-align:center" |高
223行目: 218行目:
|
|
|-
|-
|離脱
|'''離脱'''
|
|
|style="text-align:center" |高
|style="text-align:center" |高
239行目: 234行目:
|
|
|-
|-
|脱抑制
|'''脱抑制'''
|style="text-align:center" |高
|style="text-align:center" |高
|
|
247行目: 242行目:
|
|
|-
|-
|精神病性
|'''精神病性'''
|
|
|
|
260行目: 255行目:


==疫学==
==疫学==
 パーソナリティ障害は、一般の人々に高い比率で見出される。Coid. J. (2003)の総説によると、構造化面接を用いた研究において一般人口の10-15%に何らかのパーソナリティ障害が見いだされており、個々のタイプでは、それぞれが一般人口の1-2 %に認められるとされる。プライマリーケアの場や精神科臨床では、有病率が25%程度に上昇する。
 パーソナリティ障害は、一般の人々に高い比率で見出される。Coid. J.の総説<ref><pubmed 12509301</pubmed></ref>によると、構造化面接を用いた研究において一般人口の10-15%に何らかのパーソナリティ障害が見いだされており、個々のタイプでは、それぞれが一般人口の1-2 %に認められるとされる。プライマリーケアの場や精神科臨床では、有病率が25%程度に上昇する。


 ただし、疫学研究の所見は、研究ごとに大きなばらつきがあることに注意が必要である。その理由の一つは、先に指摘したように、パーソナリティ障害が一般人口との間に連続性があり、比較的の軽症の精神疾患なので、診断域値や評価の変化が大きな有病率の違いを引き起こすことであろう。
 ただし、疫学研究の所見は、研究ごとに大きなばらつきがあることに注意が必要である。その理由の一つは、先に指摘したように、パーソナリティ障害が一般人口との間に連続性があり、比較的の軽症の精神疾患なので、診断域値や評価の変化が大きな有病率の違いを引き起こすことであろう。
268行目: 263行目:


===生物学的要因===
===生物学的要因===
 精神障害の生物学的要因の基底には、遺伝的要因がある。パーソナリティ障害の遺伝的要因は、その特性が同じ家系の人に見出されることが多い、[[一卵性双生児]]で[[二卵性双生児]]よりも一致しやすい、といった臨床遺伝学的研究によって確認されている。Torgersen, S.らの[[双生児研究]](2000)では、パーソナリティ障害の遺伝性が0.5~0.6であると算出されている。Silverman, J.M.らの家族研究(1991)では、境界性パーソナリティ障害の感情不安定と衝動性とに家族集積性のあることが認められている<ref name=ref8><pubmed>18638645</pubmed></ref>。
 精神障害の生物学的要因の基底には、遺伝的要因がある。パーソナリティ障害の遺伝的要因は、その特性が同じ家系の人に見出されることが多い、[[一卵性双生児]]で[[二卵性双生児]]よりも一致しやすい、といった臨床遺伝学的研究によって確認されている。Torgersen, S.らの[[双生児研究]]<ref><pubmed> 11086146 </pubmed></ref>では、パーソナリティ障害の遺伝性が0.5~0.6であると算出されている。Silverman, J.M.らの家族研究(1991)では、境界性パーソナリティ障害の感情不安定と衝動性とに家族集積性のあることが認められている<ref name=ref8><pubmed>18638645</pubmed></ref>。


 神経生理学的研究でもパーソナリティ障害と生物学的特性との間の様々な関連が見いだされている<ref name=ref8 />。例えば、反社会性、境界性パーソナリティ障害では、その衝動性が[[セロトニン]]系の機能低下と関連しているという知見の報告がある。中枢神経系の画像研究でも多くの知見がもたらされている。例えば、境界性パーソナリティ障害では、[[帯状束]]のセロトニン系の反応低下といった[[辺縁系]]と[[前頭葉]]の回路の機能低下の報告が多くなされている。また、虐待を受けてきた境界性パーソナリティ障害患者において[[脳下垂体]]、[[海馬]]が小さいという所見も注目されている。
 神経生理学的研究でもパーソナリティ障害と生物学的特性との間の様々な関連が見いだされている<ref name=ref8 />。例えば、反社会性、境界性パーソナリティ障害では、その衝動性が[[セロトニン]]系の機能低下と関連しているという知見の報告がある。中枢神経系の画像研究でも多くの知見がもたらされている。例えば、境界性パーソナリティ障害では、[[帯状束]]のセロトニン系の反応低下といった[[辺縁系]]と[[前頭葉]]の回路の機能低下の報告が多くなされている。また、虐待を受けてきた境界性パーソナリティ障害患者において[[脳下垂体]]、[[海馬]]が小さいという所見も注目されている。
309行目: 304行目:
 近年、パーソナリティ障害の特徴は、従来考えられていたほど持続的でないことが指摘されている。従来から多くの経過研究が行われていたのは、境界性パーソナリティ障害においてであるが、近年の研究では、相当部分が改善するが、再発も多いという結果になっている。
 近年、パーソナリティ障害の特徴は、従来考えられていたほど持続的でないことが指摘されている。従来から多くの経過研究が行われていたのは、境界性パーソナリティ障害においてであるが、近年の研究では、相当部分が改善するが、再発も多いという結果になっている。


 Zanarini, M. et al. (2012)は、患者の退院後16年の経過報告(2012)では、2年以上の寛解、回復(全般的機能評価尺度(GAS) > 60となること)をそれぞれ99%、60%が経験するけれども、2年以上の寛解の後に36%が再発する、2年以上の回復の後に44%が回復の状態を失うと報告されている。パーソナリティ障害診断が経過中に変化することは、他のタイプでも報告されている。
 Zanarini, M. et al.<ref><pubmed>22737693</pubmed></ref>は、患者の退院後16年の経過報告(2012)では、2年以上の寛解、回復(全般的機能評価尺度(GAS) > 60となること)をそれぞれ99%、60%が経験するけれども、2年以上の寛解の後に36%が再発する、2年以上の回復の後に44%が回復の状態を失うと報告されている。パーソナリティ障害診断が経過中に変化することは、他のタイプでも報告されている。


 神経症のパーソナリティ障害患者の12年間の変化を調査したSievewright, H.らの研究(2002)では、その期間の中で同じタイプにとどまっている率が低いことが報告されている(境界性パーソナリティ障害患者が、それが含まれる演技的・感情的で移り気なB群クラスターにとどまっている率でさえわずか30%であった)。これらの所見は、パーソナリティ障害が経過の中で改善しうる精神障害であることを示唆している。
 神経症のパーソナリティ障害患者の12年間の変化を調査したSeivewright, H.らの研究<ref><pubmed>12103293</pubmed></ref>では、その期間の中で同じタイプにとどまっている率が低いことが報告されている(境界性パーソナリティ障害患者が、それが含まれる演技的・感情的で移り気なB群クラスターにとどまっている率でさえわずか30%であった)。これらの所見は、パーソナリティ障害が経過の中で改善しうる精神障害であることを示唆している。


==おわりに==
==おわりに==

案内メニュー