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<ref name=ref10><pubmed>4303441</pubmed></ref>
<ref name=ref10><pubmed>4303441</pubmed></ref>


 視覚認知には、要素的視覚情報(光の強弱、対象の大小、運動の方向など)を形態に統覚する必要があると考えられてきた。そして、その統覚レベルでの障害されるため視覚失認を呈するのが統覚型視覚失認である。両側有線野を含む後頭葉損傷例や、両側有線野は保たれるがその周辺が大きく損傷された症例が報告されている。しかし、実際の症例報告では、この要素的[[知覚]]の正常さを完全に証明できているとは言いがたい<ref name=ref11><pubmed></pubmed></ref>。
 視覚認知には、要素的視覚情報(光の強弱、対象の大小、運動の方向など)を形態に統覚する必要があると考えられてきた。そして、その統覚レベルでの障害されるため視覚失認を呈するのが統覚型視覚失認である。両側有線野を含む後頭葉損傷例や、両側有線野は保たれるがその周辺が大きく損傷された症例が報告されている。しかし、実際の症例報告では、この要素的[[知覚]]の正常さを完全に証明できているとは言いがたい<ref name=ref11><pubmed>7546671</pubmed></ref>。


==== 連合型視覚失認 ====  
==== 連合型視覚失認 ====  
<ref name=ref12><pubmed></pubmed></ref>
<ref name=ref12><pubmed>5548450</pubmed></ref>


 要素的知覚もその統覚(知覚表象)も正常であるが、視覚的に対象が何かわからない病態を示す症例が報告されている。つまり、意味を奪われた正常な知覚表象と説明される。他の感覚モダリティを介するときには正常に物を認識できることより「意味のシステム」自体は正常に維持されていると判断される。この「意味のシステム」とは、過去の経験を貯蔵する系と理解することが可能である。正常な視覚系と対象についての過去の経験を貯蔵する系との連合障害として、正常な知覚表象が確保されているにも関わらず視覚的認知ができなくなると考察された。
 要素的知覚もその統覚(知覚表象)も正常であるが、視覚的に対象が何かわからない病態を示す症例が報告されている。つまり、意味を奪われた正常な知覚表象と説明される。他の感覚モダリティを介するときには正常に物を認識できることより「意味のシステム」自体は正常に維持されていると判断される。この「意味のシステム」とは、過去の経験を貯蔵する系と理解することが可能である。正常な視覚系と対象についての過去の経験を貯蔵する系との連合障害として、正常な知覚表象が確保されているにも関わらず視覚的認知ができなくなると考察された。
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==== 統合型視覚失認 ====
==== 統合型視覚失認 ====
<ref name=ref13><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref14><pubmed></pubmed></ref>
<ref name=ref13><pubmed>3427396</pubmed></ref> <ref name=ref14>'''平山和美'''<br>視覚性失認<br>''神経内科''.:2008,68;358-367</ref>


 連合型視覚失認の診断のため、知覚表象が正常であることを、課題を達成する時間要因などを加味して詳細に検討すると、実は「知覚表象は完全には正常ではない」ことが明らかになることがある。つまり、統覚型視覚失認と連合型視覚失認の典型例の間に「移行型」がありえることが明らかになり、統合型視覚失認と診断される。では、どのように操作的に診断するかであるが、格子で干渉をされた図形(網掛け線画)の模写を用いる課題が考案され、統合型視覚失認では、この課題が困難である。統覚型知覚失認・統合型知覚失認・連合型視覚失認は視覚失認の最近の分類方法である。これらは、一連の視覚関連の物品認知障害がスペクトラム的にとらえることが妥当であることを示している。
 連合型視覚失認の診断のため、知覚表象が正常であることを、課題を達成する時間要因などを加味して詳細に検討すると、実は「知覚表象は完全には正常ではない」ことが明らかになることがある。つまり、統覚型視覚失認と連合型視覚失認の典型例の間に「移行型」がありえることが明らかになり、統合型視覚失認と診断される。では、どのように操作的に診断するかであるが、格子で干渉をされた図形(網掛け線画)の模写を用いる課題が考案され、統合型視覚失認では、この課題が困難である。統覚型知覚失認・統合型知覚失認・連合型視覚失認は視覚失認の最近の分類方法である。これらは、一連の視覚関連の物品認知障害がスペクトラム的にとらえることが妥当であることを示している。
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=====視点による物品認知の障害:変換型失認・Transformation agnosia=====
=====視点による物品認知の障害:変換型失認・Transformation agnosia=====
 ヒトは、ある物品を見る時、普通にそれを見る向き・角度がある。たまたま、ひっくり返されていても、推測し、過去の経験に照らし合わせることで何かを理解する。しかし、それが困難になる症例をWarringtonらは報告している<ref name=ref15><pubmed></pubmed></ref>。
 ヒトは、ある物品を見る時、普通にそれを見る向き・角度がある。たまたま、ひっくり返されていても、推測し、過去の経験に照らし合わせることで何かを理解する。しかし、それが困難になる症例をWarringtonらは報告している<ref name=ref15><pubmed>3797207</pubmed></ref>。


===== 視覚認知におけるカテゴリー化機能の障害 =====
===== 視覚認知におけるカテゴリー化機能の障害 =====
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===== 意味型失認:semantic agnosia =====
===== 意味型失認:semantic agnosia =====
 連合型視覚失認では認知された形に意味をもたすことができない。「意味」は脳内で保たれているが、それは他のモダリティからは「意味」にアクセスができることで証明される。しかし、意味自体を失えば、形に意味を持たせることが元来できない。意味型失認と分類される。物品や語彙自身の意味を喪失したために物品認知のできないもので、両側の側頭葉₋辺縁系の損傷で生ずるとされる。視覚以外の感覚様式でも物品認知は困難になり、視覚失認の概念からは逸脱していく<ref name=ref16><pubmed></pubmed></ref>。
 連合型視覚失認では認知された形に意味をもたすことができない。「意味」は脳内で保たれているが、それは他のモダリティからは「意味」にアクセスができることで証明される。しかし、意味自体を失えば、形に意味を持たせることが元来できない。意味型失認と分類される。物品や語彙自身の意味を喪失したために物品認知のできないもので、両側の側頭葉₋辺縁系の損傷で生ずるとされる。視覚以外の感覚様式でも物品認知は困難になり、視覚失認の概念からは逸脱していく<ref name=ref16>'''Humphreys GW, Riddoch MJ.'''<br>To See But Not To See: A Case Study of Visual Agnosia. <br>''Lawrence Erlbaum, London.'' 1987
</ref>。


===== 同時失認による視覚認知障害 =====
===== 同時失認による視覚認知障害 =====
<ref name=ref17><pubmed></pubmed></ref>
<ref name=ref17>'''Wolpert T.'''<br>Die simultanagnosie.<br>''Zeitschrift für die Gesamte Neurologie und Psychiatrie'' :1924,93;397–415.</ref>


 複数の形態を同時に認知できなければ、全体を把握することができない。複雑な情景画などでその個々の部分は理解できるが、全体が何を表しているか理解できない症候である。部分ごとの視知覚は正常だが、その部分と部分の互いの関係を把握できず、結果として全体の意味が分からないものである。同時失認の報告例は、「全体把握の能力の障害」としてとらえられてきた。しかし、一連の視覚刺激に視空間性の注意を維持しつづけることの障害であるととらえ、注意障害であるとの仮説も述べられてきた。損傷部位として、左後頭葉前方部あるいは後頭側頭葉損傷、もしくは両側後頭葉外側部損傷が報告されている。
 複数の形態を同時に認知できなければ、全体を把握することができない。複雑な情景画などでその個々の部分は理解できるが、全体が何を表しているか理解できない症候である。部分ごとの視知覚は正常だが、その部分と部分の互いの関係を把握できず、結果として全体の意味が分からないものである。同時失認の報告例は、「全体把握の能力の障害」としてとらえられてきた。しかし、一連の視覚刺激に視空間性の注意を維持しつづけることの障害であるととらえ、注意障害であるとの仮説も述べられてきた。損傷部位として、左後頭葉前方部あるいは後頭側頭葉損傷、もしくは両側後頭葉外側部損傷が報告されている。


==== メカニズム ====
==== メカニズム ====
 視覚失認のメカニズムの考察では、視覚認知が段階的なステップを経て認識されるという神経心理学的仮説が述べられてきた。要素的知覚があり、形の統覚があり、意味との連合がなされるというものである。そして、視覚の記憶痕跡の活性化により、視覚認知が確立するという仮説である。一方、Damasio<ref name=ref18><pubmed></pubmed></ref>は視覚認知が神経ネットワークの活動のパターンで表現され、特別な記憶痕跡が活性化されるものではないと主張している。
 視覚失認のメカニズムの考察では、視覚認知が段階的なステップを経て認識されるという神経心理学的仮説が述べられてきた。要素的知覚があり、形の統覚があり、意味との連合がなされるというものである。そして、視覚の記憶痕跡の活性化により、視覚認知が確立するという仮説である。一方、Damasio<ref name=ref18><pubmed>2691184</pubmed></ref>は視覚認知が神経ネットワークの活動のパターンで表現され、特別な記憶痕跡が活性化されるものではないと主張している。


==== 機能画像研究より ====
==== 機能画像研究より ====
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=== 相貌失認 ===  
=== 相貌失認 ===  
<ref name=ref19><pubmed></pubmed></ref>
<ref name=ref19><pubmed>21601069 </pubmed></ref>


 人の顔を認知することの障害であるが、狭義と広義の相貌失認が記述されてきた。狭義の相貌失認は、熟知した人物を相貌によって認知する能力の障害である。しかし、声を聞くとわかる。一方、熟知相貌の認知障害がなくとも、未知相貌の学習・弁別、表情認知、性別・年齢・人種などの判定、美醜の区別などにいくつかに障害がある病態が広義の相貌失認と診断される。「一般的な物体失認の変則型」、「健忘症候群の顔貌限定型」、「クラス内での個々の判別障害で顔に特異的なものではない」などといった仮説があるも、「顔貌の認知は特異な系がつかさどっておりその処理システムの障害」が相貌失認であるとの説が受け入れられている。剖検例は両側側がほとんどであるが、右半球後頭葉内側面(紡錘状回、舌状回)が重視されている<ref name=ref20><pubmed></pubmed></ref>。一側性では広義の相貌失認は起こるが、軽度で一過性のことが多い。両側性では症状が多彩で重度かつ持続性である。
 人の顔を認知することの障害であるが、狭義と広義の相貌失認が記述されてきた。狭義の相貌失認は、熟知した人物を相貌によって認知する能力の障害である。しかし、声を聞くとわかる。一方、熟知相貌の認知障害がなくとも、未知相貌の学習・弁別、表情認知、性別・年齢・人種などの判定、美醜の区別などにいくつかに障害がある病態が広義の相貌失認と診断される。「一般的な物体失認の変則型」、「健忘症候群の顔貌限定型」、「クラス内での個々の判別障害で顔に特異的なものではない」などといった仮説があるも、「顔貌の認知は特異な系がつかさどっておりその処理システムの障害」が相貌失認であるとの説が受け入れられている。剖検例は両側側がほとんどであるが、右半球後頭葉内側面(紡錘状回、舌状回)が重視されている<ref name=ref20><pubmed>21687793 </pubmed></ref>。一側性では広義の相貌失認は起こるが、軽度で一過性のことが多い。両側性では症状が多彩で重度かつ持続性である。


 賦活研究の顔に関するものはかなり蓄積されてきた。基本的には顔を提示して特異的に反応する部位を抽出するわけであるが、顔の異同弁別課題、顔の向きへの反応課題、倒立顔画像の提示課題など、さまざまな課題が考案されている。顔の認知が、顔の部分の処理過程と顔の全体の処理過程によりなされているであろうことより、課題が考案されている。紡錘状回顔領域(fusiform face area)<ref name=ref21><pubmed></pubmed></ref>、後頭顔領域(occipital face area)[22]が注目されている。左右差があり、右半球に賦活が強いと報告されている。これらの領域が顔認知のネットワークを形成し、処理していると考察されている。
 賦活研究の顔に関するものはかなり蓄積されてきた。基本的には顔を提示して特異的に反応する部位を抽出するわけであるが、顔の異同弁別課題、顔の向きへの反応課題、倒立顔画像の提示課題など、さまざまな課題が考案されている。顔の認知が、顔の部分の処理過程と顔の全体の処理過程によりなされているであろうことより、課題が考案されている。紡錘状回顔領域(fusiform face area)<ref name=ref21><pubmed></pubmed></ref>、後頭顔領域(occipital face area)[22]が注目されている。左右差があり、右半球に賦活が強いと報告されている。これらの領域が顔認知のネットワークを形成し、処理していると考察されている。
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== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
<references />
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Lawrence Erlbaum, London. 1987
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