「記憶想起」の版間の差分

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 再固定化の主な役割として、元の記憶をそのまま維持し脳内に保存すること(Maintenance)や元の記憶をより強化すること(Enhancement)が挙げられる。また、一度固定化された記憶を別の新たな記憶と統合させたり、修正し記憶をアップデートしたりするためであるとも考えられている。なお、想起に伴い常に再固定化が誘導されるわけではなく、記憶の古さや強さなどにより再固定化プロセスに入るか否かは影響を受ける[10], [11]。
 再固定化の主な役割として、元の記憶をそのまま維持し脳内に保存すること(Maintenance)や元の記憶をより強化すること(Enhancement)が挙げられる。また、一度固定化された記憶を別の新たな記憶と統合させたり、修正し記憶をアップデートしたりするためであるとも考えられている。なお、想起に伴い常に再固定化が誘導されるわけではなく、記憶の古さや強さなどにより再固定化プロセスに入るか否かは影響を受ける[10], [11]。


== 記憶不安定化 ==
=== 記憶不安定化 ===
 Karim Naderらによる再固定化の発見当時、不安定化とは、想起後に誘導される再固定化が抑制されると、元の恐怖記憶が消失することから、想起された記憶は一度、不安定な状態になるはずであるという考えから産まれた概念に過ぎなかった。しかしながら、現在では不安定化の誘導にはタンパク質分解が関与すること[12]や、[[L型電位依存性カルシウムチャネル]](LVGCCs)と[[カナビノイド]]受容体(CB1) の活性化が記憶不安定化に必要であること[13]が明らとなり、不安定化は概念上のものではなく、固定化や再固定化と同様に分子機構を有するプロセスであると考えられている。
 Karim Naderらによる再固定化の発見当時、不安定化とは、想起後に誘導される再固定化が抑制されると、元の恐怖記憶が消失することから、想起された記憶は一度、不安定な状態になるはずであるという考えから産まれた概念に過ぎなかった。しかしながら、現在では不安定化の誘導にはタンパク質分解が関与すること[12]や、[[L型電位依存性カルシウムチャネル]](LVGCCs)と[[カナビノイド]]受容体(CB1) の活性化が記憶不安定化に必要であること[13]が明らとなり、不安定化は概念上のものではなく、固定化や再固定化と同様に分子機構を有するプロセスであると考えられている。


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 恐怖条件付け学習、消去学習、消去学習後の想起時において扁桃体基底外側核(BLA)領域から単一細胞記録により、条件付け刺激(CS)に対して示す神経発火パターンの解析から、すくみ反応が高い時に発火頻度が上昇する細胞(恐怖細胞;Fear neuron)と消去学習を経験してすくみ反応が低下した際に発火頻度が増加する細胞(消去細胞;Extinction neuron)が検出されており、恐怖反応と消去反応はそれぞれ異なる細胞が担っていることが示唆されている[17]。恐怖細胞は腹側海馬からの弱い入力を受け、前頭前野の一領域である前辺縁皮質(PL)に投射している。一方、消去細胞は外辺縁皮質(IL)との間に双方向性の投射を持っている。また、消去学習後のテスト時に、PLに投射するBLAニューロンを光抑制すると消去学習が促進する一方で、ILに投射するBLAニューロンを光抑制すると恐怖反応は促進する[18]。このように、BLAを基点とした前頭前野との接続により恐怖反応は正負に制御されている[15],[17]。
 恐怖条件付け学習、消去学習、消去学習後の想起時において扁桃体基底外側核(BLA)領域から単一細胞記録により、条件付け刺激(CS)に対して示す神経発火パターンの解析から、すくみ反応が高い時に発火頻度が上昇する細胞(恐怖細胞;Fear neuron)と消去学習を経験してすくみ反応が低下した際に発火頻度が増加する細胞(消去細胞;Extinction neuron)が検出されており、恐怖反応と消去反応はそれぞれ異なる細胞が担っていることが示唆されている[17]。恐怖細胞は腹側海馬からの弱い入力を受け、前頭前野の一領域である前辺縁皮質(PL)に投射している。一方、消去細胞は外辺縁皮質(IL)との間に双方向性の投射を持っている。また、消去学習後のテスト時に、PLに投射するBLAニューロンを光抑制すると消去学習が促進する一方で、ILに投射するBLAニューロンを光抑制すると恐怖反応は促進する[18]。このように、BLAを基点とした前頭前野との接続により恐怖反応は正負に制御されている[15],[17]。


=== 記憶の連合 ===
== 記憶の連合 ==


Memory association
Memory association
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以上述べてきたように、想起によって誘導される再固定化、消去学習、記憶連合のプロセスは維持、強化、消去、記憶の書き換えなど、元の記憶を修飾する機能を有している。つまり記憶のアップデートと関連しており、想起は状況に応じて柔軟に対応する脳の活動に欠かせないプロセスである。想起についてはまだまだ不明な点が多く研究の途上である。今後、想起のメカニズムがより詳細に解明されることが期待される。
以上述べてきたように、想起によって誘導される再固定化、消去学習、記憶連合のプロセスは維持、強化、消去、記憶の書き換えなど、元の記憶を修飾する機能を有している。つまり記憶のアップデートと関連しており、想起は状況に応じて柔軟に対応する脳の活動に欠かせないプロセスである。想起についてはまだまだ不明な点が多く研究の途上である。今後、想起のメカニズムがより詳細に解明されることが期待される。


 
== 参考文献==
(参考文献)