16,040
回編集
細編集の要約なし |
細 (→神経誘導と神経誘導因子の発見) |
||
18行目: | 18行目: | ||
外胚葉から神経組織への運命決定、すなわち細胞の神経化(neuralization)は[[脊椎動物]]の胚発生において最も初期に起こる現象の1つである。したがって神経誘導の研究は、初期胚が比較的大きく発生が母胎外で起きる両生類胚(イモリ、カエルなど)を中心に進展してきた。 | 外胚葉から神経組織への運命決定、すなわち細胞の神経化(neuralization)は[[脊椎動物]]の胚発生において最も初期に起こる現象の1つである。したがって神経誘導の研究は、初期胚が比較的大きく発生が母胎外で起きる両生類胚(イモリ、カエルなど)を中心に進展してきた。 | ||
1924年、ドイツの生物学者[[wj:ハンス・シュペーマン|Hans Spemann]]と[[wj:ヒルデ・マンゴルト|Hilde Mangold]]は[[イモリ]] | 1924年、ドイツの生物学者[[wj:ハンス・シュペーマン|Hans Spemann]]と[[wj:ヒルデ・マンゴルト|Hilde Mangold]]は[[イモリ]]の原口背唇部(背側中胚葉を含む部分)を別の個体に移植する実験を行い、移植された胚に2次軸(体軸:背骨の原基(脊策)を含む頭尾軸に沿った細長い構造)が形成され、さらにその周辺部に神経組織が誘導されることを発見した<ref name=ref3><pubmed>11291840</pubmed></ref>。これは、移植した原口背唇部(dorsal lip)が移植先の組織に影響を及ぼし、結果として胚の形態形成を制御したことを意味する。そこで、Spemannらはこの領域を「形態形成を支配する領域」という意味で「形成体(organizer)」と命名した<ref name=ref3 /> <ref name=ref4><pubmed>16482093</pubmed></ref>。 | ||
その後、この現象を制御する分泌性の因子(神経誘導因子(neural | その後、この現象を制御する分泌性の因子(神経誘導因子(neural inducer))を特定する試みが長く行われてきたが、背側中胚葉はサイズ的に小さいために、そこに存在するタンパク質を生化学的に特定することは困難であった。しかし、分子生物学的手法が発達するにつれて遺伝子解析が可能となり、1990年代にはその分子実体が次々と明らかになった。 | ||
Richard M HarlandとWilliam C Smithは、[[発現スクリーニング]](背側中胚葉に発現する遺伝子の[[mRNA]]の中で神経誘導活性を持つ分画を細分化する方法)により[[ノギン]] ([[noggin]])を<ref name=ref5><pubmed>1339313</pubmed></ref>、[[w:Edward M De Robertis|Edward M De Robertis]]と笹井芳樹は、[[ディファレンシャルスクリーニング]](発現が背側中胚葉に限局する遺伝子を単離する方法)によって[[コーディン]] ([[chordin]])を<ref name=ref6><pubmed>8001117</pubmed></ref>それぞれ単離し、それらが神経誘導因子であることを証明した。また、Douglas A Meltonと Ali Hemmati-Brivanlou は、上野直人らがすでに単離していた[[卵胞刺激ホルモン]]の阻害因子[[フォリスタチン]] ([[follistatin]])に神経誘導活性があることを見いだした<ref name=ref7><pubmed>3120188 </pubmed></ref> <ref name=ref8><pubmed> 8168135</pubmed></ref>。 | |||
なお、follistatinはBMP4のほかに[[アクチビン]] ([[activin]]) | さらなる研究の結果、これらの神経誘導因子はいずれも[[TGFβ]]スーパーファミリーの一種[[BMP4]]と結合し、BMP4と[[BMP受容体]]の相互作用を阻害することによって細胞を神経化することが明らかとなった('''図1''')<ref name=ref9><pubmed>7630399</pubmed></ref> <ref name=ref10><pubmed>8752214</pubmed></ref> <ref name=ref11 />。実際にBMPの強制発現により細胞は神経化が抑制されて[[wj:表皮|表皮]]に分化し<ref name=ref12><pubmed>7630398</pubmed></ref>、逆に[[ドミナントネガティブ]]BMP受容体を用いてBMPシグナルを遮断すると細胞が神経化する<ref name=ref13><pubmed>7937936 </pubmed></ref>。したがって、BMPシグナルの存在・非存在が未分化外胚葉の運命(表皮か神経か)の二者択一(binary decision)を行うと言える<ref name=ref9 />。 | ||
なお、follistatinはBMP4のほかに[[アクチビン]] ([[activin]])(TGFβの一種で[[中胚葉誘導因子]])とも結合してその活性を抑制する。このことはfollistatinが中胚葉分化抑制と神経誘導の活性を併せ持つことを意味する<ref name=ref8 /> <ref name=ref14><pubmed>9178255</pubmed></ref>。 | |||
その後アフリカツメガエルにおいて、noggin、chordin、follistatinは互いにリダンダント(いずれかの機能を阻害しても、残りの因子が神経誘導活性を補償する)であり、3つの遺伝子の機能を同時に阻害して初めて神経誘導が抑制されることが示された<ref name=ref15><pubmed>15737935</pubmed></ref>。 | その後アフリカツメガエルにおいて、noggin、chordin、follistatinは互いにリダンダント(いずれかの機能を阻害しても、残りの因子が神経誘導活性を補償する)であり、3つの遺伝子の機能を同時に阻害して初めて神経誘導が抑制されることが示された<ref name=ref15><pubmed>15737935</pubmed></ref>。 |